理学療法 - 臨床・研究・教育
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最新号
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巻頭言
講座
  • 荻原 直道, 関 広幸, 野崎 修平
    2024 年 31 巻 1 号 p. 3-9
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル フリー

    足部の運動器疾患は,患者が病院を訪れる時点で病態がそれなりに進行していることが多く,その発症要因や病態の進行メカニズムは必ずしも十分に明らかにされていない。このためその効果的な予防・早期介入法の確立が進んでいないのが実情である。運動器疾患は,遺伝的・環境的要因が様々に複雑に関連して発症すると考えられているが,骨・軟骨に先天的もしくは後天的に形態的変化が起こり,その結果として骨や関節の力学環境が変化することが,その主因の一つであると考えられる。とすれば,疼痛など臨床的な症状が出現する前から,患者群には共通する骨の形態的特徴が存在し,その結果引き起こされる骨・関節の力作用や運動の変化がさらなる骨・軟骨の変形をもたらし,疾患の発症を惹起している可能性が示唆される。本稿では,特に変形性足関節症と外反母趾を対象として,足部疾患の形態的リスクファクターを抽出する試みについて紹介する。

  • 飯島 弘貴
    2024 年 31 巻 1 号 p. 10-16
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル フリー

    世界的に高齢化が進む現代において,健康寿命を短縮させる変形性膝関節症の病態理解や治療法開発への要求が高まっている。当該領域におけるこれまでの基礎研究では,若齢の動物に,半月板や前十字靭帯の損傷を与えることで,変形性膝関節症を引き起こす外傷モデルが主に使用されてきた。しかし,実際に医療機関で変形性膝関節症と診断される患者の多くは高齢であり,また,必ずしも明確な誘因となる外傷を有しているわけではない。関節軟骨の再生能力が低いことは300年以上前から知られているが,現代においても有効な治療法開発が進んでいない背景には,このような基礎と臨床の明確な乖離が一因としてある。本稿では,この乖離を埋める第一歩として,自然発症型の変形性関節症モデル動物を使用してこれまでに我々が明らかにしてきた一連の研究成果を解説する。

研究論文
  • 新井 健一
    2024 年 31 巻 1 号 p. 17-21
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル フリー

    【目的】高齢びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)患者において化学療法前後での腸腰筋指数(PMI)低下と予後との関連性を明らかにする。【方法】対象はR-CHOP療法を完遂した65歳以上のDLBCL患者71例とした。化学療法前後でPMI90%以上を維持群,90%未満を低下群として分析を行った。【結果】患者背景に有意差は認めなった。単変量解析においてPFSではLDH(p=0.03),PMI変化率(0.01),OSではBMI(p=0.04),PMI変化率(p=0.02)であった。有意差を認めた因子による多変量解析では,PFSではPMI変化率(p=0.01)が有意差を認めたが,OSではPMI変化率に有意差は認めなった(p=0.05)。PFSでは生存曲線にて低下群の予後は不良であった(p=0.01)。【結論】化学療法前後でのPMIの低下はPFSにおけるリスク因子となる可能性がある。

  • ―デルファイ調査―
    須澤 泰成, 高﨑 博司
    2024 年 31 巻 1 号 p. 22-32
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル フリー

    【目的】日本の理学療法士(PT)が,今後,国際スポーツ大会でメディカルサポートを行う専門職となるよう支援していく上での現状の課題を明らかにすること。【対象と方法】東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会のボート競技において現場でメディカルサポートを行ったPTを対象に3ラウンドデルファイ法を実施した。第1ラウンドでは各参加者から現状の課題へ自由解答で意見を求めた。筆者2人によるKJ法で20の課題リストを作成し,第2・3ラウンドの調査では各課題への同意の程度を5段階で調査した。【結果】第2・3ラウンド調査の結果,14の課題が事前に設定した合意基準(平均点3.5点以上,中央値4点以上,一致率70%以上,変動係数20%以下)に達していた。【結論】PTの職域拡大・充実のために,今回得られた課題への対応について今後検討が必要だと思われる。

  • ―介護支援専門員を対象とした研究―
    小川 秀幸, 三井 直人, 宮原 拓也, 濵野 祐樹, 松岡 廣典, 仲里 到, 中野 克己
    2024 年 31 巻 1 号 p. 33-37
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル フリー

    【目的】下肢装具が破損した状態で使用しているなど装具支援格差の問題は社会的な課題である。しかし,その実態や具体的な装具の問題点については不明な点が多い。本研究は,装具使用者に関わる機会が多い介護支援専門員(ケアマネ)を対象にアンケートを実施し装具格差の実態を明らかにすることを目的とした。【方法】さいたま市全域の居宅介護支援事業所を対象に郵送によるアンケートを実施した。回答者は下肢装具使用者を担当した経験のあるケアマネまたは代表1名とした。【結果】アンケートの回収率は49.2%だった。下肢装具使用率は4.5%であり,その装具使用者の30.5%は装具に問題が生じていた。具体的な問題で最も多かったのは「装具が当たり痛みがある:26.8%」であった。【結論】さいたま市の居宅介護支援事業所を利用している要介護認定者のうち4.5%が装具使用者であった。そのうちの約3割は装具に何らかの問題が生じている実態が明らかとなった。

