日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第50回大会
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突然変異と発癌の機構
  • 豊島 めぐみ, 梶村 順子, 渡辺 敦光, 本田 浩章, 増田 雄司, 神谷 研二
    セッションID: BO-020
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    Rev1はDNAポリメラーゼYファミリーに属する損傷乗り越えDNA合成酵素である。Rev1は損傷乗り越え修復において中心的な役割をしていると考えられているが、発がんへの関与は、未だ解明されていない。これまで、われわれの研究室ではRev1の生化学的解明を行ってきた。今回我々は、Rev1トランスジェニックマウスを作成し、発がんにおける役割について解析を行った。
    6週齢のC57BL/6の野生型、Rev1トランスジェニックマウスに、N-methyl-N-nitrosourea (MNU)50mg/ kgを二度にわたり、腹腔内投与した。その後、終生観察し、発がん頻度、生存率について、野生型と比較した。
    Rev1トランスジェニックマウス雌においては100日以内から胸腺リンパ腫がみられ始めた。トランスジェニックマウス雌では、野生型と比較して早期に、かつ高頻度で胸腺リンパ腫の発生がみられた。一方雄では、小腸腫瘍の頻度が有意に増加していた。
    これらの知見は、Rev1は発がんに関与していることを示唆するものである。現在、更なる機構解明を行っている。
  • 木南 凌, 山本 幹, 大井 博之
    セッションID: BO-021
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    放射線4回分割照射後のマウス胸腺は細胞死と再生過程を経過し、約100日後から胸腺リンパ腫が出現し、照射後300日目には60-70%のマウスが胸腺リンパ腫を発症する。この胸腺リンパ腫細胞の特徴として、VDJ組換えを行なった分化形質をもつこと、大型の胸腺細胞であることなどが知られている。発症までの胸腺は萎縮した状態にあり、この萎縮胸腺の中にはすでにがん化のステップを登り始めた胸腺細胞(前がん細胞)が含まれるとの報告がある。そこで、この前がん細胞の出現の時期と性質の検討を行った。照射35日後細胞数は0.15-2.9 x 107とバラツキを示すが、正常胸腺(4-20 x 107)と比べるとすべて減少していた。FACS解析による細胞の大きさ測定では、約20%の胸腺でbroadなパターンを示し、胸腺を占める大型リンパ球の割合が増加していることを示している。クローナル増殖の指標となるVDJ組換えパターンの単一性の解析では、大型リンパ球増加を示した萎縮胸腺の約1/3に単一性がみられた。Rit1/Bcl11b遺伝子のアレル消失をPCR法で調べると、その約半分にLOHが認められた。一方、BrdUの細胞内取り込みは、非照射胸腺では大型リンパ球は高い取り込みを示すが、萎縮胸腺大型リンパ球では低いBrdU取り込みが観察された(小型リンパ球の取り込みは極めて少ない)。これらの結果は、照射後35日でもすでにクローナル増殖する大型リンパ球が出現し、時間経過とともにその細胞の割合が胸腺内で増加し、Rit1/Bcl11bアレル消失の頻度が上昇することを示唆する。しかし、照射後100日までは細胞数の低下とBrdU取り込み低下を示し、胸腺は萎縮した状態を保つ。この大型細胞は前がん細胞と考えられ、さらに細胞増殖周期の活性化などを含めた機能付与がリンパ腫の成立に必要であることが示唆された。
  • 廣内 篤久, 高畠 貴志, 吉田 和子, 田中 聡, 一戸 一晃, 野津 美由紀, 外舘 暁子, 中村 正子, 小木曽 洋一, 田中 公夫
    セッションID: BO-022
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    <目的>高線量率放射線照射がマウスやヒトにおいて急性骨髄性白血病(AML)を誘発することはよく知られている。近年の癌研究の分野において、ごく少数の癌幹細胞からがん組織が形成されるという報告が様々な癌において報告されている。本研究では、放射線誘発AMLの発症機構を明らかにするために、C3Hマウスの放射線誘発AML細胞の起源となる造血細胞の発生●分化段階を検討した。<実験方法>ガンマ線(1.0 Gy/min)3Gyを雄C3H/He Nrsマウスに照射してAMLを誘発した。発症した8個体の脾臓からAML細胞を採取し、同系雌マウスに移植後、AMLを発症したマウスから骨髄と脾臓細胞を取り出し、それぞれの細胞表面抗原の発現をフローサイトメトリーで解析した。<結果> 8例中4例のAMLでは骨髄性幹細胞(CMP)様細胞(lin-c-kit+Sca1-)の割合が増加し、残りの4例では造血幹細胞(HSC)様細胞(lin-c-kit+Sca1+)の割合が増加していた。また、8例全てのAMLにおいて、同一個体中の骨髄細胞と脾臓細胞の細胞集団の構成には違いが観察されなかった。アレイCGH解析でゲノム異常を調べたところ、CMP様細胞が増えていた4例中2例に放射線誘発AMLで高頻度に出現することが知られている2番染色体の片側欠失が観察された。さらに、この2例のAML中1例の細胞を、HSC様、CMP様、リンパ性幹細胞(CLP)様の3つの細胞集団に分けて同系マウスに移植しAMLを誘発させたところ、CLP様細胞を移植したマウスでは発症率の低下や遅延が観察された。<考察>2番染色体片側の部分的な欠失を持つ放射線誘発AML細胞は、HSCもしくは、CMPに近い分化段階の造血細胞を起源としていると考察される。本研究は青森県からの受託事業で行われた成果の一部である。
  • 高畠 貴志, 柿沼 志津子, 廣内 篤久, 中村 正子, 藤川 勝義, 西村 まゆみ, 小木曽 洋一, 島田 義也, 田中 公夫
    セッションID: BO-023
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    放射線誘発胸腺リンパ腫は、放射線発がんメカニズムの解析だけでなく、発がん感受性に影響する遺伝的要因についての研究にも有用なモデル実験系である。我々は、放射線誘発胸腺リンパ腫を誘発しやすいC57BL/6系統、誘発しにくいC3H系統、およびこれらを親とし比較的誘発しやすいC3B6F1系統とB6C3F1系統で放射線誘発した胸腺リンパ腫を対象として、DNAコピー数の異常をゲノム網羅的にアレイCGH法で解析した。胸腺リンパ腫発症に関与することが知られているIkarosBcl11bなどの遺伝子座での変異や15番染色体のトリソミー以外に、5番染色体、10番染色体、16番染色体での異常が系統依存的に高頻度であること、および、14番染色体のトリソミーが系統によらず高頻度であることを見出した。さらに、T細胞受容体ベーター遺伝子領域の2つの対立遺伝子で共に遺伝子再構成が生じている頻度は、C3H系統でのリンパ腫より、C57BL/6系統でのリンパ腫で高頻度に検出された。このことから、C57BL/6系統では異常なV(D)J組換えを起こしやすいためにリンパ腫を誘発しやすい、という可能性が示唆された。また、C3B6F1系統やB6C3F1系統でのリンパ腫における、これら各種異常の頻度や染色体上での異常頻発領域の分布は、C57BL/6系統で誘発されたリンパ腫についての結果と似ていた。さらに、F1系統での腫瘍についてのヘテロ接合性消失の解析と合わせると、IkarosBcl11b遺伝子座でのヘテロ接合性消失は主として欠失型異常により生じ、他方Cdkn2Pten遺伝子座では主として片親性ダイソミーにより生じると示唆された。これらの結果は、放射線によりリンパ腫が誘発される際に変異が蓄積される機構や、放射線により胸腺リンパ腫を誘発しやすい系統と誘発し難い系統が存在することの原因を知る上で重要な知見となる。本研究は青森県からの受託事業により得られた成果の一部である。
  • 石川 智子, 亀井 保博, 金 鎭炯, 音在 信治, 藤堂 剛
    セッションID: BP-217
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    近年数多くの実験モデル生物が開発されてきた。それらの多くは、遺伝学をフルに活用できるという利点を有している。メダカは、我が国で開発された実験モデル生物であり、実験動物としての歴史は長く、その間に培われた遺伝学的知識の蓄積が豊富である。更に近年ゲノム情報の整備が進み、近代モデル生物として変身を遂げている。一方、ゲノム生物学時代の到来は、遺伝子の取得を容易にし、得られた遺伝子の生体における機能を解析するといった逆遺伝学的手法の必要性を増大させてきた。逆遺伝学には、標的とする遺伝子の変異体を自由に作成するいわゆる遺伝子ノックアウトの手法が必須である。しかしながら、遺伝子ノックアウトはごく限られたモデル生物でのみ可能であり、メダカを含む小型魚においてもこの手法の確立の必要性が叫ばれてきた。そこでTILLING法を用い、標的とする遺伝子の変異体を自由に作成する技術の確立を試みた。TILLING法とは、Targeted Induced Local Lesions IN Genomeの略であり、ある程度の遺伝学が可能な実験モデル生物を対象に、目的とする遺伝子の変異体を自由に作成する方法として近年開発された。本法では、まず雄個体を化学突然変異原(ENU)で処理しF1を得る。このF1雄個体を多数樹立し、それらの精子とゲノムDNAをセットで保存しライブラリー化する。このライブラリーのゲノムDNAを基質に、標的とする遺伝子のエクソンをPCRにより増幅し、変異を検出する。変異が同定できれば、セットで保存している凍結精子を起こしin vitro 受精により変異個体を得る。我々は、約5700個体からなるライブラリーを作成し、変異スクリーニング法を確立し、いくつかの遺伝子について変異体スクリーニングを行った。約300kbに1個の割合で変異が導入されており、充分スクリーニングに利用できる事が確認でき、既にいくつかのナンセンス変異体を得ている。変異体の解析を含め、スクリーニング全体の概要を紹介する。
  • 山内 一己, 柿沼 志津子, 須藤 聡美, 太田 有紀, 鬼頭 靖司, 増村 健一, 能美 健彦, 西村 まゆみ, 島田 義也
    セッションID: BP-218
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    我々はこれまで放射線と化学物質の複合影響について、B6C3F1マウスの胸腺リンパ腫(TL)の発生率を調べてきた。X線0.2Gyの 4回前照射はエチルニトロソウレア(ENU)による発がん率を抑制し、1Gyの4回照射はENUと相乗的に発がん率を上げることを報告した。複合暴露下で胸腺にどのようなDNA損傷が生じているかを明らかとするため、塩基置換(gpt)と欠失(Spi-)を検出できるgpt-deltaトランスジェニックマウスを用いて解析した。昨年は、gptアッセイにより、0.2GyのX線の前照射ではENUにより誘発される突然変異頻度(特にG>A)が抑制され、1Gyの前照射では増加することを報告した。今回は、Spi-アッセイにより複合暴露による欠失変異について解析したので報告する。
    [材料と方法]
    4週齢のB6C3F1 gpt-deltaマウスにX線を0.2Gyもしくは1Gyを週1回、4回照射した。次に200ppmのENUを4週間飲水投与し、その後4週間飼育した。胸腺DNAを精製し、ファージを回収後、XL1-Blue MRA(P2)株に感染させ生じたプラークのファージのred/gam遺伝子を含む領域の欠失および点突然変異を解析した。
    [結果]
    各解析群の変異頻度は1~7x 10-6であり、ENU群で顕著に上昇した(P <0.05)。gam遺伝子の塩基配列解析から、X線照射群やコントロール群では同一塩基が複数並んでいるラン配列上の一塩基欠失が高頻度(70%以上)に見られたのに対し、ENUや複合暴露群では一塩基欠失に加え塩基置換変異が主に見られた。大きな領域の欠失頻度は小さく、グループ間での差は見られなかった。gam遺伝子では、0.2Gyの前照射によって塩基置換も一塩基欠失も変異頻度の低下が見られたが、有意差は見られなかった。
    以上のgptアッセイとSpi-アッセイの結果から、X線照射後ENUを投与して誘発したTLの発生では、0.2Gy照射による発がん率の低下は点突然変異の抑制であり、欠失変異の関与が小さいことが示唆された。
