理学療法 - 臨床・研究・教育
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27 巻, 1 号
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講 座
  • 谷本 道哉
    2020 年 27 巻 1 号 p. 3-9
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/31
    ジャーナル フリー

    体幹トレーニングとして,体幹の剛体化を目的としたプランクが行われることが多い。体幹屈曲筋・伸展筋の筋力トレーニングとして活用されることもある。また,腹横筋の活動促通を目的としたドローインもよく行われる。しかし,プランクでは実際には体幹を剛体化させるBracingも腹圧の上昇もしていない。また,そもそも多くの競技動作では体幹は固定させるよりも,大きく動作して力学的仕事を行っており,これらから考えるとプランクの意義を見出しにくい。ただし,反証データもあるが,プランクの実施による競技パフォーマンスの向上を認める報告もある。そのメカニズムは明確ではないが,選手にとって効果を実感できるのであれば,プランクの実施はプラスとなるかもしれない。また,ドローインには腹横筋の筋活動の促通効果が腰痛患者において認められる。ただし,腹横筋の筋活動レベルは競技動作そのもののほうがドローインよりもはるかに高い。競技動作を十分に行える身体機能を有する競技選手においては,ドローインを行う意義は薄いかもしれない。プランクやドローインの意義には不明確な部分があるが,体幹の機能から考えて,体幹動作の強い筋力と大きな可動性を有することが重要であることはおよそ間違いないであろう。これらの機能改善には,体幹屈曲筋・伸展筋の筋力トレーニングと体幹の可動性獲得の動作トレーニングが有用となるだろう。

  • 万治 淳史
    2020 年 27 巻 1 号 p. 10-16
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/31
    ジャーナル フリー

    近年、脳卒中後片麻痺患者に対するリハビリテーションに対する非侵襲的脳刺激の応用に関する研究報告が急激に増加している。対象となる障害は上肢運動麻痺・失語・半側空間無視など多岐に渡る。一方で我々理学療法士が主として担当する下肢機能障害、歩行・バランス障害に対する報告は比較的少ない。更に近年ではそれらの報告も徐々に増えつつあり、一部効果も認められているが、治療方法や機序、対象となる障害要素などは、まだまだ確立されていない。これから治療方法や対象となる障害が明らかになっていくであろう分野である。本稿では歩行・バランス障害に対する非侵襲的脳刺激に関する報告について、自験例を含め、概観し、本分野において、我々理学療法士が担う役割について共有できればと考える。

  • ―医学部卒前臨床教育の現状から―
    辻 美隆
    2020 年 27 巻 1 号 p. 17-22
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/31
    ジャーナル フリー

    我が国の卒前医学教育は座学中心の教育から診療参加型臨床実習を中心とするものに変わりつつある。2001年、医学教育モデル・コア・カリキュラムが提示され全国の医科大学・医学部で教育すべき共通の教育内容が明示された。また、米国ECFMG資格取得に医学教育分野別評価が必須となり、それに向けた臨床実習の改革も行われているが、その評価としてパフォーマンス評価が重要である。

研究論文
  • 須永 康代
    2020 年 27 巻 1 号 p. 23-30
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/31
    ジャーナル フリー

    【目的】地域在住中高齢女性の尿失禁の実態と脊柱・骨盤アライメントとの関連について調査を行い、尿失禁の予防・改善に向けた骨盤底筋体操と姿勢に関する指導を実施し、その効果について検証を行うことであった。【方法】対象は地域在住女性29名であった。尿失禁症状・QOL質問評価票ICIQ-SFへの回答および排尿日誌への記録による尿失禁の実態調査と、自在曲線定規による立位時脊柱弯曲およびデジタル水平器による骨盤前後傾角度の測定を行った。姿勢やエクササイズの指導を実施し約4か月経過後、再度調査を行った。【結果】介入後、尿失禁症状は多くの対象者で軽減したが、有意な変化は認められなかった。また介入後、腰椎アライメントの有意な変化が認められた。介入前後で尿失禁症状とアライメントとの有意な相関は認められなかった。【結論】尿失禁症状や骨盤底機能に関する認識や理解には個人差があり、より個別的な指導の必要性が示された。

