理学療法 - 臨床・研究・教育
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26 巻, 1 号
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
講 座
  • ―Fasciaの痛みの原因と多職種連携の必要性について―
    鈴木 茂樹, 浅賀 亮哉, 銭田 良博, 木村 裕明
    2019 年 26 巻 1 号 p. 3-7
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/05/24
    ジャーナル フリー

    近年,エコーガイド下Fasciaリリースは,その効果を実感した医師やその他の医療従事者の間で広がりつつある。Fasciaとは筋膜以外にも腱,靭帯,脂肪などの結合組織を示すが,その定義は国際的にも議論中であり,本邦でも適切な日本語訳制定に至っていない。医師は痛みの原因となる部分に生理食塩水を注入することで,理学療法士は徒手療法によって,痛みを改善することができる。発痛源と関連痛が離れている場合は,発痛源を探るために様々な身体診断を行う必要がある。しかし,発痛源評価には様々な方法があり,医師一人では困難である。そのため,理学療法士などとの多職種連携が重要である。さらに理学療法士は,再発予防のための日常生活動作指導も行うことができる。また,Fasciaについての正しい理解や,疼痛のメカニズム,疼痛とFasciaの関係の可能性について,最新の知見を解説していく。

  • ―リハビリスタッフに期待する事―
    荻野 美恵子
    2019 年 26 巻 1 号 p. 8-10
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/05/24
    ジャーナル フリー

    神経難病は難治性で進行性に身体障害を来すため,必ずリハビリテーションが必要となる。疾患により特徴があるため,それぞれの疾患の状態にそったリハビリテーションが求められるが,特に神経難病は頻度が少ない疾患も多いため,経験を重ねることも難しい。しかし,リハビリテーションが充実することで確実に患者のQOL が向上する分野でもあり,うでのみせどころでもある。疾患の特徴を理解し,専門医と共同して取り組んでいただきたい。

  • 須永 康代
    2019 年 26 巻 1 号 p. 11-15
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/05/24
    ジャーナル フリー

    妊娠および出産を契機とした女性の身体変化は著明であり,本国においてもこの時期のトラブルに対する予防・改善が理学療法の対象となるケースは年々増加している。妊娠中の腹部の突出を起因とする筋骨格系の変化による腰背部痛や骨盤底機能障害などのトラブルが日常生活動作の困難感をきたすこともある。また質量中心の変位によって姿勢制御機構に変化をもたらし,アライメントや動作パターンに影響を及ぼすことも明らかとなっている。妊娠・出産期における筋骨格系の機能解剖学的,運動学的変化について十分理解したうえで,産科的リスク管理のもと理学療法を実施することが必要不可欠である。今後,理学療法士の介入により,妊娠中から産後にかけての女性の健康支援をさらに充実させていくとともに,臨床における理学療法のエビデンスを構築していくことが望まれる。

研究論文
  • 塙 大樹, 平田 恵介, 宮澤 拓, 渡邉 孝志, 濵野 祐樹, 青木 健太, 国分 貴徳, 金村 尚彦
    2019 年 26 巻 1 号 p. 16-22
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/05/24
    ジャーナル フリー

    【目的】慢性期脳卒中患者の立ち上がり動作における関節モーメントの特徴から,疾患特異的な動作方略を明らかにすること。【方法】対象は健常成人(快適姿勢条件・体幹前傾条件)および慢性期脳卒中患者とした。光学式三次元動作解析装置を用い,立ち上がり動作における運動学データを取得,逆動力学計算から全身の関節モーメントを算出した。【結果】単に健常成人が体幹前傾を大きくした場合よりも,慢性期脳卒中患者の方が全身の関節モーメント最大値が小さくなった。また,この時の骨盤角速度が小さく,胸郭角度が小さく,床反力が腰関節中心へ向き,腰関節モーメントアームが短縮した。【結論】慢性期脳卒中患者はゆっくりと動作を行うだけでなく,体幹の姿勢や接地点からの力方向を変化させることで,腰関節モーメントをより小さく抑えていることが示唆された。

  • 久保田 圭祐, 園尾 萌香, 喜多 俊介, 塙 大樹, 平田 恵介, 藤野 努, 国分 貴徳, 金村 尚彦
    2019 年 26 巻 1 号 p. 23-28
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/05/24
    ジャーナル フリー

     【目的】本研究の目的は,変形性膝関節症者(以下,膝OA)の歩行における筋シナジーがKL分類と運動力学のどちらと関連するかを明らかにすることである。【方法】膝OA患者10名は,トレッドミル歩行を行い,体幹・下肢16筋の筋電図から筋シナジーを抽出した。同時に前額面の股・膝関節モーメントを取得した。各被験者の筋シナジー数に対して,KL分類における重症度,外部股関節内転モーメントと膝関節外転モーメントとの比較検討を行なった。【結果】筋シナジー数の変化とKL分類は有意な相関を示さなかった。一方で,筋シナジーがより少ない被験者においては,外部股関節内転モーメントが増加する傾向が示された。【考察】KL分類と臨床症状は必ずしも一致しないという先行研究と類似する結果を示した。一方で,筋シナジーは,膝OA歩行の股・膝関節の特徴を反映し,歩行機能に特化した新たな機能評価指標として有用である可能性を示した。