  • 顧 永清, 増田 雄司, 神谷 研二
    セッションID: BP-219
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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     DNAヘリカーゼはDNA複製、修復等DNA代謝に必要不可欠な酵素の一つである。DNAヘリカーゼのいくつかは、その欠損が正常なDNA複製や修復反応を妨げることにより遺伝病の原因となることが知られている。また、それらの遺伝子を欠失した細胞ではDNA損傷に対して高感受性となることから、DNA損傷に対する生体の防御に重要な機能をもつことが明らかとなっている。
     酵母の遺伝学的解析から、SF Iファミリーに属するDNAヘリカーゼPIF1はDNA複製の円滑な進行に必要不可欠な因子であることが示唆されている。この遺伝子は、酵母から哺乳類まで広く保存されていることから、DNA代謝に重要な遺伝子であると考えられた。今回我々は、ヒトPIF1遺伝子を同定しその機能解析を行ったので報告する。クローニングしたヒトPIF1 cDNAは、641アミノ酸残基からなる69 kDaのタンパク質をコードした。ゲノム解析からPIF1遺伝子は、染色体15q22にマップされ、13のエキソンから構成されていた。PIF1遺伝子の発現は調べた全ての臓器でみとめられた。PIF1タンパク質の生化学的機能を明らかにするために、組み換えタンパク質を精製した。精製したPIF1タンパク質は単鎖DNA依存的ATPase活性をもつこと、5’-3’ヘリカーゼ活性をもつことを明らかにした。このヘリカーゼ活性は、フォーク構造をもつDNAに対して最も効率よく機能することが分かった。
  • 野田 朝男, 末盛 博文, 平井 裕子, 児玉 喜明, Kretzshmar Warren, 濱崎 幹也, 楠 洋一郎, 中村 典
    セッションID: BP-220
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    目的:個体レベルでの放射線による遺伝影響や遺伝的不安定性を測定するモデルマウス系の作製をめざしてふたつの実験系を試みている。昨年度に引き続き、細胞内在性遺伝子の変異に伴って細胞が生きたまま蛍光を発する仕組みを作り、培養細胞レベルでの検証を行った後にES細胞に持ち込むことによりモデル動物を作製することを行っている。 方法:Gene targeting法を用いて蛍光タンパク質遺伝子を特定の遺伝子座に持ち込む手法を2種類行った。(1)tetracyclin operator をプロモーター中に持つCMV-tetO-GFPユニットを導入して恒常的にGFPが発現する細胞 (random integration)を作った。この細胞のHPRT遺伝子の第3イントロン中にtet-repressor 発現ユニット挿入して(targeted integration)、tet repressor(TetR)の恒常的発現によりGFP発現が完全に抑えられる細胞系を作製した(HP-TetR-RT細胞)。この細胞では、tet R発現ユニットを含むHPRT遺伝子座にどのようなサイズの欠失突然変異を生じても細胞が発光することになる。(2)内在性HPRT遺伝子のエクソン5-9部分が重複した細胞(target vector の当該HPRT遺伝子部分の下流にin-frameでGFP ORFを連結)をgene target法により作製した(HPRT-dupGFP細胞)。この細胞では、HPRTの部分重複からの復帰変異に伴って細胞はHPRT-GFP融合タンパク質が発現することとなり、HPRT(+)且つGFP発光する。 結果:(1)HP-TetR-RTとtetO-GFPの組み合わせでは、導入遺伝子量を1:1とすればtetRによる遺伝子発現が完全に制御できることが分かった(つまりtetRによる転写抑制からのleakが起こす擬陽性mutantの出現が防げる)。培養細胞系ではこの細胞の自然突然変異率は5×10e-6/細胞分裂ほどであり、放射線誘発の突然変異がFacs解析により迅速に測定できるようになった。(2)HPRT-dupGFPアリルを持ったES細胞の自然突然変異率は10e-5/細胞分裂ほどであった。現在、ES細胞由来のノックインマウスが得られつつある。
  • 松尾 陽一郎, 西嶋 茂宏, 長谷 純宏, 坂本 綾子, 鳴海 一成, 清水 喜久雄
    セッションID: BP-221
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    本研究は、イオンビームによる突然変異誘発のメカニズムを分子レベルで解析することを目的として、Saccharomyces cerevisiae野生株ならびにDNA修復欠損株を用い、イオンビームによる損傷とDNA修復の機序について解析することを試みた。
    照射試料として野生株、二本鎖切断修復不活性株であるrad52欠損株、および酸化型核酸塩基前駆体8-oxo-dGTPの除去活性を失ったogg1欠損株を用いた。炭素イオンビーム(エネルギー:220 MeV,LET:107 keV/μm)の照射は、日本原子力研究開発機構イオン照射研究施設(TIARA)のAVFサイクロトロンを用いた。最も突然変異頻度が高かった照射区で得られた突然変異体のURA3領域(804 bp)をPCR増幅後、シーケンス解析によって変異位置を決定した。
    その結果、rad52欠損株では、ヒストンタンパクと結合した部位にhot spotがあり、一方、野生株およびogg1欠損株では、ヌクレオソーム構造におけるリンカーDNA領域に局所的に変異が誘発された。また、変異パターンの解析から、イオンビーム誘発突然変異の要因として8-oxo-dGTPが大きく関与することが示唆された。
  • 豊国 秀昭, 吉居 華子, 丸尾 敦志, 鈴木 啓司, 渡邉 正己
    セッションID: BP-222
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    近年、電離放射線被曝後に生き残った細胞の子孫細胞では突然変異や染色体異常遺伝子の発現頻度が非照射細胞に比べて有意に上昇することが報告されている。この現象は遺伝的不安定性と呼ばれ、放射線発がんの重要なステップとなる可能性がある。遺伝的不安定性の誘導にはDNAの二重鎖切断が必須であるとされているが、不安定性が維持され遅延的影響が発現する機構については不明のままである。 DNA二重鎖切断後に損傷修復により染色体に欠失が生じることがあることから、我々は損傷修復後の大規模な構造変化が起源となって遺伝的不安定性が誘導されると予想している。この仮説を確かめるため、放射線照射後の染色体欠失サイズと染色体異常の出現頻度について調べた。 実験では正常ヒト二倍体細胞にX線を照射し、HPRT遺伝子に変異を持つクローンを単離し、WCP FISH法により染色体異常を解析した欠失サイズについてはHPRT遺伝子の各エキソン及びHPRT遺伝子周辺の数種類のSTSマーカーの有無をPCR法により調べることによって評価した。その結果、0.5 Mb以上の大規模な染色体欠失を持つクローンでは染色体異常の出現頻度が有意に上昇することが分かった。更に、0.5 Mb以上の大規模な欠失を持つ1次クローンから2次、3次クローンを単離し、染色体異常の出現頻度について調べた。 その結果、1次クローンでは転座が主な染色体異常であった。一方、2次、3次クローンでは転座の出現頻度は減少し、二動原体が主な染色体異常であった。 以上より、大規模な染色体欠失を持つクローンでは染色体の再切断とテロメアの不安定化が誘導されやすいことが分かった。また、テロメアの不安定性は放射線被曝後長期間に渡って保持されることが分かった。
  • 田中 泉, 田中 美香, 石渡 明子, 槫松 文子, 佐藤 明子, 鈴木 桂子, 石原 弘
    セッションID: BP-223
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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     レトロトランスポゾンIntracisternal A-particle (IAP) DNA element は二つのLTRに挟まれたgag-pol遺伝子を所持するユニットであり、反復配列として正常マウスゲノムに数千コピー含まれている。これに由来するRNAは多くの正常細胞に含まれており、レトロトランスポジション機構により逆転写されてゲノムに組み込まれ、周囲の遺伝子に影響を及ぼす潜在性の内在変異原である。これまで我々はC3H/Heマウスにおける放射線誘発骨髄性白血病細胞においてIAP媒介性のゲノム異常の頻発することから放射線障害の過程においてレトロトランスポジションの頻発することを示唆してきた。細胞内には膨大な量のIAP類似核酸が存在するために、IAPの逆転写を解析することは困難であったが、IAP RNAの逆転写過程を解析するために逆転写レポーター遺伝子測定系を開発し、放射線による逆転写促進を見出したので報告する。
     特殊なマーカー塩基配列を組み込んだIAP RNAを強制発現するようにデザインした逆転写解析用のトランスジーンを構築した。これを安定導入したRAW264.7細胞の核酸分析により、レトロトランスポジションの一連の過程の生成物であるtRNA-Pheをプライマーとした初期cDNA、逆転写中間過程のcDNA群、最終逆転写産物である完全長cDNAおよびcDNAの組み込まれたゲノム部位の同定により、レトロトランスポジションの発生を証明した。さらに、これらの逆転写中間過程のcDNA類のreal-time (RT-)PCRによる極微量定量技術の確立に成功した。この安定導入細胞に1-5GyのX線を照射したところ、線量にほぼ依存して逆転写物量が増加したが、RNA量に変動は見られなかった。このことからIAP RNAの逆転写過程が放射線により促進することが示された。
  • 石原 弘, 田中 泉, 田中 美香, 石渡 明子, 槫松 文子, 佐藤 明子, 鈴木 桂子, 太田 有紀, 鬼頭 靖司
    セッションID: BP-224
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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     近交系マウスC3H/Heは放射線により骨髄性白血病を頻発する系統として知られている。我々はC3H/Heマウスに由来する放射線誘発骨髄性白血病細胞においてレトロトランスポゾンintracisternal A-particle (IAP) DNA elementの挿入によるゲノム構造異常の頻発することを見出し、これがレトロトランスポジション機構によるIAP RNAからIAP cDNAの逆転写およびそのゲノムDNAへの組込みに由来することを報告してきた。IAPのようなゲノム内の反復配列に由来する不完全RNAから完全長のcDNAが逆転写されてゆくレトロトランスポジションの分子機構については研究が殆どなされていない。我々はIAP RNAの逆転写過程およびその放射線影響を解析するために、独自開発したライン化細胞を使用した逆転写レポーター遺伝子システムを基盤として、トランスジェニックマウスを樹立し、逆転写の解析を行った。  特殊なマーカー塩基配列を組み込んだIAP RNAを強制発現するようにデザインした逆転写解析用のトランスジーンを、C3H/He マウス胚に導入して19系統のトランスジェニックマウスを作出し、7系統のhomo系統を樹立した。当該マウスの組織におけるトランスジーンに由来する特有の逆転写物を同定し、レトロウイルスに類した逆転写機構が機能していることを明らかにした。マウスの各種組織における極微量の逆転写物をreal-time PCRで定量したところ、逆転写物レベルは、造血系細胞、腸管細胞、生殖細胞などの放射線に脆弱な組織で高く、肝臓等の放射線耐性の組織では低かった。当該マウスの使用により、レトロトランスポジションの逆転写過程を全身レベルで解析可能であることが示された。
  • 濱崎 幹也, 今井 一枝, 大西 寿, 林 奉権, 中地 敬, 楠 洋一郎
    セッションID: BP-225
