運動疫学研究
Online ISSN : 2434-2017
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最新号
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巻頭言
原著
  • 平田 昂大, 小熊 祐子, 真鍋 知宏, 橋本 健史
    2023 年 25 巻 1 号 p. 7-18
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2024/05/18
    [早期公開] 公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    目的:栄区セーフコミュニティの活動の一環として実施されたアンケート調査から,栄区民が自主的に実施している運動・スポーツ中における有害事象(事故・けが)の現状と傾向を捉えることを目的とした。

    方法:2017 年に栄区が自主的に運動・スポーツを実施している者を対象に実施した「スポーツ活動時に発生した事故・けがに関するアンケート(選択式・自由記述)」から得られたデータを量的・質的に解析を行った混合研究である。回答が得られた518 件のうち,解析が可能であった473 件を解析対象として実施した。

    結果:過去5 年間の活動で有害事象があったのは94 件(20%)であった。サッカー,バドミントン,バレーボールの順に報告数が多く,下肢の捻挫・靭帯損傷(26 件),下肢の筋・腱損傷(20 件),頭部・顔面の打撲(7 件)が多く発生していた。自由記述の結果からアキレス腱断裂,膝関節前十字靭帯損傷,頭蓋骨骨折,大腿骨骨折,脳出血が発生していた。年代別では,40 ~50 代の筋・腱損傷(16 件), 60 ~70 代の転倒(11 件)が特徴的であった。

    結論:地域住民が自主的に実施している運動・スポーツ中において,足関節捻挫などの下肢の傷害や高齢者の転倒といった有害事象が発生していることが明らかとなった。これらに対する予防策,対策を講じる必要性が示唆された。

  • 新村 直子, 田島 敬之, 齋藤 義信, 於 タオ, 吉田 奈都子, 阿部 由紀子, 新井 康通, 小熊 祐子
    2023 年 25 巻 1 号 p. 19-30
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2024/05/18
    [早期公開] 公開日: 2023/04/21
    ジャーナル フリー

    目的:85–89 歳の地域在住高齢者の座位行動を客観的に評価し,テレビ視聴時間を含む関連要因について多面的に検討する。

    方法:The Kawasaki Aging and Wellbeing Project(KAWP)のベースライン(2017–18 年)調査の参加者1,026 名に連続7 日間の加速度計装着を依頼し,有効データ914 名(女性473 名)の座位行動を客観的に評価した。重回帰分析を男女別に行い,座位行動との関連要因を3 領域(身体状況,社会経済状況,生活習慣)の24 因子と年齢,計25 因子から検討した。

    結果:総座位時間・装着時間に占める座位時間の割合は男性1 日平均(標準偏差)9.4(1.9)時間・67%,女性8.6(1.8)時間・59%と男性が女性より長く座っており,30 分以上継続する座位時間の割合も女性より高かった。重回帰分析により座位行動と関連が認められた要因は,関連が強い順に,男性ではテレビ視聴時間・BMI(正),家事時間・園芸スコア・運動時間・歩行速度・握力・ADL(負),女性ではBMI・テレビ視聴時間(正),家事時間・睡眠時間・運動時間・ADL・外出スコア(負)であった。

    結論:80 歳台後半の地域在住高齢者の座位行動にはテレビ視聴以外に,BMI・歩行速度・握力・ADL などの身体状況要因,家事・園芸・運動・睡眠・外出などの生活習慣要因が多面的に関連していた。

  • 神谷 義人, 喜屋武 享, 高倉 実
    2023 年 25 巻 1 号 p. 31-41
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2024/05/18
    [早期公開] 公開日: 2023/04/07
    ジャーナル フリー

