日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第50回大会
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被ばく影響とその評価
  • 藤井 智彦, 齊藤 剛, 藤井 紀子
    セッションID: HO-066
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    緒言:水晶体を構成するタンパク質の約90%はクリスタリンであり、脊椎動物ではα-, β-, γ-クリスタリンから成る。α-クリスタリンは分子量20 kDaのαA-クリスタリン(αA)とαB-クリスタリン(αB)のサブユニットから成る500-800 kDaの会合体で、他のクリスタリンの無秩序な凝集を阻害するシャペロン活性を有し、水晶体の透明性を維持している。αAとαBは会合体形成能、シャペロン活性を有し、物理化学的性質は類似しているので、α-クリスタリンがなぜ、αAとαBの2種類の異なったサブユニットで構成されているのかは現在不明である。そこで我々は外的ストレスへの感受性がαAとαBで異なり、水晶体機能維持のために相補的に機能しているのではないかという作業仮説を立て、酸化ストレスの一つであるγ線を個々に照射し、これら2種類のクリスタリンの構造および機能変化の相違について検討を行った。
    実験:ヒトαAおよびαBは大腸菌(BL21)を用いて発現させた。精製した各クリスタリン1 mg/ml を0-2.0 kGyでガンマ線(60Co)照射した。照射前後の試料の会合体のサイズはサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を用いて分析をし、機能解析はアルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)を基質としたシャペロン活性測定により評価した。
    結果:SEC分析により、ガンマ線照射に依存しての会合体のサイズはαAよりもαBの方が著しく増加していた。シャペロン活性測定において、未照射ではαBの方がADHの凝集抑制が高かった。ところがαAは2.0 kGy照射しても凝集抑制を保っていたのに対し、αBは0.5 kGyでADH凝集抑制が半分になり、1.0 kGyではシャペロン活性がほぼ失活していた。これらの実験結果より、γ線により生じるラジカル反応に対する感受性はαBの方がαAよりも高いことが初めて明らかとなった。したがって水晶体中に同機能を持つαAとαBが存在するのは、様々なストレスに対し相補的に働くためではないかと考えられた。
  • 林 直樹, 高橋 賢次, 柏倉 幾郎
    セッションID: HP-249
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    【目的】自己複製能と多分化能を兼ね備えた高い再生能を有する造血幹細胞はリンパ球系と骨髄系に分化し,これらはさらに各前駆細胞を経て最終的に機能を持つ成熟血液細胞へと分化する.この過程は,これらを取り巻くストローマ細胞群により構築される造血微小環境や生理活性因子であるサイトカインによる複雑なネットワークによって制御されている.本研究では,ヒト臍帯血由来間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell : MSC)の造血支持能を利用して,放射線曝露した臍帯血由来造血幹細胞の再生の可能性について検討した. 【方法】インフォームド・コンセントを得た臍帯血から磁気細胞分離システムを用いてCD34+細胞を高度に分離精製した.分離の際に排出された有核細胞を,FGF-2を含む10%ウシ胎児血清‐DMEM培地を用い,シャーレに吸着し,増殖してきた細胞をMSCとした.得られた細胞はCD73+,CD105+及びCD45-であり,MSCに特徴的な抗原の発現が確認された.IL-3, SCF及びTPO存在下,MSCとX線2 Gy照射CD34+細胞との共培養を行った.対照には非照射CD34+細胞を用い,またMSC(-)の条件下でも培養を行った.培養後,生死判定はトリパンブルー法で行い,細胞表面発現抗原の解析は,フローサイトメトリー法で行った.造血前駆細胞はメチルセルロース法もしくはプラズマクロット法で評価した. 【結果・考察】MSCとCD34+細胞との共培養の結果,細胞増殖において照射及び非照射CD34+細胞のいずれもMSC(+)及びMSC(-)の間で有意な差は認められなかった.一方,培養後回収された細胞に含まれる造血前駆細胞では,特に白血球系前駆細胞であるCFU-GMの有意な増加がMSCと照射CD34+細胞との共培養において観察された.従って,放射線曝露造血幹細胞からの造血再生におけるMSCの有効性が示唆された.
  • 高橋 賢次, 門前 暁, 吉野 浩教, 阿部 由直, 江口-笠井 清美, 柏倉 幾郎
    セッションID: HP-250
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    【目的】我々は,これまで血小板産生を司る巨核球前駆細胞(colony-forming unit megakaryocyte, CFU-Meg)の放射線感受性を解析し,重粒子線の感受性は極めて高く,X線で有効であったサイトカインではほとんど回復させることが困難であることを明らかにした(第49回大会).本研究では,有効なサイトカインの組合せを複合的に用いた生体外増幅において,重粒子線に曝露された造血前駆細胞から効率的に巨核球・血小板産生を誘導できないかどうかを検討した.【方法】インフォームドコンセントを得た臍帯血から磁気細胞分離システムを用いて造血前駆細胞であるCD34+細胞を高度に分離精製した.細胞浮遊液に対し,LET 50 KeV/μmで炭素線を照射(2 Gy)後,ヒト遺伝子組換サイトカインを用い,液体培養法による細胞数の増加と分化をフローサイトメトリー法で解析した.サイトカインは,防護効果が高いスロンボポエチン(TPO),interleukin-3 (IL-3)及びstem cell factor (SCF)の組合せと,巨核球・血小板の分化誘導効率が高いTPOとIL-3の組合せを複合的に用いた.【結果・考察】炭素線照射直後からTPO + IL-3 + SCFの組合せで培養を開始し、1日後及び7日後にTPO + IL-3の組合せに換えて巨核球・血小板誘導を行った.培養14日目および21日目に解析を行ったところ照射1日後にTPO + IL-3のサイトカインの組合せに交換すると巨核球・血小板分化は促進するものの,細胞数の回復には至らなかった.照射7日後にTPO + IL-3のサイトカインの組合せに交換すると巨核球・血小板分化の効率が低く,巨核球数と血小板数ではTPO + IL-3 + SCFの組合せでのみ培養を続けたときとほとんど差が見られなかった.重粒子線を曝露された造血前駆細胞の回復には,更なるサイトカインや血球増幅作用のある化合物などの必要性が示唆された.
  • 中野 美満子, 児玉 喜明, 大瀧 一夫, 中村 典
    セッションID: HP-251
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    目的:これまでのマウスを用いた実験から胎仔或いは新生仔照射で生じた多くの染色体異常は残りにくいことがわかった(20週齢で検査)。この結果は、胎仔あるいは新生仔では成体マウス照射の場合と比べて照射から検査までの経過時間が長いことにより異常細胞が淘汰されたためとも考えられた。そこで、照射から検査までの時間が転座頻度に影響するかどうかを調べた。 方法:胎仔(胎齢15.5日)では2 Gy のX線照射後2~10週(1~10週齢)、成体では照射後24~120時間と5~11週(15~19週齢)の期間について経時的に骨髄細胞における転座頻度を調べた。照射から染色体検査までの経過時間は胎仔と成体でほぼ同じである。1番(黄色)と3番染色体(赤色)を着色するFISHを行い、着色染色体の転座頻度を調べた。 結果:胎仔照射の場合は2~10週経過した検査で転座異常頻度の平均は0.7%であった。これは前回の胎仔照射後19~22週目で行った検査結果の平均頻度0.5%とほぼ同じであった。他方、成体マウスの照射の場合は照射後24~120時間および5~11週までの転座頻度は約3.4%であり、胎仔照射の場合と比べて明らかに高かった。 結論:胎仔照射の場合に染色体異常が残りにくいのは、照射から検査までの経過時間が成体と比べて長いためではなく、胎仔照射後2週目(生後1週齢)の骨髄細胞ですでに染色体異常の多くが消失していた。これは恐らく胎仔では、照射されたけれども運よく異常を生じなかった骨髄幹細胞に由来する細胞の活発な分裂によって異常を持っていた細胞が希釈されるためであろうと考えられた。
  • 石田 有香, 大町 康, 平岡 武, 荻生 俊昭, 西川 哲, 島田 義也
    セッションID: HP-252
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    [目的]マウスではガンマ線の胎生期照射により大脳皮質の細胞数の減少や神経細胞の移動障害などが惹起されることが知られている。ヒトにおいては、神経細胞の増殖や移動に及ぼす障害が出生後の精神遅滞を引き起こすと考えられている。しかし、現在まで中性子線の胎児影響に関する研究は十分になされておらず、そこで我々は低線量中性子線による胎児脳への影響を調べている。前回までに10MeV中性子線を用いた胎児脳研究についての報告を行ってきた。中性子線の胎児脳への影響のエネルギー依存性を明らかにするために、今回2MeV中性子線を用いて照射実験を行い、マウス胎児大脳皮質神経細胞のアポトーシス発生について経時的変化を調べた。 [方法]胎齢13.5日のB6C3F1マウスに2MeVの速中性子線(0.2Gy、0.5Gy)、あるいは137Csガンマ線(0.5Gy、1.5Gy)を照射し、照射後1、2、4、8、12、24、48時間に胎児の頭部を採取した。採取した頭部は中性緩衝ホルマリンにて浸積固定し、大脳中央部を通る前頭断後、常法に従い包埋、パラフィン切片を作製した。切片はHE染色およびTUNEL染色を施した。大脳皮質のアポトーシス細胞の発生率を、脳室帯、移動層(中間層)、皮質原基の3層において観察し、中性子線照射群とガンマ線照射群とで比較した。 [結果・考察]HE染色標本の観察では、2MeV中性子線およびガンマ線照射のいずれにおいても大脳皮質や側脳室周囲の神経細胞において、アポトーシスに特徴的な核濃縮像が認められた。また、TUNEL染色標本を用いた経時的な定量解析では、アポトーシス発生のピークは2MeV中性子線でも10MeV中性子線と同様に照射後12時間前後であったが、発生の開始は2MeV中性子線で早く観察された。また、大脳皮質中の細胞数の減少は移動層における細胞数の減少が大きく影響していることが示唆された。現在、例数を増やして解析中である。
  • 保田 隆子, 前田 圭子, 石川 裕二
    セッションID: HP-253
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    環境有害要因の神経系の発達に対する悪影響(発達神経毒性)を調べることは重要な課題である。環境有害要因の一つである放射線の人体、特に胎児の脳に対する放射線影響は、広島・長崎の疫学データより、器官形成期が終わった妊娠8~15週が最も高感受性であり、高頻度で重度精神遅滞症、小頭症の発生が報告されている。この時期はマウスでは妊娠13~13.5日(ラットでは妊娠15日)に相当し、人と同様に発生中の脳に対する放射線影響が最も感受性であることが示されている。しかしながら、マウスは胎仔が母親の胎内で発生し、脳は皮膚と毛で覆われているため、個体を殺さず生きたまま脳を観察することは不可能である。 メダカ後期胚期(st.28~30)は、器官形成期が終わった直後であり、メダカ中脳の視覚を司る視蓋の周辺部位が最も盛んに増殖する時期である。我々は以前の研究において、この時期の脳(特に視蓋)が放射線に対して高感受性であり、視蓋周縁部に放射線誘発アポトーシスが発生することを組織標本を作成しTUNEL, HE染色を施して確認した。メダカは、卵が体外で発生しかつ卵殻が透明で、生きたまま実体顕微鏡下で発生までの全過程を観察可能である。この利点を生かし、我々は最近、メダカ胚の発生中の脳で起こる放射線誘発アポトーシスを、アクリジンオレンジ蛍光染色により、組織標本を作成することなく、簡単、迅速に検出し、且つアポトーシスの数をカウントし定量化することに成功した。本大会ではこのアクリジンオレンジ染色法を用いて、メダカ胚の発生中の脳で起こる放射線誘発アポトーシスの発生からそれらが完全に貪食されて消去されるまでの全過程の時間経過毎の変化を、生きたまま実体蛍光顕微鏡下で可視化することに成功したので、これについて発表する。
  • 坂田 律, 清水 由紀子, 西 信雄, 杉山 裕美, 笠置 文善, 森脇 宏子, 林 美希子, 紺田 真微, 早田 みどり, 陶山 昭彦, ...
