運動疫学研究
Online ISSN : 2434-2017
Print ISSN : 1347-5827
18 巻, 1 号
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巻頭言
原著
  • 北湯口 純, 鎌田 真光, 井上 茂, 上岡 洋晴, 安部 孝文, 岡田 真平, 武藤 芳照
    2016 年 18 巻 1 号 p. 1-14
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2019/12/21
    ジャーナル フリー

    目的:地域在住高齢者の身体活動および座位行動が転倒発生の予測因子となるかを明らかにすること。

    方法:本研究は自記式質問紙調査データを用いた1年間追跡の前向きコホート研究である。調査は,島根県雲南市に居住する60~79歳から無作為に抽出した3,080人を対象に2009年と2010年に実施した。 身体活動および座位行動は国際標準化身体活動質問票短縮日本語版を用いて評価した。ベースライン時に過去1年間に転倒経験がないと回答した1,890人を対象に,1年後の転倒発生を目的変数,ベースラインの中高強度身体活動量と座位行動時間を説明変数,性,年齢,BMI,教育年数,地域,主観的健康感,憂うつ感,喫煙,慢性疾患の既往,転倒恐怖感,腰または膝の慢性痛,痛みによる薬剤使用,痛みによる医療機関受診を共変量とするロジスティック回帰分析を行った。

    結果:1年後の調査で163人(10.5%)に転倒が発生していた。多変量解析の結果,中高強度身体活動量と転倒に有意な関連は認められず,中高強度身体活動量の最低位群(0 MET-時/週)と比べて,中間位群(8.25~23.0 MET-時/週)の転倒発生の調整後オッズ比は1.72 (95%信頼区間0.98–3.02),最高位群(≥75.4 MET-時/週)では1.31(95%信頼区間0.75–2.29)であった。一方,座位行動時間と転倒発生には有意な関連が認められ,座位行動時間の最低位群(0~119 分/日)と比べて,最高位群(≥420 分/日)の転倒発生の調整後オッズ比は1.96 (95%信頼区間1.02–3.79)であった。

    結論:地域在住高齢者において,中高強度身体活動は転倒と関連していなかったが,長時間の座位行動が高い転倒リスクと有意に関連していた。地域在住高齢者における転倒の予測因子として座位行動時間を評価することが重要である可能性が示唆された。

    Editor's pick

    2019年度日本運動疫学会優秀論文賞 受賞論文
    1年という短い追跡期間ではあるものの、研究方法がきめ細やかに設定されており、かつ分析方法も感度分析、多重代入法等を用いて詳細に実施されている。そのため、得られた結果の信頼性が高いと考えられる。論文全体を通して丁寧に記載されており、完成度の高い論文として評価できる。読者に対する配慮が随所にみられ、論文執筆に不慣れな読者に対する教育的な価値も内包していると考えられ、その点も評価に値する。

  • 平井 春名, 村田 峻輔, 澤 龍一, 小野 玲
    2016 年 18 巻 1 号 p. 15-22
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2019/12/21
    ジャーナル フリー

    目的:地域高齢者において客観的に測定した身体活動の変化が健康関連quality of life(QOL)に与える影響を明らかにし,その影響における運動セルフ・エフィカシーの媒介的役割を縦断的に検討することを目的とした。

    方法:対象者は2006年および2013年の測定会に参加した地域在住高齢者58名のうち,認知症,脳血管系障害を発症していない49名(女性24名,平均66.2±4.4 歳)とした。身体活動はLifecorder EX 4秒版で測定し,1日当たりの平均歩数を算出した。健康関連QOL はThe MOS Short Form 36(SF-36)を用いてphysical component summary score(PCS),mental component summary score(MCS)を算出し,運動セルフ・エフィカシーは岡らが開発した運動セルフ・エフィカシー尺度を用いた。健康関連QOLについては7年後の値を,身体活動と運動セルフ・エフィカシーについてはベースラインと7年後の変化量を変数として扱い,身体活動と健康関連QOLの関係性における運動セルフ・エフィカシーの媒介効果を検討するためにBaron & Kennyの媒介モデルを作成した。

    結果:PCSに関する媒介分析の結果から,PCSと身体活動の変化量は正の関連にあり,この関連に運動SEが媒介していることが明らかとなった。MCSに関する媒介分析の結果から,MCSと身体活動の変化量は正の関係にあるが,運動SEの変化量は関与しないことが明らかとなった。

    結論:身体活動の変化量は健康関連QOLに影響を与えることが示された。特に身体活動の変化と身体機能面の健康関連QOLの間には運動セルフ・エフィカシーの変化が媒介していることが示された。

資料
  • Wan Mohd Nurussabah Bin Abd Karim, 澤田 亨, 丸藤 祐子, Robert A. Sloan, 村上 晴香 ...
    2016 年 18 巻 1 号 p. 23-29
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2019/12/21
    ジャーナル フリー

    目的:本レポートは2つの目的をもって作成された。1つはアジア各国における身体活動ガイドラインの比較である。そしてもう1つはアジアにおける各国の身体活動調査の方法およびその結果の比較である。

    方法:アジアにおける身体活動ガイドラインおよび身体活動調査の方法および結果について,Google Search,Google Scholar,MEDLINE,ELSEVIER,BioMed,BMC Public Health searchを利用してアジア全体(n=51)を対象に検索した。

