理学療法 - 臨床・研究・教育
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28 巻, 1 号
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講座
  • 笹川 俊
    2021 年 28 巻 1 号 p. 3-10
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/09
    ジャーナル フリー

    ヒトの立位姿勢は,狭い支持基底面,高い身体重心位置,柔らかい関節,という構造的特徴ゆえに不安定であり,姿勢を保持するためには,中枢神経系による能動的な制御が必要不可欠である。中枢神経系による立位バランスの制御則を解明することは,科学者の知的好奇心を充足させるだけに留まらず,幅広い臨床応用の可能性を有するという点からも重要な研究課題であり,一世紀以上に渡り,精力的な研究が展開されてきた。立位バランスの制御則を研究する際には,ヒトの身体を,足関節を中心に回転する倒立単振子として近似する手法が一般的である。しかし,近年では,安静立位バランスの制御は多関節動作の一種である,という考えが浸透しつつある。本稿では,ヒト立位バランスの多関節制御に関して,下肢関節間の運動学的協調,下肢関節間に生じる力学的相互作用など,多関節動作に特有の制御上の問題に議論の焦点を置きつつ,最新の研究動向を解説する。

  • 深田 和浩, 網本 和, 藤野 雄次
    2021 年 28 巻 1 号 p. 11-16
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/09
    ジャーナル フリー

    ヒトはあらゆる環境下において身体を垂直に保つことが可能であるが,脳卒中を発症すると安定した床面であっても姿勢を垂直に維持することが難しい症例も存在する。特に脳卒中重症例では,垂直性の問題により,基本動作練習や歩行練習が思うように進まないことを経験する。この垂直性障害については不明な点も多いが,近年では垂直性に関する報告も増えつつある。本項では,垂直性障害のレビューや評価と治療について概説したい。

研究論文
  • 伊藤 貴紀, 国分 貴徳, 滋野 莉穂, 小林 章, 金村 尚彦
    2021 年 28 巻 1 号 p. 17-22
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/09
    ジャーナル フリー

    タイピング動作におけるリストレストの使用は右尺側手根伸筋の筋活動と水平面の運動を変え得るか,右尺側手根伸筋(Extensor carpi ulnaris ; ECU)筋活動・身体特性・運動学的変数から検証した。対象は健常成人10名,課題はリストレスト非使用条件と使用条件のタイピング動作とした。結果として条件間の比較では右ECU筋活動に有意差はなかった。また,リストレスト使用時に右ECU筋活動が減少した群と増加した群のリストレスト非使用時の群間比較では,増加した群において右ECU筋活動は有意に低値であった。さらに,増加した群はリストレスト使用時にタイピング時間が有意に短縮した。本研究の結果から,効率的なタイピング動作ができる者はリストレストの使用によって右手の水平面の運動を変えないが,右尺側手根伸筋の筋活動を増加させるため,リストレストの使用は推奨されない可能性が示された。

  • 渡邉 健人, 小栢 進也, 井上 和久, 原 和彦
    2021 年 28 巻 1 号 p. 23-28
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/09
    ジャーナル フリー

    【目的】「体幹を脛骨と平行か床に垂直に近く保った状態で深くしゃがむ能力」をスクワットのコンピテンシーと定義し,筋シナジーとの関係を明らかにする。【方法】成人男性20名のコンピテンシーをFunctional Movement ScreeningTMのディープスクワットで評価し,基準を満たして行える者をFMS3群,踵へ5 cmの台を入れて行える者をFMS2群,踵へ5 cmの台を入れて行えない者をFMS1群とした。パラレルスクワットを実施した際の関節角度,関節モーメント,CoM後方変位率,筋シナジーを算出した。【結果】FMS3群で体幹前傾角度が小さく,膝伸展モーメントが大きく,CoM後方変位率が大きかった。筋シナジーはFMS3群,FMS2群で2つ,FMS1群は1つであった。【結論】スクワットのコンピテンシーレベルの違いは筋シナジー数の違いとして現れ,コンピテンシーが低い場合に筋シナジー数は減少する。

  • 村田 健児
    2021 年 28 巻 1 号 p. 29-34
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/09
    ジャーナル フリー