    セッションID: HP-254
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    【目的】放射線影響研究所が長期の追跡調査を行っている寿命調査(LSS)集団や他の集団において、婦人科系がんのうち乳がんと放射線被曝の関連は明らかにされている。子宮体がんについてもLSSの最新の報告で、被爆時年齢が若い群で放射線被曝との関連が示唆された。しかしこれらのリスク評価は、年齢以外のリスク因子の影響を考慮していない。本報告では婦人科系がんの罹患リスクと関連があるとされる出産経験などの因子を考慮した放射線リスク評価を行った。また、被曝放射線量とそれらの因子との交互作用の有無を検討した。【方法】LSS集団の女性に対して現在までに行われた3回の郵便調査(1969年、1978年、1991年)のいずれかに回答し、回答前の婦人科系がん罹患歴がない36,116人を対象とした。最も早い郵便調査への回答を追跡開始とし、婦人科系がん罹患の情報は2000年末までの広島市、広島県、長崎県における腫瘍登録より得た。Cox回帰モデルを用い、都市、被爆時年齢、追跡開始とした調査、交絡の可能性のある因子を考慮してハザード比を求めた。【結果】乳がんにおいては、初経年齢、出産経験の有無を考慮しても被曝放射線量増加に伴うリスクの増加が見られた。被曝放射線量と被爆時年齢の交互作用、すなわち被爆時年齢の若い群で被曝線量増加に伴うリスクの増加がより大きい傾向が見られたが、被曝放射線量とその他の因子との有意な交互作用は観察されなかった。閉経後乳がんにおいて、閉経年齢が遅いことと乳がん罹患リスク増加との間に強い関連がみられたが、この関連を調整しても被曝線量と乳がん罹患リスクとの関連は有意であった。子宮体がん罹患と被曝放射線量との関連は被爆時年齢が若い群でのみ有意であり、出産経験の有無を考慮してもこの関連は有意であった。
  • 吉本 泰彦
    セッションID: HP-255
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    【目的】日本の原発は北海道から九州に分布する。平常時の周辺住民の受ける放射線線量は日常生活で無視できるほど小さい。地理的相関研究で見られる原発所在地域の暦年・地域変動の適切な理解のための社会人口学的因子の検討。【資料】市区町村別1972-97年がん死亡率データと人口数調整済社会人口学的因子指標(たばこ税収入額、医師数、財政力指数、人口密度、農業生産額、転入者数、製造業従事者数、外国人人口、漁業・水産業就業者数)。【方法】標準化死亡比SMR(全国死亡率を基準)による、主に1993-97年がん死亡率の地域変動を、全リンパ・造血組織、消化器系、及び非消化器系別に解析。県単位地域変動は全国で、市町村単位地域変動は営業運転開始年が1966年で最も早い原発があった茨城県(1997年末時6二次医療圏、85市町村)で解析。便宜上、都道府県単位地域変動の解析では6地方ブロックと内陸部に関する地域変動を、市町村単位地域変動の解析では二次医療圏に関する地域変動を調整。統計解析はポアソン回帰モデルと経験的ベイズ推定値。【結果】SMR基準死亡率は全国地域別死亡率の各死亡数による加重平均である。上記9指標の内、47都道府県のそれら5分位点による地域分類で比較的均等ながん死亡数となるのは医師数、大きく偏ったがん死亡数となるのは財政力指数である。SMRの変動は小さいが、たばこ税収入額(1995年)が高い地域で肺がん死亡率が高く、興味深いことに同指標が低い地域でリンパ・造血組織の悪性腫瘍の死亡率が高い。その他の指標についてはさらに詳細ながん部位・組織別解析が必要。上記指標と市町村単位地域変動の関連を直接理解するには茨城県の1993-97年のデータのみでは不十分である。しかし、原発所在地は財政力指数が一般に高く、上記指標の市町村頻度を示すことは地理的相関研究の結果の適切な解釈には有用と思われる。
  • 保田 浩志, 矢島 千秋
    セッションID: HP-256
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    放射線審議会は、平成18年5月、航空機乗務員の被ばく管理を促すガイドラインを策定し、その中で太陽フレアへの対応を求めた。しかしながら、航空機高度における被ばく線量を太陽フレア直後に推定することは難しく、有効な方策を決定するに至っていない。太陽フレアの発生をその規模も含めて予測するには、地球上のどこかの地点で線量率の発生が検知されたら迅速に航路線量を予測評価して適切な対応(低高度への移動、離陸の待機等)を促すシステムを新たに構築する必要がある。本研究では、我が国最高峰の富士山の山頂(標高3,776m)において、放射線被ばくの観点から宇宙線強度の変化を常時鋭敏に検知し高高度の線量を推定する連続システムを新たに整備・運用することの可能性について実験的に検討した。富士山頂での実験は平成19年8月から9月にかけて約20日間行い、地上や乗鞍岳の観測施設(標高2,700m)で得られたデータと比較した。
  • 末冨 勝敏, 藤森 亮, 久保田 善久, 高橋 千太郎
    セッションID: HP-257
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    ヒ素はシロアリ駆除剤や木材保護剤などとして使用されており、世界中の至るところに存在する。ヒ素で汚染された食物や水の慢性的な摂取は皮膚がんや肺がんなど様々な疾患の原因となり得る。環境中の低濃度ヒ素の慢性毒性を評価するには、低濃度ヒ素を高感度に検出することができるバイオマーカーを発見する必要がある。我々は今回HiCEPという新しい高精度網羅的遺伝子発現解析法を1μM亜ヒ酸ナトリウム(NaAsO2)を曝露したヒト正常肺繊維芽細胞(HFLIII)に応用し、1μM NaAsO2に応答して発現した転写産物について検討を行なった。我々は、1μM NaAsO2に応答して最も強く発現した転写産物をヘムオキシゲナーゼ1(HMOX1)と同定した。ヒ素によって誘導されるHMOX1の発現量が最大となるために必要な曝露時間を決定するため、1-10μM NaAsO2を24時間までの各時間曝露したHFLIII細胞を用いてHMOX1の発現量の変化を定量PCRにて測定した。その結果、HMOX1の発現が4時間の曝露により最も誘導されることが確認された。1μM NaAsO2処理はHFLIII細胞の生存能にほとんど影響を及ぼさないので、HMOX1の発現に及ぼす1μM以下の低レベルのNaAsO2の影響について検討した結果、0.3μM以上のNaAsO2の2-4時間の曝露でHMOX1の発現が最大に達し、NaAsO2未処理細胞と比較し有意な上昇が認められた。このことは、HMOX1が環境中の低レベルヒ素の検出を行なう上で良いバイオマーカーであることを示唆している。次に、HMOX1が電離放射線の影響を評価するためのバイオマーカーになり得るか検討した。X線照射はHMOX1の発現にほとんど影響を及ぼさないことが明らかとなった。以上のことから、HiCEPがヒ素を含む環境有害物質の影響を評価するためのバイオマーカーを見つける上で有用な方法になり得ることが証明された。
  • 今中 哲二, 福谷 哲, 山本 政儀, 富田 純平, 坂口 綾, 遠藤 暁, 田中 憲一, 星 正治
    セッションID: HP-258
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    旧ソ連セミパラチンスク核実験場の境界から60kmに位置するドロン村は、1949年8月29日に実施されたソ連最初の原爆実験により大きな放射能汚染を受けたことで知られている。ドロン村の外部被曝(積算空気線量)は、従来の評価によると約2Svとされてきたが、TL測定など最近のデータに基づく評価は約0.5Svである。この違いの原因として、従来の評価は放射能雲の中心が通過した場所での線量率測定データに基づく値であり、ドロン村は中心軸からいくぶん離れた位置にあったことが指摘されている。我々は2005年10月、ドロン村を通過した放射能雲の位置と巾を決定するため、想定される中心軸との直交線上など26カ所で土壌サンプリングを実施し137Csと239,240Puの測定を行った。測定結果を、直交線上でインベントリー値(Bq/m2)としてプロットすると、137Csと239,240Puのいずれについても中心軸近辺でピークを示す空間分布が認められた。バラツキはあるもののそれらの分布はガウス関数でうまく近似され、放射能雲中心の通過位置はドロン村北方の約2kmで、雲の巾のσ値は2~2.2kmとなった。グラウンドゼロ地点からドロン村までの距離110kmを考えるとこの雲巾は極めて小さな値である。ガウス関数フィッティングに基づく中心軸上での137Cs沈着量は15kBq/m2(1949年換算値)であり、ドロン村(中心軸から1.8-2.6km)での平均137Cs沈着量は約6kBq/m2となった。一方、以前に得られているドロン村内外49ヵ所の土壌サンプルに基づく平均137Cs沈着量は8.5kBq/m2であり、今回の空間分布に基づく値とまずまず一致した。
  • 廖 海清, 鄭 建, 呉 豊昌, 山田 正俊, 日下部 正志
    セッションID: HP-259
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    It is important to understand the distribution and fate of Pu in lakes due to their radioation threat and high chemical toxicity, since many lakes are the source of drinking-water.Moreover, studies indicated that Pu is useful for establishing deposition chronology of lakes, which has been commonly studied using 210Pb and 137Cs. However, differing from the analysis of 137Cs, samples must be destroyed during the analysis of Pu. Thus, a precise method with small sample size is always preferable for the determination of Pu in lake sediments. We report a simple and accurate Pu analytical method using ICP-SF-MS combined with chromatographic separation and purification for the studies of recent aquatic sedimentation. An anion-exchange resin (AG MP-1M) was used to purify Pu isotopes.The chemical yield was ca. 64 %. For the analysis of IAEA-368, both Pu activity of 31.6 mBq/g IAEA-368, both Pu activity of 31.6 mBq/g and 240Pu/239Pu atom ratio of 0.033 were comparable to other Pu analytical schemes. For SRM 4354, Pu activity of 3.90 mBq/g For SRM 4354, Pu activity of 3.90 mBq/g agrees well with the certified value. However, the mean 240Pu/239Pu atom ratio of the mean 240Pu/239Pu atom ratio of 0.144 +/-0.004 was lower than those reported by other labortories.Considering the fact that those reported values were different from each other, our results suggest thath this material may be isotopically inhomogeneous. The developed analytical method was applied to analyze Pu isotopes in sediment samples of Lake Poyang, East China. 2 sediment samples of Lake Poyang, East China. 240Pu/ samples of Lake Poyang, East China. 240Pu/239Pu atom ratios for these samples ramged from 0.185 to 0.192 with a mean value of 0.187, indicating no plutonium pollution originated from non-global fallout.