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    [目的] 放射線誘発遺伝的不安定性の研究は、染色体異常や遺伝子突然変異などの遺伝子障害が照射を受けた細胞の子孫細胞に後発的に現れることを指標として、試験管内で精力的に進められている。しかしながら、生体内での研究による放射線誘発遺伝的不安定性の証拠は、かなり限られたものである。それは、多数の細胞を客観的かつ簡便に解析可能な信頼性のある測定系が確立されていないことによると考えられる。本研究では、フローサイトメトリーを用いてX線全身照射したマウスの末梢血小核網状赤血球を定量し、造血系における放射線感受性ならびに誘発された遺伝的不安定性の評価を行った。 [方法] X線照射したBALB/cおよびC57BL/6雌マウスの末梢血を採取し、小核網状赤血球の頻度をリトロン社MicroFlowキットを用いてフローサイトメトリーにて測定した。 [成績] 生体内における造血系の放射線感受性とゲノム不安定性を評価する目的で、X線全身照射したマウス末梢血中の小核を有する網状赤血球の頻度を、フローサイトメトリーを用いて測定した。放射線照射2日後の急性効果は0.1グレイもの低線量で検出可能であり、線量効果はBALB/c マウスのほうが C57BL/6マウスよりも高く (p<0.001)、小核頻度はそれぞれ3.0 (p=0.002)および2.3倍 (p=0.002)増加していた。X線2.5グレイ照射したマウスでは、照射後1年を経ても、小核を有する網状赤血球の頻度に有意な増加を認めた。すなわち、BALB/c および C57BL/6マウスでそれぞれ1.6 (p=0.035)および1.3倍 (p=0.039)の増加が認められた。また、この放射線遅延効果においても有意なマウス系統差 (p=0.028)がみられた。 [結論] マウスの造血系に対する放射線の遅延効果は生体内で長期間持続し、放射線で誘発されるゲノム不安定性の感受性にマウス系統差が存在する。
  • 島田 幹男, 小林 純也, 小松 賢志
    セッションID: BP-226
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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     ナイミーヘン症候群(NBS)は、高発癌性、染色体不安定性及び免疫不全といった重篤な臨床症状を呈する遺伝病である。NBS患者由来のNBS細胞は放射線感受性を示し、原因遺伝子NBS1はDNA修復及びDNA合成(S期)チェックポイントに関与する事が知られている。また、NBS細胞は染色体不安定性を示すがその理由として現在までのところ、NBS1遺伝子欠損によるDNA修復能破綻が挙げられている。     今回、我々はNBS1が中心体と共局在している事を発見し、NBS1がDNA修復のみならず中心体の制御にも関与している可能性を見いだした。中心体は1組の中心小体と中心体周辺物質からなり、細胞周期を通して微小管形成中心として機能しており、M期には双極紡錘体の極を形成する中心器官となる。複製異常や細胞質分裂の失敗による生じる中心体の過剰状態は多極紡錘体の原因となり、染色体の不等分配を起こす。よって、中心体の数の制御は染色体分配の重要なポイントであるといえる。放射線を照射した細胞では中心体の過剰複製が起こるといった現象が報告されている。また、最近ではDNA損傷応答に関わるBRCA1が染色体の維持に重要である事が報告され、他にも多数のDNA修復因子が中心体に局在する事が分かってきている。特にDNA損傷応答因子のチェックポイントが中心対制御と何らかの関わりがあると考えられるが、いまだその詳細は不明である。  今回、NBS1の中心体との共局在からNBS1が中心体制御に関与している可能性が示唆されたため、siRNAによるNBS1のノックダウン実験及びNBS1のドメイン解析を中心に中心体制御の機構を解析した結果を報告する。
  • 森 展子
    セッションID: BP-227
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】リンパ腫誘発に感受性のBALB/cと抵抗性のSTSマウスを交配しX線照射で誘発したリンパ腫では4番染色体に広範囲のヘテロ接合性消失(loss of heterozygosity: LOH)があり、STSアレルが選択的に消失する。このことは、LOH領域に発がん感受性遺伝子の存在を示唆する。今回、BALB/cバックグラウンドで4番染色体の一部にSTS遺伝子をもつC.SコンジェニックマウスをBALB/cと交配し、放射線で誘発したリンパ腫におけるLOHの起こり方が発がん感受性領域と関連するか検討した。
    【方法】Kaplanのプロトコルに従ってマウスをX線分割全身照射しリンパ腫を誘発させた。(C.S39-86 x BALB/c)F2の25例、(C.S7-86 x BALB/c)F2の20例、(C.S302-9 x BALB/c)F1と(C.S17-31 x BALB/c)F1各34例のリンパ腫を調べた(C.Sの後にハイフンで繋がれた2つの数字は、STSアレルをもつ2つのマイクロサテライトマーカーの番号であり、例えば、C.S39-86はD4Mit39からD4Mit86までの領域がSTS由来)。リンパ腫よりDNAを抽出し、4番染色体上のマイクロサテライトマーカーについてLOHをPCR & PAGEで調べた。
    【結果】マーカーの順序と位置は、動原体側からテロメア方向へ染色体中央部を越えて、D4Mit39(11)-D4Mit17(31)-D4Mit7(36)-D4Mit86(38)-D4Mit302(43)-D4Mit9(45)-D4Mit31(51) である(かっこ内の数字はcMで表した動原体からの距離)。(C.S17-31 x BALB/c)F1では11/34(32%)にLOHがあった。D4Mit31において10/11(90%)がSTSアレルの選択的消失であった。(C.S302-9 x BALB/c)F1でも、LOHは10/34(29%)、STS アレルの選択的消失9/10(90%)であった。(C.S39-86 x BALB/c)F2と (C.S7-86 x BALB/c)F2には、LOHはほとんど見られなかった(<5%)。
    【結論】4番染色体上の広範囲LOHの中心は発がん感受性遺伝子領域D4Mit302-D4Mit9にある。
  • 岡本 美恵子
    セッションID: BP-228
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    生体分子や組織に対する放射線の作用について数多くの知見が集まってくるにつれて、放射線発がんのメカニズムについても少しずつその一端が明らかになりつつあるが、包括的な理解にはまだほど遠い。我々は、家族性大腸腺腫症(FAP)の疾患モデルマウスとして知られるMinマウスの系を改良することにより、比較的低線量で消化管に腫瘍を誘発することのできるコンソミックMinマウスの系を作出した。この系は、放射線誘発腫瘍と自然発生腫瘍の区別が可能であること、放射線による種々のセカンドヒットの解析が可能であること、腫瘍誘発効果が照射時のAgeに強く依存することなど、放射線発がんの分子機序を明らかにする上で多くの利点を持つ。この系を用いて、非照射、2週齢照射、7週齢照射個体に発生した小腸、大腸腫瘍におけるApc遺伝子セカンドヒットの種類、頻度、不活化のメカニズムについて解析した。その結果、自然発生と放射線誘発腫瘍でセカンドヒットスペクトルに差があること、小腸と大腸間では、自然発生と放射線誘発いずれにおいても、セカンドヒットの発生メカニズムが異なる可能性があることが強く示唆された。また、2週齢照射と7週齢照射群間では腫瘍発生頻度が大きく異なるにもかかわらず、セカンドヒットスペクトルにはそれ程大きな差が認められないこと、一方、自然発生腫瘍と7週齢照射群では腫瘍発生頻度には差が認められないにもかかわらず、セカンドヒットのスペクトルには差があることも明らかになった。このことは、放射線による腫瘍誘発効果と起始遺伝子であるApc遺伝子のセカンドヒットのパターンの間に単純な相関関係がみられないことを意味する。固形腫瘍におけるLOH解析の精度向上を目指して、R言語を用いて検出条件と解析パラメータの検討を行ったので、合わせて報告する。
  • 山口 悠, 柿沼 志津子, 甘崎 佳子, 西村 まゆみ, 野川 宏幸, 島田 義也
    セッションID: BP-229
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    【目的】ヒトやマウスの発がんにおいて、PTENの不活性化が多数報告されている。その不活性化の機構として、ヒトではPTENのプロモーター領域のメチル化(非小細胞肺がん)や、DNA変異(子宮内膜種、グリオブラストーマおよびCowden病)が報告されている。しかし、マウスでは放射線誘発胸腺リンパ腫において、Ptenのメチル化の関与を示唆する報告があるものの未だ明らかになっておらず、DNA変異に関する報告も少ない。そこで本研究では、放射線誘発マウス胸腺リンパ腫におけるPtenのメチル化とDNA変異を解析し、Ptenの不活性化におけるそれぞれの役割を解析することを目的とした。
    【材料と方法】B6C3F1マウスにX線2.0Gyを一週間隔で4回照射して誘発したマウス胸腺リンパ腫(23サンプル)を用いた。先ず、マイクロサテライトマーカーを用いたヘテロ接合性の消失(LOH)解析を行った。次に、RT-PCR法による遺伝子発現と、Bisulfiteシークエンシング法によりメチル化の分布を解析した。
    【結果と考察】Ptenは、マウスの19番染色体のセントロメアから24.5cMにマップされている。この領域でのLOHが高頻度に検出された(6/23, 26%)。Ptenの遺伝子発現は、高頻度に低下(12/23, 52%)し、消失(1/23, 4%)も見られた。そこで、メチル化の分布を解析した結果、エクソン1の非翻訳領域とその5’上流領域における53個のCpG部位ではメチル化の異常は認められなかった。従って胸腺リンパ腫のPtenの発現低下にメチル化は関与しないことが示唆された。また、発現解析で認められたPtenのスプライシング異常(1/23, 4%)は、塩基配列の解析によりイントロン1の一部の挿入とエクソン2の欠失であった。さらに、残りの胸腺リンパ腫(22 サンプル)について、Ptenの塩基配列の解析とタンパク質の発現解析により遺伝子変異の探索をしている。
  • 甘崎 佳子, 柿沼 志津子, 古渡 礼恵, 山内 一己, 西村 まゆみ, 今岡 達彦, 有吉 健太郎, 渡邊 正己, 島田 義也
    セッションID: BP-230
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    【目的】放射線照射によって生じる長寿命ラジカルは、培養細胞の系において遅延型の点突然変異を誘発し細胞をがん化させるが、放射線照射後にビタミンC(VC)を添加すると突然変異頻度が低下し、がん化が抑制されることが報告されている。しかし、放射線発がんにおける長寿命ラジカルの関与について、動物を用いて検証した報告は少ない。そこで本研究では、マウスの放射線誘発胸腺リンパ腫(TL)の系を用いて、放射線照射後にVCを投与した場合のTL発生率とがん関連遺伝子の変異パターンを解析し、放射線誘発TL発生における長寿命ラジカルの関与について明らかにすることを目的とした。
    【材料と方法】4週齢B6C3F1マウス(雌)に、X線1.4 Gyを1週間間隔で4回照射しTLを誘発した。VCは生体内半減期の長い誘導体Sodium-L-ascorbyl-2 phosphate(共立薬科大学小林静子先生より供与)を100mg/kg腹空投与した。実験群は、1) X線単独(X線)、2) X線照射直後に毎回VC投与(X+VC)、3) X線照射直後に毎回VCを投与しさらに継続して毎週1回(3ヶ月間)VC投与(X+VC継続)の3群を設定し、各群における照射後生存日数とTLの発生率を調べた。また、放射線誘発TLにおいて変異パターンが明らかとなっているがん抑制遺伝子Ikarosの遺伝子発現、点突然変異およびタンパクの発現を解析した。
    【結果】照射後の生存日数は、X線群と比較してX+ VC群ではやや短くなる傾向を示したが、X+VC継続群では長くなった。また生後400日におけるTLの発生率もX+VC継続群で若干低下した。さらに、Ikarosの変異解析の結果、X+VC継続群ではIkaros遺伝子の点突然変異が認められなかった。以上の結果から、マウスの放射線誘発TL発生に長寿命ラジカルが関与している可能性があることが示唆された。
  • 石井 洋子, 田ノ岡 宏, 武藤 正弘, 佐渡 敏彦, 辻 秀雄
    セッションID: BP-231
