日本小児血液・がん学会雑誌
Online ISSN : 2189-5384
Print ISSN : 2187-011X
ISSN-L : 2187-011X
60 巻, 2 号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
第64回日本小児血液・がん学会学術集会記録
JSPHO&JCCG特別企画 ジョイントシンポジウム:小児血液・がん領域の臨床研究の進め方
  • 多賀 崇, 齋藤 明子
    2023 年 60 巻 2 号 p. 109-112
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/03
    ジャーナル 認証あり

    本邦における小児造血器腫瘍疾患の治療成績と生活の質の向上を目的に,日本小児白血病リンパ腫研究グループ(JPLSG,現日本小児がん研究グループ:JCCG“血液腫瘍分科会”)が,2003年に組織された.小児造血器腫瘍疾患を対象とした臨床研究の実施に際し,症例の病態を正確に把握するための中央診断/検査体制や,試料の二次利用を念頭においたバンキング体制の構築を,「日本小児がん研究グループ血液腫瘍分科会(JPLSG)における小児血液腫瘍性疾患を対象とした前方視的研究(CHM-14)」のもとで行っている.一方,疾患名や転帰などを継続的に収集し,疾患発生数や死亡数,及びその年次推移などを明らかにする疫学調査が,2006年から日本小児血液学会(現日本小児血液・がん学会)により開始され,非腫瘍性血液疾患も含めた本邦における小児造血器疾患の実態把握に努められている.現在は小児固形腫瘍疾患と合わせ,「20歳未満に発症する血液疾患と小児がんに関する疫学研究」として本学会学術・調査委員会のもと継続されている.疫学的調査を学会が担い,診断・治療法開発のための臨床研究を臨床研究グループが担うというすみわけがなされている.両者で重複して取得される項目もあり,参加医療機関への利便性を向上させる努力も図られているが,依然,累積する症例の追跡にかかるエフォートなどへの対策の検討が求められている.

  • 石原 卓, 野上 恵嗣
    2023 年 60 巻 2 号 p. 113-119
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/03
    ジャーナル 認証あり

    凝固/線溶能の関係性は,凝固優位であれば血栓症を,逆であれば出血症状を呈する.すなわち,両者のバランスが重要である.小児がん治療で遭遇する凝固障害と言えば,類洞閉塞症候群(SOS),血栓性微小血管症(TMA)などが挙げられるが,病態は未解明な面も多い.そこで凝固/線溶能のバランスが病態解明の糸口になるのではないかという視点から,包括的な凝固能と線溶能を同時に測定できるトロンビン・プラスミン生成試験(T/P-GA)を新たに確立した.SOSでは発症直前からトロンビン生成とプラスミン生成(PG)の同時低下が見られ,凝固能および線溶能ともに低下することを確認した.造血細胞移植関連TMAでも同様で,さらに病態の回復期には凝固/線溶能も回復していた.また小児固形腫瘍の遠隔転移例ではPGが増加し,転移と線溶との関連性が示唆された.急性リンパ性白血病では,L-asparaginase投与相でPGの低下が顕著となり寛解導入療法後半に相対的な凝固優位状態になることを見出した.また成人悪性リンパ腫の遺伝子改変キメラ抗原受容体T細胞療法におけるサイトカイン放出症候群の凝固障害では線溶抑制因子total plasminogen activator inhibitor-1が増加することが報告され,新規の免疫療法においてもT/P-GAによる病態解析が待たれる.凝固/線溶能のバランスに基づいた様々な凝固障害に対する病態解析を行うことにより安全で効果的ながん治療の確立の一助になることが期待される.