  • 坂内 忠明, 白石 久二雄, 幸 進, ZAMOSTYAN Pavlo V., TSIGANKOV Nikolay Y.
    セッションID: HP-260
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    ウクライナにおける被ばく線量を求めるため、ウクライナで集めた牛乳及び乳製品の放射性セシウムの濃度を測定した。試料として1999年以降、牧場またはマーケットから牛乳および乳製品(2005年)を採取した(約50試料)。試料は乾燥後、灰化炉で灰化したものをU8ポリ容器に入れ、Ge半導体検出器で放射能を測定した(範囲:50keVから2000keV、測定時間:86000秒)。検出値は、牛乳を集めた時点に半減期補正をした。これまでに測定した試料(n=20)において、137Csと40Kは全ての牛乳から、134Csは一部の牛乳から検出された。現時点での牛乳1L当りの137Csの最小値は2.0 Bq、最大値は530 Bqで、幾何平均は63 Bqであった。40Kの最小値は40 Bq、最大値は53 Bqで、幾何平均は46 Bqであった。134CsはN.D.から最大値4.1 Bqの範囲であり、137Csの濃度が高い試料において検出される傾向にあった。134Cs-134が検出されない牛乳の137Csの最大濃度は230 Bqであった。ICRP Pub56の137Csによる内部被ばくの線量換算係数(1.3 × 10-8 Sv Bq-1)とウクライナ人の1日の牛乳摂取量(0.8 L)から被ばく線量を計算すると年間では、最小で7.7μSv、最大で2.0mSv、幾何平均で24μSvであった。日本の2000年の環境放射能調査の結果では、牛乳中の137Csの中央値は0.007 Bq/L以下であり、最大でも0.29Bq/Lなので、日本の値より220倍以上は高い値となった。40Kの幾何平均は日本とウクライナでほぼ同じであった。
  • 田中 憲一, 遠藤 暁, 今中 哲二, 葉佐井 博巳, 星 正治
    セッションID: HP-261
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    広島・長崎の原爆被爆者の急性被曝障害については、これまで様々な研究がなされてきている。このうち脱毛は、原爆炸裂時には爆心から離れた場所におり、その後、市の中心部に入って被曝した「入市被爆者」にも認められたとされている。入市被爆者に対して原爆炸裂時に伴う瞬間的な中性子・γ線被曝がほとんどなかったことを考えると、入市被爆の主な要因としては地面近傍の物質の放射化による誘導放射能が考えられる。入市被爆者の脱毛が放射線によるものであるかを考える上で、原爆中性子によって土壌中に生成した放射性核種による皮膚線量を評価することはきわめて重要と言える。
     これまでの原爆線量評価体系(T65D、DS86、DS02)においてはγ線のみが取り扱われてきた。一方、皮膚被曝においてはβ線及びγ線の両方が寄与し得たと考えられ、特に放射化土壌が皮膚に付着した体系ではβ線寄与が支配的になる例が考えられる。そこで本研究では、β線及びγ線由来の皮膚線量を、放射化した地面による被曝、ならびに皮膚に付着した放射化土壌による被曝の両方について評価する。本報ではその結果について報告する。
  • 鄭 建, 山田 正俊
    セッションID: HP-262
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    241Am is present in the environment as a consequence of nuclear power plant accidents, authorized discharges from reprocessing plants, or atmospheric weapons tests. Compared with the intensive studies of plutonium in the environment, few investigations of 241Am have been performed. From a radiological health point of view, it is important to study the distribution of 241Am and its behavior in the environment because this radionuclide will be a major contributor to the dose to the public, considering the fact that the concentration of 241Am will continuously increase in the environment and to reach its maximum activity in the middle of 21st century. On the other hand, 241Am is useful tracer in understanding biogeochemical processes in the marine environment because of its high particle affinity. We report a rapid and simple SF-ICP-MS analytical method for 241Am in sediment samples. A selective CaF2 co-precipitation procedure followed by an extraction chromatography separation and purification using Eichrom TRU resin was employed to remove the major matrix and pre-concentrate 241Am. Because of the short-life of 241Am, effort was made to improve the sensitivity of SF-ICP-MS using a high efficiency sample introduction system. The achieved detection limit of 0.3 fg/g (0.04 mBq/g) is extremely low, which allowed the determination of 241Am for low-level environmental samples. The developed method was validated by the analysis of ocean sediment reference material (IAEA-368) with satisfactory result, and will be applied to the study of 241Am distribution in marine environment.
  • 齋藤 美希, 鶴見 實
    セッションID: HP-263
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    環境中の放射性セシウムは、大気圏内核実験(1945~1960年)およびチェルノブイリ原子力発電所事故(1986年)による大量放出に起源を持つ大気沈着物である。137Csは30年という長い半減期を持ち、環境中に長期間残存するため、大気降下物由来の元素として環境中での濃縮や移動、循環を見ることが可能である。いままで、チェルノブイリ原発事故から20年以上経過した現在においても、沈着した放射性セシウムがまだ表層土壌に保持されていることは、よく知られている。
    青森県の岩木山南西麓の4地点で垂直方向の土壌試料を採取し、土壌中の137Cs含有量に加え、蛍光X線分析によって得られる20元素と、炭素窒素含有量、灼熱減量を分析した。その結果、岩木山ブナ林土壌中の137Cs濃度の最大値は487Bq/kgであった。いずれの地点でも、土壌中のほとんどの137Csが表層10cm以内に保持されていた。その風乾土壌あたりの垂直濃度分布は、灼熱減量やPbの分布と似ており、表層から指数関数的に減少していた。そして、森林土壌の137Csの垂直分布には、沼地で見られた2つの大量放出時期に相当する明らかなピークは見られなかった。ここではSelf-consistentな最小二乗法を用いた混合モデル解析を用い、土壌試料中に含まれるすべての化学成分濃度を4種類の異なる組成を持つ土壌構成物質の混合で説明できることを示す。この結果は、137Csが有機物と粘土の二つにそれぞれ約25%と75%保持されていることを明らかとし、表層土壌中の137Csの大部分が粘土によって無機的に濃縮されているものであることを示す。
  • 遠藤 暁, 富田 順平, 田中 憲一, 山本 政儀, 福谷 哲, 今中 哲二, 天野 光, 川村 秀久, 河村 日佐男, 星 正治
    セッションID: HP-264
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    旧ソ連核実験場セミパラチンスク核実験場(SNTS)では、1949年から1989年の間に大気、地上、地下核実験を450回以上に上り行ってきた。ドロン村はSNTSの境界から60kmに位置しており、1949年の最初に行われた旧ソ連核実験で放出された放射性雲が上空をとおり放射能によって汚染されたことで知られている。最近、健康調査の甲状腺検診において、SNTS近郊住民の甲状腺異常が報告されている。甲状腺異常は、131I放射能汚染と相関し、甲状腺線量を評価するために131I放射能汚染濃度を決定することが重要である。しかし、131I は半減期が短く(8.02d)、SNTSにおける評価では利用できなかった。近年、加速器質量分析法(AMS)が確立され、AMSを用いることにより、半減期長い(1.57x107y)放射性ヨウ素129I を測定することが可能である。本研究では、SNTS近郊ドロン村から採取した土壌サンプルを利用し、AMS測定で129I汚染量を評価した。 土壌の採取は、2005年に行った。1949年の最初の核実験において生成された放射性雲が通過したとされる軌跡と垂直に、およそ500m間隔で10kmにわたり土壌を21地点、ドロン村居住区において5地点で採取した。この26地点、78試料の試料をGe検出器により137Cs放射能の測定を行った。137Cs放射能測定後、AMS測定に利用する14試料を選んだ。14の土壌試料からヨウ素成分の抽出は九州環境管理協会において行い、AMS測定は日本原子力機構むつ事務所で行った。 129I /127I 原子比率は3.3x10-9から3.3x10-7の値が得られた。これらの値はヨーロッパにおける核実験や原子力産業からの寄与を含めた環境バックグラウンド(10-9-x10-7)と同程度であった。また、土壌中の129Iインベントリを決定したところ1.2x1013~1.5x1014(atoms/m2)が得られた。 チェルノブイリ原発事故由来の129Iと比較したところ、セミパラチンスク核実験場周辺のデータでは、129I濃度が異常に高い129I/137Cs(17-20)値が得られた。核実験由来の129Iのほかに原子力施設などからの129Iが影響していると考えられる。今後、コントロール地域などの測定を行っていく。
  • 山田 正俊, 王 中良
    セッションID: HP-265
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    海洋環境中、特に北太平洋の137Csは、主に大気圏核実験によるグローバルフォールアウトおよびビキニ核実験によりもたらされた。海洋に放出されてから50年以上が経過しているが、海洋では定常状態にはなっていない。海水柱中での濃度、鉛直分布パターン、インベントリーも時間とともに変化していることが予想される。北太平洋に比べ、南太平洋における海水中の137Csの鉛直分布に関する研究はほとんど行われていない。本研究では、西部南太平洋の水深が4000mを超える5つの海盆における137Csの鉛直分布を測定し、GEOSECS航海の報告との比較および海水柱中でのインベントリーの比較を行った。水深0-200mの137Cs濃度は、1.4から2.3 Bq/m3の範囲であり、その後1000mまで指数関数的に減少した。海水柱中でのインベントリーは、珊瑚海海盆での850 Bq/m2から南フィージー海盆での1270 Bq/m2の範囲であった。低緯度の測点に比べ、亜熱帯循環の中緯度の測点の方が、高いインベントリーを示した。これらのインベントリーは、グローバルフォールアウトにより予想される値に比べ、1.9倍から4.5倍高い値であった。西部南太平洋の水深が4000mを超える海盆におけるこの過剰なインベントリーの起源について考察する。
  • 武田 志乃, 井上 美幸, サフー サラタ・クマール, 吉田 聡, 西村 義一, 西村 まゆみ, 山田 裕, 島田 義也
    セッションID: HP-266