  • 服部 寛, 赤坂 清和, 濱田 勇志, 杉山 真一, 三好 辰範, 遠藤 浩士
    2024 年 31 巻 1 号 p. 38-43
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル フリー

    【目的】埼玉県理学療法士会による高校テニス大会サポート活動における埼玉県大会と関東大会の異なる競技レベルのサポート内容の違いを調査した。【方法】2017–2022 年度の大会期間中にブースに来室した選手にコンディショニングを実施した。サポート記録から選手の主訴および身体部位,所見,介入内容を調査し,2大会で比較を行った。【結果】県大会197件,関東大会33件を調査対象とした。2大会ともに,来室目的は疼痛緩和,身体部位は腰背部,所見は筋硬結,介入内容はストレッチ・マッサージが最も多かった。【考察】大会期間中の高校テニス選手が理学療法士に求めることは疼痛緩和が最も多く,腰背部の筋・筋膜由来の症状が多いことが示唆された。また,競技レベルの異なる大会おいても,主要な項目に共通点が見られたため,理学療法士が競技レベルの異なる大会に帯同する場合には,これらの点を踏まえた準備を行う必要性が考えられた。

  • 佐藤 博文, 高山 みなみ, 鵜澤 彩花, 大熊 克信, 山崎 雄一郎, 小林 陽平
    2024 年 31 巻 1 号 p. 44-49
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル フリー

    【目的】本研究の目的は,小脳または脳幹部の脳卒中により運動失調を呈した症例において症状の相違を明らかにすることである。【方法】対象者を小脳障害群と脳幹障害群の2群に分け,入棟時および退棟時に基本情報(年齢等),経過(入院日数等),機能評価(Scale for the assessment and rating of ataxia(以下,SARA)等)を比較した。【結果】解析対象は脳卒中患者62例。小脳障害群で脳出血の割合,めまいの出現が有意に多く,脳幹障害群で運動麻痺および感覚障害を有する割合が多かった。これらはいずれも中等度の効果量を認めた。また,SARAの立位・歩行・手回内外試験で中等度の効果量を認めた。【結論】小脳障害群ではめまいに応じた運動課題の設定やリスク管理が必要となり,脳幹障害群では今後,片麻痺の要素に対するアプローチの有効性の検証が必要と考えられた。

  • ―KS measureを用いた剛性特性算出方法の検討―
    安井 和奏, 平田 恵介, 後藤 寛司, 森下 佑里
    2024 年 31 巻 1 号 p. 50-54
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル フリー

    【目的】女性の膝関節前方弛緩性(Anterior Knee Laxity:AKL)やstiffnessを従来よりも正確に算出する方法を検討することとした。【方法】健常女子大学生7名を対象に月経周期(月経期,卵胞期,排卵期,黄体期)毎に,機器特性を考慮し,脛骨の牽引速度に配慮しながら,AKLとstiffnessを算出した。【結果】AKLは44N-133Nの牽引時に月経期よりも排卵期と黄体期で有意に高かった(p=0.002-0.008,p<0.001)。また,卵胞期よりも排卵期と黄体期で有意に高かった(p<0.001-0.004,p<0.001)。Stiffnessは月経期よりも排卵期,卵胞期よりも黄体期で有意に低かった(p<0.001)。【結論】正確なAKLとstiffnessの算出には,月経周期の定義方法の確立および脛骨牽引速度の制御が必要である。

  • ―細胞膜関連因子に着眼して―
    村田 健児, 川端 空, 高須 千晴, 眞下 葵, 押田 竜河, 曽根 賢太, 二瓶 孝太, 永田 詩織, 金村 尚彦
    2024 年 31 巻 1 号 p. 55-60
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル フリー

    変形性関節症は関節軟骨の変性を主病変とする運動器疾患である。運動が軟骨変性の予防に効果的であるという報告は散見するが,そのメカニズムはまだ完全には明らかにされていない。本研究では,運動が軟骨組織にどのような影響を及ぼすのか網羅的遺伝子発現データを解析するため,Gene Expression Omnibus (GEO)のデータセットを使用し,運動の有無による細胞膜に関連する発現変動遺伝子を特定した。その結果,15日以上の運動によって高い発現を示した細胞膜関連遺伝子として,Gpld1が同定された。さらにネットワーク解析では,Hub遺伝子としてApp,Apoe,Bace1,MMP-2,MMP-9が抽出された。4週間の運動効果をリアルタイムPCR法で評価したところ,Gpld1 mRNAが運動によって増加したことが確認された。この結果から,15日以上の運動は軟骨組織の軟骨細胞膜へ影響を及ぼし得る刺激であり,運動効果を示す一要因となる可能性がある。