    腱板断裂患者において後方関節包のタイトネスは肩峰下に衝突する肩峰下インピンジメントを生じさせる一因である。本調査では,腱板断裂の保存療法において,後方関節包のタイトネスに着目して経過を調査した。3か月以上経過を観察できた128例のうち腱板断裂と診断された患者の保存療法経過を調査し,最終的に男性8肩,女性20肩を対象に可動域,JOAスコアについて理学療法介入前と介入3か月後で比較した。結果,腱板断裂患者は後方関節包タイトネスの改善によってJOAスコア合計,サブスコアの痛み,機能の有意な改善を示した。また,理学療法介入後1年での予後を調査し,手術群13肩,非手術群は15肩の2群比較においては理学療法介入後の3か月後では非手術群でJOAスコア合計,サブスコアの痛み,機能の有意な改善を示した。よって,後方関節包のタイトネスを改善によって腱板断裂患者は3か月後の疼痛と機能の改善をもたらすことが示唆された。

  • 服部 寛, 赤坂 清和, 濱田 勇志, 遠藤 浩士, 佐々木 友莉, 三好 辰範
    2021 年 28 巻 1 号 p. 34-40
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/09
    ジャーナル フリー

    【目的】埼玉県理学療法士会では,2017年度より埼玉県高校テニス大会サポート活動を開始した。今回,選手の練習状況および来室理由,サポート満足度を調査した。【方法】2017–2019年度の大会期間にサポートブースを設置し,来室した選手にコンディショニングを実施した。実施後,任意にてアンケートの記入を依頼した。【結果】回答数は延べ93名,実人数72名であった。練習日は週7日(47.2%)が最も多かった。来室理由は疼痛の訴えが87.1%(腰部25.2%,足部18.7%)と最も多かった。サポート満足度(10点満点)は10点82.8%,9点7.5%であった。【考察】約半数の選手が休養日なく練習を行っていた。選手が身体に不安を感じる要因として,腰部や足部の疼痛が多いことが考えられた。サポート満足度は概ね良好であり,理学療法士によるサポート介入の必要性が示唆された。

  • 福田 京佑, 泉谷 ひかる, 佐藤 晶子, 甘利 貴志, 實 結樹, 宮原 拓也, 濵野 祐樹
    2021 年 28 巻 1 号 p. 40-45
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/09
    ジャーナル フリー

    【目的】本研究は心原性脳塞栓症による意識障害者の初回離床日以前の情報から継続して離床が可能な群と離床を中止した群の特徴について検討することを目的とした。【方法】心原性脳塞栓症患者28名を対象に初回離床日から14日間離床可能だった群を「離床可能群」,血圧変動を理由に離床を中止した群を「離床不可群」とした。更に「離床不可群」のうち血圧上昇による中止を「血圧上昇群」,血圧低下による中止を「血圧低下群」とし,3群に分類した上で患者情報・入院経過の情報から比較検討を行った。【結果】離床可能群14名,離床不可群14名のうち血圧上昇群8名,血圧低下群6名であり,3群比較の結果,年齢と初回離床日数に有意差を認めた。更に離床可能群を対象とした多重比較では,年齢(離床可能群 > 血圧上昇群,離床可能群 > 血圧低下群)と初回離床日数(離床可能群 < 血圧上昇群)に有意差を認めた。【結論】年齢と初回離床日数は継続的な離床における血圧変動と関連を示し,離床の可否を判断する上での一端を担う情報である。

  • 井川 翔太, 深田 和浩, 井上 真秀, 藤野 雄次, 樋田 あゆみ, 高橋 秀寿, 牧田 茂
    2021 年 28 巻 1 号 p. 45-50
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/09
    ジャーナル フリー

    【目的】不全胸髄損傷患者に対するセミリカンベント式エルゴメータを用いた高負荷での座位ペダリング運動の効果を明らかにすること。【方法】研究デザインはABA法を用い,A期は従来の理学療法,B期は従来の理学療法とペダリング運動とした。運動設定はアイソキネティックモードにて20回転/分とした。運動強度は脚伸展最大トルクの70~80%で行った。アウトカムは脚伸展最大トルク,Lower Extremity Motor Score(以下LEMS),Walking Index for Spinal Cord Injury Ⅱ(以下WISCIⅡ),大腿直筋の筋厚とした。【結果】脚伸展最大トルクとLEMS,WISCIⅡは介入後に向上し,フォローアップ後も維持された。筋厚は著明な変化は認めなかった。【結論】高負荷での座位ペダリング運動は,下肢の筋出力の向上と歩行能力の改善に寄与する可能性が示唆された。

  • 高畠 啓, 小曽根 海知, 髙橋 花奈, 米野 萌恵, 国分 貴徳
    2021 年 28 巻 1 号 p. 51-56
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/09
    ジャーナル フリー