  • 加藤 研太郎, 高島 恵
    2019 年 26 巻 1 号 p. 29-35
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/05/24
    ジャーナル フリー

     【目的】従来の予習と反転授業において,予習の精度と1週間後の記憶の定着の差を調査し,反転授業の有効性を確認するために,反転授業を理学療法教育の基礎分野の科目に導入しその検証を行った。【方法】対象は1年生前期の科目である基礎解剖生理学とした。別科目の解剖学や生理学を理学療法学と関連づけ,前述の教科の意味づけを目的としている。科目の任意の回を従来方式として予習を課し,残りは反転授業とした。予習の精度は事前確認テストを,記憶の定着は1週間後に同一内容の事後確認テストを実施した。それ以外の方法は両者で統一した。【結果】反転授業は,従来方式の授業に比べ事前・事後の確認テストともに有意に高得点であった。学生アンケートも反転授業でより肯定的であった。【結論】反転授業は理学療法教育の基礎分野の教育手法として有効であることが示唆された。

  • 佐藤 博文, 星 文彦, 西原 賢, 大熊 克信, 額田 俊介, 石田 岳史
    2019 年 26 巻 1 号 p. 36-41
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/05/24
    ジャーナル フリー

     【目的】本研究の目的は,脳卒中者の歩行開始動作を運動学的・運動力学的・生理学的に分析し,若年者,高齢者との相違を調査することである。【方法】若年者7 名,高齢者5 名,脳卒中者6 名を対象とした。床反力計,表面筋電計,3 次元動作解析装置を用いて,歩行開始動作を分析した。【結果】若年者・高齢者と比較し脳卒中者では,単脚支持期の短縮,COP 後方移動量の低下,歩幅の低下,peak A-P の低下,A-P impulse の低下,麻痺側TA の筋活動開始タイミングの遅延,非麻痺側G-med の筋活動発生頻度の低下などの結果を認めた。【結論】歩行開始動作において,一部は加齢性変化の影響が考えられたが,COP 移動量・床反力・筋活動発生頻度などの変化は脳卒中による障害の影響が示唆された。今後は,麻痺側の機能改善や姿勢に対するアプローチの有効性の検証が可能になると考えられる。

  • 藤野 努, 金村 尚彦, 国分 貴徳, 園尾 萌香, 久保田 圭祐, 平田 恵介, 塙 大樹, 小林 章, 高柳 清美
    2019 年 26 巻 1 号 p. 42-47
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/05/24
    ジャーナル フリー

    【目的】歩行における前額面上の足部軌道は能動的かつ多関節協調をもって行われ歩行安定性を担保する。また,前額面における足部軌道制御の結果である歩隔は体幹運動の影響を受け変化する。本研究は上部体幹運動の拘束による足部軌道制御およびその多関節協調性への影響を明らかにすることを目的として実施した。【方法】三次元動作解析装置を用いて,上部体幹運動を拘束する条件と自由歩行条件において,足部軌道変化と軌道を制御する多関節協調性の変化をUncontrolled manifold(UCM)解析を用いて明らかにした。【結果】足部軌道と多関節協調性は両条件において変化を認めなかった。しかし,協調性を構成する全体的な変動性は上部体幹拘束によって上昇した。【考察】歩行における前額面上の足部軌道とその多関節協調性は身体的拘束による運動変動性増加によって変化しない頑健さを有する可能性を示唆した。

  • 平田 恵介, 塙 大樹, 宮澤 拓, 江連 亜弥, 久保田 圭祐, 園尾 萌香, 藤野 努, 国分 貴徳, 金村 尚彦
    2019 年 26 巻 1 号 p. 48-54
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/05/24
    ジャーナル フリー

    【目的】片麻痺者と健常人におけるsplit-belt歩行時の床反力推進成分の変化を明らかにすることとした。【方法】慢性期片麻痺者8名,健常成人15名に対しダブルベルトトレッドミルにて通常歩行2分間,続いて麻痺側が倍速に変化し,非対称歩行を5分間行った。計測は三次元動作解析装置を用い,立脚時間,ステップ長,床反力推進成分(GRFy)のRMS値,ピークタイミングを抽出し,対称(Baseline)・非対称(Early-adapt,Late-adapt)歩行での変化を一要因の反復測定分散分析,多重比較検定を行った。【結果】GRFyピークタイミングのみがsplit-beltにより歩行周期において早期化した健常人と異なり,片麻痺者では変化しなかった。【結論】本研究のsplit-belt条件では,麻痺側下肢の床反力推進成分ピークタイミングを健常化するには至らない可能性が示唆された。

