薬剤疫学
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企画/リアルワールドエビデンス研究の再現性向上に向けた調和プロトコルテンプレート(HARPER)
  • 深澤 俊貴, 岩上 将夫, 原 梓, 漆原 尚巳
    原稿種別: 論説
    2023 年 28 巻 2 号 p. 39-55
    発行日: 2023/10/31
    公開日: 2023/12/04
    ジャーナル フリー
    電子付録

    日常的に収集されるリアルワールドデータからエビデンスを創出し,医療や薬事規制の意思決定に役立てることに関心が寄せられている.リアルワールドデータを用いた縦断研究デザインは複雑であり,文章だけの説明では読者がその詳細を理解するのに苦労することが多い.この問題に対処するために,2019 年,薬剤疫学を国際的に牽引する研究者らが産官学から集結し,縦断研究デザインを可視化するフレームワーク「デザインダイアグラム」を開発した.デザインダイアグラムは,標準化された用語とグラフィカルな構成を用いて,読者に研究デザインの詳細を明確に伝えることを目的としており,これにより研究の再現性(reproducibility)が向上すると期待される.国際薬剤疫学会と国際医薬経済・アウトカム研究学会の合同タスクフォースによる過去の成果を基に,ダイアグラムには研究の再現性のカギとなる重要な設定項目が包括的に組み込まれており,研究デザインを曖昧さのない直感的な方法で可視化することに成功している.コホート研究,ネステッド・ケース・コントロール研究,自己対照研究のそれぞれに対して,個別のダイアグラムが提案されている.また最近では,研究に用いたデータの観測可能性をも可視化する新たなダイアグラムが考案された.リアルワールドエビデンス研究のプロトコルテンプレート(HARPER)や,薬剤疫学研究の報告ガイドラインの中でも,研究計画および結果報告の各段階において,デザインダイアグラムの使用が推奨されており,今後さらに普及することが予想される.本稿では,デザインダイアグラムの構成を解説するとともに,そのユースケースを紹介する.デザインダイアグラムの効果的な活用により,データベース研究の再現性と信頼性が向上することを期待したい.

  • 漆原 尚巳
    原稿種別: 論説
    2023 年 28 巻 2 号 p. 57-72
    発行日: 2023/10/31
    公開日: 2023/12/04
    ジャーナル フリー

    ケースコントロール(症例対照)デザインは疫学研究で最も汎用される観察研究のデザインの一つである.研究対象集団から興味のあるアウトカムの発症者(ケース)と非発症者(コントロール)を特定し,ケースとコントロールのそれぞれにおける過去の曝露要因の分布を調べオッズ比を算出する.予想されるアウトカムの発症率が小さい場合には,コホートデザインでは解析に必要なアウトカム発症数を確保するために膨大な数の対象者を発症まで十分な期間追跡する必要があり負担が大きい.ケースコントロールデザインでは,既にあるケースとコントロールを特定し(サンプリングという)利用することでコホートデザインのようにアウトカムの発症を待つ必要がなく,より少数の研究対象者にて曝露と解析に用いる調整変数を調査することで調査に係る労力を節減し,比較的短時間に効率的に曝露要因によるアウトカム発症への影響を検討できることが利点である.従来の観察研究では,調査対象者の曝露とアウトカム,調整変数の情報を収集するために用いる調査票の回収コストは莫大であるため,ケースコントロールデザインを用いて調査対象者数を削減する意義は確かに大きい.近年行われるようになった大規模医療情報データベースを用いた多くの観察研究では,当初のデータソースのみから研究対象者を完全に把握でき,必要なすべてのデータの収集,解析まで完結し,追加データを得るための調査は必要とされないが,前述のケースコントロールデザインの有用性,効率性は通用するのであろうか.本稿では,最初にケースコントロールデザインの基本事項を解説し,続けてデータベースを観察研究のデータソースとして用いる場合に,ケースコントロールデザインを選択することの利便性と,その適切な利用について論じたい.

日本薬剤疫学会 第27 回学術総会記録
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