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    近年、劣化ウラン弾汚染地域やウラン鉱山伏流水を飲用する地域で健康影響についての報告が増加し、子どもへのウランの毒性影響に関心がもたれている。自然界に存在するウラン(天然型ウラン)や劣化ウランは放射線毒性よりも重金属としての化学毒性が優勢とされ、カドミウムや水銀様の腎臓の尿細管障害を引き起こすことが知られている。しかし発達期におけるウランの感受性や体内挙動は十分に理解されていない。その理由の一つは、組織中の微量ウランの測定が困難であったことがあげられる。すなわち、ウランはα線放出核種であるため、β線やγ線核種のように感光フィルムやイメージングプレートによる組織分布が簡便に得られない。 我々はこれまでに、ナノビームを利用した高エネルギー領域シンクロトロン放射光蛍光X線分析や誘導結合プラズマ質量分析による微量元素測定手法に取り組んできた。両手法は微小組織におけるウラン分析に有効であることから、我々はこれらの手法を幼若ラットにおけるウランの挙動解析に応用することを試みた。 生後1週齢および3週齢の幼若ラットに酢酸ウラン(天然型)を皮下一回投与し(2 mg/kg)、腎臓中ウラン濃度の経時変化、腎臓中ウラン分布ならびに組織変化を調べた。腎臓のウラン濃度は1週齢よりも3週齢の動物で高く、両者の標的部位である近位尿細管におけるウラン局所蓄積量や分布の経時変化には違いが見られた。アポトーティック細胞の誘導部位はウラン分布に対応して3週齢ラットの方が広範に及んでおり、ウランのばく露年齢より腎臓ダメージに違いがあることが考えられた。
  • 辻 さつき, 神田 玲子, 吉永 信治, 米原 英典
    セッションID: HP-267
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    医療被ばくは、そのベネフィットが明確であるため、一般公衆の受容度が比較的高いことが既往の認知調査等で明らかとされている。一方で妊娠中の放射線診断あるいは子供のCT検査に関しては、その影響を心配した妊婦及び母親らが専門家へ質問する事例が多く報告されている。そこで我々は一般公衆に対して、社会問題と放射線のリスクおよび医療被ばく、特に子供への適用に関する認知調査を実施した。 アンケートは全国の20歳以上の男女から回答対象者を層化二段抽出法により抽出し、2006年10月に、訪問面接法による調査を行った。有効回答サンプルは男性610名、女性747名で、性別、年齢、子供(有無や年齢)、職業、学歴、居住地などに関する質問も行い、属性別群ごとの集計を行った。本調査結果に対し、既往調査との比較あるいは社会心理学的な手法を用いた解析を行なった。 どの属性別群においても、がんの治療・診断を目的とした子供への放射線利用に関しては、自分自身への適用に比べ受容性が低かったが、肺炎や骨折等の診断に関しては、小学生以下の子供を持つ母親の受容性が高く、子供を持たない女性の受容性が低かった。実際に直面する可能性の高い事例について、一般公衆が合理的に判断していると思われる。放射線による健康障害に関する設問(自由回答)から、一般公衆の放射線影響のイメージは「がん・白血病」に限定されていることがわかった。ところが、子供の医療被ばくに否定的な理由を問う設問の回答には、がん・白血病をあげた例はほとんどなく、漠然と大人より放射線影響が大きい(余命が長い、成長期、身体が小さい、抵抗力がないから等)と感じている、あるいは発育障害(成長不全、奇形等)を心配する回答が多かった。子供の場合、放射線の影響がどこにどの程度現れるかの情報が不足していることが、医療被ばくへの不安の増大ひいては医学利用への消極的意向に関係するのではないかと思われる。
  • 平井 裕子, 野田 朝男, 児玉 喜明, 徳岡 昭治, 児玉 和紀, 馬淵 清彦, LAND Charles, 中村 典
    セッションID: HP-268
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    原爆被爆者の乳がんは過剰相対リスク(ERR)が高く、放射線との関連が強く示差される腫瘍である。また、早発症例(被爆時年齢20歳未満で、診断時年齢35歳未満)のERRは特に高いと推測されている。我々は原爆被爆者の早発性乳がんのリスクが高い理由として、乳がん関連遺伝子の変異を親から受け継いだ人(ヘテロ接合体)において、原爆放射線により、正常な遺伝子が機能を失ったために、乳がんが早期に発症するリスクが上昇したのではないかと想定した。この可能性を検証するために、乳がん感受性に関わる遺伝子における日本人に特有な創始者変異(BRCA1 遺伝子に2ヶ所、BRCA2 遺伝子に1ヶ所、ATM 遺伝子に1ヶ所)とこれまでに日本人での調査報告のないCHEK2 遺伝子の創始者変異(ヨーロッパ人)をスクリーニングし、早発症例群に、これらの変異のヘテロ接合体の集積があるか否かを調べた。創始者変異の解析はPCR-RFLP法かPCR-direct sequence法を用いた。試料は、ホルマリン固定パラフィン包埋された乳がんおよび卵巣がん組織を用いた。対象症例(約550症例)は、診断時年齢が45歳以下の(I)放影研寿命調査(LSS)集団と(II)non-LSS集団、診断時年齢が55-69歳の(III)LSS集団と(IV)non-LSS集団の4群(各群ほぼ同数)に分けて解析した。ATM およびCHK2 遺伝子の創始者変異は一例も検出されなかった。BRCA1 とBRCA2 遺伝子ではいずれの変異個所もヘテロ接合体は1-2例で、全体で4例(I群が1例、II群が2例、III群が1例、IV群が0例)であった。従って、原爆被爆者の乳がんおよび卵巣がんの早発症例(I群)のリスクの高い理由として、乳がん関連遺伝子(BRCA1BRCA2ATMCHEK2 遺伝子)の創始者変異に起因する可能性は支持されなかった。
  • 中村 典
    セッションID: HP-269
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    男性における不妊(妊娠を生じない、あるいは子供がない)は主として劣性突然変異により生じると考えられている。しかし単一遺伝子疾患頻度と比較すると、患者のバックグランド頻度は大変高く、しかもヒトの場合は500個以上の遺伝子が関与しているようである。本研究では、父親への放射線被曝(1Gyの低LET放射線への急性被曝)による遺伝的影響としての男性不妊を推定した。考察の条件として、ヒト男性においては100個から4000個の遺伝子が稔性に関与し、自然頻度が1%から20%の範囲であり、これらの遺伝子のどれかひとつに関して突然変異ホモになった場合に影響を生じるとした。計算結果は、男性不妊は放射線被曝の遺伝的影響の検出に関して、単一遺伝子疾患よりもかなり感度の高い指標であることが示唆されたが、F1世代における不妊男性頻度の増加は、検討した条件下では最大相対リスクでも1.013に過ぎず、これは検出可能とは思われなかった。以上の結果は、観察する指標が単一遺伝子性疾患であれ、多遺伝子性疾患であれ、ヒトの生殖細胞における放射線影響の検出は極めて困難な任務であることを示唆している。このことは部分的には、ヒトのゲノムにはすでに幾多もの自然突然変異が蓄積している反面、1Gyの低LET放射線被曝により新たに追加される突然変異は、ほとんどの場合恐らく生存細胞当たり1個未満であるらしいことと関係がある。
放射線物理・化学・技術
  • 中村 秀仁, 江尻 宏泰, 内堀 幸夫, 北村 尚, 硲 隆太, 伏見 賢一, 嶋 達志
    セッションID: JP-173
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    原子力施設や医学、その他の分野において放射線源の使用が日々増加している。設計および操作における安全防護にも関わらず、放射線源に関わる事故は生じうる。これらの放射線事故ではいずれも、人々に対する影響は重篤である可能性がある。そのため、放射線緊急事態に被ばく者および緊急作業者を防護するため、迅速かつ適切に判断できる放射線評検出器が重要となる。このような放射線緊急事態に使用するヒューマンカウンターや医療用放射線検出器を超高感度で実現させるためには、高検出効率、エネルギー分解能、位置分解能が鍵になる。そこで本研究では、積層型シンチレーター(6×6×1cm3×3層)とNaIシンチレーター(6×6×1cm3×1層)の4側面にマルチアノード光電子増倍管(浜松フォトニクス社製、R8900-00-M16、16チャンネル)を16本配置したプロトタイプ検出器(側面の有効面積: 91%)を開発した。本講演では、プロトタイプ検出器の性能評価について報告する。
  • ZHUMADILOV Kassym, IVANNIKOV Alexander, ZHARLYGANOVA Dinara, STEPANENK ...
    セッションID: JP-174
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    The method of electron spin resonance (ESR) dosimetry was applied to human tooth enamel to obtain individual absorbed doses of residents of settlements in the vicinity of the Semipalatinsk Nuclear Test Site (SNTS), Kazakhstan. Most of settlements (Dolon, Mostik, Bodene, Cheremushki, etc.) are located near the central axis of radioactive fallout trace from the most contaminating surface nuclear test, which was conducted in 29, August 1949. The distances between investigated settlements and Ground Zero are in the range 70 - 200 km from SNTS. The other settlements located in the radioactive fallout trace as a result of surface nuclear tests in 24, August 1956 (Znamenka), in 12, August 1953 (Sarzhal) and in 7, August 1962 (Kurchatov). Semipalatinsk city was included to investigation as a biggest city, which located close to SNTS. Tooth samples were extracted according to medical indications in a course of ordinary dental treatment. (8 tooth samples were from control settlement Kokpekty, which were not subjected to any radioactive contamination and located 400 km to the Southeast from SNTS). Only molar teeth were used for dose determination, in which effects of solar ultraviolet on the radiation induced ESR signal in enamel are excluded. It was found that the excess doses obtained after subtraction of the contribution of natural background radiation ranged up to about 450 mGy for residents of Dolon, whose tooth enamel was formed before 1949, and do not exceed 100 mGy for younger residents. For residents of Mostik, excess doses do not exceed 100 mGy for all ages. For Bodene settlement, excess doses higher than 100 mGy be obtained for two samples from the residents having enamel formed before 1949. For residents of Sarzhal village, the maximum of excess dose were determined as 138.2 mGy and for Residents of Znamenka maximum excess dose was about 268 mGy and for residents of Kurchatov city excess dose was about 63 mGy.