シンポジウム1:TCF3::HLF陽性白血病の難治性病態とその克服
  • 足洗 美穂, 細谷 要介, 小野 林太郎, 吉原 宏樹, 長谷川 大輔
    2023 年 60 巻 2 号 p. 120-124
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/03
    ジャーナル 認証あり

    【背景】TCF3::HLF陽性急性リンパ性白血病(ALL)は化学療法抵抗性を獲得しやすく,難治性であることが知られている.一方で,同種造血細胞移植(allo-HCT)による移植片対白血病(GVL)効果の有効性が示唆されているほか,近年ではブリナツモマブによる橋渡し後のallo-HCTで長期寛解が得られたとの報告がなされている.【症例】13歳女子.皮下出血を主訴として受診し,TCF3::HLF陽性ALLと診断した.腫瘍崩壊とともに高カルシウム血症と播種性血管内凝固が増悪したが,全身管理を行いながら寛解導入療法を行い微小残存病変(MRD)が10–4未満となった.強化療法としてブリナツモマブを1コース投与しMRDが陰性となった後に,HLA 5/8アリル適合の父をドナーとして骨髄移植を行った.前処置は全身放射線照射12 Gyとエトポシド1.8 g/m2で,GVHD予防は移植後シクロホスファミド(PTCy)法を行った.閉塞性細気管支炎に対する治療を継続しているが,移植後2年以上無病生存している.【考察】PTCy法は成人ALLに対するHLA半合致移植後の再発リスクを上げないなど,GVL効果を損なわない可能性が報告されている.深い寛解を得るためにブリナツモマブで橋渡しした後にPTCy法によるHLA半合致移植を行うことはTCF3::HLF陽性ALLに対する有効な戦略であると考えた.

シンポジウム2:胚細胞腫瘍Update
  • 高橋 詳史, 山本 一貴, 小柳 貴裕, 竹井 裕二, 藤原 寛行
    2023 年 60 巻 2 号 p. 125-129
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/03
    ジャーナル 認証あり

    悪性卵巣胚細胞腫瘍は原始胚細胞から発生する稀な腫瘍である.2019年の日本産科婦人科学会の患者年報によると,悪性卵巣胚細胞腫瘍は216例で全悪性卵巣腫瘍の2.8%であったが,小児期の診断・治療例は含まれておらず,全数把握が難しい.代表的な悪性卵巣胚細胞腫瘍として,未熟奇形腫,未分化胚細胞腫,卵黄嚢腫瘍などが挙げられるが,胎児性癌や非妊娠性絨毛癌は年間数例にも満たない極めて稀な腫瘍である.悪性卵巣胚細胞腫瘍は若年発症が最大の特徴であり,本疾患に対する治療では,進行期にかかわらず妊孕性温存治療を考慮すべき点が,通常の悪性卵巣腫瘍とは異なる.当院で経験した妊孕性温存治療を行った悪性卵巣胚細胞腫瘍25例について,その内訳,迅速病理診断の正診率,分娩転帰,予後などを提示する.また,化学療法としてはブレオマイシン,エトポシド,シスプラチンを用いたBEP療法が標準治療として確立されているが,稀な続発症であるGrowing teratoma syndromeについても症例を提示する.婦人科が実践する悪性卵巣胚細胞腫瘍に対する治療・管理戦略について,本稿を通して小児科・小児外科領域と共有できれば幸いである.

教育セッション3:急性骨髄性白血病
  • 富澤 大輔
    2023 年 60 巻 2 号 p. 130-138
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/03
    ジャーナル 認証あり

    リスク層別化は,個々の患者に適切な強度の治療を割り付けるために必要であり,その発展は小児急性骨髄性白血病(AML)の治療成績向上に大きく寄与してきた.正常細胞,白血病細胞ともに殺細胞性抗がん剤への感受性が高いダウン症候群関連骨髄性白血病(ML-DS)に対する強度減弱型化学療法の適用はその一例である.ML-DSおよび急性前骨髄球性白血病(APL)を除いたde novo AMLのリスク層別化には,白血病固有の細胞遺伝学的異常および微小残存病変(MRD)測定による初期治療反応性評価が重要であり,主として高リスク群を抽出して同種造血細胞移植適応の決定に用いられてきた.また,近年の分子生物学的あるいは遺伝子解析技術の進歩によってAMLの分子機構が次々と明らかになる中,リスク層別化には適切な治療標的分子を同定することで,急速に開発が進む分子標的治療の適用につなげる側面もあり,近年重視されつつある.APLに対するATRAや三酸化ヒ素を用いた分化誘導療法はその成功例である.近い将来,わが国ではAMLを含めた造血器腫瘍の遺伝子パネル検査が保険診療に実装される見込みであり,小児AMLのリスク層別化治療のさらなる発展が見込まれる.その一方で,特に小児を対象とした新規分子標的薬の開発は欧米と比較して遅れをとっており,今後の大きな課題であるとともに,その解決に向けた取り組みが求められている.

