薬剤疫学
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21 巻, 2 号
選択された号の論文の3件中1~3を表示しています
原著
  • 林 裕志, 平松 達雄, 小出 大介, 田中 勝弥, 大江 和彦
    2017 年 21 巻 2 号 p. 51-62
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2017/05/25
    ジャーナル フリー

    目的:本邦における現行の医薬品安全性監視を補完するため,網羅的に定量的なシグナル検出を行う手法として,電子カルテデータベースに LASSO (Least Absolute Shrinkage and Selection Operator) ロジスティック回帰を適用することを目的とした.

    デザイン:case-control study

    方法:単一医療機関の電子カルテデータベースを用いて,40,767 名の入院患者を対象に,入院期間中に臨床検査値の異常が観察された患者を,有害事象が疑われるケースとして同定した.有害事象として,膵炎疑いおよび血小板減少を対象とした.LASSO ロジスティック回帰により性別,年齢,併存症および診療行為による交絡を調整し,医薬品副作用シグナルを検出した.医薬品添付文書から副作用が既知である医薬品の正解セットを作成し,シグナルありと判定された医薬品と比べ,陽性的中度を算出した.

    結果:ケース群は膵炎疑い,血小板減少それぞれ 6,735 名,11,561 名であった.LASSO ロジスティック回帰でシグナルありと判定された医薬品の数は膵炎疑い,血小板減少それぞれ 27 個,40 個であり,陽性的中度はそれぞれ3.7%,55.0%であった.

    結論:LASSO ロジスティック回帰は併存症および診療行為による交絡の調整を効率的に行うことができると考えられる.本研究で得られた偽陽性シグナルには未知副作用のシグナルが含まれている可能性も否定できず,明確にするには今後の精査が必要である.

  • 小林 哲, 村山 一茂, 太田 悠葵, 川崎 ナナ, 豊島 聰, 石井 明子
    2017 年 21 巻 2 号 p. 63-76
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2017/05/25
    ジャーナル フリー

    日本で承認されている免疫調節作用を有する抗体医薬品 12 品目について,報告数の多い有害事象の基本語 (Preferred Term;PT)を特定するため,2015 年時点で医薬品医療機器総合機構が公開していた医薬品副作用データベースに集積されていた症例を解析した.その結果,報告数の多い PT として,肺炎,間質性肺疾患,ニューモシスチス・イロベチイ肺炎 (Pneumocystis jiroveci pneumonia;ニューモシスチス肺炎),蜂巣炎,敗血症,および帯状疱疹等を特定した.これらの PT について,特に日本で 5 種類の製品が承認されている抗 TNF 薬 (infliximab,adalimumab,golimumab,certolizumab pegol およびetanercept) をはじめとした関節リウマチ治療薬に着目し,医薬品ごとに各 PT の発現頻度と初回発現時期を解析・比較した.ここでは,シグナル検出指標の報告オッズ比 (reporting odds ratio;ROR) を発現頻度の指標として用いた.また,初回発現時期の対照薬としては,抗 TNF 薬とは標的が異なる関節リウマチ治療薬で,症例の報告数も比較的多い抗インターロイキン-6 受容体抗体の tocilizumab を選択した.その結果,肺炎と間質性肺疾患,および敗血症については,ROR と初回発現時期の解析からは特定の関節リウマチ治療薬との関連を示唆する結果は得られなかった.一方,ニューモシスチス肺炎については,特に infliximab で高い ROR が得られた.Infliximab ではニューモシスチス肺炎の初回発現時期も他の医薬品より早い傾向にあり (0.19 yr),tocilizumab (0.32 yr)を対照として Mann-Whitney 検定を行うと,有意水準 1%で有意差が認められた.Infliximab はニューモシスチス肺炎の ROR が高いだけでなく,初回発現時期も特徴的であることから,ニューモシスチス肺炎との間に他よりも強い関連が示唆された.同様なことが,蜂巣炎とtocilizumab,帯状疱疹と certolizumab pegol についても観察され,感染症に関する一部のPT は,特定のバイオ医薬品に強く関連する可能性が示唆された.肺疾患や皮膚疾患を持つ患者等については,抗 TNF 薬を使用する際に,これらの感染症が生じやすい可能性に配慮する必要があると考えられた.

総説
  • 田中 大祐
    2017 年 21 巻 2 号 p. 77-90
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2017/05/25
    ジャーナル フリー

    医薬品は様々な疾病の治療やコントロールに重要な役割を果たしている.しかしながら,医薬品はこのようなベネフィットをもたらす一方で,有害反応を引き起こすこともある.医薬品は,そのリスクとベネフィットを正しく理解し,適正に使用されることにより,その価値を最大限に発揮することができる.そのためには,臨床使用における医薬品の安全性の評価とモニタリングが欠かせない.つまり,適切に機能するファーマコビジランスシステムが必要である.WHO は公衆衛生に関する国連の専門機関であり,世界の人々の健康を守るための広範な活動を行っている.この活動には,ファーマコビジランスも含まれており,国際医薬品モニタリング制度を実施している.WHO のファーマコビジランス活動は,WHO 本部にある必須医薬品部の医薬品安全グループが総括している.WHO はファーマコビジランスを⌈医薬品の有害な作用やその他の医薬品に関連する問題の検出,評価,理解及び予防に関する科学と活動⌋と定義している.⌈その他の医薬品に関連する問題⌋には,例えば,規格外医薬品,医療過誤,有効性の欠如,乱用・誤用,偽造医薬品などが含まれる.国連ミレニアム開発目標をはじめとした国際社会の努力を通じて,必須医薬品へのアクセスは世界的に改善されてきている一方で,ファーマコビジランスシステムの発展は,まだ十分とはいえない状況である.ファーマコビジランスシステムが十分ではない国にも新たな医薬品が導入され始めている現状は非常に懸念される.本稿では WHO のファーマコビジランス活動の中心となる WHO 国際医薬品モニタリング制度について,その経緯,概要および現状について取り上げるとともに,WHO におけるファーマコビジランス活動の中核を担っている医薬品安全グループが実施している活動,業務内容について記載する.

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