  • 山上 隆平, 小林 一雄, 田川 精一
    セッションID: JP-175
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    DNAは放射線照射によりアニオンおよびカチオンが生じ、それらは遺伝子損傷にとって重要な過程の一つとして考えられている。DNA中に生じるカチオンに関して、これまでに多くの研究が行われているのに対して、アニオンの挙動に関してはよくわかっていない。4種類の塩基A, T, G ,Cの中でT, Cの還元電位はG, Aと比べて低く電子輸送の担い手になると考えられ、DNA上に生成したアニオンラジカルは、T, Cに移動することが提唱されている。生成したC, Tアニオンラジカルはプロトンが付加することで中性ラジカルを生じ、電子移動が阻害されると考えられている。一方、DNA中で相補的塩基対を形成しているC, Tのアニオンラジカルとプロトンとの反応の挙動は全く不明である。そこで本研究では電子線パルスラジオリシス法によりdA, dT, dG, dCの4種類のヌクレオチドとオリゴDNAのアニオンラジカルのナノ秒の光過渡吸収を測定した。各デオキシヌクレオチドは水和電子と反応しアニオンラジカルを生じ、さらにプロトンが付加し中性のラジカルが生成したdTアニオンラジカルのpKaの値を7.0と求められ、dTアニオンラジカルとプロトンとの結合反応は2.4×1010 M-1s-1であった。一方、dCにおいてはこのような中間体は観測されず、dCアニオンラジカルは生成後直ちにプロトンが付加していることが確認された。DNAの測定においては、CまたはTのアニオンラジカルに由来するスペクトルが得られると予想されたが、スペクトルは4種類の塩基のアニオンラジカルのスペクトルとは異なるものであることがわかった。
  • 田村 千尋, 砂山 美里, 田端 義巌, 法喜 ゆう子, 荒木 良子, 安倍 真澄
    セッションID: JP-176
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
      標準的なトランスクリプトーム解析に必要なRNA量はトータルRNAにして数マイクログラムである。HiCEP解析も開発当初polyA RNA 1~2μg(トータルRNA 100μg相当)を要した。しかし、実際のトランスクリプトーム解析のアプリケーションを考えると、~10,000細胞(トータルRNA 0.1μg相当)、さらには~100細胞(トータルRNA 1ng相当)程度での解析が多く求められている。この量のRNAを用いた解析が可能になれば、需要の大きな血液および生検材料を用いた診断から、FACSやレーザーマイクロダイセクション法などを用いて特定の細胞を分離するような特殊な研究まで、解析対象や応用分野の飛躍的な増加が期待できる。そこで我々は、より少ない出発材料での発現解析の可能性を検討した。
      初めに、高純度トータルRNA標品の希釈系列で実験を行った。まず、HiCEP基質のPCR増幅により、トータルRNA 0.1μg(~10,000細胞相当)を用いた解析が可能となった。基質の平均鎖長が150ベース程度であることから、増幅におけるバイアスが小さく、直線的増幅が達成された。さらに、合成アダプターのリン酸化、逆転写酵素そのもの、またその反応諸条件を詳細に検討する事により、トータルRNA 0.5~1ng(50~100細胞相当)の解析が可能になった。次に、希釈RNAではなく、実際に少数の細胞を用いたHiCEP解析を行ったところ、10細胞解析の可能性が示された。40コピー/細胞以上の転写物ならば正確なモニタリングが可能であり、従来技術と比較し大きな進歩が見られた。現在、単一細胞を用いた解析を試みており、その可能性も得られつつある。
  • 安藤 俊輔, 荒木 良子, 堤 康憲, 安倍 真澄
    セッションID: JP-177
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
      HiCEPは、解析にシーケンス情報を必要としない全生物の解析が可能なAFLP技術を基本にした遺伝子発現プロフィール解析法である。全転写物の約70%を網羅し、各ピークはそれぞれの遺伝子とほぼ1:1に対応する。又、1コピー/細胞、1.5倍以下の発現変動を検出する感度を有している。HiCEP法をライフサイエンスにおける標準的な解析法に発展させるためには、「誰にでも出来る」仕掛けが必要であり、更に原因遺伝子探索に加えて診断などモニタリングに用いるためには、ハイスループットでなければならない。そこで、我々は、1st strand合成からアダプター結合までの反応を行う自動反応ロボット(HiCEPer)の作成を試みた。
      HiCEPerは、「分注など微量液体ハンドリング」「インキュベーション」「磁気ビーズによる核酸精製」の3つのモジュールから成っている。今回、耐久テストを行い、その結果明らかになってきた問題点を解決し、一度に96反応が可能な事を確認した。また、プロトコールを改良する事で、RNA量を1ナノグラム(100細胞相当)まで下げても反応が達成される事も示した。実際に再現性良く動く自動反応装置が完成した事により、多群間比較解析、需要の大きな血液および生検材料を用いた診断からFACSやレーザーマイクロダイセクション法などを用いて特定の細胞を分離するような特殊な研究まで可能となり、解析対象、応用分野の飛躍的な増加が期待できる。
関連集会
UNSCEAR報告書の最新動向と放射線影響研究の展望
  • Peter A. BURNS
    セッションID: X1-1
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    原子炉や第二次世界大戦中の核兵器の開発に伴い、作業者や公衆の電離放射線に被ばくする可能性は顕著に増大した。ほぼ同時に低レベル電離放射線の長期被ばくが、発がん・遺伝的影響の原因となる可能性も明白となってきた。これらの開発に対応して、電離放射線の線源と影響を報告するために、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)が1955年の国連総会によって設立された。

    1952年から1954年の間の大気圏における60メガトンもの水素爆弾の大爆発は全世界の放射性降下物を顕著に増大させた。UNSCEARの課題は、放射能汚染の被ばく評価の手法を開発することとこれらの被ばくの人への影響を評価することであった。当委員会は、当事、人の被ばくの最も重要な被ばく経路の一つと考えられていた90Srの測定に基づいた放射性降下物による汚染の評価のための世界的なプログラムを調査した。2000年報告書では、委員会は1963年までに全世界の線量が大気圏核実験により通常のバックグランドレベルより5%も上昇したと推定した。委員会の活動は、1963年の部分的核実験禁止条約の採択のために役立った。

    過去50年間にわたってUNSCEARは活動を続け、放射線被ばくの線源や人間とそれ以外の生物への電離放射線の影響について調査してきた。当委員会は核燃料サイクルや他の人工線源の放射線影響と同様に医療被ばくや電離放射線の自然線源の被ばくについても評価してきた。今日ではそれら人工線源よりも医療や自然線源による線量の方がはるかに大きいことは明らかである。

    2006年UNSCEARは放射線の生物学的影響に関する5つの附属書を取りまとめた。
    ・住居と職場でのラドンの線源から影響までの評価
    ・放射線とがんに関する疫学研究
    ・放射線被ばくに伴う心血管疾患とがん以外の疾患の疫学的評価
    ・免疫系における電離放射線の影響
    ・電離放射線被ばくの非標的効果および遅延影響

    以上を纏めて委員会は、放射線の健康影響の推定は、線量に関連した統計的に有意な罹患率増加が認められる範囲においては疫学的および実験的観察に基づいているという見解を示した。健康への悪影響のこれら直接的な観察は、照射の標的(直接的)効果だけでなく、非標的効果及び遅延影響に関係したメカニズムが含まれていることを暗に説明している。低線量では、有害な健康影響を引き起こすメカニズムを洞察するために、細胞や組織の反応の範囲や性質の理解が必要である。UNSCEARはUNSCEAR2000年報告における低線量影響に関するデータが、リスク推定に影響するメカニズムが正しいかどうかの判断のために適切な根拠を提供すると信じている。

    UNSCEARは活動を続け、現在チェルノブイリ事故20年後の影響、電離放射線の人以外の生物への影響、放射線の職業、公衆、医療被ばくについての報告の準備をしている。2008年の第56回会合において当委員会は今後数年間の作業プログラムを承認する予定である。
  • 佐々木 正夫
    セッションID: X1-2
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    最近のUNSCEAR報告は単なるデータベースにとどまらず、急速に展開される最新学術情報を背景とした「放射線とその影響」の再評価といった側面が強くなってきた。ここに取り上げる分野もその意味では古くから注目された課題であるが全く新しい視点からまとめられている。「放射線と免疫系」としては1972年の総括的報告が最初である。そこでは放射線に対する免疫系のクライシスとその回復に焦点が当てられていた。今回の報告書は「組織応答」に焦点を当てた新しい切り口として興味深い。免疫担当細胞の機能分化と相互作用を詳細に述べ、その上で低線量・低線量率放射線を中心とした実験動物やヒトのデータがレビューされているが、結果は必ずしも一致しない。「免疫幹細胞機能への障害とその回復」が時系列で捉えられなければならないことを考えると実験ごとの不一致は理解できる。その意味で、原爆被爆者やテチャ川周辺住民のように十分な時間要因を満たして見られる変化には一定の方向性が見られ、放射線影響の重要な情報を提供する。「非標的効果および遅延影響」の概念は古い。それぞれ1970年代の大腸菌の実験、1940年代のウニの実験に遡ることができる。最近マイクロビームによる細胞内極微領域照射が可能となり、放射線影響の新しい問題として再登場してきた。非標的突然変異、バイスタンダー効果、遺伝的不安定性、遅延突然変異など古典的な細胞核を標的とした放射線影響の概念に収まらない現象である。低線量放射線影響の評価に大きなインパクトを持つ現象であるが、観察データには相互に矛盾も見られ、また生体内でも起こっているかどうか明らかでない面もあって、現在のところ健康影響への意味づけには到っていない。今後、技術革新・集団調査・機構面の解明も含めて、生物応答の本質に迫る研究に期待したい。
  • 児玉 和紀
    セッションID: X1-3
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    放射線と発がんリスク
    UNSCEAR 2000年報告以降に、放射線被ばくを受けた集団からの疫学データの報告がいくつかなされている。たとえば、放射線影響研究所(放影研)寿命調査(LSS)からも固形がん罹患率ならびに全がん死亡率の新たな報告がなされた。新線量推定方式DS02 の導入により、がんリスクは約8%減少したが、線量応答曲線の形状には変化なく、またリスクの経年変動にも変化は見られていない。 反復低線量被ばくについても、IARC15カ国核関連従業者、およびテチャ川ならびにセミパラチンスクからの新たな解析結果も報告されている。しかしながら、これら研究ではバイアスの存在が懸念されているため、リスク推定に問題を残している。 今回の報告書では、24のがん部位について報告されたが、膵臓がん、皮膚の悪性黒色腫、前立腺がん、非ホジキンリンパ腫、ホジキン病、多発性骨髄腫では放射線被ばくと関連を示す報告はほとんどみられない。また、小腸がん、直腸がん、腎臓がんは放射線治療のような高線量被ばくにおいてのみリスクの増加が見られている。
    LSSの新たな解析結果でも全固形がんの線量応答は線形であるため、低線量領域でもリスクは線形としてLSSデータから外挿して推定することも、低線量リスク推定の最初のステップとしては使用できる方法であろう。

    放射線と非がん疾患リスク
    放射線治療に伴って心臓に高線量被ばくした後に心血管疾患リスクが増すことは既に知られている。しかしながら今日までに、1-2 Gy以下の被ばくと血管疾患死亡率の関連が報告されているのはLSSのみである。他の疫学調査からはリスクが増しているとの明らかな報告はなく、また結果に一貫性も見られていない。
    疫学的には関連の一致性に乏しく、かつ生物学的なメカニズムも不詳であるため、現時点のデータは1-2 Gy以下の被ばくと血管疾患死亡率の間に因果関係を証明するには不十分であると、委員会では判断された。
  • 吉永 信治, 米原 英典
    セッションID: X1-4
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    2007年に出版が予定されているUNSCEAR報告書は主文と5つの附属書から構成される。5つの附属書のうち、附属書E「職場と家庭におけるラドンの線源から影響までの評価」では、公衆の自然放射線被ばくの最も大きな源であるラドンについて最新の科学的情報が取りまとめられている。この附属書では、線源、線量評価、影響などに関する知見が包括的にレビューされている。特に影響に関しては、鉱山労働者のコホート研究に加え、屋内ラドンと肺がんの症例対照研究についても詳細にレビューされている。
    2007年に出版が予定されている5つの附属書以外には、「医療放射線被曝」、「種々の線源からの公衆および作業者の被ばく」、「放射線事故からの被ばく」、「人以外の生物への放射線影響」、「チェルノブイリ事故の放射線による健康影響」の5テーマおよび全てを総括した「線源と影響」について、附属書ドラフトの検討が進められている。線源に関する3テーマについては、UNSCEARが独自の調査により各国から関連データを収集・解析し、報告書として取りまとめている。また、人以外の生物へ影響やチェルノブイリ事故による健康影響のテーマについても構成や内容が慎重に検討されている。これらは来年以降にUNSCEAR報告書として出版される予定である。
    UNSCEAR報告書が出版に至るまでの過程では、UNSCEAR加盟国の代表およびアドバイザ、UNSCEAR事務局、執筆担当のコンサルタントらの尽力が不可欠である。日本ではUNSCEAR国内対応委員会が中心となり、UNSCEAR報告書ドラフトの精査、被曝データの収集と取りまとめなどについて組織的に活動している。このうちドラフトの精査では全国の大学、研究機関等に所属する約120人の専門家に協力を仰ぎ、ドラフトに対するコメントを取りまとめている。
  • 丹羽 太貫
    セッションID: X1-5
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    国連科学委員会は1955年に国連の決議のもとに作られ、これまで「放射線の生物影響について科学的な知見を集める」作業を行ってきた。これは放射線防護の基準を勧告する国際放射線防護委員会により射線のリスクを評価するための信頼のおける基礎データとして用いられてきた。すなわちこの両者の車の両輪の関係が世界のリスク評価と防護基準を形作ってきたといえる。しかしながら世界が核戦争の勃発におびえていた時代からすでに50年の今日では世界の情勢もずいぶん変化して、財政面やその他の情勢から国連科学委員会の活動は困難になりつつある。さらにここ数年の国連科学委員会の討議のなかで、これまで放射線の影響を考える上で絶対の基本とされていた科学的な考え方の一部が修正され始めている。すなわち国連科学委員会はこれまでLNT仮説に基づくリスク評価を基本にしてきた。集団線量はこのLNT仮説の当然の帰結であるが、チェルノビル事故の影響について極低い線量でもこれに数億人といった人数を掛けることで放射線による予測死亡数が出され、それが社会的不安をかきたてる道具につかわれていることを受け、集団線量の適用に制限をかける動きがある。さらに本年の国連科学委員会においては、チェルノビル事故地域住民で心理的影響が大きな問題になっているためこれを報告に取りいれるべきとの意見が出されたが、これらは物理的な放射線量とはあまり関連がなく出る影響であり、従来の「科学的知見」の枠を超えるものであった。このように、国連科学委員会はこれまでの枠組みを超えて動き始めている。
  • 大西 武雄
    セッションID: X1-6
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