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    [背景] B10系マウスはX線1.6Gyの4回分割照射で約100%の胸腺リンパ腫を発症する。また、同マウスの胸腺を摘除して4回分割照射を行い、非照射の新生児マウスの胸腺を皮下に移植すると、40%から60%のマウスに移植胸腺由来のT細胞リンパ腫が発生する。この移植胸腺の発がんは、宿主の照射による胸腺に供給される骨髄ProT細胞数の減少及び胸腺内のT細胞の死滅による移植胸腺の一時的萎縮を経て起こると考えられる。放射線があたっていない細胞由来のがん化が起こるので、放射線が直接DNAの変異誘発因子(直接効果)として働くのでなく、宿主の生理的変化の誘発因子として働く間接効果発がんモデル系である。一方、X線4回分割照射による放射線発がんの系において、適応応答効果(微量放射線の前照射による発がんの軽減)が報告されている。我々は、低線量放射線による適応応答が放射線の発がんに対する間接効果にもみられるか否かを移植胸腺発がんモデル系で検討した。
    [方法] 雌雄同数のマウスを用いてすべての実験を行った。各群51匹のB10.Thy1.2マウスの胸腺を摘除し、5週令から一週間間隔でγ 線1.6Gyを4回照射した。適応応答効果を調べる群は毎回1.6Gy照射の6時間前に0.075Gyの前照射を行った。4回目の照射直後にB10.Thy1.1マウスの新生児胸腺を皮下移植し、SPF環境下で1年間飼育観察し、発生したT細胞リンパ腫の由来をFACS解析でしらべた。
    [結果及び考察]胸腺を摘除しない直接効果では前照射群、対照群とも100%のマウスが胸腺リンパ腫を発症し、前照射群で平均潜伏期間133日、対照群127日(p=0.49)であったが、カプランマイヤー法による生存解析法では有意な差(p=0.007)があった。また、胸腺摘除をおこなったマウスではどちらも31%の移植胸腺由来のT細胞リンパ腫が発生し、生存解析法で有意差は得られなかったが、前照射群で潜伏期間が長くなった(平均159日対140日、p=0.08)。使用した動物数に限界があったが、間接効果の発がんモデル系においても適応応答が傾向として観察された。今後は条件検討とともに間接効果モデルにおける遺伝子変化と適応応答のメカニズムについて検討する。
  • 尚 奕, 柿沼 志津子, 甘崎 佳子, 西村 まゆみ, 小林 芳郎, 島田 義也
    セッションID: BP-232
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    【目的】我々は前大会で放射線誘発マウス胸腺リンパ腫(TL)においてIL-9Rが高発現し、Jak-Statシグナル伝達経路を介してcyclin D1の発現を上昇させることを報告した。しかしTL細胞におけるIL-9R異常発現の原因、すなわちIl9r遺伝子(Il9r)の転写調節機構はまだ不明である。本研究ではIl9r promoter領域の探索及び関与する転写因子の同定を目的とした。
    【材料と方法】転写調節機構を調べるため、まずC57BL/6Nマウス由来X線誘発TL組織からIl9r高発現細胞株SKY8699を樹立した。5'RACE法で正常胸腺、primary TLとSKY8699におけるIl9rの転写開始点を決定した。次に、Il9rのexon1上流2000bp領域を正常胸腺細胞からクローニングし、PCRで長さの異なるDNA断片計7種類を増幅した。これらのDNAをpGL4.10[luc2] vectorに挿入して、Il9r promoter-luciferase vectorを作製しSKY8699にtransfectした後、Dual-Glo Luciferase Assay Systemでpromoter活性を測定した。
    【結果と考察】正常胸腺、primary TLとSKY8699について、5'RACEで転写開始点を確認した結果、Genbankに登録されているexon1より上流50bpから330bpの間に転写開始点が存在したが、新たなexonはなかった。さらに正常細胞とTL細胞では転写開始点が異なることが明らかになった。Luciferase assayの結果、解析した領域内にpromoter活性領域が局在することがわかった。現在この領域の詳細な解析と作用する転写因子について検討を行っている。
  • 波多野 由希子, 今岡 達彦, 西村 まゆみ, 飯塚 大輔, 島田 義也
    セッションID: BP-233
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    成人に比べ小児は放射線や化学物質に対する発がん感受性が高いことが知られている。成人の乳腺細胞はホルモン依存的に増殖し、またほとんどの乳がんはホルモン受容体陽性を示す。それに対し、卵巣や下垂体からの性ホルモンが有効に働いていない思春期前には、乳腺細胞はホルモン非依存的に増殖しているが、思春期前の発がん剤処理により発生した乳がんのホルモン受容体発現は調べられていない。そこで本研究では、エストロゲン受容体(ER)およびプロゲステロン受容体(PgR)に着目し、思春期前後(3および7週齢)のラットに発癌処理を行い、乳がんの発生頻度およびホルモン受容体発現について検討した。  3週および7週齢のSDラットに、メチルニトロソ尿素(MNU)を20mg/kgを腹腔内投与、あるいはγ線2Gy全身照射を行い、50週で解剖した。摘出した乳腺腫瘍はHE染色標本を作製し、良性腫瘍と悪性腫瘍の診断を行った。悪性腫瘍と診断されたものについてはERおよびPgRを免疫組織化学的染色した後、1000~2000個の細胞をカウントし、陽性率を算出した。 MNUによる乳がん発症率を比較すると、3週齢で39%、7週齢で17%と3週齢で有意に高率な発症が見られるのに対し、放射線では3週齢で28%、7週齢で55%とMNUとは逆に7週齢で高率な発症率を示した。一方ERおよびPgRの発現をみると、7週齢曝露群ではMNUおよび放射線共に69~100%がホルモン受容体陽性を示したのに対し、3週齢曝露群ではMNUで64~73%がホルモン受容体陽性を示したが、放射線での陽性率は25~38%と低かった。これらの結果から思春期前の放射線被ばくによる乳がんは思春期後の被ばくによる発がんメカニズムとは異なること、また受容体陰性のヒト乳がん一般と同様に予後不良である可能性が示唆された。
  • 大内 則幸
    セッションID: BP-234
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    近年、細胞のがん化プロセスにおいて物理的な刺激(細胞接着や細胞の変形等)がDNA生成あるいはアポトーシスに寄与していることが判明し、それら要因の発がんプロセスへの寄与に関する研究の必要性も高まっている。 シャーレ上の実験と異なり、ヒトにおける発がんプロセスは、様々な環境条件の異なる中で進むが、それらの発がん過程への影響・寄与に関してはまだ研究が進んでいないと思われる。今回、組織構造において、腫瘍がどのように成長するかを調べるために組織構造をモデル化した数理モデルを構築した。腫瘍成長のダイナミクスおよび、その形態変化に関して発表する予定である。
  • AKULEVICH Natallia, SAENKO Vladimir, ROGOUNOVITCH Tatiana, 柴田 義貞, 山下 俊 ...
    セッションID: BP-235
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    Background: the ATM gene plays a key role in ionizing radiation (IR)-induced DNA damage sensing. Purpose of the study was to assess possible correlation between ATM single nucleotide polymorphisms (SNPs) and papillary thyroid cancer (PTC) of different etiology in children. Methods: rs1801516 G>A (exon 39), rs664677 T>C (intron 22) and rs609429 C>G (intron 48) ATM SNPs were profiled in 85 Caucasian patients with pediatric IR-induced (n=40) and sporadic (n=49) PTCs by PCR/RFLP and direct sequencing. Statistical analysis was done using Fisher’s exact test. Results: The shift towards the rare allele-carrying rs1801516 genotypes was found in pediatric IR-induced PTCs compared to sporadic ones (47.5% vs. 24.5%; P=0.03; OR=2.8; 95% CI 1.1-6.9). Unexpectedly, the analysis of rs1801516/rs664677/rs609429 SNP combinations revealed no individuals with homozygous wild-type GG/TT/CC genotype among IR-induced cases. In the sporadic PTC group, the frequency of this genotype was 14.6%. The most common genotype detected in both groups was GG/TC/CG (29.7% vs. 43.8% in IR-induced and sporadic PTCs, respectively; P=0.3; OR=0.5; 95% CI 0.2-1.3). The GA/TC/CG combination showed a tendency to dominate in the IR-induced group compared to sporadic PTC (16.2% vs. 4.2%; P=0.07; OR=4.4; 95% CI 0.8-23.0). Conclusion: ATM rs1801516 harboring the rare allele (mostly the GA) and the GA/TC/CG genotype may contribute to the risk of IR-induced PTC in childhood; however this observation needs to be confirmed using a larger sample size
  • 田苗 祐二, 菓子野 元郎, 熊谷 純, 鈴木 啓司, 児玉 靖司, 渡邉 正己
    セッションID: BP-236
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    我々の研究室ではESRを用いることによって、常温の細胞内において半減期二十時間以上の残存期間が長い新しいタイプのラジカルが存在し、その長寿命のラジカルが、短寿命のOHラジカルやHラジカルと同様に、突然変異や悪性形質転換の誘導に重要な役割を担っていることを発見した。放射線の照射前にジメチルスルフォキシド(DMSO)やL-アスコルビン酸(AsA)を細胞に処理することで、短寿命のラジカルの生成が消去されることは知られているが、放射線照射後二十分経過していても安定に存在する長寿命ラジカルは、DMSO処理では消去できないがAsA処理で完全に消去することが可能である。この照射後のAsA処理による長寿命ラジカルの消去に伴い、細胞死や染色体異常頻度を抑制できないが、突然変異や細胞がん化を抑制することができる。一方、DMSO処理は、放射線照射前に処理をした場合にのみ、染色体異常や突然変異の誘発率を減少させることができる。 これらのことから、我々は、染色体異常を誘導するラジカルと、突然変異を誘導するラジカルが異なり、前者はDMSOで捕捉される短寿命のラジカルで、後者はアスコルビン酸で捕捉される長寿命ラジカルであるとする仮説を提案する。 本発表では、この仮説の妥当性を考察する。
  • 永木 恵美, 白石 一乗, 原 正之, 児玉 靖司
