理学療法 - 臨床・研究・教育
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29 巻, 1 号
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巻頭言
講 座
  • 進矢 正宏, 三浦 有花
    2022 年 29 巻 1 号 p. 3-10
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/04
    ジャーナル フリー

    高齢者における機能低下,さらには転倒リスク評価やトレーニング方法の開発,といった目的を見据えた応用的な姿勢歩行研究では,障害物跨ぎ歩行のような外部環境に合わせた運動を計画・実行する必要がある適応的歩行運動課題に,日常生活を反映した様々なコンテクストを加えた課題が用いられてきた。本稿では,障害物跨ぎ歩行課題の概要とその臨床的意義を述べた後,複雑なコンテクストとして,1)複数の障害物が存在する,2)二重課題として他の課題と同時に行う,3)障害物の高さが左右で異なる,といった課題を用いた文献を紹介する。これらの研究結果は,同じ高さの障害物を跨ぐという意味では同一の運動課題に見えても,様々なコンテクストによって異なる運動として計画・実行されている可能性を示しており,効果的な評価や介入の方法を確立するためには,多様な切り口からの研究エビデンスの必要性が示唆される。

研究論文
  • 奥村 崇幸, 新田 真之介, 隈元 庸夫
    2022 年 29 巻 1 号 p. 11-16
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/04
    ジャーナル フリー

    【目的】体幹屈曲・伸展時の腰背部における腰部脊柱起立筋(以下, LES)と多裂筋(以下, MF)の筋活動と循環動態を検討し,体幹屈曲・伸展運動による効果の筋生理学的根拠を得ること。【対象と方法】対象は健常成人男性9名,運動課題は体幹屈曲伸展の多段階角度保持とし, LESとMFの課題動作中の筋活動と循環動態の経時的変化を記録した。【結果】LES,MFともに安静立位と比較して体幹屈曲で有意に筋活動増加,体幹伸展で筋活動が有意に減少した。総ヘモグロビン(以下,total-Hb)の変化はLES,MFともに屈曲時に減少,伸展時に増加の傾向がみられ,LESのtotal-Hbは屈曲時に有意に減少した。MFは安静立位,屈曲時と比較して伸展時に脱酸素化ヘモグロビン(deOxy-Hb)の増加傾向がみられた。【結論】健常者が対象であっても,立位での体幹屈曲運動とその後の立位での体幹伸展運動にて筋活動と循環動態に変化がみられることがわかった。

  • 新井 健一
    2022 年 29 巻 1 号 p. 17-20
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/04
    ジャーナル フリー

    【目的】右小開胸低侵襲心臓手術(MICS)術後患者を対象に術後早期から肩関節運動を行うことで術後の肩関節機能への影響を調査することである。【方法】対象は右小開胸MICSを施行し,術後理学療法を実施した患者36名。従来の理学療法実施群16名(従来群)と術後翌日から右肩ROM運動を実施した群20名(早期肩関節運動群)に分類した。調査項目は,肩関節屈曲・外転関節可動域(ROM)・握力・肩関節屈曲筋力の侵襲側・非侵襲側比,疼痛(NRS)とした。【結果】各項目の結果(従来群・早期肩関節運動群)は,肩屈曲ROM(中央値)は94.4・100%,外転ROMは88.2・100%,疼痛は3・0点と早期肩関節運動群の方が良好であった。【結論】右小開胸MICS術後に右肩関節の機能障害や疼痛を来すことがあるが,術後早期から肩関節の運動を行うことで予防できる可能性が示唆された。右小開胸MICS術後理学療法では,運動耐容能のみでなく,右上肢の機能にも留意する必要がある。

  • 猪股 美沙紀, 桑原 亜海, 石崎 裕佳, 齊藤 展士, 平田 恵介
    2022 年 29 巻 1 号 p. 21-24
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/04
    ジャーナル フリー

    【はじめに】片脚着地動作における非接触型前十字靭帯損傷では膝関節外反の他に体幹側屈が危険因子と言われている。膝関節外反が生じやすい着地環境には傾斜面が想定される。本研究は,傾斜面環境での片脚着地動作において,衝撃吸収時の対応戦略を明らかにすることを目的に動作解析を行った。【方法】成人男女9名にて,傾斜面,および平坦面への片脚着地動作における膝関節と体幹関節角度の違いを比較した。【結果】膝関節外反最大角度は平坦面に比べ,傾斜面で有意に大きかった。着地により骨盤の着地脚側への傾斜,体幹の非着地脚側への側屈角度変化が生じたが,傾斜面の方が有意に小さかった。【考察】傾斜環境では膝関節外反が増大した一方,体幹の動揺を抑える対応が平坦面よりも行われていた。これは,姿勢の平衡維持や視線の安定を図る前庭と視覚の制御により体幹と頭頸部の固定性を高める課題依存的な戦略が傾斜環境で行われた可能性がある。

  • 那須 高志, 小林 渓紳, 宮崎 涼太, 大堀 正明
    2022 年 29 巻 1 号 p. 25-27
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/04
    ジャーナル フリー

    【はじめに】大腿骨近位部骨折を呈し,人工骨頭置換術または骨接合術を施行後,早期に術後7日目の荷重時痛を予測する因子を検討した。【方法】当院にて手術を施行された大腿骨近位部骨折26名,人工骨頭置換術12名と骨接合術14名であった。調査項目は基本情報の年齢・手術時の出血量,血液生化学検査のCRP・CK・Hbの術後3日以内のピーク値とした。荷重時痛は術後7日目の最大荷重時の痛みをNRSを用いて評価した。【結果】人工骨頭置換術群は骨接合術群よりも有意に出血量が多かった。疼痛と各因子の関係性は,人工骨頭置換術群は出血量に強い正の相関が,骨接合術群はHbに中等度の負の相関がみられた。【考察】人工骨頭置換術は展開が大きいため創外出血を反映する出血量が,展開の小さな骨接合術は創内出血を反映したであろうHbが荷重時痛と相関を認めたと考えた。