     放射線・放射能の人類への影響の研究成果をこれまで国連およびWHOに対して、UNSCEARが意見を具申してきた。「チェルノブイリ」をはじめとする数多い報告においても不正確な部分を正しく、科学的に整理していく作業は膨大なものであろう。本学会においても「チェルノブイリ」に関してはシンポジウムやJRRの特集号などに取りあげられ、科学的論拠が討論・整理される努力がなされてきた。また、本学会でも低放射線量における生物影響研究も学会の注目の的であり、放射線応答、発がんなどリスク研究がなされている。しかしながら、本学会として研究分野で弱い部分も数多い。例えば、最近注目されている「X線に対する診断検査」、「放射線診断学」については早急に取り組まなければならない。患者の放射線被曝は照射機器のみならずPETなどに用いられるRIからも考慮されねばならないであろう。しかし、日本の重粒子線治療に関しての治療効果メカニズムや正常細胞に対する影響研究は世界の中でも注目されている。さらに、進歩した分子生物学的研究法を利用して、がん関連遺伝子やDNA修復などの研究をすることにより、突然変異生成やがん発症メカニズム研究には大きな貢献をしてきた。また、遺伝子の変異またはノックアウトマウスによる最近の知見もUNSCEARは評価していただいたであろう。UNSCEARがどのような研究を望んでいるかを、本学会にも要請していただきたい。また、その要請にあったプロジェクトをいかに立てていくか、それらの研究プロジェクトに対して研究助成をいかに確保していくかを、学会を乗り越えて考えることも大切であろう。さらに、日本においてなされた数多い放射線研究成果をいかに取りまとめていくかも重要なことである。そして、UNSCEARが無視できない程の質の高い重要な研究成果を日本放射線影響学会が醸成していけることを期待している。
低線量・低線量率放射線に特有な生体応答
  • HAYATA Isamu
    セッションID: X2-1
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    Translocations are an indicator of the effects of all kinds of clastogens such as chemicals and metabolic factors as well as radiation. We reported the frequencies of chromosome translocations in the peripheral lymphocytes of people in the normal living circumstance. Average genomic frequencies of translocations in 1,000 cells in 20 residents (61.2 year-old on average) in a large city and in 16 residents (64.4 year-old on average) in a remote village and in 8 children (12.3 year-old on average) in the remote village were 9.6, 8.4, and 3.2, respectively. Their standard deviations were 5.0, 3.1 and 2.0. As it is possible to calculate the dose with the frequency of chromosome aberrations, frequencies of translocations were converted to radiation dose according to the dose response formula of chromosome aberrations, assuming that all the translocations had been induced by radiation. Standard deviations of the calculated doses for non-smokers in a large city, non-smokers in a remote village and children in a remote village were 200 mSv, 124 mSv and 80 mSv, respectively in chronic exposures, and 153 mSv, 104 mSv and 72 mSv, respectively in acute exposures. Statistically it is not possible to distinguish the cohort if the difference is within the standard deviation of the control. Therefore, our findings suggest that it may not be possible to detect any effects of radiation to be caused in the human body at least up to124 mSv in adult and up to 80 mSv in child in chronic exposures, and up to 104 mSv in adult and up to 72 mSv in child in acute exposures.
  • VAN BUUL Paul P.W., VAN DUIJN-GOEDHART Annemarie
    セッションID: X2-2
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    The sensitivity of the mouse gastrula embryonic stage for radiation induced mutations was studied using pUR288 transgenic reporter mice. 7.5 days old gastrula stage embryos were irradiated with 1Gy of X-rays followed by mutation analysis of liver, bone marrow, testis, kidney, brain and intestine 6 weeks later in surviving offspring. In all organs, increases in mutation frequencies were observed with in the irradiated animals a clear evidence for clonal expansion of mutation carrying cells. On a per Gy basis the gastrula stage showed with respect to the pUR288 system the highest mutation rate so far recorded in the literature suggesting a higher radiosensitivity of this phase of development compared to later embryonic and adult stages.
  • LONG Xian-Hui, XU Qin-Zhi, SUI Jian-Li, BAI Bei, ZHOU Ping-Kun
    セッションID: X2-3
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    It is well established that high dose exposure will result in severe lesions on cellular structure and physiological function, late carcinogenesis and even lethality, while low dose exposure might lead to adaptive response, bystander effect and hyper-radiosensitivity. In order to explore the molecular bases of these diversity effects induced by ionizing radiation, we have investigated the global changes of transcriptional profiles induced by different doses of γ-rays. AHH-1 human lymphoblastoid cells were irradiated with 0, 0.05Gy, 0.2Gy 0.5Gy, 2Gy, 10Gy of γ-ray respectively. After 4h of post-irradiation culture, the samples were subjected to microarray assay as compared with the sample from un-irradiated control cells. Our results demonstrate the following scenarios of genes expression alterations: 1) Dose specific, i.e. some genes’ expression change only occurred under a certain dose irradiation 2) Dose-dependent effect manner, the extent of down- or up-regulation in some genes increased along with the augment of doses, e.g. Connexin 43, IER5, XPC, tumor protein p53 inducible protein 3 gene, EI24, etc; 3) There were about 250 genes with expression changes in 10Gy irradiated cells, the largest amount among all the investigated doses, and most of these changed genes (95%) were depressed. Next is 0.5Gy irradiation with about 200 genes with changed expression (nearly half and half for the up- and down-regulation) and then 2Gy; 4) a few genes were found up-regulated by 0.05 Gy, e.g. GPR124, NOL6, LYK5, MAPK8IP2, ANXA13, connexin 43, GRIA3. These observations provide the further information for elucidating the molecular mechanisms of the diverse biological effects of ionizing radiation. * This work was supported by grants of Chinese National High Technology “863” Programs #2004AA221160 and Chinese National Natural Science Foundation #30270423.
  • NENOI Mitsuru, TAKI Keiko, WANG Bing, NAKAJIMA Tetsuo, ONO Tetsuya, MA ...
    セッションID: X2-4
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    Radiation risk due to low dose-rate radiation has not been well established. It is generally considered that the animal study is a promising approach to this issue if it is combined with the study on mechanisms of radiation effects to extrapolate the animal data to human. Continuous low dose-rate irradiation of 4000 SPF mice for 400-days was carried out at IES, Japan, and it was reported that the life spans of mice irradiated at the dose-rate of 16 μGy/min were significantly shortened, but not at the dose-rate of 40 nGy/min. A significant life span-shortening in female mice irradiated at 800 nGy/min was observed. The observed life spans-shortening was due to early death from a variety of neoplasms and not from increased incidence of specific neoplasms. In order to investigate the molecular background for the life spans-shortening caused by low dose-rate irradiation, we examined the gene expression profile by using a cDNA microarray. By examining the de-regulated genes, it was found that activity of the mitochondrial respiration was elevated after irradiation at 650 nGy/min and 13 μGy/min in kidney. The resulting oxidative stress was thought to be one of the factors that cause early incidence of neoplasms. However it should be noted that alteration in the gene expression profile is different depending on the tissue. In testis, it was observed that genes related to the gene ontology categories of mitotic cell cycle, DNA replication, DNA repair, and response to DNA damage stimulus were down-regulated after 650 nGy/min and 13 μGy/min, and that genes related to heat-shock responses were up-regulated. It seemed as if the cells in testis were preparing for emergency by shutting down the general metabolisms as well as DNA repair functions. The molecular background for early incidence of neoplasms after low dose-rate irradiation may be different depending on target organs.
