薬剤疫学
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14 巻, 2 号
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原著
  • 安田 浩美, 池田 俊也
    2009 年 14 巻 2 号 p. 61-68
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/08
    ジャーナル フリー
    目的】国内で実施されている禁煙治療の費用対効果を検討することを目的とした。 無治療群、薬局で購入したニコチンガム群、薬局で購入したニコチンパッチ群、保険診療下ニコチンパッチ使用群、保険診療下のブプロピオン使用群の5群を比較した。
    デザイン】マルコフモデルスタディ
    方法】男女30歳·40歳·50歳の禁煙コホートをマルコフモデルにて試算した。薬物療法によって得られた生存年あたりのコストを主要なアウトカムとした。薬局購入した薬剤費、処方薬による治療費を禁煙治療費とした。生存年は年率3%で現在価値に割引した。禁煙成功率について感度分析を実施した。
    結果】無治療に比較した一生存年あたりの増分費用は、薬局パッチは男性で518,826円~ 652,282円、女性で351,317円~ 725,109円、薬局ガムは男性で871,442円~ 1,205,142円、女性で592,558円~ 1,282,263円、保険パッチは男性で504,373円~ 603,371円、女性で340,734円~685,626円、保険ブプロピオンは男性で562,564円~ 670,768円、女性で379,960円~ 763,283円であつた。感度分析において、禁煙成功率の変更は、費用対効果に強い影響を示した。
    結論】国内で実施されている薬物療法による禁煙治療は、無治療の場合と比較し、どの薬物療法も許容範囲内にあるものの薬局パッチ群、保険パッチ群が費用対効果がよい禁煙治療であると考えられた。
  • 恩田 光子, 櫻井 秀彦, 早瀬 幸俊, 坂巻 弘之, 荒川 行生, 安川 文朗
    2009 年 14 巻 2 号 p. 69-77
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/08
    ジャーナル フリー
     本研究では、成人気管支喘息の薬物治療、とりわけ吸入ステロイド薬の使用指導において、発作の改善にはどの説明項目が特に重要であるのか、また、それらの項目には患者―薬剤師間で説明の程度や理解度に対する「評価の‘ずれ’」に起因した問題は存在するのか、といった点を検証し、より効果的な吸入指導を実践するための課題を明らかにすることを目的とした。
     8つの都道府県に所在する保険薬局に勤務する薬剤師および、当該薬局を利用している成人喘息患者を対象に、吸入指導の内容、理解度、喘息症状の改善度に関する調査を実施し、各説明項目について、薬剤師から受けた説明の程度に対する患者の評価と、薬剤師の自らが行った説明の程度に対する自己評価、および、説明の理解度に対する患者の評価と薬剤師からみた患者の理解度評価の間でスコアが一致しなかった割合を検討した。また、患者の評価と、喘息発作の改善度との関連をχ²検定にて検証し、有意差が認められた項目について、患者―薬剤師間の「評価の‘ずれ’」の程度や特徴を検討した。
     χ²検定の結果、喘息発作の改善には、「使用目的」および「発作時の対応」に関する説明の程度、また、「使用目的」、「用法·用量」、「他薬との相互作用」に関する説明の理解度が重要な鍵を握っていることが示唆された。特に、「使用目的」と「発作時の対応」については、患者と薬剤師との間に、説明の程度や理解度に対する「評価の‘ずれ’」が存在していた。したがって、指導時には、特に吸入ステロイド薬の「使用目的」と「発作時の対応」に留意した説明が肝要である。
  • 藤井 陽介, 柴山 和弘, 藤田 利治, 椿 広計
    2009 年 14 巻 2 号 p. 79-88
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/08
    ジャーナル フリー
    Objective: 欧米では薬剤のベネフィット·リスクのバランスをとるためのリソースとしてデータベースは大きな役割を担っている。アメリカのMedicaid受給者についてのデータベースや、イギリスのGeneral Practice Research Database (GPRD) といったものは数千万、数百万ものオーダーのデータベースであり、実際に薬剤疫学研究にも用いられている。しかし、日本では疫学研究に利用できるデータベースが十分ではない。そこで、降圧薬に関する市販前の臨床試験のデータベースを構築することを試みた。構築対象のデータはコントローラー委員会が管理しているデータであった。
    (Design : なし )
    Methods: データベースは紙媒体の電子化、項目の名寄せ、統合データベースの定義、プロトコールレビュー、統合バッチ処理、ロジカルチェック、バリデーションチェックを経て作成した。
    Results: データベースは13のデータセットから成り、試験数56、被験者数12,389である。薬剤機序ではβ遮断薬が41試験 (被験薬) と最も多かった。被験薬と対照薬の比較は同一薬剤機序の比較が43試験であった。
    Conclusion: さまざまな仮説に対して定量的評価を行うための基盤となるデータベースが完成した。患者個別データを用いたメタアナリシスなど、大規模データベースの特徴を生かした解析が可能である。
解説
  • 医師は副作用に関心がないのか?
    小池 竜司, 中山 健夫
    2009 年 14 巻 2 号 p. 89-98
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/08
    ジャーナル フリー
     臨床医の視点から見た医薬品安全情報とは、副作用情報だけではなく、安全に薬物治療を行うためのすべての情報を指している。臨床医が必要とする医薬品安全性情報は、薬理学的データ、薬品名、投与される患者の病歴や症状、そして医療機関における電子的または紙ベースの処方箋発行システムも含むものである。多くの臨床医は一般的には医薬品安全性情報に興味があるが、数多く提供される副作用情報は、その中のごく一部が各自の診療や処方に必要な情報であるに過ぎないことから、それらを必ずしも注目していない。さらに、日常の診療に多忙な本邦の臨床医は、提供される情報から必要な情報を抽出し、管理し、利用し、さらに新たに副作用を報告する時間を確保することは困難である。
     医薬品安全情報の中でも特に副作用情報に関しては、データの収集、データベースの管理、臨床医に対するフィードバックなどを含めた管理体制に多くの問題点が存在する。特に現在の副作用報告システムは、臨床医に依存しすぎている。本邦において医薬品安全性情報の検出感度と管理体制を改善するためには、臨床医だけではなく、薬剤師およびその他の医療従事者、そして患者によっても報告が行われる体制を整備していく必要があるだろう。さらに、すべての医療機関において医薬品安全性情報の専従組織を構築することが期待される。2009年に発足した消費者庁はそのような視点に立った組織であり、医薬品安全性情報に関して、このような役割を担う行政機関設立は一つの解決策となり得るであろう。また、医薬品安全性情報は医療の中で臓器横断的な情報であることから、専門分野に特化している医師だけでなく、総合的医学、総合診療に秀でる臨床医も医薬品安全性を扱う機関に必要な人材と言えよう。
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