    目的:本研究は,どのような大学生が歩いて10 分の距離までしか歩行を許容しないかについて明らかにすることを目的とした。

    方法:2021 年11 月~12 月,沖縄県内5 大学のうち,対象科目の履修登録者1,476 名に対し,無記名式のweb調査を行い,462 名から回答を得た(回収率31.3%)。調査項目は,どのくらいの距離(分)であれば目的地まで歩いて行こうと思うかを評価するacceptable walking time(AWT),性別,大学,学年,現在の住まい,body mass index,運転免許の保有,通学行動,および運動行動の変容ステージとした。解析はロジスティック回帰分析を用い,AWT 10 分以内(徒歩圏相当)に関する各説明変数のオッズ比を算出した。

    結果:歩いて10 分の距離までしか歩行を許容しないことに関する各説明変数のオッズ比は,男性で2.27(95%CI: 1.41–3.65),やせに対する普通体重で1.88(95%CI: 1.00–3.52),運転免許の保有ありで2.79(95%CI: 1.44–5.40),セデンタリートラベル(自動車,オートバイのみの通学)で2.96(95%CI: 1.86–4.69)であった。

    結論:大学生において,徒歩圏相当の10 分で行ける距離までしか歩こうと思えない者の特徴は男性,やせに対して普通体重である,運転免許の保有あり,セデンタリートラベル者であることが明らかとなった。車やオートバイによるセデンタリートラベルは許容できる歩行距離と関連することが示唆された。

  • 山形 菜々子, 上地 勝, 青栁 直子, 引原 有輝, 渡邊 將司
    2023 年 25 巻 1 号 p. 42-49
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2024/05/18
    [早期公開] 公開日: 2023/04/21
    ジャーナル フリー

    目的:幼児期における身体活動量と運動能力が横断的,縦断的にどの程度,またどのように関わっているのかを分析した。

    方法:対象は2018 年度から2020 年度までに入園した66 名の幼稚園児で3 年間の追跡調査に参加した。身体活動量は加速度計を用いて評価し,中高強度活動(MVPA)を算出した。運動能力は,25m 走,立幅跳,ボール投,捕球であった。因果関係の分析には,構造方程式モデリングを用いてパス解析をおこなった。

    結果:横断的にみると,年中のMVPAと各運動能力はそれぞれ弱~中程度の相関が認められた(r=-.637~.450)。年長はボール投と捕球に相関が認められた(r=.294)が,それ以外では認められなかった。縦断的にみると,年少のMVPAは年中のMVPAに対して中程度の影響(β=.405)を与え,年長のMVPAに対しては弱い影響(β=.352)を与えた。また,年中の立幅跳は年長のMVPAに対して弱い影響を与えた(β=.317)。年中の各運動能力は,年長の各運動能力に対して弱~中程度の影響を与えた(β=-.280~.527)。

    結論:年中の身体活動量と各運動能力は関連があった。年長はボール投と捕球以外で関連がなかった。年少の身体活動量は年中・年長の身体活動量に影響を与えた。遊びの内容や質が変化することで,運動能力は身体活動量に間接的な影響を与えていたと推察される。このような特徴を踏まえ,段階的なアプローチをおこなうことが求められるだろう。

  • 伊藤 真紀, 伊香賀 俊治, 小熊 祐子, 齋藤 義信, 藤野 善久, 安藤 真太朗, 村上 周三, スマートウェルネス住宅調査グループ
    2023 年 25 巻 1 号 p. 50-63
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2024/05/18
    [早期公開] 公開日: 2023/05/16
    ジャーナル フリー

    目的:断熱改修が冬季の住宅内の座位行動と身体活動に及ぼす影響を検討した。

    方法:断熱改修に意欲的な成人を募集し,冬季2 週間のベースライン調査(改修前)と,その1~4 年後の同時期に追跡調査(改修後)を行った。住宅内の座位時間と低強度以上の身体活動量(light-to-vigorous physical activity; LVPA)は,加速度計と外出記録から評価した。断熱改修を行った介入群と断念した対照群に対象者を分け,住宅内の座位時間とLVPAの変化との関連を線形混合モデルで検討した。また,脱衣所室温変化量[低下(-1℃未満),変化なし(-1℃以上+1℃未満),上昇小(+1℃以上+5℃未満),上昇大(+5℃以上)]を説明変数に加えた解析も実施した。