  • CHEN Shaopeng, ZHAO Ye, HAN Wei, ZHAO Guoping, ZHU Lingyan, WANG Jun, ...
    セッションID: X2-5
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    In the present study, to investigate the role of mitochondria in the events of radiation induced bystander effects (RIBE), we used either mtDNA-depleted AL or normal AL cells as irradiated donor cells and normal human skin fibroblasts as receptor cells in a series of medium transfer experiments. Our results indicated that mtDNA-depleted cells or normal AL cells treated with the inhibitors for mitochondrial respiratory chain function had an attenuated γ-H2AX induction in receptor cells. Moreover, it was found that treatment of normal AL donor cells with specific inhibitors of NOS, or inhibitor of mitochondrial calcium uptake (Ruthenium Red), γ-H2AX induction in receptor cells was significantly decreased and that radiation could stimulate cellular NO and O2.- production in irradiated normal AL cells, but not in mtDNA-depleted AL cells. These observations, together with the findings that Ruthenium Red treatment significantly reduced the NO and O2.- levels in irradiated normal AL cells, suggest that mitochondria play a functional role in RIBE and calcium-dependent mitochondrial NOS might play an essential role in the process.
  • SHAO Chunlin, PRISE Kevin M., FOLKARD Melvyn
    セッションID: X2-6
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    Radiation induced bystander effect (RIBE) increases the probability of cellular response and therefore has important implications for cancer risk assessment following low dose irradiation and also for the likelihood of secondary cancers after radiotherapy. With a series of experiments of treating cells with NO inhibitor, TGF-β1, or anti- TGF-β1, the present study found that, when a fraction of glioma cells T98G were individually irradiated with a very low dose of helium ions, as a downstream product of irradiation-induced nitric oxide (NO), TGF-β1 was released to the conditioned medium and caused further DNA damage in the bystander cells of either T98G or primary fibroblasts AG01522 co-cultured with irradiated T98G cells by inducing NO and ROS in the nonirradiated T98G and AG01522 cells, respectively. In addition, as an early response to bystander signal factors, calcium flux could be quickly triggered in the nonirradiated cells after receiving the conditioned medium from the glioma cells irradiated with a very low dose of helium ions. This calcium flux response could further induce micronucleus formation in the bystander cells through a pathway related to NO and ROS. In summary, NO, ROS, TGF-β1 and calcium flux made up of a network of the bystander signaling factors.
  • STARIKOV Evgeni B.
    セッションID: X2-7
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    This report will be devoted to computational studies on DNA conductivity - the main message is that acoustic phonons can dramatically increase DNA conductivity. Such a theoretical result can explain Ohmic dependencies of electric currents through DNAs on applied voltage, just as it is measured in water solutions.
加速器テクノロジーによる医学・生物学研究 -群馬大学21世紀COEプログラム-
  • 浜田 信行, 原 孝光, 舟山 知夫, 坂下 哲哉, 小林 泰彦
    セッションID: X3-1
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    放射線の照射により生じるDNA損傷を修復した細胞は、一見正常に増殖するが、子孫細胞には細胞増殖死や染色体異常などが遅延的に誘発されることが知られており、この現象は、放射線誘発遺伝的不安定性と呼ばれている。本研究では、遺伝的不安定性誘発のLET依存性を明らかにするために、60Coガンマ線(LET = 0.2 keV/μm)あるいは6種の重粒子線(16.2-1610 keV/μm)を照射したヒト正常二倍体線維芽細胞の子孫細胞に誘発される遅延的な効果を調べた。まず、遅延的細胞増殖死の指標として遅延的なコロニー形成能の喪失を解析したところ、1次コロニーと2次コロニーの生存率は、ともに炭素線(18.3 MeV/amu, 108 keV/μm)の照射によって最も低下することがわかった。そこで、線量とLETに依存してコロニー形成能が遅延的に低下する機序を明らかにするために、1次コロニーを構成する個々の細胞の形態変化を解析したところ、分化の進行により分裂能が低下した細胞は線量とLETに依存して高頻度に認められたが、巨細胞や多核化細胞の誘発頻度は、分化した細胞に比べ著しく低いことがわかった。以上の結果から、照射子孫細胞の分化の促進は、LETに依存してコロニー形成能を遅延的に喪失する機序であるとともに、異常な細胞の増殖を最小限に抑えるための防御機構であると考えられた。
  • 大上 厚志, 清水 宣明, 田中 淳, 大槻 貴博, 品川 雅彦, 森 隆久, Saha M. Narayan., Hoque S. Ari ...
    セッションID: X3-2
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    ヒトグリオーマ由来NP-2細胞に重粒子線を照射すると、巨大化・扁平化した細胞の出現や細胞質内の顕著な顆粒蓄積が見られた。このような形態変化は、老化細胞の特徴として知られている。そこで、さらにいくつかの老化マーカー [Senescence-associated β-galactosidase (SA-β-Gal) の発現、lipofuscinの蓄積、lysosome形成の亢進] を調べると、すべてに陽性の結果が得られた。また、5-bromodeoxyuridineの取り込み試験を行うと、ほとんどのSA-β-Gal陽性細胞は、DNA複製を停止していた。これらの結果は、重粒子線を照射したNP-2細胞に増殖停止を伴う老化様形質が誘導されてきたことを強く示唆している。一般的に、細胞老化にはテロメア短縮を伴うreplicative senesecence と、伴わないstress-induced premature senescence (SIPS)に分類されている。本実験においてSouthern blotting解析により、SA-β-Gal陽性細胞における平均テロメア長に変化が認められなかったことから、後者のタイプ (SIPS)の細胞老化であることが示唆された。これまでに、老化細胞は、酸化ストレスの高い状態にあることが報告されているが、本実験の老化様形質を示す細胞も高い酸化ストレスの状態にあることが明らかとなった。また、細胞老化における増殖停止にp53が重要な働きをしていることが知られている。しかし、本実験に用いたグリオーマ由来細胞株は、変異型のp53をもっているために、p53非依存性メカニズムにより、老化様形質が誘導されたものと推測された。重粒子線照射による老化誘導の分子メカニズムの解明は、がんの重粒子線療法における重要な基礎的知見として役立つものと考えられた。
  • 日野 瑞城, 和田 成一, 多鹿 友喜, 森村 吉博, 浜田 信行, 舟山 知夫, 坂下 哲哉, 柿崎 竹彦, 小林 泰彦, 依藤 宏
    セッションID: X3-3
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    筋ジストロフィーは筋力低下と筋の壊死、変性を伴う進行性の疾患群の総称である。このうち一大グループを成しているのが細胞膜周辺に局在する蛋白質の異常を原因とするものである。現在、これらの筋では、細胞膜が損傷を受けやすい、あるいは受けた損傷を修復しにくいことが発症の原因であるという仮説が有力である。しかしin vitroの実験において骨格筋の細胞膜に損傷を与える適切な方法がなく、筋ジストロフィー発症のメカニズムを解析する上で妨げとなっている。そこで我々は重イオンマイクロビームが局所に高LETで細胞を照射できる性質に着目し、細胞膜に損傷を与える目的で骨格筋筋線維に対する照射実験を行なった。
    はじめに野生型マウス骨格筋より単離した筋線維に重イオンマイクロビームを照射し、電子顕微鏡観察により照射の影響を解析した。照射領域の細胞膜では不規則な突起と陥凹、基底板の断片化が見られた。また照射領域の細胞質では筋原線維の配向の乱れ、筋小胞体の内腔の拡大が見られた。また照射後7分以降自家食胞が多数見られた。22分後にはさまざまな大きさ、形態の自家食胞が観察された。
    さらに、筋ジストロフィーのモデルで、肢体筋型ジストロフィー2B/三好型筋ジストロフィーの責任遺伝子であるdysferlin 遺伝子が変異した SJLマウスについても観察をおこなったところ、野生型マウスで見られた細胞膜、細胞質の損傷に加え、筋原線維のあったと思われる領域を自家食胞や不明な膜系が占める像が見られた。
    以上の知見は重粒子線により骨格筋細胞の細胞膜、細胞質に損傷が引き起こされることと、その損傷を除去する機構としてオートファジーが機能していることを示唆している。またSJLマウスで特異的に見られた像と dysferlin、ジストロフィー発症との関連については現在解析中である。
  • 吉田 由香里, 鈴木 義行, 浜田 信行, 白井 克幸, Al-Jahdari Wael S., 舟山 知夫, 坂下 哲哉, 小林 泰彦, ...
    セッションID: X3-4
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    目的:小児の脳腫瘍に対する放射線治療は、高次脳機能に晩期有害事象を生じる可能性が成人に比べ高いことが知られているが、今後適応拡大が期待される脳組織に対する重粒子線照射の影響を詳細に検討することは重要な課題である。しかしながら、重粒子線照射が小児の脳に及ぼす影響については、現在までにほとんど研究されていない。そこで、脳切片培養標本を用いて未熟な小脳組織における重粒子線の生物学的効果について検討した。
    方法:生後10日目の未熟なラットから小脳を取り出し、約600 μmの切片培養標本を作製した。切片標本を培養後1日目に原子力機構・TIARAにて炭素線(18.3 MeV/amu, 108 keV/μm, 0~20 Gy)を照射した。照射後の切片を経時的に固定し、照射前後での組織変化および細胞変化について検討した。
    結果:炭素線照射後の標本をHE染色し、組織変化について調べた結果、炭素線を照射したそれぞれの標本において外顆粒細胞層の異常が認められた。外顆粒細胞は通常培養では内側へと遊走することがわかっているので、照射後の外顆粒細胞の遊走能について検討した結果、照射切片については、外顆粒細胞の遊走が停止もしくは遅延していることが明らかとなった。次に外顆粒細胞の細胞死についてTUNEL法を用いて検討した結果、照射切片における外顆粒細胞のほとんどがアポトーシスを起こしていた。また外顆粒細胞の遊走をガイドしているベルクマングリア細胞の形態について免疫染色法を用いて検討した結果、照射切片においてベルクマングリア細胞の突起形態の異常が認められた。これらの変化は、X線照射時の変化と同様であった。
    結論:照射による外顆粒細胞層の異常は、ベルクマングリア細胞の突起形態異常及び外顆粒細胞の細胞死により外顆粒細胞の遊走が正常に出来なくなる結果、誘発されると考えられた。
  • Al-Jahdari Wael S., 鈴木 義行, 吉田 由香里, 浜田 信行, 野田 真永, 白井 克幸, 舟山 知夫, 坂下 哲哉, ...
    セッションID: X3-5
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    Purpose/Objective(s)
    The radiosensitivity on neurons is believed to be difficult to be evaluated due to the complexity for culturing them alone. The growth cone collapse (GCC) assay has been reported as a useful means of quantifying the effects of various factors on cultured explants of nervous tissue. Therefore, we used the GCC assay to determine the radiosensitivity of neurons by estimating RBE of carbon-beams to X-ray on the cell neurons.