    セッションID: BP-237
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    【背景と目的】   幹細胞は、非対称分裂により古い鋳型DNA鎖を選択的に保持するというimmortal strand仮説がCairns(1975)によって提唱されている。この仮説は、幹細胞を特徴づける情報保存モデルとして魅力的であるが、まだ完全には証明されていない。そこで本研究は、マウス神経幹細胞を用いて、immortal strand仮説が正しいのか否かを検証することを目的とした。 【材料と方法】   ICRマウスの成体脳および胎児脳から神経幹細胞、及び胎児から線維芽細胞を分離して培養系に移した。神経幹細胞はneurosphere法により1週間培養して増殖させた後、ブロモデオキシウリジン(BrdU)を48時間取り込ませて、新生DNA鎖をラベルした。その後BrdUを除去して更に1週間培養(7回以上分裂)した細胞を回収後、抗BrdU抗体を用いて蛍光染色し、蛍光顕微鏡によってBrdUラベルされた細胞の存在割合を解析した。対照として線維芽細胞も同様に処理して解析した。 【結果と考察】   BrdU除去してから7回以上分裂した神経幹細胞は、BrdUによって核全体がラベルされている細胞、部分的にラベルされている細胞、及び全くラベルされていない細胞の3種類に分類できた。鋳型DNA鎖と新生DNA鎖がランダムに分配されるとすると、7回の分裂でBrdUラベルは検出不可能になることが想定されるが、マウス胎児および成体由来の神経幹細胞では約10%がBrdUラベルを保持したままであり、そのうち核全体がBrdUでラベルされている細胞が約3%存在していた。一方、対照群である胎児線維芽細胞では、BrdUラベルを保持している細胞は約0.2%しか存在しなかった。したがって本研究の結果は、neurosphereを形成する神経幹細胞中に古い鋳型DNA鎖を選択的に保持する細胞群が存在することを示している。
  • 中村 慎吾, 坂田 直美, 中矢 健介, 小木曽 洋一
    セッションID: BP-238
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    低線量率(20 mGy/ 22時間/ day)でγ線をSPF環境下で長期連続照射したB6C3F1雌マウスは、非照射マウスと比較して有意に体重増加することが示された(Radiation Research 167, 417-437, 2007)。今回、個別飼育したマウスに低線量率γ線を長期連続照射し、体重変化と摂食量、飲水量及び排泄物(糞)重量との関連を調べる実験を行った。[結果]1)照射開始後12週から36週で照射群の体重に増加傾向が観察され、照射開始後33週(42週齢)で照射群の体重が非照射対照群と比較して有意に重くなった。2)42週齢時の体重の軽重は、17~41週齢までの体重の軽重に強く相関した。3)照射群(n=18)を体重が重いグループ(n=9)と軽いグループ(n=9)とに分け、同様に分類した非照射対照群と、それぞれのグループごとに照射期間中の体重の推移を比較したところ、体重が重い照射マウスの体重が有意に重いことが示された。4)体重増加に関わる要因として摂食量、飲水量及び排泄物(糞)重量の変化を検討したところ、これらの諸要因と体重増加との関連は明らかでなかった。しかし、照射開始後3週から10週で排泄物(糞)重量及び[排泄物(糞)重量/摂食量]比が非照射対照群と比較して有意に高くなることが分かった。本研究は青森県からの受託事業により得られた成果の一部である。
放射線応答とシグナル伝達
  • 河合 秀彦, YUAN Zhi-Min, 鈴木 文男
    セッションID: CO-024
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    遺伝学的解析から、非ストレス存在下でp53が不活性化状態で維持される為には、MDM2およびMDMXの存在が必須である事は明らかとなっているが、これらの因子がどのように相互作用しp53を制御しているか、その詳細な分子機構は明らかにされていない。これらの分子機構を解析するにあたって、我々は様々なキメラ蛋白質を作成し、MDM2とMDMXが複合体を形成することを見出した。本研究では、p53とMDM2ファミリーのキメラ蛋白質を用いることによって、MDM2/MDMXのヘテロ複合体が MDM2単独よりも効率的にp53をユビキチン化できる事を明らかにした。生体内においては、MDM2ファミリーはMDM2/MDMXヘテロ複合体として主に存在していると考えられる。このMDM2とMDMXの複合体の形成阻害が、p53の量的・質的な活性化を誘導する事から、p53制御においてはMDM2/MDMXヘテロ複合体の機能が重要であると考えられる。これらの結果は、MDM2ファミリーのリングフィンガードメイン間の複合体形成がE3ユビキチンリガーゼ活性に必須であることを示唆する。また、MDMXがDNA損傷によって分解誘導される現象がp53の安定化および活発化に重要である事が明らかにされている。この分解はMDM2依存的であり、優先的に MDMXがユビキチン化する機構の存在によってp53の活性化機構は確実なものとされている。よって、MDM2とMDMX間の相互作用がp53制御機構の重要な役割を果たしていると考えられる。
  • 細井 義夫, 榎本 敦, 笹野 仲史, 加藤 宝光, 関根 絵美子, 藤井 義大, 岡安 隆一, 宮川 清
    セッションID: CO-025
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    目的: 上皮増殖因子受容体(EGFR)は放射線により活性化し、それによりERKが活性化することが報告されている。放射線によるEGFRの活性化が放射線抵抗性化の原因の一つと考えられるが、その機序は明らかではなかった。我々はX線によるEGFRの活性化がSrcを介したtransactivationによることを明らかにした。本研究では、X線で認められたEGFRのtransactivationが炭素線でも認められるかどうかを明らかにするために実験を行った。方法: 重粒子線照射は、290MeV/uの炭素線を用いて放射線医学総合研究所で行った。MDA-MB-468細胞を用い、照射後2分~6時間培養し、SDSサンプルバッファーで処理してウエスタンブロットを行った。結果: 炭素線2Gy照射の2-5分後と4-6時間後にERK1/2の活性化が観察された。また、0.001-20 Gyの線量でほぼ同程度のERK1/2の活性化が認められたが、0.0005Gy以下の線量ではERK1/2の活性化は認められなかった。リガンドによりEGFRが活性化する場合にリン酸化されるTyr845、Tyr992、Tyr1045、Tyr1068では、照射によるリン酸化の変化は認められなかった。Srcの活性化が認められたが、SHP-2の活性化は認められなかった。EGFRに対する特異的阻害剤AG1478によりERK1/2の活性化は阻害された。結論: 今回の実験結果から、炭素線照射によりEGFRのtransactivationによりERK1/2の活性化が起こることが示唆された。また、0.001Gyという極めて低い線量の炭素線でも活性化することが明らかとなった。時間依存性とEGFRを介する点から、活性化の機序はX線と基本的に同じと考えられた。
  • 達家 雅明, 太田 隆英
    セッションID: CO-026
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    低分子量G蛋白質は種々の因子による細胞応答に対する中心的なシグナル伝達因子であり、そのスイッチの役目をしているのがRho-GDP dissociation inhibitor(RhoGDI)である。RhoGDIは動物細胞では少なくとも3種類存在するが、この内、RhoGDIβ(LyGDI、GDID4、あるいはRhoGDI2とも呼ばれる)においてのみ、アポトーシス誘導や炎症の過程で蛋白質分断化にかかわっている蛋白分解酵素カスペースに対する分断化部位を持つ。現在までに、3型カスペースで分断化される部位と1型カスペースで分断化される部位がRhoGDIβ分子内には知られており、それぞれ異なる生理的局面におけるアポトーシス感受性因子として機能していることが示唆されている。今回、我々はBALB/c 3T3細胞をがん遺伝子v-srcでトランスホームした1-1src細胞の電離放射線被曝細胞死過程で、3型カスペースや1型カスペースの活性化を伴わないRhoGDIβの分断化誘導現象を見つけた。また、RhoGDIβのアミノ酸置換突然変異体を作成することによって切断部位を同定したところ、これまでに知られていない新規の切断箇所の存在が明らかとなった。RhoGDIβ分断化様式の多様性は細胞死を確実に保証可能な細胞内シグナルのネットワーク機構を示唆する。
  • 藤原 美定, 趙 慶利, 近藤 隆
    セッションID: CO-027
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    [目的] 放射線アポトーシスを阻害する物質の作用点を解析してmitochondria (MT)からのcytochrome c (Cytc)を遊離する分子構造の追求。[方法] DSB-ATM-p53経由して転写依存細胞死シグナルを発現するMolt-4細胞に、siRNA, 抗アポトーシスBH4 ペプチド、VDAC を阻害するruthenium red (RuR) を適用し、タンパク分子科学的に上記目的を解析。[結果考察] (1) IR-DSBsが活性したp53転写因子はBH3-only Noxa/PUMの発現を促進し、Bax/Bakを活性化した。p53/Bax RNAiは効果的に誘発アポトーシスを抑制しのでp53-Bax signalingが基軸。(2) Bak/Bak活性化はMT外膜に (Bax)n/(Bak)n oligomersとBax (Bak)/VDAC1 hybrid monomer (HM)とhybrid dimer (HD)を生成。(Bax)nとHDがCytc遊離と相関したが、特異的阻害なしでは分別は不可能。(3) BH4とRuRは適濃度でBax/Bak活性化も(Bax)n/(Bak)n形成も阻害しないが、IR誘発Cytc遊離とアポトーシスを完全に阻害した。細胞環境MT では(Bax)n/(Bak)nがCytc遊離チャネルという有名な通説は当てはまらない?VDAC1/Bcl2s結合によるCytc遊離の制御説も激論中である。(4) RuRはVDACに結合して放射線損傷に応答したHD生成を阻害した。BH4はIRによる保護的Bcl-XL/VDAC1 hybrid解離を防ぎ、Bax/BakとのHD生成とCytc遊離を阻害した。BH4/RuR阻害をうけるHD形成が放射線アポトーシスの1つの機構であろう。
  • 竹田 純, 植松 哲生, 松本 智裕, 丹羽 太貫
    セッションID: CO-028
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    電離放射線はゲノムにDSBを誘発する。ダメージ応答チェックポイントにより、損傷が修復されるまで細胞周期は停止する。興味深いことに、損傷を受けた細胞のクローンは遺伝的不安定性を示しやすい。これは、損傷の発生が何かしらのメカニズムによって記憶されていることを示唆している。我々は、分裂酵母Schizosaccharomyces pombeを用い、遅発性組換えの分子機構を研究している。500 Gy までのX線照射によって、200 bpのリピートを持つマーカーの組換頻度は線量依存的に1.0 × 10-2%から約10 × 10-2%まで上昇し、8-10世代持続した。この遅発性組換えは活性酸素などのバイスタンダー因子には依存しなかった。それに加え、単一のDSBがトランスに組換えを誘導すること、Rad22(Rad52ホモログ)のフォーカス形成率が遅発性組換えと平行して、高く保たれることが明らかになった。さらにHiCEP法によって遺伝子発現プロファイルを比較したところ、少なくとも45の転写産物が組換え頻度の上昇とともに発現量を変化させること、100以上の転写産物が少なくとも13世代にわたって発現量を変化させ続けることも明らかになった。これらの結果は修復完了後においてダメージ記憶が存在することと、転写制御の大規模な変化や遅発性組換えはその記憶の下流で制御されていることを示唆している。
  • 畑下 昌範, 高城 啓一, 久米 恭, 福田 茂一