小児がんのための薬剤開発シンポジウム:小児がん領域での薬剤開発促進のために何をすべきか?
  • 鈴木 隆行
    2023 年 60 巻 2 号 p. 139-142
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/03
    ジャーナル 認証あり

    私の息子は2020年に6才でラブドイド腫瘍の再発により旅立っていった.再発時に分子標的薬を用いた治療を選択したが,海外で実施されている国際共同治験は国内で実施されておらず,国内の別の分子標的薬の治験に参加したものの,経口の剤形が問題となって治験参加が遅れ,治験開始からわずか4日で腫瘍が増悪し中止となり,約1ヶ月後に旅立っていった.

    必ずしも分子標的薬が奏効するわけではないものの,日本では新たに開発された小児がんに効果がある分子標的薬へのアクセスに問題があり,海外の状況と比較してドラッグ・ラグが発生しており,また今後ドラッグ・ロスとなりかねない状況となっていて治療の選択肢が狭まっている.本報告では息子もその状況に苦しんだことを記す.本事例以外においても多数の苦しむ小児がんの患者がいることや様々な問題点があることは本シンポジウムにて小川や植木が報告しているとおりで,抜本的な制度改革が必要である.またその検討においては今まさに困難に直面し,薬剤へのアクセスが早急に必要な患者がいることから短期的目線(未承認薬の使用)と長期的目線(薬剤の小児向け開発促進と国内承認)の両面での検討が必要であることを申し添える.

原著
  • 嘉数 真理子, 大曽根 眞也, 篠田 邦大, 矢野 道広, 佐野 弘純, 新小田 雄一, 森 尚子, 加藤 陽子, 足立 壯一, 福島 啓太 ...
    2023 年 60 巻 2 号 p. 143-148
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/03
    ジャーナル 認証あり

    背景:小児白血病の治療において腫瘍崩壊症候群(TLS)は致死的になりうる合併症である.2016年の日本小児血液・がん学会の診療ガイドラインでTLSの標準的治療が示され,尿酸分解酵素製剤であるラスブリカーゼの使用を前提に尿アルカリ化を推奨しないことが記されたが,本邦のTLSへの対応の現状は不明である.そこで当時のJPLSG参加施設を対象として調査を行った.

    方法:2016年2月~6月に,155施設の実務担当者に対してSurveyMonkey®を利用したweb調査を行った.

    結果: 99施設(64%)から有効な回答を得た.寛解導入療法開始時に54%の施設が尿アルカリ化を行っており,新規造血器腫瘍患者数が年間5人以下の施設では67%が行っていた.尿酸生成阻害薬については,予防的に使用している施設が全体の75%を占めた.TLSの治療としてラスブリカーゼはほとんどの施設で使用され,平均継続投与日数は5.4日であった.ラスブリカーゼの再投与は45%で経験があり,副作用の報告はなかったものの,初回投与から再投与までの期間は調査できていなかった.

    考察:TLSの予防や治療としてラスブリカーゼが広く普及している一方,54%の施設が尿アルカリ化を行うと回答していた.ラスブリカーゼ時代のTLSに対する適切な管理が,小児がんを診療する施設全体で行われる必要がある.

