日本小児血液・がん学会雑誌
Online ISSN : 2189-5384
Print ISSN : 2187-011X
ISSN-L : 2187-011X
最新号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
第66回日本小児血液・がん学会学術集会記録
二学会合同シンポジウム:未来を見守る小児がん医療:長期フォローアップと成人移行を考える
  • 笹木 忍
    2025 年62 巻2 号 p. 125-127
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/21
    ジャーナル 認証あり

    小児がん治療の進歩により,現在では70~80%が長期寛解を維持できるようになった.小児がんの治療はこどもの成長・発達途中に行われるため,晩期合併症など治療を終えた後も年齢に応じた長期にわたるフォローアップが必要である.また小児がんの種類によって,原発部位や治療,それらの副作用・晩期合併症は様々であり,小児がん経験者ひとりひとりに対応した支援が求められる.

    当院の長期フォローアップ外来では,小児がん経験者の自立を目指し,試行錯誤しながら支援を行っている.小児がんを発症した年齢を考慮し,小児がん経験者自身が病気や晩期合併症に対してどのような理解をしているのか,日常生活での困りごとや心配ごとはないか,などその方のライフイベントやタイミングに合わせた対応をその方と一緒に検討している.しかしながら,小児医療だけでは対応が難しいことも多く,成人診療科や教育・福祉分野など様々な領域と連携・協働し,小児がん経験者の方の思いや考えも大事にしながら支援を組み立てていくことの重要性を感じている.

    小児がん経験者の方の中には,「治療を頑張って乗り越えても何度も壁にぶつかり,乗り越えても乗り越えても壁がある」と語られることもある.その方自身がそれらの壁と付き合いながら成長し,その方らしく生きていくためにはどうすればよいか.今回,セッションでのディスカッションを通して,今後の小児がん長期フォローアップの支援について深めていきたいと考える.

第4回女性・若手医師活動支援シンポジウム:女性医師や若手医師のキャリア支援
  • 加藤 実穂
    2025 年62 巻2 号 p. 128-134
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/21
    ジャーナル 認証あり

    医学生時代のある出会いを機に小児がんの道を志し,小児がん長期フォローアップに携わりたいという思いを胸に医師になった.研修医時代に米国にて全人的な小児がん長期フォローアップ体制が実装されている現場を目の当たりにし,日本にも系統的な体制を導入する道を模索する過程で,ご縁に導かれるように臨床現場から成育データセンターに着任するに至った.その後成育データセンターとして本邦における長期フォローアップ体制の構築事業に携わり,現在,その体制の実装や他分野への適用,国際連携の基盤づくりのための準備等を行っている.未だ道半ばではあるものの,振り返ると,重要な転換点には常に小児がん領域において偉業を成し遂げてこられた先生方との有難い出会いがあり,それらすべての出来事が一連の流れのなかでつながっていたと感じている.

    日頃から夢を意識し,それに向かって誠実に行動していれば,誰にでもチャンスは巡ってくるものと思う.いざチャンスが巡ってきた時にすぐに手を伸ばせるよう,予め自身の独自性を高めるよう努めることは有用と考える.また何より,人様とのご縁を大切にすることに尽きるように思う.

    私のキャリア形成は王道とは異なるものであるが,女性・若手医師が将来について考える際に,ほんの少しでもお役に立てれば幸いである.

  • 山﨑 悦子
    2025 年62 巻2 号 p. 135-139
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/21
    ジャーナル 認証あり

    今回は,成人白血病治療共同研究機構(JALSG)で成人急性リンパ性白血病(ALL)の成人型治療から小児型治療への変遷,日本小児がん研究グループ血液腫瘍分科会(JPLSG)との協働臨床研究への経緯,協働研究開始までの過程についてまとめた.成人ALLの成人型治療における5年生存率は30–40%と長年低迷していた.JALSGでは,25歳以上に成人型ALL治療へ大量メトトレキセート療法を組み込み5年生存率(OS)を64%まで上昇させ,25歳未満は小児高リスクALL治療を用いて5年OSが73%となった(ALL202).次に行われたALL213は小児型プロトコールを採用し,フィラデルフィア陰性B細胞ALLでは3年OS 69.3%に,25歳未満T-ALLはJPLSGと協働研究を行うことにより3年OS 93.4%(15–24歳)という成績を得た.このような経緯から,次の臨床研究はJPLSGと一体で協働研究を行う,という方向性がとられ,2017年6月第1回JPLSG-JALSG ALL合同会議が開催された.小児血液医と血液内科医には思考の違いはあるものの,ALLに対してより良い治療をより安全に実施したいという共通目標のもと,プロトコール作成から臨床試験開始へと進んだ.ALL-B19,ALL-T19として始まった臨床試験はともに折り返しを過ぎ試験登録も後半に入っており,順調に推移している.

