薬剤疫学
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27 巻, 2 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
総説
  • 岩尾 友秀
    原稿種別: 総説
    2022 年 27 巻 2 号 p. 49-59
    発行日: 2022/10/20
    公開日: 2022/11/21
    [早期公開] 公開日: 2022/07/22
    ジャーナル フリー

    近年,世界的に医療情報データベースの利活用の気運が高まっており,我が国においてもリアルワールドデータ (RWD) を臨床研究に有効活用することが期待されている.一方で,電子カルテやDPC,レセプト等の蓄積された既存データを用いるデータベース研究は,統計解析の前に実施するデータ前処理の負荷が極めて高いことが知られている.しかしながら,データベース研究に関するデータ前処理の課題や研究を学術的な観点から体系的に整理した文献はほとんど見られない.そこで,本稿ではデータベース研究におけるデータ前処理の課題を疫学,および工学的な観点から体系的に整理し,それらの課題に取り組んでいる研究を紹介した後に,残された課題や今後の研究動向について考察する.本稿では,データベース研究の課題を,①データコンテンツ,②データ構造,③大容量データの処理,という三つのカテゴリーに分類した.次に,データ前処理に取り組んでいる研究について調査し,課題ごとに体系的に取り上げた.調査の結果,データ前処理分野の研究は,解析に必要なデータコンテンツを既存のデータベースに補完することで,信頼性を高めることを目的とした研究がほとんどを占めていた.一方で,データ構造や大容量データ処理に関する課題解決を主目的とした研究は十分になされているとはいえない状況であった.データ前処理は生物統計学や機械学習等の関連領域と比較すると歴史が浅く,社会的な認知度が低いこともあり,当該分野を専門とする理工系の研究者が極めて少ないことが一因であると考えられる.本稿が端緒となりデータ前処理の重要性が認知されることで,傑出した研究成果が生まれ,臨床研究の領域においてRWD の利活用がますます興隆することを期待する.

企画 / COVID-19 ワクチンの安全性モニタリングの実際
  • 村上 恭子
    原稿種別: その他
    2022 年 27 巻 2 号 p. 61
    発行日: 2022/10/20
    公開日: 2022/11/21
    ジャーナル フリー
  • 稲角 嘉彦
    原稿種別: 論説
    2022 年 27 巻 2 号 p. 62-70
    発行日: 2022/10/20
    公開日: 2022/11/21
    ジャーナル フリー

    新型コロナワクチンは予防接種法に基づく特例臨時接種として,国の指示の下,市町村において予防接種を実施することや必要な費用は国が負担すること等が特別に規定された一方で,接種の記録や副反応疑い報告制度等の枠組みについては,定期の予防接種と同じもので対応している.また,具体的な安全対策については,新型コロナワクチンの接種開始以降,副反応疑い報告制度に基づいて独立行政法人医薬品医療機器総合機構に報告された情報について,通常よりも高い頻度で審議会を開催して評価しているほか,国が研究班を設置してワクチン接種後の健康状況を調査し,その結果も審議会に報告するとともに,審議会の資料としても広く公表してきた.

    新型コロナワクチンの電子システムに着目すると,特例臨時接種の期間は,接種履歴についてはデジタル庁が構築したワクチン接種記録システム(VRS)を活用したり,流通情報については厚生労働省が構築したワクチン接種円滑化システム(V‒SYS)を活用したりして,安全性評価の基礎となる接種者数や納入されたワクチンのロット番号等を把握することができるようになっている.

    さらに,システムについて,経済財政運営と改革の基本方針2022 ではオンライン資格確認等システムのネットワークを拡充し,レセプト・特定健診等情報に加えて,予防接種,電子カルテ等の情報を共有・交換できる全国的なプラットフォームの創設等を進めることや,デジタル社会の実現に向けた重点計画ではマイナンバーカードを活用して予防接種事務全体のデジタル化に取り組むとともに,予防接種の実施状況,副反応に係る匿名データベースを整備し,レセプト情報・特定健診等情報データベース等との連結解析を可能とすることとされている.このように,ワクチンの安全性等を評価するための基盤整備は,今後さらに進むものと期待される.

  • 伊藤 澄信
    原稿種別: 論説
    2022 年 27 巻 2 号 p. 71-77
    発行日: 2022/10/20
    公開日: 2022/11/21
    ジャーナル フリー

