日本小児血液・がん学会雑誌
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第64回日本小児血液・がん学会学術集会記録
シンポジウム6:小児固形腫瘍における基礎・トランスレーショナル研究の現状と展望
  • 本多 昌平, 近藤 享史, 河原 仁守, 荒 桃子, 奥村 一慶, 河北 一誠, 武冨 紹信
    2024 年 61 巻 1 号 p. 1-11
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/16
    ジャーナル 認証あり

    【背景と目的】本研究では,肝芽腫においてゲノム変異が稀であることから,エピゲノム変異がその発生,進展に重要な役割を果たしていると考え,特にDNAメチル化異常に着目し,臨床病理学的予後因子を統合したCHIC-HSと組み合わせて,より有用な予後予測モデルを作成することを目的とした.【対象と方法】1999年から2012年までにJPLTの関連施設でJPLT-2プロトコールに基づき治療を受け,肝切除を施行された肝芽腫患者132例を対象とし,バイサルファイトパイロシークエンシング法を用い,RASSF1APARP6OCIAD2MST1RGPR180の5つの遺伝子のDNAメチル化率の定量的評価を行った.【結果】4遺伝子(RASSF1APARP6OCIAD2MST1R)のメチル化群でOS,EFS共に有意に不良であった.多変量Cox回帰分析から,高メチル化遺伝子を2個以上持つことは,OS,EFSに関する独立した予後因子であった.2個以上高メチル遺伝子を持つ群をより上位のリスク郡に層別化する新規リスク分類(methylation-based CHIC-HS; mCHIC-HS)を作成したところ,各リスク群においてCHIC-HSを適正化し得た.【結論】CHIC-HSにDNAメチル化解析に基づく分子学的予後因子を統合することで,より適切な予後層別化が可能となり,リスクに応じた治療選択が実現し得る.今後,このモデルの有用性を前向きに検討していきたい.

高得点セッション3:血液・免疫
  • 緒方 瑛人, 川口 晃司, 丹後 結衣, 福井 渉, 安積 昌平, 高地 貴行, 小倉 妙美, 児玉 洋平, 中野 玲二, 堀越 泰雄, 金 ...
    2024 年 61 巻 1 号 p. 12-16
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/16
    ジャーナル 認証あり

    多発奇形症候群であるCHARGE症候群はときに免疫不全症を発症することがある.今回,重症複合免疫不全症を合併したCHARGE症候群の男児に臍帯血移植を行ったので報告する.患者は胎児発育不全にて当院紹介となり,妊娠37週に出生した.多発奇形を認め,CHD7を含む領域の欠損からCHARGE症候群と診断された.生後1か月から難治性の中耳炎と肺炎を繰り返し,リンパ球サブセット解析で重症複合免疫不全(T-B+NK+)と診断した.免疫グロブリン補充,予防的抗菌薬および抗真菌薬投与を開始し,生後6か月時に前処置なしでHLA 7/8アリル一致臍帯血移植をNICUで行った.GVHD予防は短期メトトレキサートとタクロリムスを用いた.移植後T細胞数の増加を認め,フローサイトメトリーでCD45RA陰性のナイーブT細胞の出現を認めた.グレード2の皮膚急性GVHDを認めたが,2 mg/kgのプレドニン投与で速やかに消失し,移植後2か月でステロイド投与終了,以降のGVHDの再燃を認めなかった.SCIDを合併したCHARGE症候群に対する根治的治療は胸腺移植であるが日本を含む多くの国で行うことができない.代替治療として臍帯血移植を行うことで免疫構築されることが報告されており,有効な治療として期待されている.