    結果:インターネットを用いた調査の結果,英語で記載した身体活動ガイドラインおよび身体活動調査の方法や結果を入手できた国は6か国であった(香港,マレーシア,シンガポール,サウジアラビア,韓国,日本)。身体活動ガイドラインについては,多くの国がWHOの推奨する身体活動ガイドライン,すなわち,「中強度の有酸素性身体活動を週150分もしくは高強度の有酸素性身体活動を週75分実施することを推奨」と類似していた。身体活動調査における身体活動の定義についても多くの国がWHOの定義,すなわち,「以下の基準に1つでも適合すること,①週に3日以上,1日当たり少なくとも20分の高強度の身体活動を実施,②週に5日以上,1日当たり少なくとも30分以上の中強度の身体活動もしくは歩行を実施,③週に5日以上,歩行や中高度の身体活動を1週間当たり600 MET-min以上になるように実施」と類似した定義を採用していた。

    結論:各国の情報を共有し,より良い身体活動ガイドラインを作成していくためにも,多くの国において身体活動ガイドラインの英語版が公表されることが望まれる。更に,最低限の項目については国際的に比較可能な調査が実施されることが望ましいと考えられる。

  • 中田 由夫, 笹井 浩行
    2016 年 18 巻 1 号 p. 30-35
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2019/12/21
    ジャーナル フリー

    日本運動疫学会プロジェクト研究「介入研究によるエビデンスの『つくる・伝える・使う』の促進に向けた基盤整備」の呼びかけに対し,肥満者に対する集団型減量支援プログラム“SMART Diet”のエビデンスを提供する。我々はこれまで,単群試験や非ランダム化比較試験の蓄積によって開発されたSMART Dietの有効性を,ランダム化比較試験によって検証してきた。一般化可能性を評価する枠組みであるRE-AIMに基づくと,集団型プログラムに集まる参加者には人数的な制限と偏りがある(reach)。有効性(effectiveness)については,SMART Dietは動機付け支援講義,教材提供,集団型減量支援によって構成されるが,それぞれの構成要素の有効性が認められている。本プログラムの採用度(adoption)や実施精度(implementation)については今後の検証が必要であるが,広く利用が進むように,指導者養成講習会が開催されている。効果の維持度(maintenance)については既に検証され,一定の維持度を認めているが,更なる維持度の向上に向けた方策が必要である。このように,課題は残されているが,比較的短期間で十分な減量効果をもたらす介入手法であり,健康支援現場での活用が期待される。

  • 畑山 知子, 種田 行男
    2016 年 18 巻 1 号 p. 36-46
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2019/12/21
    ジャーナル フリー

    我々は地域在住高齢者を対象として膝痛緩和のための通信型運動プログラム「楽ひざ体操」を開発し,その有効性をランダム化比較試験によって明らかにした。本資料論文では,日本運動疫学会プロジェクト研究「介入研究によるエビデンスの『つくる・伝える・使う』の促進に向けた基盤整備」の呼びかけに対し,膝痛緩和のための通信型運動プログラムのエビデンスを提供し,介入(プログラム)の一般化可能性を評価する枠組みであるRE-AIMの観点から検討した。本プログラムに参加した者は,対象地域で膝痛を有すると推察される高齢者の0.1%であった(reach)。本プログラムの情報を得たと考えられる対象も4%程度であり,多くの対象に提供可能な通信型プログラムの利点を活かすには改善の余地が残っている。一方,プログラム完遂率は84.1%,参加者の体操実施率は84.5%と高く,有効性(effectiveness)については教室(対面式)で実施した場合と変わらない効果量が示されている。本プログラムは体操マニュアルに従って各自で実施するため,実施精度(implementation)にはマニュアルの充実とともに,安全に提供するために運営マニュアルの開発や参加者からの問合せに対し専門的な助言を提供できるよう専門家との連携などが必要である。本プログラムの採用度(adoption)や維持度(maintenance)については今後の検証が必要である。以上のように,介入の一般化には課題が残されているが,比較的簡易に実施することが可能な膝痛緩和に有効なプログラムであり,積極的な活用が期待される。

二次出版
  • Journal of Epidemiologyに掲載された英語論文の日本語による二次出版
    井上 茂, 大谷 由美子, 小田切 優子, 高宮 朋子, 鎌田 真光, 岡田 真平, Catrine Tudor-Locke, 下光 輝一
    2016 年 18 巻 1 号 p. 47-55
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2019/12/21
    ジャーナル フリー

    目的:調査における協力者,非協力者の特徴の違いは選択バイアスの原因となる。本研究の目的は地域住民を対象とした加速度計調査への協力者の社会人口統計学的および生活習慣の特徴を明らかにすることである。

    方法:日本の4都市の住民基本台帳から無作為抽出した地域住民4,000人(男性50%,2069歳)に対して郵送による横断調査を行った。1,508人より一次調査への協力が得られた(一次調査協力者)。このうち786人が加速度計を7日間装着する加速度計調査(二次調査)に協力した(加速度計調査協力者)。性別,年齢,居住都市を加速度計調査協力者とそれ以外の3,214人(加速度計調査非協力者)で比較した。更に,社会人口統計学的および生活習慣の特徴について,加速度計調査協力者と質問紙による一次調査のみに協力した722人(1,508786人:質問紙調査のみの協力者)とで,多重ロジスティック回帰分析を用いて比較した。

    結果:加速度計調査協力者は加速度計調査非協力者と比較して女性,中高年が多く,居住都市も有意に異なった。加速度計調査協力者と質問紙調査のみの協力者を比較した多重ロジスティック回帰分析では,加速度計調査協力者は非喫煙者(調整オッズ比1.3595%信頼区間1.02-1.79),余暇ウォーキング実施者(1.561.21-2.01)が多かった。

    結論:性別,年齢,居住都市,喫煙状況,余暇ウォーキングが加速度計調査への協力と関連していた。この結果は郵送による加速度計調査の選択バイアスの可能性を示すものである。

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