その他(調査報告)
  • 加藤 研太郎, 安田 淳, 日向 汰斗, 足立 洋二, 吉田 真奈美
    2022 年 29 巻 1 号 p. 28-33
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/04
    ジャーナル フリー

    【目的】実習指導に関わっている理学療法士に対して,臨床実習に関するアンケート調査を行い,指導者の考えを把握して埼玉県の実態を把握する。【方法】ブロック毎に病院20箇所,老人保健施設10箇所の合計120箇所にアンケートを送付した。【結果】教育に関する研修は8割程度の指導者が必要性を感じていた。学生の不十分な部分は統合解釈が多く,指導上困るのは対人スキルであった。レポートは学生の考えを把握するために必要であった。実習形態はクリニカルクラークシップと従来の形式の混合が望まれていた。養成校との連携は電話やメールと実習指導者会議であった。【結論】学生の統合解釈が不足しているが,指導者は情意面の指導に苦慮している。レポートは学生の思考を把握する上で必要であると考えている。新しい実習形態に理解はあるが,完全に移行するには至っていない。

活動報告
  • 濱田 勇志, 服部 寛, 遠藤 浩士, 佐々木 友莉, 三好 辰範, 赤坂 清和
    2022 年 29 巻 1 号 p. 34-39
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/04
    ジャーナル フリー

    【目的】埼玉県高校テニス大会におけるサポート状況・選手の特徴を明らかにし,今後のサポート活動をより効果的にする。【方法】2017年度-2019年度の大会時期にメディカルサポートブースを設置し,利用した延べ101名を対象とし,選手の症状と介入内容を調査した。【結果】サポート日数は大会日の半数以上は介入できていたが,大会初日の介入は1日のみであった。来室選手への介入時期は,試合後が61%と最も多かった。施術部位の発症時期は試合前が82%であった。施術部位は腰背部,下腿,手関節の順に多かった。施術内容はテーピングが7%と低値であった。【考察】サポート体制における今後の課題は,大会初日の介入ができる体制を構築することであると考えた。来室選手の介入時期は試合後に最も多いが,施術部位の発症時期は試合前が多いことから,症状の増悪・新たな傷害予防の観点から予防的介入の必要性が示唆された。

症例検討
  • 小野塚 雄一, 井上 和久
    2022 年 29 巻 1 号 p. 40-44
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/04
    ジャーナル フリー

    【はじめに】Stanford A型急性大動脈解離術後の脊髄梗塞は稀であるため,病態や予後については不明である。今回,Stanford A型急性大動脈解離術後に重度対麻痺を呈した脊髄梗塞症例において歩行再建をしたため報告する。【症例記述】48歳,男性,術後からTh8以下の重度対麻痺・感覚障害・膀胱直腸障害が出現した。理学療法開始時から2動作前型歩行の獲得のために装具や体重免荷トレッドミル歩行練習を用いて,歩行練習を中心に理学療法を介入した。その結果,退院時には装具装着での屋外T-cane歩行が獲得された。【まとめ】本症例では,機能障害の重症度および神経学的な回復に合わせて段階的な歩行練習を適応することで,歩行再建に寄与した可能性がある。

  • 宮村 大治郎, 黒田 仁, 内山 仁志
    2022 年 29 巻 1 号 p. 45-48
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/04
    ジャーナル フリー

    【はじめに】本邦では,単独世帯が急速に増加して社会問題となっている。身寄りがない単独世帯の男性に対して,理学療法士が積極的に退院支援に関与した。【症例記述】単独世帯の53歳男性で,30歳代からワインを1日1本以上摂取する習慣あり。入院3か月前より独歩困難で当院へ救急搬送され,脱水症,栄養障害,廃用症候群として入院加療が開始された。理学療法ではまず身体機能の改善をすすめ,不衛生な自宅環境の整備を理学療法士が自宅外出に同行して自宅退院が出来た。【考察・まとめ】理学療法士は患者と長時間関与し,患者の考え方や変化を把握しやすい。退院支援への理学療法士の積極的な関与が多角的に生活機能を把握し,再入院防止のための多職種連携の在り方を示唆できた。

  • 冨樫 健太, 森本 貴之, 大久保 裕也, 山本 満
    2022 年 29 巻 1 号 p. 49-53
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/04
    ジャーナル フリー

    【目的】両股関節離断症例の理学療法における座位や移乗・移動,床上動作,段差昇降,トイレ動作の獲得時期と介入方法を報告する。【症例記述】24歳の男性で,診断名は両股関節離断,合併症は創部感染である。交通事故にて受傷し,他院にて両股関節離断術を施行後,第150病日に当院へ転院となった。第154病日に理学療法を開始し,開始時より上肢筋力トレーニング,座位・移乗・移動動作練習を実施した。第175病日に移乗が自立し,第205病日に手支持なしで10秒座位保持可能となった。また,座位バランスや移乗動作が安定し,第255病日にトイレ動作や入浴動作が自立した。トイレ動作獲得は,便座座位での断端痛により難渋したが,画像所見で断端の状態を把握し,便座の内径や素材に配慮することでトイレ動作獲得につながった。床上動作・段差昇降は,第350病日より練習を開始し,第385病日に自立した。【結語】両股関節離断症例における各動作の獲得時期や理学療法介入の工夫点を示した。本報告は,理学療法の目標やプログラム立案の一助となると考える。

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