    わが国の新型コロナワクチン臨時接種に係る安全性情報などを厚生労働省の審議会で迅速に公開することを目的として,行政推進調査事業として「新型コロナワクチンの接種開始初期の重点的調査(コホート調査)」が計画され,2021年2月からファイザー社コミナティ筋注,モデルナ社スパイクバックス筋注およびアストラゼネカ社バキスゼブリア筋注の初回シリーズについて実施された.人を対象とする医学系研究に関する倫理指針に適合した観察研究として迅速に実施するために,コマーシャル IRB の利用,実績のあるEDCを含む研究プラットフォームの準備,体温計などの資材管理を含んだマネージメント業務体制の構築,実施医療機関の管理をお願いした国立病院機構,地域医療機能推進機構,労働者健康安全機構病院各本部の協力が重要であった.その結果,9日間で約2万人の医療従事者を接種し,接種直後の安全性情報を3 月に公開した.2021年5月からモデルナ社(自衛隊職員対象),2021年8月からはアストラゼネカ社(一般人)の初回シリーズについての調査を実施した.さらに2021年12月からは3回目追加接種,2022年3月からは5~11歳の小児用ワクチン,2022年5月からは武田/ノババックス社ワクチンの調査および4 回目追加接種については安全性調査に加え,対象者の一部で抗体価の推移を検討し,副反応検討部会/安全対策調査会に23回(2022年7月8日現在)にわたって報告した.本調査結果は発熱,局所疼痛,倦怠感,頭痛などの特定有害事象に加えて,MedDRA コード化した自由記載欄,病休数,副反応使用薬剤数,抗体価推移および,PMDA 報告も含めた重篤な有害事象についても捕捉した医薬品安全性データベースとなっている.

  • 下尾 雅子, 加藤 博子, 時本 敏充
    原稿種別: 論説
    2022 年 27 巻 2 号 p. 79-87
    発行日: 2022/10/20
    公開日: 2022/11/21
    ジャーナル フリー

    新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)の急激な世界的拡大により,本邦においても2020年4月に緊急事態宣言が発出され,社会生活に大きな影響を与えた.このような状況の中,コロナウイルス(SARS‒CoV‒2)ワクチン(遺伝子組換えサルアデノウイルスベクター)(バキスゼブリアTM筋注)はCOVID‒19 予防を目的にオックスフォード大学が開発を開始し,その後アストラゼネカ社が開発を受け継いだワクチンであり,2020年12月に英国で承認された.本邦においては2021年2月に製造販売承認申請を行い,同年5月に18歳以上を対象とする「SARS-CoV-2 による感染症の予防」を効能又は効果として特例承認を取得した.製造販売後の安全監視活動としては,市販直後調査,新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業である「新型コロナワクチンの投与開始初期の重点的調査(コホート調査)」に引き続き実施される一般使用成績調査,特定の背景を有する被接種者を対象とした特定使用成績調査,定期的な国内外での市販後安全性情報の収集と当局報告および情報提供などが挙げられる.本寄稿ではコロナ禍の環境で実施した初の試みであるデジタル技術を活用した市販直後調査を中心に述べることとする.コロナ禍という状況において,従来の医薬情報担当者を介した市販直後調査を実施することは,日々の診療の中で感染対策の対応に逼迫している医療現場での負担となるばかりか,医療従事者への新たな感染契機となる可能性が懸念された.そのため,本市販直後調査は,承認前から規制当局と協議を行い,ワクチン接種円滑化システム(V‒SYS)と連携して,デジタルを活用して実施することで,医療従事者との密な接触を避ける運用とした.

  • 中道 博之, 池田 好功
    原稿種別: 論説
    2022 年 27 巻 2 号 p. 89-95
    発行日: 2022/10/20
    公開日: 2022/11/21
    ジャーナル フリー

    新型コロナウイルス(SARS‒CoV‒2)の世界的な流行はさまざまな面で社会に大きな影響を与えた.新型コロナウイルスワクチンはこれらの状況を変えうる公衆衛生上の重要なツールとして開発され,2021年早期には日本においても承認され使用可能となった.開発から承認までもさまざまな困難があり,それを関連するステークホルダーが協力してのりこえてきたことは周知の事実である.開発に比べてあまり知られていないかもしれないが,承認後においても今までの医薬品とは多くの点で状況が異なっており,さまざまなチャレンジがあった.医療機関等の訪問は人流抑制の観点からもかなり制限をされていた.ワクチン接種が急務であったため承認から流通・使用までの期間が極めて短かった.ワクチンの配分については全体最適のために一元的なコントロールが必要であり,国が管理し,接種についても優先順位に基づいて実施された.接種機会を増やすため,大規模接種会場や職域接種会場など,いわゆる通常診療を行っているような医療機関とは異なる臨時の接種会場などで接種が実施された.このような状況下,薬機法をはじめとしたルールに従って,市販直後調査や安全性モニタリングのための副反応情報を収集するために企業側もさまざまな工夫を行ってきた.人流抑制下における迅速な情報提供や情報収集のためインターネットが活用された.職域接種を中心に使われることになった都合,当初想定していた医療機関との契約が難しい状況となり,製造販売後調査に関しては,調査方法を大幅に見直し,データベースを利用した調査への切り替えを行った.本稿ではCOVID‒19 状況下において企業がどのような対応をしてきたのか,市販直後調査・安全性モニタリング及び製造販売後調査を中心に報告したい.この報告が今後同様の状況が発生した際の対応を検討するうえでの一助になれば幸いである.

日本薬剤疫学会 第26回学術総会記録
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