    Materials/Methods
    Dorsal root ganglia (DRG) and sympathetic ganglion chains (SYMP) were isolated from day-16 (mature) and day-8 (immature) chick embryos and cultured for 20 h. Thereafter, neurons were exposed to graded doses of X-rays, or high-LET 12C ions (18.3 MeV/amu, 108 keV/μm). Morphological, time- and dose-dependence changes of the neurons were examined quantitatively by GCC assay. Apoptosis induction was examined using TUNEL assay.
    Results
    Carbon-beams induced GCC and neurite destruction in a time and dose–dependent manner. Day-8 neurons were more radiosensitive than day-16 neurons (p=0.01). At 12 h post-irradiation, 20 Gy carbon-beams and 30 Gy X-ray induced about 65% and 25% apoptosis, respectively. The simple regression analysis revealed that the carbon-beams RBE at day-8 DRG and SYMP using the GCC data were 4.6 and 4.2, respectively. Whilst, at day-16 DRG and SYMP were 3.4 and 3.3, respectively. However, the RBE at day-8 DRG and SYMP for apoptosis induction was 4.1 and 3.7, respectively, whereas that at day-16 DRG and SYMP was 4.2 and 3.7 respectively.
    Conclusions
    The carbon-beams were 3.3-4.6-fold more effective than X-rays for GCC and apoptosis induction in both day-16 and day-8 neurons. Growth cone collapse assay is potentially beneficial in assessing the effect of irradiation on neuron cells
  • Paudyal Bishnuhari, Oriuchi Noboru, Paudyal Pramila, Iida Yasuhiko, Hi ...
    セッションID: X3-6
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    Purpose: To evaluate the relationship between 18F-FDG uptake and expression of glucose transporters (Gluts) and hexokinase II (HK II) in hepatic tumors.
    Materials and Methods: This study included 31patients with HCC and 26 patients with CCC. All patients underwent to whole body 18F-FDG PET and CT examinations before treatment. PET acquisition was started at 60 minute after the injection of 18F-FDG (5-6 MBq/kg) Semiquantitative analysis using standardized uptake value (SUV) was measured for evaluation of tumor 18F-FDG uptake. Diagnosis were conformed by histological examination. Immunohistochemical staining of the section for glucose transporter 1, 2, 3, 4, 5 and HK II were performed using the streptoavidin-biotin methods.
    Results: Immunohistochemistry activity were detected in Glut 1,Glut 2 and HK II in HCC where Glut 1, Glut 2 , Glut 3 and HKII in CCC. Gluts and HK II were often detected in moderately differentiated and poorly differentiated than well differentiated HCC. Significant association was revealed between the FDG uptake and expression of Gluts and HK II in HCC and CCC Conclusion: Present study showed significant association between 18F-FDG uptake and expression of Gluts and HK II in HCC and CCC even though 18F-FDG uptake was different, indicating that present finding may be valuable in management of both type of hepatic tumor.
  • 星野 洪郎, 清水 宣明, 大上 厚志, 田中 淳, SAHA Narayan M, 品川 雅彦, 大槻 貴博, 森 隆久, Hoque A ...
    セッションID: X3-7
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    重粒子線照射によるがん治療では、X線照射には見られない優れた治療効果が報告されているが、多くの実験系では各種放射線の生物学的効果には著明な差が認められていない。しかし、重粒子線照射により、細胞形質の特異的変化が起きていることが予想される。この点を解明するため、ウイルス感受性を主な指標として解析を行った。
    (1) 重粒子線照射細胞のHIV-1感受性亢進  重粒子線照射によりヒト培養細胞のヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)に対する感受性が亢進した。このような現象は、ほかの放射線の照射では見られなかった。そのメカニズムを明らかにするため遺伝子発現の変化について解析した。NF-κBの増加が見られ、Ku-80、PARPなどの発現は低下した。
    (2) 重粒子線照射によるレトロポゾン関連遺伝子への影響の解析  レトロトランスポゾンの一種LINEはヒトゲノムの17%を占め、レトロウイルス様の構造をしている。重粒子線照射によりその転移が促進されるか、検出できる細胞系を樹立し検討した。各種放射線による照射で、LINEのレトロポジション(転移)が増加したが、その頻度には大きな差は認めなかった。
    (3) pprA遺伝子導入細胞の作成と放射線感受性の検討  D. radiodurans菌は、電離放射線に極めて抵抗性な細菌である。この責任遺伝子のひとつとしてpprA が同定された。PprAタンパク質は、DNA切断部位に結合し結合反応を促進する。PprAタンパク質を利用することで、重粒子線照射の特徴を解析できるか検討した。まず、pprA遺伝子をヒト細胞に導入し発現細胞を分離した。PprAタンパク質は細胞内で特異的な局在を示し、遺伝子導入細胞では放射線照射に軽度に抵抗性となった。
     以上のように重粒子線照射による特徴的な変化と各種放射線に共通の変化を培養細胞系で同定した。
  • 大槻 貴博, 大上 厚志, 田中 淳, Islam Salequl, 清水 宣明, 和田 成一, 浜田 信行, 舟山 知夫, 小林 泰彦, ...
    セッションID: X3P-1
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    重粒子線照射を利用してヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)の感染に必要な新たな細胞因子を同定するために、HIV-1感染を簡便に検出するためのヒト細胞株の作成を試み、更に重粒子線照射によりHIV-1感受性が変化した変異細胞の分離を試みた。ヒトグリオーマ由来で、CD4およびCCR5を発現させたNP-2細胞に、HIV-1 long terminal repeat (LTR)で発現が制御されるgreen fluorescent protein (GFP)遺伝子を導入した。HIV-1感染前にGFPの発現が低く、感染後、GFPの発現が誘導されるN4R5/GFP細胞を分離した。この細胞はHIV-1潜伏感染細胞のモデルとして利用できる可能性があり、重粒子線、紫外線、X線の照射、DNA損傷薬剤等の処理を行い、GFP発現への影響を検討した。4NQOやtrichostatin Aの処理、紫外線照射で高頻度に、MNNG、cisplatinやTNF-αの処理、重粒子線照射では低頻度に、GFPの発現が誘導された。X線照射あるいは5-AzaC処理ではGFP陽性細胞を検出できなかった。重粒子線照射により効率は低いが潜伏HIVの再活性化を促進する可能性が示唆された。またHIV-1感受性変異細胞を分離するために、重粒子線照射したN4R5/GFP細胞にコロニー形成させた。12C5+あるいは4He2+の照射により細胞のコロニー形成率を10%に減少させる線量D10は、それぞれ0.9、2.6 Gyであった。なるべく高線量で照射した細胞についてコロニー由来細胞株を分離し、HIV-1感受性を調べた。多くの細胞株はHIV感受性でGFP陽性の合胞体を形成したが、GFP陰性の合胞体を形成する細胞株が多数分離できた。GFP陰性の細胞株の性質を解明するため、導入遺伝子や細胞性遺伝子への重粒子線照射の影響をさらに解析したい。
  • 田中 成岳, 木村 仁, 浅尾 高行, 桑野 博行
    セッションID: X3P-2
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    【背景と目的】食道癌の手術は外科領域において侵襲の大きいものの一つであり、診断と治療において多くの課題が残っている。一方、食道扁平上皮癌は他の消化器癌と比べ、放射線療法や化学療法に高い感受性を示すものもあり、補助療法も含め今後の治療効果の増強が期待できるものでもある。我々は、食道扁平上皮癌におけるシスプラチン(CDDP)の感受性について検討を行った。【対象と方法】2種類の食道扁平上皮癌の細胞株(TE-2、TE-13)を用いて検討を行った。MTT assayを用いて、2つの細胞のシスプラチン感受性の評価を行った。Western blot analysisとDNA fragmentation assayにてアポトーシスの評価を行った。また、抗癌剤耐性遺伝子であるとされる、MDR1、MRP1、MRP2の発現についてreal-time RT-PCRを用いて評価した。つづいて、細胞培養時に核内に特異的に取り込まれるBrdUを用いることで、大気マイクロPIXE(Particle Induced X-ray Emission)分析により、細胞内における核内の同定を行い、同時に核内におけるシスプラチンの同定を行うこととした。
    【結果】MTT assayによりシスプラチンの高感受性株(TE-2)と低感受性株(TE-13)を確認した。細胞周期およびアポトーシスの面からも、FACSやDNA fragmentation assayを行い確認した。また、抗癌剤耐性に関わるとされる遺伝子(MDR1、MRP1、MRP2)について、Real-time RT-PCRを行ったところ、3遺伝子ともTE-2に比しTE-13における発現が有意に増加していた。現在、大気マイクロPIXE分析法を用いることで細胞内の核の局在を同定することが可能になっており、今後は感受性の異なる細胞間での核内のシスプラチンの分布の差異について検討していく予定である。
  • 草壁 孝彦, 中里 享美, 高田 久嗣, 久永 悦子, H.D. Moon, 中嶋 克行, 鈴木 慶二, 及川 将一, 佐藤 隆博, 荒川 ...
    セッションID: X3P-3
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    微量元素の分析法としては対象とする試料を酸で灰化を行い測定されることが一般的である。そのような測定法では、 測定対象の2次元元素分布を測定することが不可能であった。
     今回我々が用いた大気マイクロPIXE(Particle Induced X-Ray Emission)法はイオンマイクロビームを大気中に置いた生体試料に照射することにより、ミクロンレベルの空間分可能で生体試料の微量元素分布が測定可能な方法である。今回我々は大気マイクロPIXE法を用いてカドミウム(Cd)の精巣障害に関して検討を行った。
    1.大気マイクロPIXE法による分析からCd 投与後の精巣(精細管、間質)においてCdと鉄(Fe)の分布の増加が確認された。また、Cd投与により血液精巣関門の崩壊が生じ、Feが精細管内に流入し精巣の組織障害を強めていることも示された。
    2.精巣のセルトリ細胞の単離培養を行いCdの投与によるセルトリ細胞内の金属元素分布の変動を大気マイクロPIXE法を用いて分析した。また、Cdの解毒作用に関与することが報告されているMT (Metallothionein)と熱やCdのような重金属に対して反応することが報告されているHeat shock protein 72(HSP-72)、酸化ストレスとの関与が報告されているHeme oxygenase-1 (HO-1(HSP-32))の発現の検討も行った。大気マイクロPIXE法による分析からCdの曝露によるセルトリ細胞の細胞質へのCdの取り込みと、細胞質における亜鉛(Zn)の減少とFeの増加が確認された。また、Cdの曝露によりセルトリ細胞内のMT、HO-1、Hsp72が有意に増加した。これらの結果から、セルトリ細胞に対するCdの曝露にZnやFeが関連しており、MTとHO-1 、HSP-72と細胞内の金属濃度の関連が示唆された。また、MTとHO-1は抗酸化物質でありCdへの防御的役割も示された。
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