第65回日本小児血液・がん学会学術集会記録
会長講演
JSPHO&JCCG特別企画 ジョイントシンポジウム:長期フォローアップの問題点と今後の展望
  • 加藤 実穂, 瀧本 哲也
    2024 年 61 巻 1 号 p. 21-26
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/16
    ジャーナル 認証あり

    小児がん長期フォローアップの目的は,QOLの保たれた長期生存のための晩期合併症の予防,早期発見,適切な管理であり,これらの各々について本邦でも独自のエビデンス創出が必要である.この目的のもとに現在がん対策推進総合研究事業の一環として,通称「長期フォローアップ松本班」による全国規模の長期フォローアップ体制の構築計画が進行中である.この枠組みにおいて,データセンターは情報インフラの整備について主要な役割を担っている.

    長期フォローアップ松本班では,医師と小児がん経験者(CCS)からデータを収集する双方向性データベースを採用する予定である.また,予測モデルの構築を念頭にデータを収集することで,のちにリスクを想定して先手を打つ先制医療(Preemptive Medicine)としての長期フォローアップが実施できるようになり,さらに臨床情報とゲノムデータの連携によって,CCSの個別リスクに応じたPrecision Survivorshipも可能になると考えている.また,長期フォローアップは治療終了後に始まるのではなく小児がん発症時にがん登録で患者の存在を把握しておくことが重要であり,これによってLoss to follow-upを減らすことができる可能性がある.

    本稿では長期フォローアップ松本班における情報インフラ整備の進捗,その活動の背景にある戦略や,将来的な国際共同などに関する展望について述べる.

日本癌学会/日本小児血液・がん学会合同シンポジウム:小児がん研究:今後の展望
  • 間野 博行
    2024 年 61 巻 1 号 p. 27-30
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/16
    ジャーナル 認証あり

    がん研究の進歩により多くのドライバーがん遺伝子が同定され,さらに,同じがん遺伝子が臓器を越えて複数のがん種に存在することが明らかになった.また,次世代シークエンサーの登場によって数多くのドライバー遺伝子変異を一度に解析することが可能になり,これらの情報に基づいて治療介入の最適化を行う「がんゲノム医療」が現実のものとなった.我が国においても2019年6月から2種類のがん遺伝子パネル検査が保険収載され,国民皆保険下でがんゲノム医療が開始されたところである.2024年1月現在で計260カ所の医療施設でがんゲノム医療が行われており,その数は現在も増加し続けている.またがんゲノム医療を受ける患者のゲノム情報と臨床情報を集約・利活用するデータセンターとして「がんゲノム情報管理センター(Center for Cancer Genomics and Advanced Therapeutics: C-CAT)」も設置された.2023年11月までにC-CATに集約されたゲノム情報・臨床情報は6.6万件を超え,適合する臨床試験などをリストした患者ごとのC-CAT調査結果も臨床現場に返却されている.さらに2021年10月から,C-CATに集約されるデータを一般のアカデミア・企業で利活用するための「利活用検索ポータル」も稼働し,既に製薬会社を含む75課題がデータ利用を承認されている.こうして世界的にも先進的ながんゲノム医療が日本で構築され,またこれらのデータを用いた小児がん研究も既に始まっている.

日本放射線腫瘍学会/日本小児血液・がん学会合同シンポジウム:緩和的放射線治療の有効性を知ろう―成人の緩和的放射線治療のエビデンスから学ぶ
  • 大久保 悠
    2024 年 61 巻 1 号 p. 31-36
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/16
    ジャーナル 認証あり

    成人の転移性脳腫瘍に対する放射線治療医の考え方を概説する.1954年にChaoらが脳転移に対する全脳照射の有用性を報告して以来,全脳照射は症状緩和の標準的な治療法のひとつとされてきた.また線量を集中的に照射する定位放射線照射(定位照射)が開発され,現在では少数個の脳転移に対しては局所制御を目的とした定位照射も標準治療のひとつとなっている.従来は5–10個といった多数の脳転移病変に対しては主に定位照射専用の治療装置であるガンマナイフを用いた治療が行われていたが,最近では技術開発により通常のリニアックでも容易に複数個の脳転移病変に対する定位照射が行えるようになってきており,今後はさらに脳転移治療における定位照射の役割が増してくると考えられる.しかし定位照射後,早期に新規脳転移病変が出現する場合も多く,それを予防するため定位照射に全脳照射を組み合わせた治療も行われている.また全脳照射による認知機能障害を低減させるために,海馬の線量を下げた海馬回避全脳照射や,線量の最適化といった工夫も導入されてきている.一方で,どのような症例に全脳照射,定位照射,あるいはその組み合わせが最適なのかを判断する材料のひとつに予後予測法がある.しかし免疫チェックポイント阻害剤や新しい分子標的薬の登場によって治療の選択肢はますます複雑化しており,さらなる治療の最適化・個別化のためには,課題がまだ山積みである.