  • 吉村 由美香, 福島 紘子, 鈴木 涼子, 八牧 愉二, 穂坂 翔, 稲葉 正子, 日高 響子, 室井 愛, 増本 幸二, 水本 斉志, 高 ...
    2023 年 60 巻 2 号 p. 149-155
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/03
    ジャーナル 認証あり

    背景:小児がんサバイバー(以下CCSs)は,晩期合併症のリスクを踏まえたヘルスプロモーションを意識する必要があるが,その一部を構成するヘルスリテラシー(以下HL)についてCCSsの報告はなく,研究に着手した.

    方法:対象者は1976年10月~2018年3月までに筑波大学附属病院小児科,小児外科,脳神経外科,放射線腫瘍科で小児がん治療を受けた15歳以下の患者で,調査時年齢が16歳以上の者とした.郵送での自記式質問紙調査で,基本情報とHLS-EU-Q47日本語版への回答を依頼した.分析は,対象者のHLスコアを算出し,個人属性,診断名,診断時年齢との関連を解析し,HL困難度は,健常人との比較を行った.結果:249人中54人から有効回答の返信があり(回収率21.6%),CCSsは健常人と比較し,全属性でHLが高い結果だった.とりわけ診断時年齢が0~4歳,学歴が専門学校卒,職業が学生の群のHLが高く,診断時年齢が15歳以上の群が低い結果だったが,全て有意差はなかった.HL困難度は,健常人よりも低い結果で,CCSsの困難度が高いものは,セカンドオピニオンの必要性やメディアから得た健康リスクや病気に関する情報の信頼性を判断することだった.考察・結論:CCSsのHLに影響を与える要因として様々なものが考えられたが,具体的な示唆は得られなかった.一方で様々な課題が多いCCSsだが,HLが健常人と同等かそれ以上であるという今回の結果は,闘病に伴う一連の体験が健康意識を高めている可能性が示唆された.

症例報告
  • 白波瀬 明子, 松川 幸弘, 池田 勇八, 坂本 謙一, 多賀 崇, 丸尾 良浩
    2023 年 60 巻 2 号 p. 156-160
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/03
    ジャーナル 認証あり

    慢性活動性EBV感染症(CAEBV)は,EBウイルスが持続感染したT細胞やNK細胞の増殖を基本病態とし,発熱,リンパ節腫脹,肝脾腫などの症状が数か月以上にわたって持続する疾患である.節外性NK/T細胞リンパ腫・鼻型(ENKL)は血管破壊,壊死,Epstein-Barr virus(EBV)関連,節外病変を特徴とするリンパ腫である.好発年齢は40〜50歳台であり小児の報告は非常に稀である.我々はCAEBVが基礎疾患にある事が示唆されたENKLを経験した.症例は12歳男児.ENKL診断時に,EBV抗体価の異常高値と末梢血単核球中のEBV-DNAコピー数の増加を認め,放射線化学療法でENKLは消失したが,EBV-DNAコピー数は減少しなかったことからENKLの背景にCAEBVを基礎疾患に持つ可能性があると考え,同種造血幹細胞移植を遅滞なく行い,寛解を得た.小児期発症のENKLを診断した際には,その基礎疾患にCAEBVが存在する可能性を常に考える必要がある.

  • 遠渡 沙緒理, 林 大地, 安江 志保, 小関 道夫, 大西 秀典
    2023 年 60 巻 2 号 p. 161-166
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/03
    ジャーナル 認証あり

    小児期発症の発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)は,後天性骨髄不全疾患である再生不良性貧血(AA)としばしば合併・相互移行する(AA-PNH症候群)ことが知られている.症例は,12歳時にAAとして発症するも,免疫抑制剤などの内服加療にて血球数は安定し,PNHへ移行後も8年間無症状で経過したが,20歳時に激しい腹部症状を呈し,血栓症を発症したことを契機にエクリズマブを導入した.溶血所見の改善とともに血栓症の症状は劇的に改善し,また社会人となりラブリズマブへと移行することで,受診間隔の延長が可能となり,高いQOLが維持できている.小児期発症のAAにおいては,長期の経過での病態の移行に注意が必要であり,またライフイベントに合った治療方針の選択が重要と考える.

報告
feedback
Top