  • 村田 健児, 岡 優一郎, 加納 拓馬, 藤原 秀平, 金村 尚彦
    2020 年 27 巻 1 号 p. 31-35
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに】前十字靭帯を損傷させた後に脛骨前方不安定性を制動した場合,大腿直筋の筋萎縮関連因子の変化についてタンパク質・mRNA解析によって調査した。【方法】10週齢Wistar系雄性ラット(n=24)の前十字靭帯を断裂させることで惹起した脛骨の前方不安定性を制動した群,脛骨の前方不安定性が残存したSham群に分類した。術後4,8週(各群・週齢n=6)で大腿直筋を採取し,リアルタイムPCR法とウェスタンブロッド法でAtrogin-1ならびにMuRF-1について解析した。【結果】mRNAについてAtrogin-1MuRF-1は統計学的有意差を認めなかった。タンパク質解析ではAtrogin-1(p=0.001)ならびにMuRF-1(p<0.001)において8週で有意に発現した。【結論】靭帯損傷後の早期の関節制動は大腿直筋の筋萎縮関連因子Atrogin-1ならびにMuRF-1を抑制した。

  • ―CPXとカルボーネン法の比較―
    大熊 克信
    2020 年 27 巻 1 号 p. 36-39
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/31
    ジャーナル フリー

    2型糖尿病患者20名に,目標心拍数をCPXとカルボーネン法から求めた場合の比較を行った。目標心拍数の平均は,AT時のHR(ATHR)が108,k=0.3で104,k=0.4で113,k=0.5で122,k=0.6で130。AT1分前HRとk=0.4 , 0.5 , 0.6,ATHRとはk=0.5 , 0.6で有意な差を認めた。%ATが100%以下の運動耐容能低下例が,82.7%であった。カルボーネン法で目標心拍数を求める場合,k=0.5,0.6ではAT以上の負荷量になる恐れが示唆された。k=0.4は慎重に,k=0.3は運動開始時やCPX実施困難な場合に適用できる可能性が示唆された。一方で,2型糖尿病患者は自律神経障害を呈している場合が多く,運動耐容能低下を認める例が多いことも勘案すると,CPXから求めたAT1分前HRやATHRを用いることが推奨される。

  • 平野 誠一郎, 伊藤 玲, 増渕 和宏, 野崎 亮太
    2020 年 27 巻 1 号 p. 40-44
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/31
    ジャーナル フリー

    【目的】肺切除術当日の端座位を達成するための予測因子の抽出を行った。【方法】肺切除術と術前後の理学療法介入を行った54例を対象とし,術後当日における端座位達成群と非達成群の2群に分け,術前身体機能,手術関連因子を比較した。さらに肺切除術当日の端座位の可否を従属変数,2群間の比較で有意差を認めた項目を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析を行い,そこで選択された項目のカットオフ値をROC曲線から算出した。【結果】2群間の比較では年齢,性別,術前6MWD,手術時間で有意差を認めた。多重ロジスティック回帰分析では性別,術前6MWD,手術時間が選択され,カットオフ値は術前6MWDが443 m,手術時間が178分であった。【結論】肺切除術当日の端座位を行う上で,術前6MWDと手術時間のカットオフ値は判断の一助となりうる。

  • 森下 佑里, 国分 貴徳, 村田 健児, 黒尾 彩, 金村 尚彦
    2020 年 27 巻 1 号 p. 45-50
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/31
    ジャーナル フリー

    「目的」ACL自己治癒過程におけるNuclear Factor-kappa B(以下NF-κB)の局在性と作用を検討した。「方法」ラットを対象に,ACL切断(ACL Transection: ACLT)群,関節包外関節制動(Controlled Abnormal Movement: CAM)群,対照(Intact)群の3群とし,それぞれ介入後1日,3日,5日のグループに割り当てた。各群,各時点でヘマトキシリン・エオジン染色とNF-κBに対する免疫組織化学染色による組織学的解析を行った。「結果」ACL損傷を伴うCAM群とACLT群においてNF-κBの活性が観察され,主にACL断端や膝蓋下脂肪体に局在していた。時間経過とともにCAM群ではNF-κBの活性が減少した。「結論」本研究結果から,NF-κBはACL自己治癒過程においてACL治癒を導く作用を有する可能性が推察された。

  • ―運動器リハビリテーション患者の検討―
    三浦 寛貴, 島崎 友博, 安岡 裕輔, 馬場 裕之, 本宮 光信, 古谷 友希
    2020 年 27 巻 1 号 p. 51-55
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/31
    ジャーナル フリー