    セッションID: CP-101
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    放射線照射によるDNA2本鎖切断は主にATMシグナリングによって検知される。ATMはDNA修復の制御だけでなく、細胞周期の制御にも関わっているとされる。酵母や哺乳動物細胞においては、放射線はDNA2本鎖切断の修復や細胞周期応答に関わる遺伝子群の一過性で急速な高い転写を誘導することが知られている。植物におけるDNA2本鎖切断の修復や細胞周期の制御に関する基本的なメカニズムは酵母や哺乳動物のそれと同様であると考えられている。しかし、ATMシグナル経路は種を越えて高度に保存されているものの、植物細胞がゲノム完全性の喪失に応答して細胞周期を停止してDNA2本鎖切断を修復するメカニズムは依然として不明である。
    播種後5日目のシロイヌナズナ幼苗に対して200MeVのプロトンビームが照射された。照射後経時的にRNAを抽出した。シロイヌナズナのヒトDNA修復遺伝子や細胞周期関連遺伝子のホモログに関して、放射線照射後のそれらの遺伝子発現をリアルタイムRT-PCRにより解析した。
  • 伊藤 あずさ, 森田 明典, 山元 真一, 船津 修, 池北 雅彦
    セッションID: CP-102
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
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    ヒトT細胞性白血病細胞株MOLT-4細胞は放射線に高感受性を示し、放射線誘発アポトーシスのモデル細胞死として多くの研究で用いられている。このMOLT-4細胞の放射線細胞死は、ドミナントネガティブp53やp53 shRNAの導入実験からp53依存性であることが明らかにされている。一方、近年、これまで転写因子としての機能が注目されてきたp53分子の新たなる機能として、p53転写に非依存的なミトコンドリア経路での作用が注目されている。また、この転写非依存性経路に関しては、p53のコドン72における一塩基多型、Arg型とPro型ではアポトーシス誘導性が異なり、アポトーシス時にArg型p53がミトコンドリアへ移行することが転写非依存性の経路、およびArg型の強いアポトーシス誘導活性に関わることも報告されている。 そこで本研究では、まずMOLT-4細胞のp53コドン72遺伝子型の同定を行った。γ線10Gy照射MOLT-4細胞およびNalm-6細胞のp53のウェスタンブロット解析の結果、Nalm-6細胞のp53は、対照として用いたSaOs-2細胞導入Pro72-p53とほぼ同じ電気泳動移動度を示した。一方、MOLT-4細胞はPro72-p53よりも低い電気泳動移動度を示し、MOLT-4細胞のp53はArg72型である可能性が高まった。そこで、コドン72をコードするp53 exon4のgenomic DNAの配列解析を行ったところ、MOLT-4細胞のコドン72の遺伝子型はArgホモ接合型であることが明らかとなった。今後は、コドン72多型に関わるp53転写依存性/非依存性経路の詳細な解析を行い、両経路が放射線感受性に及ぼす影響についての評価を進める予定である。
  • 鈴木 桂子, 田中 泉, NONTPRASERT Apichart, 田中 美香, 石渡 明子, 榑松 文子, 佐藤 明子, 石原 弘
    セッションID: CP-103
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    [目的] Heme oxygenase-1 (HO-1)はヘムをCO, biliverdin, Fe2+に分解する酵素であるのみならず、細胞保護やホメオスタシスの維持など多様な生体作用を有し、生体の放射線防護に寄与することが示唆されている。我々は種々のポリフェノール化合物のうち、プロポリスの成分のcaffeic acid phenethyl ester (CAPE)などの一部の化合物のみが構造依存性にマウスmonocyte-macrophage細胞(RAW264.7)におけるHO-1 のmRNAの量を40倍もの高レベルで誘導することを示した。今回独自開発したレポーター遺伝子RNA測定法を使用して、この強力な遺伝子活性化に関与する領域の探索に着手した。[方法] マウスgenomic DNAからHO-1遺伝子の上流~第二イントロン領域の一部を分離し、レポータープラスミドを構築した。これらのレポーター遺伝子と内部標準用のリファレンス遺伝子をRAW264.7細胞にエレクトロポレーションで共導入した後にCAPEで処理した。細胞から調製したRNAを専用のPrimer共存下、逆転写してTaqMan probeを使用したreal-time RT-PCRにより導入遺伝子由来のmRNA量を測定した。[結果]HO-1第一エクソン上流4050塩基から第一イントロン350塩基まで、第二エクソン上流350塩基から第二イントロン400塩基までの領域について、5種類のレポーター遺伝子を構築・比較した。第一エクソン上流4050~転写開始点までを持つレポーターはCAPEにより転写物が増加したが、第一エクソン上流1240~転写開始点までを持つレポーター等ではCAPE応答性は認められなかった。 [結論]マウスHO-1 geneのCAPE応答部位はHO-1遺伝子上流4050~1240塩基までの範囲に存在することが示唆された。
  • 米倉 慎一郎, 米井 脩治, 張 秋梅
    セッションID: CP-104
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    活性酸素種は電離放射線や酸化剤だけでなく、細胞内代謝によっても常に生じている。活性酸素種によって細胞が過剰な酸化ストレス下にさらされると、核酸やタンパク質、脂質といった生体高分子が酸化され、細胞に細胞死や突然変異といった結果がもたらされる。細胞内では活性酸素種の消去酵素やDNA修復酵素が酸化ストレスから細胞を防御するために働いている。細胞内の酸化・還元状態のバランスを保つために生物は様々な応答を行う。酸素分子が一電子還元されると、活性酸素種であるスーパーオキサイドとなる、さらに過酸化水素、ヒドロキシラジカルといった活性酸素種へと変化する。本研究室では、このスーパーオキサイドによって誘導される遺伝子をLacZ融合タンパク質として発現する大腸菌株を確立し、soi(superoxide inducible)遺伝子として同定をおこなった。これらの株のあるものはスーパーオキサイド感受性を示した。これらのsoi遺伝子群はsoxRSの支配下にあることが分かった。大腸菌ではこのsoxRSがスーパーオキサイドにより誘導される遺伝子を制御している。例えば、大腸菌にスーパーオキサイド消去酵素SodA、SodBが存在するが、このうち、SodAはSoxRSに依存してスーパーオキサイドによって誘導される。SoxRSのシステムは大腸菌に特有で、ヒトや酵母といった真核生物では保存されている転写制御ではない。しかし、細胞が守るべき活性酸素種の標的は、DNAをはじめ、多くの種で同一と考えられる。本研究ではさらに、これらのsoi遺伝子のクローニングと解析を行った。特定された遺伝子ydbKは、原核生物のピルビン酸オキシドリダクターゼと相同性があり、モチーフもよく保存されていた。そのプロモーターのクローニングを行い、誘導性について観察した。ydbKの欠損株は前述したとおり、スーパーオキサイドに感受性であった。そしてYdbK発現の機序と、細胞をスーパーオキサイドから守る機構について考察した。
  • 野宮 琢磨, 野尻 和典, 田巻 倫明, 大塚 好美, 木村 智, 今留 香織, 中渡 美也子, 酒井 美奈子, 塩見 尚子, 盛武 敬, ...
    セッションID: CP-105
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
     臨床において、同じ病理組織型の腫瘍であっても、放射線治療に対し感受性を示すものと抵抗性を示すものがある。そのメカニズムとして、抵抗性腫瘍はヘテロな集団であり、放射線抵抗性クローンの再増殖が放射線抵抗性に関わるのではないかと仮定し、実験腫瘍を用いて放射線感受性試験とゲノム解析を行った。  放射線抵抗性マウス扁平上皮癌NR-S1から単クローン培養を行い、細胞の形状や増殖速度の異なる5種類の細胞株NR-S1a, -b, -c, -d, -eを得た。それぞれをin vitroにて0~8 Gy照射して各々の放射線感受性を測定した結果、NR-S1a/bは放射線抵抗性、NR-S1d/eが放射線感受性、NR-S1cがその中間を示し、MANOVA解析にて有意差が見られた(p < 0.001) 。次に各細胞株をC3Hマウス右大腿部に移植し、ガンマ線にて30 Gy、50 Gy照射し、in vivoにおける放射線感受性を検証した。NR-S1eは生着せず、他の4細胞株の非照射群および30Gy照射群では差異を認めなかった。一方、50Gy照射群はin vitroの解析と同様にNR-S1dにおいてNR-S1a/cよりも高感受性であった。同様にNR-S1各細胞株はin vivo放射線感受性もSCCVIIより放射線に対し抵抗性を示した。  ゲノム解析にはオリゴヌクレオチドアレイcomparative genomic hybridization (aCGH)法を用いた。正常肝細胞のゲノムとの比較では、8番染色体の全体的な増幅、14番染色体の全体的な欠失、9番染色体の部分的欠失、16番染色体の部分的欠失等が共通して見られた。NR-S1各株間でゲノムを比較すると、NR-S1eでのみ16番染色体全体の増幅が見られたり、NR-S1a/bでのみ1番染色体の部分的欠失が見られるなど、非共通部分も散見された。  以上、放射線抵抗腫瘍モデルを用いた検討を行った結果、腫瘍内の多様な細胞集団(heterogeneity)がその抵抗性に関わることを示唆する結果を得た。
  • 松本 孔貴, 岩川 真由美, 石川 顕一, 今井 高志, 辻井 博彦, 安藤 興一, 古澤 佳也
    セッションID: CP-106
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】炭素線またはX線照射後のヒト悪性黒色腫由来細胞における細胞死,遺伝子発現および細胞周期の変化を調べることで,分子メカニズムの差異を明らかとする。【方法】ヒト悪性黒色腫由来細胞6種(C32TG, Colo679, HMV-I, HMV-II, 92-1, and MeWo)を用い,炭素線またはX線2Gy照射1,3時間後の網羅的な遺伝子発現変化をDNAマイクロアレイ(GE Healthcare, 55000プローブ)により検出し,Resolver software(Rosetta)を用いて遺伝子発現解析を行った。【結果】22遺伝子が6細胞全てで,173遺伝子が4細胞で炭素線に応答を示した(ANOVA, P < 0.001)。発現が抑制された遺伝子の中に,X線に比べ炭素線により強く応答した遺伝子を多数見出すことができ,この中には細胞周期,細胞増殖に関与する遺伝子(CCNA2, CDCA8, CENPA, CRK7, ID1, KNTC2, TTK, and WEE1)が含まれていた。一方で,照射後発現誘導した遺伝子の多くは,炭素線だけでなくX線に対しても類似した応答を示し,その中にはp53標的遺伝子(ATF3, BTG2, CDKN1A, GADD45A, SESN1, TNFRSF6, and TP53INP1など)が多数含まれていた。さらに,照射後30時間において,炭素線はX線に比べ顕著にG2/Mアレストを誘導した(P < 0.05)。【結論】今回の結果から,炭素線応答において遺伝子の発現抑制が重要な役割を持つことが示唆された。また,細胞周期関連遺伝子の調節とG2/Mアレストの誘導が炭素線に対する感受性に関与する可能性が示唆された。会場では,G2/Mアレストの線量依存性についても報告する。
  • 井上 和也, 高橋 由明, 村田 和弘, 桑原 義和, 志村 勉, 福本 学
    セッションID: CP-107
