日本小児血液・がん学会雑誌
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61 巻, 2 号
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第65回日本小児血液・がん学会学術集会記録
解説講演3
  • 林 三枝, 石田 也寸志
    2024 年61 巻2 号 p. 135-143
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/07/30
    ジャーナル フリー

    7歳の娘が急性骨髄単球性白血病と診断され,治療が成功した経験から,小児がん経験者とその家族を支援する活動を始めた.2005年には,小児がん経験者が生命保険に加入することの困難さを解決するために「ハートリンク共済」を設立した.さらに,晩期合併症により就職が困難な小児がん経験者の支援のため,2011年にNPO法人「ハートリンクワーキングプロジェクト」を設立し,2013年には就労施設「ハートリンク喫茶」を開設した.これらの活動は,小児がん経験者が社会で自立して生きていくための支援を提供することを目指している.当会では,来られる方々に合わせた指導を行い,社会的職業訓練を重視している.特に金銭管理の教育に力を入れ,給料からの積立てを通じて財形貯蓄を促している.また,敬語や丁寧語の使い方を学び,コミュニケーション能力を向上させ,自己評価を通じて,自分の成長を確認し,一般企業での就労に向けた準備をする.しかし,就労支援活動を通じて,能力・知力が高くない人の企業の採用は難しく,一人一人に合った教育が必要であるが,その前に親元から離れて自立することが何より重要である.その他の活動として,小児がんフォローアップ研究助成事業,チャリティーコンサート,入院中の子どもへのライブ配信や遠隔教育支援等がある.最後に,医療関係者に対して就労困難者の支援を呼びかけた.

シンポジウム2:肝芽腫に対する外科治療 肝移植VS高難易度肝切除
  • 松浦 俊治, 前田 翔平, 梶原 啓資, 内田 康幸, 鳥井ケ原 幸博, 馬庭 淳之介, 髙橋 良彰, 川久保 尚徳, 田尻 達郎
    2024 年61 巻2 号 p. 144-147
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/07/30
    ジャーナル フリー

    肝芽腫に対する肝移植は2008年4月に保険収載されてから約15年が経過した.切除不能肝芽腫が肝移植適応とされるが,「切除不能」の判断は必ずしも容易ではない.一般的には,化学療法後においても4区域へ腫瘍進展が認められる場合(POST-TEXT IV)や腫瘍が3区域に限局していても主要な脈管に浸潤が疑われる場合(POST-TEXT III P+, V+)には切除不能と判断される.しかし,術前画像診断で切除可否を判断することが難しい場合もあり,仮に切除可能と考えられるような場合においても,肝移植に対応し得る施設での最終判断と手術が推奨されている.かつては,肝切除後再発などを理由とした救済的肝移植は,移植後の成績が著しく悪いとの報告から,切除可否が疑わしい症例は肝移植を優先させることが無難であると考えられていた.しかし,近年,わが国からの報告も含め,救済的肝移植の成績が決して悪くないとする報告もあり,肝移植後の長期的な合併症発症のリスクを考え併せると,移植を回避するためのチャレンジングな肝切除という治療選択も改めて見直されつつある.本稿では,血管再建や臓器保存などの移植手術の際に用いる技術を応用した肝切除術や残肝容量不足に対する対策など,非定型的高度肝切除術の概略と可能性について概説する.

