運動疫学研究
Online ISSN : 2434-2017
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21 巻, 2 号
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巻頭言
総説
  • ―我が国での身体活動促進に向けた介入の現状と課題―
    金居 督之, 井澤 和大, 久保 宏紀, 野添 匡史, 間瀬 教史, 島田 真一
    2019 年 21 巻 2 号 p. 91-103
    発行日: 2019/09/30
    公開日: 2019/12/21
    ジャーナル フリー

    本稿では,先ず海外の脳卒中患者における身体活動量研究の動向を病期別に紹介した。次に,我が国における身体活動量研究について現状と今後の課題について概説した。 脳卒中を発症しやすい集団は,発症前から不活動になりやすい。また,発症後のあらゆる病期においても同様に不活動に陥りやすい。更に,身体活動量や活動強度の目標値が示されているものの,脳卒中患者の多くはこれらを満たしていない。これらの対策として,身体活動促進や座位行動減少に焦点を当てたさまざまな介入研究が実施されている。主な介入方策としては,セルフ・モニタリングの指導,目標設定,言語的説得・奨励などの行動変容技法が用いられている。また,近年では,ウェアラブル端末等を利用した遠隔指導も注目されている。 我が国における脳卒中患者の身体活動量研究は,増加傾向にある。しかし,介入研究や長期的なフォローアップに関する研究は極めて少ない。したがって,今後は,脳卒中治療ガイドラインにおいても身体活動の重要性が提示されるべく,より質の高い介入研究が待たれる。

原著
  • 冨士 佳弘, 岡崎 可奈子, 中野 裕紀, 章 ぶん, 上村 真由, 広崎 真弓, 大平 哲也, 磯 博康
    2019 年 21 巻 2 号 p. 104-112
    発行日: 2019/09/30
    公開日: 2019/12/21
    ジャーナル フリー

    目的:東日本大震災後,仮設住宅生活の高齢者において,不活動による身体機能の低下が報告されている。不活動対策の模索はなされているが,社会参加型の運動介入の不活動への予防効果は明らかではない。そこで,個人の身体機能に応じた社会参加型の運動課題の推奨が,高齢者の不活動の改善として有用であるかを検証するための予備的検討を行った。

    方法:仮設住宅に居住する65歳以上で1週間の活動量が10 METsh/w未満の不活動者18人を対象とし,20157月~20161月まで月1回の運動教室と3か月ごとの評価を行った。社会参加型の運動課題は,ガーデニングおよび近隣の寺社への参拝のいずれかを対象者の希望により付与した。

    結果1か月間で最大の活動が行われた1週間の平均活動量は,ベースライン時から3か月後に有意な増加(7.6±1.9 METsh/w → 20.2±11.2METsh/w, p<0.01)を認めたが,ベースライン時から6か月後は,有意な増加(7.6±1.9 METsh/w → 14.1±12.1 METsh/w, p=0.24)とはならなかった。課題別では,近隣の寺社への参拝群(7.9±1.1 METsh/w → 13.2±3.3 METsh/w, p<0.05)と,ガーデニング群(7.3±2.5 METsh/w →27.3±11.7 METsh/w, p<0.05)のそれぞれで3か月後の活動量に有意な増加を認めたが,6か月後では,近隣の寺社への参拝群(7.9±1.1 METsh/w → 9.6±5.4 METsh/w, p=0.54)およびガーデニング群(7.3±2.5 METsh/w → 21.6±15.9 METsh/w, p=0.37)において両群とも有意な変化はみられなかった。

    結論:本研究では,個人の特性を考慮した社会参加型の運動課題の推奨が短期的には有効である可能性を得た。

  • 武田 典子, 種田 行男, 井上 茂, 宮地 元彦, Fiona Bull
    2019 年 21 巻 2 号 p. 113-135
    発行日: 2019/09/30
    公開日: 2019/12/21
    ジャーナル フリー

    目的:全国の都道府県を対象として,身体活動促進を目的とした行動計画の策定とその実施状況を明らかにすること。

    方法Bullらが開発した「健康増進のための身体活動に関する国の政策を監査するためのツール(Health-Enhancing Physical Activity Policy Audit Tool; HEPA PAT)」を改変し,地方自治体向けの新たな政策監査ツール(Local PAT; L-PAT)を作成した。内容は,「身体活動促進に関する行動計画の策定」,「行動計画の策定における部門・組織間の連携」,「実際に行われた事業や活動」など11項目とした。研究期間は20158月から20163月であった。対象は全国47都道府県の保健,スポーツ,教育,都市計画,交通,環境の6つの部門で,合計282(47都道府県×6部門)であった。