シンポジウム5:小児固形腫瘍に対する新規治療開発
  • 𠮷田 秀樹
    2024 年 61 巻 1 号 p. 37-42
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/16
    ジャーナル 認証あり

    小児がんの治療において,治癒を目指すことはもちろんであるが,晩期障害の少ない治療法の開発が非常に重要である.近年,腫瘍溶解性ウイルス療法(oncolytic virotherapy; OV)が新規治療の一つとして有望視されている.世界中で様々な種類のOVが開発されているが,共通するコンセプトは,正常細胞には可能な限り悪影響を及ぼさないこと,腫瘍細胞にのみ感染し,腫瘍細胞内で増殖したウイルスが隣接する腫瘍細胞に次々に伝播して抗腫瘍効果を示すことである.またウイルスによる直接的殺細胞効果だけでなく,OVが腫瘍微小環境を免疫学的に「cold」から「hot」な状態に変化させることによる免疫賦活作用にも期待でき,最近ではむしろ後者の抗腫瘍効果が注目されている.2021年6月には,Teserpaturev(Delytact; G47Δ)が,悪性神経膠腫を対象としたウイルス療法として本邦で初めて承認されたのは記憶に新しい.我々はアデノウイルスの遺伝子を改変し,小児がんの中で難治とされるPAX3::FOXO1陽性の横紋筋肉腫やラブドイド腫瘍に対するOV開発を行ってきた.本講演では,まずOVの治療開発の歴史から最近の研究,臨床応用に至るまで,OVの全般的な潜在的な魅力を概説する.その後小児がんに対するOVについて,その現状と今後の展望を紹介する.

原著
  • 大井 遼, 山崎 夏維, 東 紗希子, 菊池 菜摘, 野口 真由子, 仁谷 千賀, 岡田 恵子, 藤崎 弘之, 原 純一
    2024 年 61 巻 1 号 p. 43-48
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/16
    ジャーナル 認証あり

    近年,急性骨髄性白血病に対するvenetoclax/azacitidine併用療法(VEN/AZA)の高い有効性・安全性の報告が成人では相次いでいるが,小児例に対する報告は少ない.今回,当院で治療を行った小児再発/難治AMLの4例について報告する.1例は初回寛解導入不能例で,3例は同種造血幹細胞移植後の再発だった.VEN/AZAのコース数の中央値は3(2–4コース)だった.血液学的完全寛解は1コース後に2例で,2コース後には全例で達成した.3例で後に造血幹細胞移植を実施した.Grade 4の好中球減少症は12コース中9コース(75%)で認めた.好中球100/µL未満の減少は初回コースでは多かったが,2コース目以降では8コース中で1コースのみだった.その他,VEN/AZAによる重篤な有害事象はなかった.4例全てで寛解導入が達成され,骨髄抑制以外の副作用は少なかったことから,VEN/AZAは再発難治小児AMLに対する寛解導入の新たな選択肢として期待され,移植後再発で全身状態不良な症例にも用量や投与日数を減らして安全に使用できる可能性が示唆された.