シンポジウム3:非腫瘍性疾患に対する造血幹細胞移植
  • 平林 真介, 更科 岳大, 山本 雅樹, 小林 良二
    2024 年61 巻2 号 p. 148-153
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/07/30
    ジャーナル フリー

    先天性免疫異常症には400種類以上の原因遺伝子が知られており,重度の疾患では造血細胞移植による治療を要する.一方で先天性免疫異常症の発症頻度は低く,各疾患は希少である.各疾患によって病態が異なり,造血細胞移植の戦略を患者ごとに十分検討する必要がある.とくに乳児期の造血細胞移植が多く,前処置の選択や合併症の管理などの向上は必要である.また,造血細胞移植後の小児期,成人期における長期予後や合併症などのイベントの検討は必須である.1993年4月から2023年3月まで北海道内で47例(男児40例,女児7例)に対する合計54回の造血細胞移植が行われた.疾患の内訳は複合免疫不全症12例,特徴的所見や症候群を呈する複合免疫不全症9例,抗体産生不全を主とする疾患2例,免疫調節異常症6例,貪食細胞の数あるいは機能の異常16例,内因性あるいは自然免疫異常1例,自己炎症性疾患1例である.北海道の地域性を考えると長期フォローアップも含めて検討することは可能である.過去30年における北海道の先天性免疫異常症に対する造血細胞移植の調査を通して,その課題を考えたい.

シンポジウム4:小児血液腫瘍医療の集約化と均てん化
  • 山口 秀, 伊師 雪友, 茂木 洋晃, 寺下 友佳代, 平林 真介, 橋本 孝之, 真部 淳, 藤村 幹
    2024 年61 巻2 号 p. 154-158
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/07/30
    ジャーナル フリー

    小児脳腫瘍は希少疾患である.医師個人が経験できる症例は限られているため,個人の経験と直感に基づいた治療方針の決定は患者に有益とはならず,可能な限りの治療の均てん化は必須であろう.そのためには集約化のみでなく,一例毎の情報と経験の共有が大変重要となる.

    当院では小児脳腫瘍の診断治療にあたり,脳神経外科・小児科・放射線治療科を主体とする小児脳腫瘍キャンサーボードを中心としたシームレスな診療体制を構築している.週1回定期的に開催し,治療中の患者の情報共有,新患紹介と治療方針の検討,転科調整等を行うことで,経験症例の共有・治療効果の客観性の確保・治療タイムラグの減少が可能となっている.全症例を本ボードで検討し,診療科に拘らない適切かつ迅速な初期対応・治療を志している.

    2013年に当院が小児がん拠点病院に選定されてから,161例の20歳未満初発小児脳腫瘍患者の治療を行った.初発から対応したのは150例であり,内訳は低悪性度神経膠腫28例,悪性神経膠腫22例,上衣腫9例,胚細胞腫瘍27例,髄芽腫等の胎児性腫瘍21例等であった.初発時診断では,本ボード上での協議で9例(胚細胞腫瘍6例,低悪性度神経膠腫3例)が組織診断なしでの診断確定を合意し,後療法を施行した.治療後残存病変に対して追加摘出術に関しても,必要性や時期は本ボード上の協議にて決定された.年齢に応じた治療方針や晩期障害を見据えた化学療法・放射線治療の選択,他施設からの相談症例に関しても本ボードでの討議事項である.治療に関わる複数科医師での合意・共通疾患認識が重要であり,本ボードがその中心の役割を果たしている.

教育セッション2:脳腫瘍(ATRT/上衣腫,胚細胞性腫瘍)
  • 山口 秀, 真部 淳, 藤村 幹
    2024 年61 巻2 号 p. 159-164
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/07/30
    ジャーナル フリー