    結果:全対象282のうち202から回答が得られ,回答率は71.6%であった。保健部門とスポーツ部門は,行動計画の策定率(それぞれ100%,97.6%)および実施率(それぞれ93.6%,100%)が他の部門よりも高かった。環境整備に携わる都市計画部門と交通部門においても行動計画が策定されていたが(それぞれ55%,30%),実施率は低かった(それぞれ13.6%,22.2%)。保健,スポーツ,教育の部門間には連携が認められたが,その他の部門との連携は不十分だった。

    結論:都道府県レベルの身体活動促進に関する行動計画の策定・実施は,保健部門とスポーツ部門を中心に行われていた。都市計画部門や交通部門においても関連する計画がみられた。今後は策定や実施の具体的内容および活動の効果など質的な検討が求められる。

  • ―1年間に何を準備すれば参加率が向上するのか―
    重松 良祐, 片平 謙弥, 岡田 真平
    2019 年 21 巻 2 号 p. 136-147
    発行日: 2019/09/30
    公開日: 2019/12/21
    ジャーナル フリー

    目的:運動を始めるきっかけとしてスポーツイベントが活用されている。本研究ではスポーツイベントに向けた準備内容を量的・質的側面から明らかにすることを目的とした。

    方法:笹川スポーツ財団のスポーツイベント「チャレンジデー」に2016年と2017年の両年に参加した115自治体に質問紙調査を実施した。質問紙では,周知あるいは運営に協力してくれた組織の種類と,当日に参加できるプログラム数を尋ねた。また, 参加率が顕著に高まった自治体など6自治体を抽出し,インタビューした。

    結果:2016年の参加率58±18%は,2017年の63±16%へと有意に増加していた。両年ともチャレンジデーのことを周知してくれた組織は多かった。運営に協力してくれた組織も多く,組織が運営に協力していた自治体の参加率は有意に高かった。スポーツプログラム数と参加率との関連は有意ではなかった。在住・在勤在学以外の参加者を呼び込むプログラムを実施している場合,参加率は有意に高かった。インタビュー調査から,①チャレンジデーの周知・運営協力を広く求める方法と,②チャレンジデーへの参加率を高めるための具体的な取り組みを把握できた。

    結論:多くの組織に運営への協力を得るとともに,呼び込みプログラムを実施することの重要性と,それらの具体的な方法を把握することができた。この成果はスポーツイベントの準備の改善に役立てられる。

  • ―種目と重症度による違いからの検討―
    小林 好信, 水上 勝義
    2019 年 21 巻 2 号 p. 148-159
    発行日: 2019/09/30
    公開日: 2019/12/21
    ジャーナル フリー

    目的:柔道と陸上競技において,スポーツ傷害の重症度に関連する心理社会的要因を明らかにする。

    方法:機縁法による男女大学柔道選手793人と陸上競技選手655人を対象に,スポーツ傷害の状況や競技成績,個人特性,対処資源,健康に関する事項,ストレス反応に関するアンケート調査を1年間の間隔をおき2時点で行った。初回調査時に傷害のない柔道選手222人と陸上競技選手191人を分析対象として,1年後の受傷の状況を目的変数(非受傷群/軽症群/重症群),標準化した初回調査の心理社会的要因を説明変数として,性,年齢,競技成績,過去の傷害の罹患期間にて調整した多項ロジスティック回帰分析を各競技にて行った。

    結果:1年後の調査で軽症と重症の傷害発生は,柔道が40人(18%)と20人(9%),陸上競技が14人(7%)と18人(9%)であった。多変量解析の結果,非受傷群と比した調整後オッズ比[95%信頼区間]は,柔道の軽症群にて本来感 .49[.27-.90],重症群にて獲得的レジリエンス2.26[1.03-4.98],問題解決型行動特性2.86[1.30-6.27],メンタルヘルス不良3.26[1.41-7.54]であった(p <.05)。同じく,陸上競技の軽症群にて健康管理の自信感 .32[.13-.77],重症群にて資質的レジリエンス .36[.14-.91],獲得的レジリエンス2.60[1.08-6.25]であった(p <.05)。

    結論:傷害の発生要因は,競技種目や重症度により異なり,また両競技とも獲得的レジリエンスは,重症傷害の発生リスクを高めることが示唆された。

    Editor's pick

    2020年度日本運動疫学会優秀論文賞 受賞論文
    わが国ではスポーツ障害の発生に関する良質の疫学研究は十分とはいえない。本論文では大学生アスリートのスポーツ障害の発症要因として、未だ十分に明らかにされていない心理社会的要因に着目した点が非常に興味深い。縦断調査を実施している点も研究の質を高めている。今後は、本論文で扱った陸上競技と柔道以外の種目や異なる競技レベル、大学生以外の年代でのスポーツ障害発生の心理社会的要因の解明や、それら要因に対する介入方略に関する研究など、更なる発展が期待される。また、編集委員会の特集企画で採用したテーマ「スポーツ障害と競技パフォーマンスの疫学」の趣旨によく合致する論文である。

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