目的:医療情報データベースを用いて,臨床実態下でのアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)の投与に起因した高カリウム血症のリスクを検討した.
研究デザイン:ARB とカルシウム拮抗薬(CCB)の単剤処方患者をそれぞれ曝露群,対照群としたコホート研究.
方法:メディカル・データ・ビジョン株式会社が提供する DPC データベースにて,2008 年4 月から 2017 年 6 月に高血圧性疾患(ICD-10 コード:I10-I15)と診断され,かつ ARB 又は CCB を単剤投与された患者を対象に,ロジスティック回帰モデルを用いて,オッズ比と 95%信頼区間を推定した.アウトカムは高カリウム血症(血清カリウム値 5.5 mEq/L 以上),共変量は性別,年齢,腎機能障害の有無,肝機能障害の有無,薬剤投与前血清カリウム値とした.高カリウム血症の発現率は人年法に基づいて算出した.また,腎機能障害の有無により,サブグループ解析を実施した.
結果:高カリウム血症の発現率は ARB 又は CCB が投与された患者でそれぞれ 39.4/1000 person-years,32.6/1000 person-years であった.高カリウム血症発現までの期間の中央値は ARB 群で 36 日(Min-Max:12-85),CCB 群で 51.5 日(Min-Max:8-88)であった.また,CCB 単剤処方に対する ARB 単剤処方のオッズ比は OR 1.26(95%CI:0.58-2.75)であり,腎機能障害の有無と血清カリウム値のオッズ比はそれぞれ OR 3.31(95%CI:1.39-7.88),OR 9.20(95%CI:3.52-24.10)であった.また,腎機能障害患者でも,主解析と同様の結果が示された.
結論:ARB 投与による高カリウム血症の発生は認められず,ARB に起因した高カリウム血症の発現は極めて低いものと考えられた.一方で,患者の腎機能障害及び薬剤投与前血清カリウム値と高カリウム血症との関連性が示唆された.腎機能障害等の患者では高カリウム血症発現への影響が報告されていることから,これらの患者での ARB 投与については,従来どおりの慎重な処方が推奨される.
医薬品の安全性監視活動は,すべての医薬品に対して実施する通常の医薬品安全性監視活動と,製品特異的な安全性検討事項に対して実施する追加の医薬品安全性監視活動からなる.通常の医薬品安全性監視活動の中においてシグナル管理は重要な部分であり,欧米では当局から規制およびガイダンス文書が発行されている.医薬品リスク管理計画の充実のため 2018年より活動を開始した日本医療研究開発機構(AMED)医薬品リスク管理計画(Risk Management Plan:RMP)研究班は,欧米のガイドラインおよび関連文献をレビューし,その考え方をまとめた.欧米のガイドラインにはシグナル管理の原則と手順に加えて,シグナル検出・評価の方法や実施において考慮すべき点,責任分担,当局内での活動結果の公表手順も記載されており,製薬企業を含めた公共に対する透明性が図られている.研究班では考え方をまとめるにあたって,まずは日本語のシグナル関連用語の定義一覧を作成した.また,これを基にシグナル検出からリスク特定に至る一連の活動を概念レベルで取りまとめるとともに,今後の日本のシグナル管理の在り方について考察した.