  • 田坂 佳資, 梅田 雄嗣, 内原 嘉仁, 幸伏 寛和, 神鳥 達哉, 窪田 博仁, 才田 聡, 加藤 格, 平松 英文, 滝田 順子
    2024 年 61 巻 1 号 p. 49-55
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/16
    ジャーナル 認証あり

    2010年1月から2023年3月の間に20歳未満で同種造血細胞移植(hematopoietic cell transplantation; HCT)を受けた89例(同種移植103件)を対象として,同種HCT後免疫性血球減少症(immune mediated cytopenias; IMC)の発症頻度,リスク因子,治療とその反応性を後方視的に検討した.IMCの2年累積発症率は4.8%で,多変量解析では移植時低年齢(1歳未満)のみが独立した発症リスク因子として挙がった(P値=0.039).4例がIMC(自己免疫性溶血性貧血:2例,免疫性血小板減少症:2例)を合併し,発症日の中央値は移植後95日(範囲:56–432日)であった.全例とも原疾患は非腫瘍性疾患で,移植前処置として強度減弱前処置を使用し,ドナーソースは非血縁者であった.2例はprednisoloneや免疫グロブリン投与に抵抗性を示し,rituximabに加えてmTOR阻害剤everolimusまたは抗CD38モノクローナル抗体daratumumabの投与が有効であった.全例で完全奏効を達成したが,1例はIMCの再発を来した.本邦における同種HCT後IMCの実態を明らかにするために全国調査の実施が望まれる.

  • 永富 麻美, 入江 亘, 佐々木 匠, 菅原 明子, 笹原 洋二, 塩飽 仁
    2024 年 61 巻 1 号 p. 56-64
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/16
    ジャーナル 認証あり

    入院中の小児がん患者と前籍校の級友との間の繋がりの存在には様々な利点があるが,これら双方の交流に対する認識や相互のニーズは十分に明らかでない.そこで,学齢期に長期入院を経験した小児がん患者とその前籍校の級友との間の入院中の交流の認識を明らかにし,入院中の子どもとその級友とのより良い繋がりへの支援の在り方を検討することを目的に,成人した小児がん経験者7名と当時の級友3名を対象に半構造化インタビュー調査を行い,内容分析法にて分析した.その結果,【級友には病気のことを伝えたい】,【どう思われるか不安に思う】等経験者の繋がりに対する7カテゴリの認識,【病気のことを知りたい】,【どう接したら良いかわからない】等級友の繋がりに対する10カテゴリの認識が明らかとなり,学齢期の入院中の交流において経験者は繋がることや級友への病気の情報開示に,級友は経験者への接し方に対してジレンマを感じていた.また,繋がりについて周囲の大人に望む支援として【クラスメイトへ説明をして欲しい】,【大人同士で情報共有をして欲しい】等の5つのカテゴリが生成された.小児がん患者と級友との間の繋がりの維持は重要であるが,発達段階や置かれた状況により,繋がりへのニーズが高まる時期は異なると考えられた.医療職者は,小児がん患者と級友双方の認識と支援ニーズを継続的にとらえながら,相互の状況の理解の橋渡しを担う必要がある.

  • 永吉 美智枝, 東樹 京子, 高橋 衣, 瀧田 浩平, 秋山 政晴, 柳澤 隆昭, 田村 宏美, 佐藤 三由紀, 安藤 あゆみ
    2024 年 61 巻 1 号 p. 65-71
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/16
    ジャーナル 認証あり

    本研究は,網膜芽細腫の患児へ母親が病気の理解を促す方法と難しさを明らかにすることを目的とした.研究デザインは質的記述的研究法を用い,治療中または経過観察中の3~7歳の網膜芽細胞腫の患児の母親11名を対象に半構造化面接を行った.母親の年齢の中央値は42(29–45)歳であった.分析から理解を促す方法12カテゴリーと母親が感じる難しさ2カテゴリーが生成された.