    【目的】本研究の目的は,運動器疾患にて回復期病棟に入院した後期高齢者の受傷前の移動手段が,入院時および退院時の日常生活動作に及ぼす影響を検討することである。【方法】対象は回復期病棟に入院し,運動器リハビリテーションを実施した後期高齢者81名である。キーパーソンへの問診により受傷前の移動手段を聴取し,独歩群,補助具使用群,歩行不能群の3群に分類した。またカルテから後ろ向きに基本情報や,回復期入院日数,入院時ならびに退院時の機能的自立度評価法(FIM)を収集した。【結果】入院時および退院時のFIMの運動項目は,独歩群が補助具使用群,歩行不能群に比べて有意に高値であった。回復期入院日数は,独歩群と補助具使用群は歩行不能群に比べて有意に短かった。独歩群は補助具使用群より入院日数が短くなる傾向がみられたが有意差は認められなかった。【結論】本研究から受傷前の移動手段は,入院時および退院時のFIM,入院日数に影響を及ぼすことが示唆された。受傷前の移動手段の情報が,ゴール設定や予後予測において活用できると考えられる。

  • 三浦 寛貴, 遠藤 佳章, 鈴木 暁, 安岡 裕輔, 馬場 裕之, 堀本 ゆかり
    2020 年 27 巻 1 号 p. 56-61
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに】理学療法士の臨床実習指導時の意識について,理学療法における臨床能力評価尺度(CEPT)の項目を用いてアンケート調査を行った。【方法】対象は臨床実習生を受け入れている関東圏内の病院,施設に所属する理学療法士110名である。インターネットを使用した質問紙表を実施し,CEPTの各項目に対し,回答者自身の理学療法業務時の意識と実習指導時の意識について回答を求めた。【結果】臨床思考,技術,コミュニケーション,態度,自己教育能力の項目において,自身の理学療法業務時の意識と,実習指導時の意識との間に中等度の相関を認めた。【考察】臨床思考,技術は理学療法のスキルとして重要な項目であり,また,コミュニケーション,態度,自己教育能力は情意領域の項目であるため,理学療法業務時の意識が実習指導時にも反映されやすいことが示唆された。

症例検討
  • 村田 健児, 小林 章
    2020 年 27 巻 1 号 p. 62-66
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/31
    ジャーナル フリー

    リバース型人工肩関節(Reverse Shoulder Arthroplasty: 以下RSA)を施行した患者のリーチ課題を通じて,RSA患者の肩関節に生じる角加速度の構成要素を定量化し健常者と比較することを目的として検討した。RSA患者5名(75.0±4.2歳),術後経過期間:11.7 ± 4.9ヶ月を対象としてリーチ動作についてInduced acceleration analysisで分析した結果,若年健常者5名(21±0.9歳)と比較して肩関節筋に由来する角加速度は動作の正規化した動作課題の50%付近まで高い値を示した。すなわち,RSA患者は肘関節セグメントから生じる受動的な力の利用効率が低下し,肩関節に依存した動作戦略を行っていたことが示唆された。

  • 松本 純一, 久保 和也, 村田 健児, 榊 聡子, 山崎 知美, 坂元 博, 寺部 雄太, 大平 吉夫, 安藤 弘
    2020 年 27 巻 1 号 p. 67-71
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/31
    ジャーナル フリー

    重症下肢虚血(critical limb ischemia以下CLI)患者は潰瘍や壊疽の進行により,大切断に至ることがある。今回,両側CLIで,一側大腿切断,一側下腿切断となった症例に対し,両側の義足を装着した歩行獲得を目指し,理学療法介入を実施した結果,歩行獲得に至った。義足装着までの期間では,切断術以前から創部の免荷を遵守させながら,拘縮予防や等張性の筋力トレーニングを実施した。義足装着後は繰り返し起立,歩行練習を実施した。理学療法士は日々の体調に合わせ負荷量を調整し,かつ断端の発赤,創傷の再発の有無を確認し,起立練習や歩行練習の負荷量を調整した。義足アライメントの調整は義肢装具士に相談のうえ,慎重に実施したことで歩行器歩行を獲得となった。本症例はCLI による両下肢切断後,義足装着により歩行可能となったことが,日常生活動作や生活の質の向上につながり,自宅退院の目標を達成できたと考えた。