シンポジウム1:造血器腫瘍における分子標的薬を用いた治療戦略
  • 加藤 元博
    2025 年62 巻2 号 p. 140-145
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/21
    ジャーナル 認証あり

    小児急性リンパ性白血病(ALL)の次世代の治療戦略として標的治療への期待が高まっている.そのひとつが,腫瘍細胞の病態の根幹であるゲノム上から生じた異常分子を直接の標的とする分子標的療法である.例として,チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)の導入により,フィラデルフィア染色体陽性ALL(Ph+ALL)の治療成績は大幅に向上した.さらに近年ではPh-like ALLなどへの応用も試みられている.また,KMT2A再構成陽性ALLに対するメニン阻害や,ALK融合遺伝子を持つ造血器腫瘍に対するALK阻害剤なども有効性を示唆する報告がなされている.ゲノムプロファイリング検査の臨床導入とそれに基づく薬剤開発の進展により,より多くの症例で適切な分子標的治療を選択できるようになることが期待される.さらに,免疫学的な機序を利用し,特定の表面抗原を標的とした治療が再発・難治ALLの実臨床に導入されている.遺伝子改変T細胞や抗体薬物複合体は再発ALLの治療を変革させている.また,二重特異性抗体であるブリナツモマブは,再発・難治ALLへの有効性が示された他,初発ALLへの導入が臨床試験で試みられている.さらには,Ph+ALLに対するTKIとの併用など,標準治療を大きく変える可能性がある.標的治療のもとでの層別化因子の同定や,有効性を規定する免疫環境の探索など,取り組むべき課題は残されているが,標的治療の導入により,ALLの治療さらなる飛躍を遂げると期待される.

シンポジウム2:小児希少固形腫瘍の病理と臨床
  • 田中 水緒
    2025 年62 巻2 号 p. 146-152
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/21
    ジャーナル 認証あり

    家族性胸膜肺芽腫がDICER1異常に関与することがHillらにより報告され,同遺伝子の病的バリアントを背景に胸膜肺芽腫に加えて,甲状腺癌,小児嚢胞性腎腫,anaplastic sarcoma of the kidney(ASK),鼻腔軟骨間葉性過誤腫など,主に小児・若年で良性および悪性の様々な腫瘍が発生することが知られた.さらに,これら腫瘍発生の背景に高率にDICER1のヘテロ接合性生殖細胞系列のバリアントがあることが知られ,DICER1症候群と称されるようになった.DICER1病的バリアントに関連する腫瘍は,様々な臓器に多彩な組織学的所見を示すが,しばしば次のような組織学的特徴を有している:(1)胎児期の発生段階の組織像に類似した低分化な腫瘍細胞からなる成分,(2)横紋筋や軟骨,神経外胚葉成分など多様な分化能を示す成分,(3)嚢胞成分,もしくは嚢胞成分と充実性成分の混在からなる腫瘍,(4)病理組織学的および分子生物学的に,過形成または前がん病変の段階から浸潤性の肉腫へと進行する.現状非常に多くの病理診断名からなるDICER1異常関連腫瘍をDICER1関連肉腫(DICER1-associated sarcoma)と呼称を統一することも提案されている.特徴的な組織所見からDICER1異常関連腫瘍を診断することで,適切な遺伝子検査や遺伝カウンセリングへ繋げることが望まれる.

  • 福島 裕子, 中嶋 七海, 坂井田 美穂, 石井 真美, 井上 健
    2025 年62 巻2 号 p. 153-160
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/21
    ジャーナル 認証あり

    小児期には多種・多様ながんが発生するが,造血器腫瘍や脳腫瘍,骨軟部腫瘍などの非上皮性腫瘍が多く,成人期に好発する悪性上皮性腫瘍(成人型のがん)が発生することは極めてまれである.しかし,ある種の成人型のがんは,小児期にもある一定の頻度で発生することが知られている.15歳以下の悪性上皮性腫瘍の自験例の検討では,甲状腺癌(乳頭癌,髄様癌),副腎皮質癌,大腸癌,Fibrolamellar variant of hepatocellular carcinoma(FLHCC),膵腺房細胞癌,肺粘表皮癌などがみられた.甲状腺髄様癌は多発性内分泌腫瘍症2型のサーベイランスにて発見されており,副腎皮質癌ではこれを契機にLi-Fraumeni症候群が判明した.大腸癌では体質性ミスマッチ修復欠損症候群のサーベイランスにて発見されている症例があった.このように小児には成人と同様の組織像を示す腫瘍が発生することがあるが,遺伝性腫瘍との関連など,成人期のものとはその背景が異なることも多い.またまれな成人型の腫瘍であるが,小児では比較的頻度の高い腫瘍(FLHCC,膵腺房細胞癌,肺粘表皮癌など)の存在にも留意する必要がある.本稿では小児期にも発生する成人型のがんについて,実際の症例を提示するとともに,その特徴と成人発生との違いについて概説する.