    Atypical teratoid/rhabdoid tumor(AT/RT)は2歳以下の乳幼児に好発し,非常に予後不良の疾患である.SMARCB1またはSMARCA4の不活性化が特徴であり,ラブドイド腫瘍素因症候群が疾患背景に存在することも多い.末梢血幹細胞救済併用の超大量化学療法が積極的に試みられている.上衣腫は発生部位で分類され,さらに分子生物学的に分類される.小児にはテント上とテント下が多く,テント上は融合遺伝子異常によりZFTA融合型とYAP1融合型,テント下はDNAメチル化状態によりPFAとPFBに分けられる.ZFTA融合型とPFAが予後不良である.いずれの群においても外科切除が最も重要であり,放射線治療や化学療法に関しては手術摘出度や分子分類に基づいて施行される.胚細胞腫瘍は神経下垂体,松果体,基底核に好発する.本邦に多い腫瘍であり,松果体が原発の場合はほぼ男児であることなど,遺伝的要素が疾患背景にあることが強く示唆される.ジャーミノーマと非ジャーミノーマに分類されるが,非ジャーミノーマにおいては,未熟奇形腫が主体である群(中等度悪性群)とそれ以外の悪性胚細胞腫瘍に分類されて治療が行われる.ジャーミノーマは化学放射線治療感受性の極めて高い腫瘍であり高い治癒率を示すが,神経症状は不可逆的であるため,早期発見・治療が望まれる.非ジャーミノーマに対する治療法は確立されておらず,今後の臨床試験の結果が期待される.

学術賞講演1
  • 田中 邦昭, 加藤 格, 豊田 秀実, 後藤 裕明
    2024 年61 巻2 号 p. 165-175
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/07/30
    ジャーナル フリー

    再発・難治小児急性リンパ芽球性白血病(acute lymphoblastic leukemia: ALL)は未だ予後不良であり,病態や治療開発研究は喫緊の課題である.しかし,希少性から十分な研究に使用可能なリソースの確保の困難さが障壁となっている.今回我々は,小児がん研究グループ(Japan Children’s Cancer Group: JCCG)再発ALL委員会において収集された患者検体を中心とした57系統の小児ALLの患者由来異種移植(patient-derived xenograft: PDX)マウスモデルを樹立し,PDX細胞を保存することにより本邦初の小児ALLのPDXバイオバンクを設立した.我々はPDXマウス,及び,PDX細胞が由来する患者検体の病理学的特徴と分子遺伝学的特徴を再現していることを示した.加えて,PDX細胞の80種類の網羅的なin vitro薬剤感受性データを取得し,その特徴がPDXマウスを用いたin vivo薬剤感受性の結果と一致した傾向を示すことを確認した.また,PDXモデルが治療によるクローン選択を再現することも示した.我々のPDXバイオバンクは小児ALLの病態・治療開発研究に有用なリソースを広く提供することを目的として,実中研と協力し体制整備を進めている.

原著
  • 山本 暢之, 大曽根 眞也, 鈴木 孝二, 篠田 邦大, 斎藤 雄弥, 澤田 明久, 石田 裕二, 森 尚子, 加藤 陽子, 新小田 雄一, ...
    2024 年61 巻2 号 p. 176-183
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/07/30
    ジャーナル フリー

    【背景】小児がん治療中の口腔粘膜障害について,国内での予防や治療の現状は不明である.そこで日本小児がん研究グループ(JCCG)参加施設における現状調査を行った.【方法】JCCG参加153施設を対象に2017年4月から7月まで,口腔粘膜障害の予防と治療についてウェブアンケート調査を行った.【結果】108施設(71%),110診療科から回答を得た.医師だけではなく看護師,歯科医師,歯科衛生士が中心となり,多職種による口腔ケアが行われていた.72%の診療科で小児がん患者への口腔ケアの指導が行われ,65%の診療科で含嗽とブラッシングを併用した口腔ケアが行われていた.クライオセラピーは64%の診療科で経験があり,うちメルファラン投与時に行う診療科が84%と最も多かった.口腔粘膜障害による疼痛に対してアセトアミノフェン,非ステロイド性消炎鎮痛剤,オピオイドなどが使用されていた.【考察】小児がん患者に対する口腔ケアが国内で標準化されていないことが明らかとなった.更なる口腔ケアの向上に向けた研究が必要である.

  • 本田 護, 荒川 ゆうき, 水島 喜隆, 入倉 朋也, 石川 貴大, 渡壁 麻依, 金子 綾太, 三谷友 一, 窪田 博仁, 森 麻希子, ...
    2024 年61 巻2 号 p. 184-190
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/07/30
    ジャーナル フリー

    背景:神経芽腫に対するdinutuximab(DIN)とG-CSF,IL-2製剤を用いた抗GD2抗体療法の経験を報告する.