  • 森 大志, 鈴木 薫, 仁賀 定雄
    2020 年 27 巻 1 号 p. 72-76
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに】グロインペイン(groin pain:GP)の治療は,特に難治性GPにおいて病変を産み出した機能不全を改善することが重要である。今回,難治性GPに特徴的なMRI所見を有する症例に対し,全身的機能不全に着目し介入を行った経験を報告する。【症例記述】ランニング時の左鼡径部痛を有する高校アメリカンフットボール選手に対し介入を行った。姿勢・タイトネス・筋出力における機能不全に対し,治療や動作の修正を行い症状の改善が得られた。【考察】本症例は腹直筋と内転筋群による恥骨への牽引ストレス,骨盤マルアライメントが招く恥骨結合部へのメカニカルストレスが,スポーツ活動中の痛みを誘発していたと考える。全身的機能不全からストレスが生じる原因を推測し介入を行うことで症状が改善した。【まとめ】難治性GPを有する症例に対し,病変の原因と成り得る全身的機能不全に着目し,介入を行うことで症状の改善が得られた。

  • 村田 健児
    2020 年 27 巻 1 号 p. 77-80
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/31
    ジャーナル フリー

    【目的】胸鎖関節炎は臨床で遭遇することが比較的まれな疾患である。治療として確立した指針はなく,特に理学療法に関する報告は渉猟できない。今回,胸鎖関節炎による運動時痛と拘縮肩を合併した症例の治療経過から理学療法介入の必要性や役割について報告する。【症例】48歳女性,左肩関節運動時痛,左前胸部安静時・運動時痛を主訴として,胸鎖関節炎と診断された。医学的処置による胸鎖関節部の疼痛コントロールと理学療法士による肩甲上腕関節可動域の改善を治療指針として3か月経過を調査した。【結果】介入後3か月で疼痛は軽減し,JOAスコアが40点から84点まで改善した。【結論】本症例のような胸鎖関節炎と拘縮肩の合併患者に対する理学療法士の役割として,直接的介入が困難な胸鎖関節は疼痛コントロールのため医師と連携し管理すること,二次的に生じた拘縮の改善を行うことで間接的な胸鎖関節の運動時痛を軽減させることが重要である。

実践報告
  • 松本 拓也, 松本 純一, 寺部 雄太, 榊 聡子, 菱沼 遼, 安藤 弘
    2020 年 27 巻 1 号 p. 81-85
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/31
    ジャーナル フリー

    重症下肢虚血(CLI)は、全身の動脈硬化疾患の一部である末梢動脈疾患の中でも安静時疼痛、潰瘍・壊疽を生じる最も重症の状態である。CLI患者は創傷が治癒するまで一定期間の免荷を余儀なくされ、その間活動量が低下することで下肢筋力が低下し、廃用症候群に陥りやすいとされている。そのため免荷期間から積極的なリハビリテーションが必要と考えられるが、創部痛などにより積極的なリハビリ介入が難しい現状がある。現在、電気刺激療法は筋力増強や末梢循環の改善に対して効果があるとの報告があり、運動療法とは異なる治療法の1つとして実施されているが、CLIに対しての報告は少ない。今回、電気刺激療法の1つであるベルト電極式骨格筋電気刺激法(B-SES)をCLI患者4名に対して実施した結果、末梢動脈閉塞などの急性増悪や熱傷など有害事象なく実施することが出来た。B-SESはCLI患者に対するリハビリの選択肢の1つになる可能性が示唆された。

編集部からの記事
  • ―理学療法−臨床・研究・教育の場合―
    国分 貴徳
    2020 年 27 巻 1 号 p. 86-93
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/31
    ジャーナル フリー

    本稿はEditorialとして,本誌「理学療法−臨床・研究・教育」を例に,論文投稿から査読の流れおよび査読に対する返答までの流れについてまとめたものである。初めての論文投稿を検討されている方々へ,少しでも情報提供をと考えて筆をとった次第である。初めての論文投稿と聞くと,誰しもが高いハードルに感じ二の足を踏むことであろう。しかしながらまずは症例報告からであっても,自身の臨床思考過程を可能な限り科学的かつ客観的に文章にまとめ他人の批評を受けることは,自身の臨床における思考過程が整理され,明日のより良い臨床実践につながる。そればかりか,そのような積み重ねが理学療法の科学性,Evidenceの確立に確実に寄与しうる。そしてその延長線上に臨床研究の実践と,論文執筆が待っている。本項を通し,少しでも多くの理学療法士が論文投稿を身近に感じ,本誌への投稿がなお一層増えることを期待してやまない。

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