    【目的】Enthesisとは靭帯や腱が骨に付着する部位を指し,Osgood-Schlatter病など同部に生じる傷害“Enthesopathy”は,近年,遠心性収縮が発症に関与している可能性が示唆されている。そこで,本研究では筋収縮形態の違いがマウスのEnthesis構造に及ぼす影響を調査した。【方法】ICR系白色雄性マウス(3週齢)を非運動介入群,平地走行群,下り坂走行群に分類し,2週間の運動介入後,染色像から棘上筋断面積及び棘上筋Enthesisの組織学的分析を行った。【結果】遠心性収縮が惹起される下り坂走行群において筋断面積は有意に拡大し(p<0.05),Enthesisの線維軟骨層に対する非石灰化線維軟骨層の割合は拡大傾向にあった。【結論】Enthesopathy発症には,筋収縮形態の違いによる負荷量の違いが影響し,Enthesis4層構造の変化に関与している可能性を示唆した。

  • 福司 光成, 深田 和浩, 藤野 雄次, 岩崎 寛之, 井上 真秀, 関根 大輔, 牧田 茂, 高橋 秀寿
    2021 年 28 巻 1 号 p. 57-61
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/09
    ジャーナル フリー

    【目的】症候性てんかん患者の背景,身体・認知機能などから,転帰に関わる因子について明らかにすること。【方法】対象は症候性てんかんと診断され理学療法を処方された患者61例。調査項目は年齢,性別,既往歴,JCSⅠ桁になるまでの日数,離床開始病日,理学療法開始時FIM(motor,cognitive),人工呼吸器装着・鎮静・片麻痺・高次脳機能障害の有無,寝返り動作・病前ADLの自立の可否を後方視的に抽出した。転帰先を従属変数とし,多重ロジスティック回帰分析を行った。【結果】自宅群50例,転院群11例となり,多重ロジスティック回帰分析の結果からFIM cognitiveが抽出され,退院時の転帰を予測するカットオフ値は11.5点であった。【結論】症候性てんかんの退院時の転帰を予測する因子として,FIM cognitiveが一指標となる可能性が示唆された。

  • 諸沢 和真, 荒川 航平, 国分 貴徳
    2021 年 28 巻 1 号 p. 62-68
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/09
    ジャーナル フリー

    【目的】メカニカルストレスは変形性膝関節症(膝 osteoarthritis:膝OA)の発症・進行において主要因の一つとされている。本研究では膝OA動物モデルであるdestabilization of medial meniscus(DMM)モデルで生じる半月板機能不全に着目し,関節不安定性を抑制する関節制動モデルを用いることで,関節不安定性の違いが関節軟骨,半月板に与える影響を明らかにすることを目的とした。【方法】対象をDMM群,DMM群に対して関節制動を施したDMM制動群,INTACT群に分類した。制動モデルの妥当性を検証した後,関節軟骨変性と半月板変性について組織学的解析を行った。【結果】DMM制動群では関節不安定性が抑制された。関節軟骨変性では,DMM制動群で関節軟骨変性が抑制されていた。一方,半月板変性に関しては, DMM・DMM制動群の両群で半月板変性が確認された。【結論】本研究から,DMMモデルで生じる関節軟骨変性は関節不安定性に起因することを示唆した。

症例検討
資 料
  • 土屋 守克, 眞邉 一近, 髙橋 誠一, 坂上 貴之
    2021 年 28 巻 1 号 p. 82-88
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/09
    ジャーナル フリー

    【目的】コンピュータビジョン技術が利用された医療教育に関連する研究の動向を概観し,今後の課題を明らかにすることを目的とした。【方法】コンピュータビジョン技術が利用された医療教育に関連する23編の論文を分析対象とした。【結果】対象論文は,技術の評価方法開発を目的,観察的研究,医学分野,手術場面,シミュレーション場面,特徴抽出・照合の画像処理を使用し,識別には機械学習や統計モデルを使用した論文が多かった。また,多くの論文において,コンピュータビジョン技術を利用して開発・検討した方法の有用性が示されていた。【結論】今後は,コンピュータビジョン技術による評価の妥当性の検証が必要である。また,医学分野にとどまらず,さまざまな分野における実験的研究,準実験的研究,縦断研究等の臨床場面での実施により,医療教育におけるコンピュータビジョン技術利用に関するエビデンスを積み重ねていく必要がある。

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