シンポジウム3:造血細胞移植の前処置としての全身照射
  • 宇藤 恵, 溝脇 尚志
    2025 年62 巻2 号 p. 161-166
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/21
    ジャーナル 認証あり

    造血細胞移植前の前処置として病的細胞の根絶と宿主の免疫機能抑制を目的とした全身照射(Total body irradiation: TBI)や全リンパ節照射/胸腹部照射(Total lymphoid irradiation: TLI / Thoraco-abdominal irradiation: TAI)が実施されている.当院では2019年1月より線量率を200 MU/minに下げたTBIを開始しており,TBIもしくはTLI/TAIを実施した小児患者の治療成績について遡及的に解析した.

    2019年1月から2024年4月に当院にて同種造血細胞移植の前処置としてTBIもしくはTLI/TAIを実施した19歳以下の29例を対象とした.照射時の月齢の中央値は109ヶ月(range, 22–238)であった.8 Gy以上の高線量分割照射を用いた骨髄破壊的前処置は13例で,TBIは全例12 Gy/6 fr.であり,16例の強度減弱前処置ではTBIが12例(2–6 Gy/1–3 fr.),TLI/TAIが4例(全例3 Gy/1 fr.)であった.観察期間中央値は24.0ヶ月(range, 0.9–64.9)であり,3例が死亡(うち2例が移植後半年以内に呼吸状態悪化で死亡),自己造血回復2例,原疾患再発を1例に認めた.grade 2–4急性GVHDを14例,慢性GVHDを3例,CTCAE ver.5 grade 3以上の晩期障害としてネフローゼ症候群を1例,高尿酸血症を1例,治療関連続発性悪性疾患(MDS)を1例認めた.

    観察期間が短く背景や治療内容が様々であるが,本解析結果は許容範囲内と考えられた.腫瘍制御や生着率を維持しつつリスク臓器への影響を低減するような方策が期待される.

  • 副島 俊典
    2025 年62 巻2 号 p. 167-170
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/21
    ジャーナル 認証あり

    全身照射は各施設で照射方法,照射線量,線量分割,線量率がさまざまである.そこで全身照射の全国調査を2015年に日本放射線腫瘍学研究機構血液リンパ委員会で行った.対象施設は放射線腫瘍学会の構造調査で全身照射施行施設のうち,アンケートに回答いただいた82施設である.骨髄破壊的移植では照射方法はLong Source to Skin Distance法が34施設(82.9%)で最も多く,Moving couch法は7施設(17.1%)で,Sweeping beam法やHelical tomotherapyを使うと回答した施設はなかった.線量分割は12 Gy/6回/3日が最も多く,52施設(63.4%)であった.遮蔽に関しては肺とレンズの両方を遮蔽している施設が最も多く,47施設(57.3%)であった.骨髄非破壊的移植で線量分割は4 Gy/2回/1–2日(57.7%)か2 Gy/1回/1日(28.2%)が多かった.臓器遮蔽では肺(43.6%),眼(50.0%)の他,卵巣(14.1%),甲状腺(6.4%),睾丸(16.7%)の遮蔽があった.

    近年海外から全身照射のガイドラインも多く報告されており,さらに,全身照射の高精度治療が臨床応用されてきている.日本においても診療ガイドラインの作成も企画されており,今後全身照射の方法の均一化がはられていく可能性があり,発展が期待される領域になってきている.

症例報告
  • 寺沢 真由子, 秋田 直洋, 村瀬 成彦, 谷 有希子, 矢内 里紗, 小川 晃太郎, 北澤 宏展, 吉田 奈央, 中野 嘉子, 加藤 元博 ...
    2025 年62 巻2 号 p. 171-175
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/21
    ジャーナル 認証あり

    DICER1の胚細胞系列の病的バリアントは胸膜肺芽腫をはじめとする様々な臓器の腫瘍の発症に関連し,これらをDICER1症候群と呼ぶ.症例は6か月女児で,腹部腫瘤と哺乳不良を主訴に当院を紹介受診した.左側腹部に硬性腫瘤を触知した.画像検査で多房性で隔壁を伴う左腎腫瘍を認めた.左腎全摘出術を実施し,病理学的検査から嚢胞性腎腫と診断した.また,診断時の画像検査では甲状腺左葉に結節を認めた.遺伝子解析により胚細胞系列におけるDICER1の病的バリアントが確認され,DICER1症候群と診断した.術後3年が経過し,新たなDICER1関連腫瘍は認めていない.DICER1症候群において,甲状腺腫瘍は多くは10歳台以降にみられることから,本症例では乳児期に嚢胞性腎腫と同時にみられたことが非典型的であると考えられた.今後は甲状腺結節の増大や新たな腫瘍の発生の有無について慎重に経過観察する必要がある.

報告
feedback
Top