調査報告
  • ―関節可動域の目標設定と改善期間に着眼して―
    村田 健児, 髙橋 建生, 那須 高志, 加納 拓馬, 藤原 秀平, 松本 拓也, 田村 健太, 島田 直宣, 五十嵐 郁弥, 上原 優喜, ...
    2024 年 31 巻 1 号 p. 61-66
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル フリー

    肩関節拘縮(以下, 拘縮肩)は治療に時間を要する運動器疾患であり,統一された治療目標や目標期間を患者に示すことは治療上重要である。今回,凍結肩拘縮期の患者モデルを作成し,協力機関へのWEBアンケートから拘縮肩に対する関節可動域の目標設定と改善期間について理学療法士間の相違を調査した。60名の各理学療法士における屈曲角度の目標設定は120度が28.3%,140度16.7%,160度26.7%,反対側と同様まで26.7%であった。また,改善までの予測される期間は,1か月未満0%,1-3か月15.0%,3-6か月 40.0%,6-9か月 30.0%,9か月-1年13.3%であった。総じて,1)理学療法士間での関節可動域の目標設定にばらつきが大きいこと,2)改善期間においては3-6か月,6-9か月の期間が必要であると7割以上の理学療法士が考えている共通的な理解であった。

  • ―術前と術後2週の比較―
    久慈 祐輔
    2024 年 31 巻 1 号 p. 67-70
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル フリー

    【目的】腰部脊柱管狭窄症(以下,LSS)患者の術前と術後2週における日常生活動作・歩行機能・疼痛について調査した。【方法】対象はLSSにて当院で手術と後療法を受けた16名(男性8名,女性8名,平均年齢70.1±15.0歳)とした。手術方法は腰椎後方固定術6例,腰椎側方固定術3例,内側椎間関節切除術5例,腰椎後方固定術・内側椎間関節切除術2例であった。評価項目は日本整形外科学会腰痛疾患質問表(以下JOABPEQ),疾患特異的評価法オスヴェストリー能力指数(以下,ODI),痛みの破局的思考尺度(以下,PCS),握力を術前と退院時に実施した。【結果・結論】退院時のJOABPEQの疼痛機能障害,歩行機能障害,社会生活障害,心理的障害,PCSの反芻・無力感,ODI,握力に改善がみられた。LSSは術後6か月でQOL,日常生活動作・歩行能力・疼痛が改善すると報告されているが,退院時の短期間においても同様の傾向がみられた。

  • 那須 高志, 宮原 拓也, 立川 智也, 小林 渓紳, 久慈 祐輔, 宮﨑 涼太, 竹内 怜生, 森藤 武
    2024 年 31 巻 1 号 p. 71-74
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル フリー

    日本理学療法士作業療法士養成施設指導ガイドラインにおいて「指定規則改定により実習人員と実習指導者数の対比は2対1程度が望ましい」と記載されており,協同学習(以下,協同学習モデル)が推奨されている。ただし協同学習モデルは従来モデルと指導者への評価や実習内容,実習中の時間配分など異なる点があると考えられる。本研究は,従来モデルと協同学習モデルにおいて指導者への評価,時間的要素,満足度,達成度における差異を明らかにすることである。対象は4週間以上の実習を実施した実習生35名で,アンケート調査を実施し,両モデル間において比較した。結果は従来モデル25例,協同学習モデル10例であった。「実習要綱の理解」において協同学習モデルの方が有意に高い結果であった。以上のことから,指導者への評価,時間的要素,満足度,達成度に関しては両モデルとも同程度の実習を遂行出来る可能性が示唆された。

症例検討
  • 池田 尚也, 中川 誠也, 藤井 祐貴
    2024 年 31 巻 1 号 p. 75-78
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル フリー

    【はじめに】歩行時の膝前内側部痛に伏在神経膝蓋下枝の関与が疑われた症例を経験した。【症例記述】本症例は歩行時の膝前内側部痛により連続歩行は80 mが限度であった。理学所見より同神経領域のTinel徴候と表在感覚鈍麻,同神経領域における挫創部周囲の皮膚,皮下組織に滑走性低下を認めた。【考察】本症例の歩行時痛は伏在神経膝蓋下枝領域における皮膚,皮下組織の滑走性低下部位に反復的な神経伸張ストレスが歩行中に加わり,伏在神経膝蓋下枝に過剰な剪断ストレスが生じたことで惹起されたと考える。これらに対し,IPB周囲の皮膚,皮下組織とIPB間の滑走性改善を図ることで歩行時痛は改善し,1 km以上の連続歩行が可能となった。【まとめ】膝前内側部痛に伏在神経膝蓋下枝の関与が疑われる場合,同神経領域の皮膚,皮下組織の滑走性低下にも着目して介入する必要がある。

2022年度研究助成報告書
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