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    [目的] 転写活性のある遺伝子のプロモーター領域にあるCpGアイランドのメチル化は、ヒストン修飾の変化や転写因子との結合性の変化を通して遺伝子の転写制御に重要な役割を果たしていることから、がん研究においても注目されている。しかし、放射線被ばくとCpGアイランドのメチル化がどの様に関係しているかは不明な点が多い。また、どのようなepigeneticな変化が細胞の放射線感受性に影響を及ぼすのかについても知られていない。本研究では、長期放射線被ばくにより、どのような遺伝子のメチル化状態が変化するか、細胞の放射線耐性にCpGアイランドのメチル化が関与しているのか否かを調べるために、ゲノムワイドなメチル化の変化した領域の同定を行った。 [材料と方法] ヒト肝がん由来のHepG2細胞と、長期に亘りX線照射して樹立した、3種の亜株細胞を用いた。また、放射線耐性細胞として、2Gy/dayのX線を照射し続けても死滅しない、HepG2-8960-R細胞を用いた。ゲノムDNAでメチル化が変化した領域の単離は、methylation sensitive arbitrarily primed PCR (MSAP-PCR)法により行った。 [結果と考察] HepG2細胞と比較して、長期被ばく細胞株にメチル化に変化の見られた17のゲノム領域を同定した。このうち、4領域はCpGアイランドであった。また、2領域はカリウムイオンチャネルに関連する部位であった。低線量の放射線照射を受けた細胞では、カリウムイオンチャネルの活性が変化することから、本研究で用いたAP-PCR法は放射線によるメチル化の変化によって有意に発現変化する遺伝子を探索するために有用であることが示唆された。現在、メチル化の変化と遺伝子発現の相関を検討中である。
  • 石川 顕一, 今留 香織, 大野 達也, 田巻 倫明, 岩川 眞由美
    セッションID: CP-108
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    放射線治療において、腫瘍の放射線治療抵抗性予測選別は、最適化した治療プロトコルを提供するために、重要な研究課題である。我々はこれまでに、ヒト培養細胞株を用いた発現解析から65種類の放射線抵抗性マーカーを同定し、報告してきた(日本放射線影響学会 第49回大会)(K. Ishikawa et.al., Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2006)。今回我々は、この in vitro 解析で見出した放射線抵抗性マーカーを用いて子宮頸がん25症例のプロファイリングを試み、その局所制御効果との関連を検討したので報告する。
    当院で、放射線単独治療を受けた、病期IIIを中心とする子宮頸癌25症例を対象とした。6ヶ月後の局所効果は、完全消失21例(効果良好群)、部分消失3例(抵抗性群)であり、1年予後は再発・転移無し13例(効果良好群)、不良群6例(抵抗性群)であった。生検は放射線治療前及び治療開始1週間後(治療中)の計2回施行し、それぞれの腫瘍サンプルからトータルRNAを抽出し、マイクロアレイ(Codelink、GE healthcare)を用いて発現解析を行った。遺伝子は、上述論文内の放射線抵抗性マーカーのうち、「放射線抵抗性細胞株における照射3時間後の低い発現レベルが特徴である」遺伝子群を用いた。この遺伝子群は、COL6A1やCTGF、FBN1、FBN2、EFEMP1、ADAMTS1などの細胞外マトリクス関連遺伝子を含む12遺伝子である。
    治療前・治療中の発現比によるプロファイリングのうち、上述遺伝子群のみに着目してクラスタリングした結果、治療後6ヵ月時及び1年時ともに、抵抗性群と効果良好群を区別する傾向がみられた。
    以上、パイロットスタディの結果から、in vitro解析で見出した放射線抵抗性マーカーが臨床症例応用可能であることが示唆された。
  • 馬場 泰輔, 桑原 義和, 井上 和也, 栗原 愛, 鈴木 実, 小野 公二, 福本 学
    セッションID: CP-109
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    緒言:電離放射線に対する細胞の反応は、DNA修復、細胞周期調節、アポトーシスなど複雑で、様々な遺伝子が関与している。我々はこれまでにマウス肝において、ホウ素中性子捕獲法によってクッパー細胞と血管内皮細胞、各々別々にα線を照射し、マイクロアレイによって遺伝子発現の変化を分析した。その結果、放射線被ばく標的細胞がどれであるかに関係なく、肝臓が炎症状態にあることを明らかにしてきた。今回我々はラット肝を実質細胞とクッパー細胞に分離し、γ線を照射し、構成細胞系に応じた放射線被ばく影響を調べた。 方法:ラット肝をコラゲナーゼ灌流法と低速遠心分離法にて実質細胞と非実質細胞とに分離した。クッパー細胞はプレート接着法にて分離し実験に用いた。各細胞分画へγ線を5Gy照射し、照射後3,6,12,24時間に各細胞のRNAを抽出し、real-time PCR法にてサイトカインとマイクロアレイの結果で発現変化していた遺伝子の発現解析を行なった。結果:炎症性サイトカインであるIL-1β・IL-6遺伝子発現は、クッパー細胞への照射3時間後に急激に発現量が亢進し、その後低下した。また抗炎症性サイトカインであるIL-10遺伝子発現は照射直後から増加し始め、12時間後にピークに達した。これらから、クッパー細胞への照射3時間後に炎症はピークに達するが、その後は消退に向かっていると考えられた。マウスのマイクロアレイで発現変化していた遺伝子について、線質に関係なく照射により発現減弱したAk3遺伝子は、実質細胞への照射の影響は観察できなかったが、クッパー細胞への照射では発現が減弱していた。マウス肝のクッパー細胞に特異的にα線照射した場合に発現亢進したHpxn遺伝子と発現減弱したCar3遺伝子は、実質細胞のみに照射した場合は非照射と比較して変化が観察されなかったが、クッパー細胞のみに照射24時間後には両遺伝子共に発現が現弱した。これらの結果から、実質細胞よりもクッパー細胞へのγ線照射の方が、生物影響が大きいと推察された。
  • 山元 真一, 森田 明典, 伊藤 あずさ, 榎本 敦, 松本 義久, 船津 修, 細井 義夫, 鈴木 紀夫, 池北 雅彦
    セッションID: CP-110
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    p53遺伝子は半数近くの癌で欠失や変異が認められている癌抑制遺伝子であり、放射線を含む複数のストレスに応答してアポトーシスを誘導し、腫瘍の成長を未然に防いでいる。一方、抗癌治療の過程において、p53は正常組織に対して過度な細胞死を引き起こし深刻な副作用の一因となる。そのため、p53依存性アポトーシスを制御する薬剤は抗癌治療における副作用の軽減につながり、またp53機能の違いから生物学的根拠に基づく正常組織の選択的な防護剤となる事が期待されている。 効果的にp53誘導性アポトーシスを抑制するためには、p53転写機能に基づく転写依存的経路の他に、近年注目されているミトコンドリアを介した転写非依存的経路も同時に抑制する必要があると考えられる。本研究では、両経路を抑制するp53阻害剤の有力候補として、我々が見出したp53阻害剤、オルトバナジン酸ナトリウム(以下バナデート)の両経路に及ぼす阻害効果を検討した。 p53特異性ルシフェラーゼレポーター遺伝子の導入により得られたヒトT細胞性白血病細胞株MOLT-4の安定細胞株を用いたルシフェラーゼアッセイと、p53ターゲット遺伝子のウエスタンブロッティングにより、バナデートがp53転写活性を抑制することを明らかにした。続いて、免疫沈降-イムノブロッティングを行った結果、バナデートはp53とBcl-2ファミリータンパクであるBak、Bcl-2、Bcl-xLとの結合を阻害することが明らかとなった。今回我々が得た結果、並びに、p53とDNA、Bak、Bcl-2、Bcl-xLの結合はDNA結合領域を介するという知見から、バナデートはp53のDNA結合領域の構造変化を誘導することでp53とDNA、Bak、Bcl-2、Bcl-xLとの結合を抑制し、転写依存性、転写非依存性経路を抑制する可能性が高いと考えられた。
  • 秋元 志美, 藤原 好恒, 藤原 昌夫, 谷本 能文, 鈴木 文男
    セッションID: CP-111
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    紫外線誘発アポトーシスはDNA損傷がトリガーとなることが知られているが、紫外線に対する細胞の反応は細胞種によって異なる。例えばアポトーシスに特徴的なDNA断片化の泳動パターンが見られるのは、Jurkat細胞においては照射後3時間であるが、HeLa細胞では照射後48時間である。このような紫外線によるアポトーシス誘発の時間的違いの原因を探るため、本研究ではJurkat細胞とHeLa細胞を用いて、照射後の細胞の初期変化について調べた。
    【材料と方法】実験にはJurkat細胞とHeLa細胞を用い、両者にほぼ同程度の致死効果を与える紫外線(254 nm)を照射した。照射後、様々な時間細胞を培養した。その後、ギムザ染色により紫外線照射後の細胞の形態変化を調べるとともに、フローサイトメトリーにより細胞死の出現動態を解析した。
    【結果と考察】Jurkat細胞及びHeLa細胞ともに細胞の大きさは広い分布を持っているが、Jurkat細胞では紫外線照射後に速やかに小さな細胞の割合が増加することがわかった。一方HeLa細胞ではこのような現象は見られていない。Jurkat細胞に見られた現象は、アポトーシスの初期過程に見られる細胞収縮に起因するものと考えられる。この現象は紫外線により誘発される細胞膜の膜電位変化や、細胞内K+イオン濃度の変化により起こることが知られている。そこでJurkat細胞における紫外線誘発アポトーシスに対するK+イオンチャンネル阻害剤の効果を調べたところ、Jurkat細胞ではアポトーシスが抑えられることがわかった。しかしJurkat細胞と同じ条件でK+イオンチャンネル阻害剤をHeLa細胞に添加した場合、その効果は見られなかった。このことからJurkat細胞において見られる非常に速い紫外線誘発アポトーシスは、紫外線照射により生じたK+イオンチャンネルの変化がトリガーなっていることが示唆された。
  • 榎本 敦, 木戸 直樹, 伊藤  道彦, 森田 明典, 細井  義夫, 宮川 清
    セッションID: CP-112
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    MAPKシグナル伝達経路は、MAPKKK, MAPKK, MAPKの各コンポーネントからなるリン酸化カスケードである。哺乳類細胞には、ERK, JNK, p38の3つのMAPK経路が存在し、増殖、細胞死、分化などの制御に深く関わっていることが知られている。我々はMAPKカスケードの最上流分子であるMAPKKK(MEKK1,2,3,TAK1など)に結合するある種のプロテインキナーゼを同定した。このキナーゼの機能はもとより、その細胞内基質やがんとの因果関連は未知である。我々はこのキナーゼに対する抗体を作製し、発現や局在を解析した結果、様々な組織や培養細胞で発現が認められ、細胞質に局在することが判明した。さらにこのキナーゼの過剰発現によりMEKK1/2などのMAPKKK活性化が阻害されること、またノックダウンによりストレス応答カスケードの1つであるMKK3/6-p38経路のリン酸化が亢進していることが明らかになった。今回は、このキナーゼによるMAPKKK制御のメカニズムとノックダウンによるストレスシグナル・ストレス誘発アポトーシスへの影響については発表する。
  • 岡 泰由, 鈴木 啓司, 朝長 万左男
    セッションID: CP-113
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    ATM-p53経路は細胞周期チェックポイントを制御する事により、ゲノムの安定性の維持に深く関与している。電離放射線照射によってDNA二重鎖切断が生じ、クロマチン高次構造変化が生じた部位ではリン酸化酵素であるATMが自己リン酸化を介して活性化する。活性化したATMはDNA二重鎖切断部位近傍でフォーカスを形成する。このフォーカス形成は照射直後から観察され、DNA二重鎖切断修復に伴い減少していく。また長期間に渡って残存するフォーカスが存在することが明らかとなってきている。そこで、『長期間に渡って残存するフォーカスが電離放射線照射後に誘導される不可逆的細胞増殖停止反応に関与している』という仮説を立てた。本研究では細胞の分裂増殖能とフォーカス形成を検討するために、ヒト正常二倍体細胞にX線を照射し細胞を低密度でカバーグラス上に播種し3日間培養した後に、リン酸化ATMと53BP1のフォーカスを蛍光顕微鏡下で観察した。その結果、分裂増殖の速い細胞集団ではフォーカス陽性細胞の頻度は少ないが、照射後一度も細胞分裂を行わなかった細胞と分裂増殖の遅い細胞集団では、高頻度でフォーカス陽性細胞が観察された。次にフォーカスのサイズを検討した結果、一度も細胞分裂を行わなかった細胞と分裂増殖の遅い細胞集団で観察されたフォーカスサイズは分裂増殖の速い細胞集団で観察されるものと比較して大きかった。以上の結果から、正常ヒト細胞では、電離放射線照射によって生じたリン酸化ATM/53BP1フォーカスを保持したまま分裂増殖を繰り返すことができないことが明らかとなった。また、フォーカスの保持とDNA損傷情報の増幅が不可逆的細胞増殖停止に必要であることが示された。