    診断後の時期に母親は【病気や治療について詳しく話さず,わかる内容に留める】が,患児の発達に応じ【眼の病気の診察や検査を受けるために受診すると説明する】と眼の病気と受診を関連づけていた.【眼の病気や経過と関連づけて治療の理由を説明する】きっかけには眼球摘出があった.また,【“がん”という言葉を使わず,視力低下や生命に関わる病気であったと説明する】様相がみられた.“がん”や義眼,視覚障害の段階的な説明のタイミングを重視し,慎重に言葉を選ぶ一方で,死という言葉を伝えざるを得ない状況に直面していた.遺伝など成人期を見据えた説明を考える母親がおり,【子どもへの対応のなかで,ショックや罪悪感を抱く】状況もみられた.

    患児への病気理解の促しには,診断後の乳幼児期から母親の心理に配慮したタイムリーかつ発達に応じた計画的な説明と,診療科間や多職種が連携した支援体制の構築が求められる.

  • 永吉 美智枝, 東樹 京子, 高橋 衣, 瀧田 浩平, 秋山 政晴, 柳澤 隆昭, 田村 宏美, 佐藤 三由紀, 安藤 あゆみ
    2024 年 61 巻 1 号 p. 72-79
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/16
    ジャーナル 認証あり

    本研究の目的は,網膜芽細胞腫の患児へ眼と見え方の理解を促す方法を明らかにすることである.質的記述的研究デザインを用い,治療中または経過観察中の3~7歳の患児の母親11名を対象に半構造化面接を実施した.本研究は研究者の所属施設の倫理委員会の承認を得た.分析の過程で母親が捉える患児の眼と見え方の理解が26サブカテゴリー,10カテゴリー,患児に眼と見え方の理解を促す方法は23サブカテゴリー,13カテゴリーが生成された.患児には【見え方に違和感を感じていない】様子と,【見えにくさと左右の見え方の違いに気づき表現する】,【見えにくさに自分で対処する】様子がみられた.さらに,友達と自分の眼を比較し【自分と他者の視覚や容姿の違いを意識する】,【自分の眼に対する疑問をもち健常な眼を羨やむ】状況がみられた.母親は,患児の行動を視覚と関連づけて観察しながら,【左右の眼と見え方の違いとより見える方法の説明】を行い,見えない部分への意識と事故予防など行動上の注意を繰り返し教える状況があった.また,【残存している眼球と視力の保護の促し】,【視力を弱点と感じずにできることへの気づきの促し】をすることがあった.視覚の評価に基づく幼児期の視覚的認知発達に関する助言と,必要に応じた視覚障害の専門家と連携した発達支援を開始する必要性が示唆された.

症例報告
  • 坂口 大典, 三上 真充, 酒井 達紘, 藤尾 光, 秦 大資, 石前 峰斉, 江口 真理子, 塩田 光隆
    2024 年 61 巻 1 号 p. 80-85
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/16
    ジャーナル 認証あり

    乳児B前駆細胞型急性リンパ性白血病(BCP-ALL)の多くはKMT2A遺伝子再構成陽性で予後不良である.また低年齢発症例(生後6か月未満)も予後不良因子とされる.一方KMT2A遺伝子再構成陰性例は比較的予後良好であることが知られていたが,2021年に日本を含む世界的な検討で,KMT2A遺伝子再構成陰性の乳児BCP-ALLの中にNUTM1(nuclear protein in the testis member 1)融合遺伝子陽性例が存在し,4年全生存率は100%であったことが報告された.

    今回生後4か月で発症し,最終的にNUTM1融合遺伝子を認めた乳児BCP-ALL例を経験した.肝脾腫を指摘され当院を紹介受診し,精査にてBCP-ALLと診断された.骨髄検査でKMT2A遺伝子再構成陰性であり,染色体検査でt(14;15)(q24;q15)を認めたことを契機にNUTM1融合遺伝子の存在が判明した.染色体15qの異常を有する乳児BCP-ALLではNUTM1融合遺伝子の検索が重要であると思われた.