    対象と方法:2021年9月から2023年3月までの間に当院で高リスク神経芽腫と診断され抗GD2抗体療法を受けた症例を対象として,その有害事象と管理の実際について後方視的に検討した.

    結果:対象は全8例(男児4名),抗GD2抗体療法開始時の年齢は中央値4.9歳,開始時点で7例が完全寛解であった.8例に対して合計43サイクル(CSFレジメン22サイクル,IL-2レジメン21サイクル)実施した.7例で全6サイクルを完了したが,1例は原病進行により1サイクルで中止した.主な血液毒性として好中球減少,血小板減少,貧血がそれぞれ43サイクル中7,5,4サイクルで観察された.NCI-CTCAEのGrade 3以上の非血液毒性としてinfusion reaction,capillary leak syndrome,肝酵素上昇がそれぞれ43サイクル中4,5,13サイクルで観察された.5サイクルでDINの一時中断を要したが,有害事象はいずれも許容範囲内であり7例で治療を完遂できた.観察期間内で8例中5例は再発せずに生存し,2例は抗GD2抗体療法終了時に再発し,1例は病勢進行後まもなく原病死した.

    結論:高リスク神経芽腫に対して抗GD2抗体療法は安全に実施可能である.

症例報告
  • 山本 裕輝, 清水 隆弘, 森 昌玄, 小池 隆志, 中村 直哉, 渡辺 稔彦
    2024 年61 巻2 号 p. 191-195
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/07/30
    ジャーナル フリー

    小児肝悪性腫瘍では完全切除が予後因子とされる.今回我々は小児肝悪性腫瘍2例に対して術前にインドシアニングリーン(Indocyanine Green;以下ICG)を投与して術中の肉眼的な蛍光ナビゲーションを併用して肝切除を行い,その蛍光組織像を共焦点顕微鏡で観察した.症例1は肝未分化肉腫の7歳女児で,拡大肝右葉切除術を施行された.腫瘍にはICGは集積せず,腫瘍周囲の正常肝組織にICGが集積していた.症例2は肝芽腫の2歳女児で,肝右葉切除術を施行された.腫瘍組織に強くICGが集積し,正常肝組織にはICGの集積を認めなかった.肝未分化肉腫と肝芽腫ではICGの集積像が異なることを共焦点顕微鏡で確認した.2つの異なる小児肝悪性腫瘍でICG集積パターンに違いが見られたが,いずれにおいても術中ICG蛍光ナビゲーション手術は完全切除を行う上で,非常に有効であった.

  • 須永 紋奈, 時政 定雄, 曽我部 茉耶, 左 信哲, 匹田 典克, 濱崎 考史
    2024 年61 巻2 号 p. 196-200
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/07/30
    ジャーナル フリー

    症例は2歳2か月男児で,明らかな水痘罹患歴はなく,1歳1か月時に右上腕に水痘ワクチンを1回接種していた.2歳0か月時にB前駆細胞性急性リンパ性白血病を発症し,高リスク群として寛解導入療法を実施中に免疫抑制下で右上肢・右肩に帯状疱疹を発症した.患部水疱液の遺伝子解析により水痘ワクチン株由来の帯状疱疹と診断した.アシクロビル静注により重症化することなく治癒した.ワクチン株は野生株よりも弱毒で,潜伏ウイルス量が少なく経時的に減少するとされている.しかし,化学療法や免疫抑制剤により細胞性免疫が低下した患児では,水痘ワクチン接種から比較的期間が空いていても,ワクチン株由来の帯状疱疹を発症する可能性がある.そのため,皮疹が出現して帯状疱疹を疑う場合には速やかに治療を開始することが重要である.

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