  • 石垣 靖人
    セッションID: CP-114
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    PI-3キナーゼファミリーの一つである SMG-1は、ATMやATRと類似の構造を持ちながらNMD (Nonsense-mediated mRNA decay) または mRNA サーベイランスと呼ばれる mRNA の品質管理機構において必須な因子の一つであるとされてきた。NMDとは、DNA にナンセンス変異が生じた場合や、スプライシング異常などによるフレームシフトによって 翻訳領域に新たな終止コドンが生じた場合に、その 変異mRNA を選択的に分解してしまうシステムのことである。日本人に高頻度で観察される色素性乾皮症A群やWerner症候群などの劣性遺伝疾患における原因遺伝子の発現消失は、多くの場合NMDによって引き起こされている。最近SMG1がATMやATRと同様にDNA傷害センサーとして機能する可能性や、SMG1の結合タンパク質でやはりNMD因子のひとつであるUpf1ヘリケースも細胞周期進行に関わることが報告され、RNAとゲノムの品質管理にこれらの因子が共通に働いていると考えられている。本研究では、p53発現制御に対する SMG-1 の役割を明らかにしていくために、RNAi 法を用いた解析を行った。SMG-1 配列に特異的な siRNA を作製し、ヒト培養細胞に導入したところ、p53タンパク質の発現がコントロール細胞に対して低下していることが明らかになった。興味深いことに、プロテアソーム阻害剤を処理した時に蓄積するp53量にも明らかな低下が認められた。これらの結果はp53の量的制御にSMG1が関わることを示唆すると考えられ、その制御機構についても報告する予定である。
  • 鈴木 芳代, 坂下 哲哉, 舟山 知夫, 深本 花菜, 浜田 信行, 横田 裕一郎, 片岡 啓子, 楚良 桜, 辻 敏夫, 小林 泰彦
    セッションID: CP-115
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
     神経系のモデル生物として知られる線虫(C. elegans)は、温度や化学物質などさまざまな刺激に対して誘引/忌避応答を示す。また、エサの存在下では、エサのない場合の約60 %まで運動が低下する(減速応答)。我々はこれまでの予備的な実験から、γ線照射によっても、線虫の運動が低下することを見出した。
     そこで、本研究では、「エサの存在」と「照射」が線虫の運動の減速制御に及ぼす効果を検証することを目的とし、成虫段階の線虫(野生型)に100、300、500、900、1500 Gyの60Coγ線を照射して、エサのある/ない寒天プレート上での照射直後の運動を調べた。運動指標は20秒間に頭を振った回数とし、1試行あたり5個体を計数し、その平均値を用いた。
     エサのないプレート上での運動は線量依存的に低下し、1500 Gyでは非照射個体(対照)の約40 %となった。一方、エサのあるプレート上での運動は、いずれの線量でも、照射個体と非照射個体との間に有意な差がなかった。このことから、「エサの存在」と「照射」の2つの運動抑制の要因が、かならずしも加算的な効果とはならない可能性が示唆された。また、いずれの線量においても、照射個体のエサのあるプレート上での運動指標の値がエサのないプレート上での運動に比べて有意に低かったことから、エサの存在の情報を伝達する経路が照射後もある程度維持されていたことが示唆された。
     今後は、エサの存在下での運動の低下が少ない変異体を用いて、γ線照射がエサの存在の情報の伝達にもたらす影響を調べる予定である。
  • 女池 俊介, 小倉 亜希, 浅沼 武敏, 桑原 幹典, 稲波 修
    セッションID: CP-116
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】ヒト乳がん由来MCF-7細胞株は、カスパーゼのサブファミリーであるカスパーゼ3を欠損しており、放射線に対して強い抵抗性を示す。カスパーゼはアポトーシスを起こす上で重要な因子であることが知られており、この蛋白質の欠損がMCF-7細胞での放射線抵抗性と強くかかわっていると考えられる。本研究において我々は、カスパーゼ3を過剰発現させたMCF-7細胞においてX線誘導アポトーシスが増強されるかどうかを検討し、有意なアポトーシス増強効果を見出した。さらにはそのアポトーシス誘導での他のカスパーゼファミリーの関与、ミトコンドリア経路ならびにTNFファミリー受容体経路の役割を明らかにすることを試みた。
    【方法】カスパーゼ3遺伝子を組み込んだ哺乳類細胞発現ベクターを作製した。MCF-7細胞にトランスフェクションし、細胞内にカスパーゼ3を過剰発現させた。X線照射後PI染色により蛍光顕微鏡でアポトーシス細胞を計測した。各種特異抗体を用いたウエスタンブロット法によりアポトーシス関連因子の発現を測定した。
    【結果】カスパーゼ3抗体を用いたウエスタンブロット法で高い発現効率が確認された。アポトーシスの割合はカスパーゼ3発現細胞においては非発現細胞とほぼ同じであった。しかし、この細胞にX線を照射すると、有意なアポトーシスの増感がみられた。一方、非発現細胞ではX線によるアポトーシスの誘導は見られなかった。このことからMCF-7細胞の放射線抵抗性にはカスパーゼ3が重要な役割を担っていると示唆される。また、カスパーゼ3の上流に位置するカスパーゼ8(Ac-IETD-CHO)ならびにカスパーゼ9(Ac-LETD-CHO)の特異的阻害剤を加えると、このカスパーゼ3過剰発現細胞におけるX線誘導アポトーシス増強効果がAc-LETD-CHOのみならずAc-IETD-CHOでも阻害されることが見出された。これはアポトーシス誘導にミトコンドリア経路のみならずTNFα経路も関与する現象であることを示している。
  • 藤田 和子, 王 冰, 鎌田 至, 赤坂 喜清, 石井 壽晴
    セッションID: CP-117
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    成熟Bリンパ球表面に発現するCD180は、in vitroにおいてリンパ球の放射線誘発アポトーシスを抑制する分子として発見され、Toll様レセプタ-4(TLR4)と同様にリポ多糖類(LPS)をリガンドとし、TLR-4のシグナリングを負に制御するレセプターとして報告されている。しかし、CD180の作用機序に関しては不明な点が多い。他方、Bリンパ球にはCD19-CD23などの特異的表面分子が存在し、CD19はB細胞受容体(BCR)補助分子としてBCRからの抗原刺激シグナルを増強し、CD22はシグナルを負に制御する分子として知られている。 今回我々は、CD180分子とアポトーシス細胞の放射線照射による発現変化を解析し、リンパ球の放射線抵抗性におけるCD180の関与を検討した。さらに、B細胞関連分子であるCD19とCD22について、それらの発現性と放射線誘発リンパ球アポトーシスとの関係を解析した。 7~10週齢のBALB/c♀マウスに4 GyX線全身照射後脾臓を摘出し、放射線誘発リンパ球アポトーシスの発現はTUNEL法で、CD180、CD19とCD22の発現変化については、AMeX固定パラフィン包埋切片の免疫組織化学染色とフローサイトメトリーを用いて解析した。その結果、X線照射前後におけるBリンパ球のCD19とCD22の発現変化はほとんどみられなかったが、CD180分子は、照射前と照射6時間後、3時間後と6時間後で有意に発現が増加した。さらにCD180とTUNELの二重染色の結果から、照射6時間後のCD180陽性細胞群のアポトーシス発現に比してCD180陰性細胞群のアポトーシス発現は有意の上昇がみられた。これらのことから、CD180発現B細胞はCD19およびCD22陽性細胞とは異なり、in vivoで放射線誘発アポトーシスに抵抗性であることが示唆された。
  • 中渡 美也子, 岩川 眞由美, 大野 達也, 加藤 真吾, 田巻 倫明, 今留 香織, 酒井 美奈子, 辻井 博彦, 今井 高志
    セッションID: CP-118
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    子宮頸がん化学放射線治療により誘導されるFGF2のタンパク発現と予後との関連を明らかにする目的で以下の検討を行った。  子宮頸がん28症例から、化学放射線治療前(治療前)および治療開始1週間後(治療中)にほぼ同じ局所から生検試料を得た。FGF2に加えて、FGF2との関連が報告されているCD44とラミニンについても免疫組織化学染色を用いて解析した。FGF2とCD44は画像解析ソフトを用い染色陽性面積率(%)を評価し、ラミニンは、基底膜の染色パターンを、連続性のある線状陽性所見(連続性)と、断片的陽性所見あるいは陰性所見(非連続性)とに2群化した。患者群は2年後生存を用いて、予後良好群(n=18)と予後不良群(n=10)とに2群化した。 その結果、FGF2の治療中タンパク発現は治療前に比べて有意に上昇した(p=0.030)。FGF2タンパク発現の比(治療中/治療前)は予後良好群に比べて予後不良群で有意に低値を示した(p=0.037)。治療前のラミニンは、予後良好群に比し、予後不良群では非連続性を示す傾向が見られた(p=0.046)。CD44のタンパク発現は予後との関連は認められなかった。更に、治療前ラミニンと治療前と中のFGF2発現変化比あるいは治療前ラミニンと治療中CD44発現に関連が認められた(p=0.026、p=0.036)。 以上、FGF2の発現比と治療前におけるラミニンの染色パターンが予後と有意に関連があることを明らかにした。これらの分子の予後マーカーとしての可能性につき、症例数を増やし検討する予定である。
  • 呂 軍, 鈴木 敏和, 佐藤 守, 陳 仕萍, 菅谷 茂, 朝長 毅, 野村 文夫, 鈴木 信夫
    セッションID: CP-119
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/20
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】放射線による抗癌治療の成績向上を目指し、がん細胞における放射線致死抵抗化に関わる因子を、放射線応答への関与が報告されていないタンパクの中から探索することとした。本発表では、X線照射により量的変動を示す核内タンパクのプロテオーム解析を行い、得られた候補タンパクの中で、解糖系酵素として知られているアルドラーゼAに着目し報告する。 【方法】蛍光標識二次元発現差異解析法(2D-DIGE)を用いて、HeLa細胞の核においてX線被照射時に量的変動をするタンパクの網羅的解析を行った。次に、ヒト細胞におけるX線致死感受性への候補タンパクの関わりを調べるため、そのタンパクの遺伝子に関する情報を基に、RNA干渉法を用いて、タンパクの細胞内量を抑制した。 【結果と考察】HeLa細胞を用いた網羅的解析では、X線被照射24時間後に核内発現量が2倍以上増加する6種類のタンパクを見出した。その中に、通常は細胞質に存在すると考えられているタンパク、アルドラーゼAが含まれていた。そこで、RNA干渉法によりアルドラーゼAの細胞内量を減少させたところ、HeLa細胞のX線致死感受性化が見られた。一方、X線致死抵抗化した派生株とその親株のヒト細胞において、アルドラーゼAの細胞内量とX線致死感受性との間に正の相関が見られた。以上の結果は、アルドラーゼAがヒト細胞の放射線抵抗化に関わることが示唆され、解糖系酵素の多面的機能も示唆している可能性がある。また、放射線によるがん治療の際に、アルドラーゼAの発現レベルをあらかじめ抑制し治療の有効性を向上させる方法も示唆される。
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