  • 保坂 郁実, 笠井 慎, 玉井 望雅, 渡邊 敦, 赤羽 弘資, 合井 久美子, 犬飼 岳史
    2024 年 61 巻 1 号 p. 86-89
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/16
    ジャーナル 認証あり

    ステロイドは急性リンパ性白血病(ALL: acute lymphoblastic leukemia)のkey drugであり,ALL治療では脊髄腔内注射のために腰椎穿刺が反復して実施される.硬膜外脂肪腫症(SEL: spinal epidural lipomatosis)は硬膜外腔における脂肪組織の過成長を特徴とする病態であり,小児ALLのステロイド療法におけるまれな合併症で,腰椎穿刺に困難をきたしうる.今回,再寛解導入相におけるステロイド投与の直後にSELを発症した5歳のALL男児例を経験した.症例は13回目の髄腔内注射の施行時に腰椎穿刺が困難で,神経症状はなかったものの脊髄のMRI検査でSELの診断基準に合致する所見を認めた.1ヶ月後の再評価で硬膜外脂肪層の縮小と十分な髄腔間隙を確認し,髄腔内注射を実施した.したがって,ALLの治療中に腰椎穿刺が困難となった場合には,SELを合併症として考慮するべきである.

  • 横井 暁子, 長谷川 大一郎, 小阪 嘉之
    2024 年 61 巻 1 号 p. 90-92
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/16
    ジャーナル 認証あり

    卵巣成熟奇形腫は,小児期の卵巣腫瘍の中で最も頻度が高い良性腫瘍である.同側の再発や異時性対側発症が確認され,妊孕性温存を鑑みて腫瘍核出術が推奨される.本報告の女児は,2歳2ヶ月時,発熱のため近医受診,下腹部腫瘍を指摘されて当院紹介となった.腫瘍マーカーはいずれも陰性で,造影CTで径8 cmの石灰化を含む嚢胞性腫瘍を認め,卵巣成熟奇形腫の疑いで開腹,左卵巣腫瘍核出術を施行した.病理診断も成熟奇形腫であった.9歳1ヶ月時に右卵巣に対側発症し核出術施行,10歳10ヶ月時,右卵巣に再発あり,再度核出術を施行した.12歳1ヶ月時に初潮発来,12歳5ヶ月時に左卵巣に再発,増大傾向を認めたため核出術を施行した.13歳9ヶ月より無月経となり,14歳6ヶ月に卵子枯渇を指摘された.卵巣成熟奇形腫の両側例では,腫瘍核出術を行っても,早期に閉経する可能性があり,妊孕性温存療法を検討する必要があると考えられた.

  • 吉村 萌, 福島 敬, 渡邊 温子, 太田 充彦, 清水 優輝, 福島 紘子, 石田 裕二, 小阪 嘉之, 鈴木 智成, 田中 竜平
    2024 年 61 巻 1 号 p. 93-98
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/16
    ジャーナル 認証あり

    小児の平等な権利を保証する観点から,2016年4月に小児がん陽子線治療が保険収載されたことは促進要因となり,施設間連携の重要性が高まっている.集学的治療において陽子線を利用した当院の診療連携について分析した.【方法】対象は2019年4月から2021年5月の間に当院で治療を開始後に陽子線施設と連携した連続10症例である.陽子線治療施設への連絡方法等,治療日程遅延の有無,有害事象他について分析した.【結果】対象10例は,髄芽腫4,再発上衣腫2,Ewing肉腫2,松果体腫瘍(pineal parenchymal tumor of intermediate differentiation)1,Hodgkinリンパ腫1であった.小児がん拠点病院・連携病院体制に基づく関東甲信越地域内の連携は5例で,他の5例は地域外施設との広域連携であった.各症例の治療計画に遅滞なく,または許容範囲の待機期間の後に陽子線治療を利用できた.【結論】広域的視野により陽子線施設との連携を促進し,患児・家族を支援することで,陽子線を利用した小児がん集学的治療の機会均てん化が実現する可能性がある.

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