症例検討
  • 矢作 賢史, 圷 誠斗, 矢作 翔平, 吉野 恭平, 久高 正嗣, 大野 潤, 福田 佳男, 藤井 基晴
    2019 年 26 巻 1 号 p. 55-58
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/05/24
    ジャーナル フリー

    【はじめに】本報告は症例を通じて上腕骨外側上顆炎の病態を生体力学的観点から検討するものである。【症例記述】症例は40歳代女性の専業主婦である。水の入った加湿器の水タンクのキャップ部分を母指・示指・中指を用いたつまみ把持である3点つまみで把持し持ち上げた時に右肘関節外側部痛が出現し,右上腕骨外側上顆炎と診断された。本症例に対し,短橈側手根伸筋の負荷軽減を目的として長橈側手根伸筋の活動を促す運動療法と把持動作の指導を実施した。理学療法開始後2ヶ月の時点で疼痛誘発テストおよび力強い把持を必要とする動作での疼痛は消失した。【考察】長橈側手根伸筋と短橈側手根伸筋の手関節に対する作用は異なるものであり,長橈側手根伸筋の活動を促す運動療法と把持動作の指導が上腕骨外側上顆炎の治療においては重要になると考える。

  • ―脊柱への治療を追加し疼痛軽減が得られた症例―
    新井 龍一
    2019 年 26 巻 1 号 p. 59-62
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/05/24
    ジャーナル フリー

    脊柱の変形を伴う右変形性股関節症患者を担当する機会を得た。股関節に対する理学療法を3週間行ったが,歩行時の疼痛がNumerical Rating Scale(以下NRS)4と残存し難渋した。治療内容を再考してシュロス法の治療概念を用いた脊柱に対する理学療法を行い,歩行時の体幹動揺を制御させた結果,12週目で腰椎のコブ角が4°改善した。歩行時の動揺も減少し,14週にはNRS 0へ減少した。脊柱の変形を伴う股関節症患者において,脊柱のアライメントを修正することが股関節の負担軽減に繋がり,さらなる疼痛軽減に効果があることが示唆された。

  • 大草 綾音, 渡辺 学
    2019 年 26 巻 1 号 p. 63-66
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/05/24
    ジャーナル フリー

    【はじめに】Windswept deformity様アライメントに対する理学療法に関しては,これまで報告が少ない。今回,股関節と体幹機能に着目し治療を行い,一定の効果を得たため報告する。【症例記述】両側変形性膝関節症に対する右膝関節高位脛骨骨切術によって,Windswept deformity様アライメントを呈し,その後右膝関節半月板損傷のため入院し,半月板縫合術後に理学療法を行なった。股関節や体幹の運動方略を変化させ歩容の修正を図った結果,疼痛軽減と歩行効率向上が得られた。【考察】代償的歩容が,両膝関節へメカニカルストレスを与えていると推察され,股関節と体幹の筋力増強と協調運動により能動的に体重を支持し,適切な重心移動をすることが,効果的であったと考えられた。【まとめ】windswept deformity様アライメントに対し,股関節や体幹機能により適切な重心移動を学習することが,歩容や疼痛を改善させる一手段となりうることが示唆された。

  • 齋藤 隼平, 国分 貴徳, 久保田 圭祐
    2019 年 26 巻 1 号 p. 67-71
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/05/24
    ジャーナル フリー

    【はじめに】振り子モデルは位置エネルギーと運動エネルギーの変換作用により,効率的な歩行を可能にする。本症例報告の目的は,遊脚振り子に着目した治療介入の治療効果と有効性を探ることにある。【症例記述】回復期において麻痺側下肢遊脚の困難さを呈した左片麻痺の症例に対し,遊脚振り子に着目した治療介入を行った結果,麻痺側下肢遊脚と歩行効率の改善を認めた。【考察】立脚中期から後期の股関節伸展角度の増大により,遊脚振り子としての位置エネルギーの増大と,エネルギー変換による下肢遊脚が可能となり,麻痺側下肢遊脚が改善された。またTrailing Limb Angleが向上し,歩行効率の増大を認めた。【まとめ】遊脚振り子に基づく治療介入を実施し,分廻し歩行と歩行効率の改善を認めた。治療介入により動作パターンに変化は見られたが,科学的データの計測には至らず,その治療効果に関しては今後客観的に検証していく必要がある。

編集部からの記事
  • 金村 尚彦
    2019 年 26 巻 1 号 p. 72-77
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/05/24
    ジャーナル フリー

    理学療法研究は,2014年12月に告示された人を対象とする医学系研究に関する倫理指針に基づき研究を行うが,時代とともに変化する社会情勢に対応するため,この倫理指針も個人情報保護法の改定に伴い,2017年2月に一部改正されている。侵襲と介入や,個人認識符号や要配慮個人情報等の用語の定義,インフォームド・コンセント等の手続きの見直し,利益相反などを考慮し,倫理審査のプロセスを確認し,研究計画を立案することが重要である。

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