    結果:1,751 名(介入群1,640 名,対照群111 名)を解析対象とした。脱衣所室温は介入群で有意に上昇したが,群間で調査期間のずれが生じたことなどにより,対照群の室温も外気温の上昇に伴い上昇していた。多変量解析の結果,断熱改修と住宅内の座位時間・LVPAの変化に有意な関連は認められなかった。ただし,脱衣所室温変化量は有意に関連していた。室温が変化しなかった場合に比べて,5℃以上改善した場合は,座位時間が減少し,LVPAは増加したが,室温が低下した場合には,座位時間が増加し,LVPAは減少した。

    結論:断熱改修は住宅内の座位時間とLVPAの変化に関連していなかった。ただし,脱衣所等の室温改善は,住宅内の座位行動を抑制し,LVPAを増加させる可能性が示唆された。今後も検証が必要である。

資料
  • 田中 千晶, 渡辺 哲司
    2023 年 25 巻 1 号 p. 64-73
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2024/05/18
    [早期公開] 公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    本報告の目的は,障害のある者やない者をともに含むすべての子供・青少年の身体活動促進に関する国際的な動向,および日本の現状を総括することである。今日では,子供から大人まで蔓延する身体不活動に対処するための取り組みが世界的になされている。そうした取り組みの理念的な基盤となり得るのが,地球上の「誰一人取り残さない」ことを誓うSustainable Development Goals(SDGs)である。また,世界保健機関(WHO)の行動計画やガイドラインなどは,SDGsの理念とその目標達成に貢献し得る。Active Healthy Kids Global Allianceが,子供・青少年の身体活動の促進と状況調査に世界規模で取り組んでいる。2016 年以降,障害や慢性疾患を有する子供・青少年を対象としたデータもいくつかの国から報告されているが,まずは国内外の包括的なモニタリング・システムの開発こそが必要である。日本における既存の調査の主眼はスポーツ参加状況に置かれており,子供・青少年の日常生活全般の身体活動量がわかるデータはほとんど無い。さらに,障害を有する子供・青少年は,同年齢の健常な人たちに比べ,総じてスポーツを行うことが少なく,行うスポーツのバリエーションも乏しい。WHOの身体活動の推奨値は,障害の有無に関わらず同じであることから,スポーツ参加はもちろん日常生活全般の身体活動促進に取り組む必要がある。

  • 柴田 愛, 石井 香織, 安永 明智, 宮脇 梨奈, 小﨑 恵生, クサリ ジャヴァッド, 岡 浩一朗
    2023 年 25 巻 1 号 p. 74-82
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2024/05/18
    [早期公開] 公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    目的:本研究は,世界各国で策定された座位行動指針について概観し,その内容や特徴,策定背景を整理し,日本の成人(高齢者を含む)および子ども・青少年を対象にした座位行動指針策定に向けた基礎資料を得ることを目的とした。

    方法:概観した座位行動指針は,身体活動・座位行動研究が格段に進展しており,十分な研究成果に基づいて指針が策定されているオーストラリア,アメリカ,イギリス,カナダ,WHOの5つの国・機関とした。

    結果:成人に対する座位行動指針として,「長時間にわたる座位行動をできるだけ少なくすること」や「できるだけ頻繁に座位行動を中断すること」といった内容が,文章表現はわずかに異なるものの,すべての国・機関において共通して言及されていた。一方,子ども・青少年のための座位行動指針では,2 時間までにすること」や「長時間の座りっぱなしを中断すること」に注目した内容が示されていた。

    結論:日本の成人および子ども・青少年に対する座位行動指針を策定する際には,座位行動が種々の健康アウトカムに及ぼす影響について,諸外国および日本における研究の動向を整理し,それらの成果を踏まえた上で,日本の成人に対する座位行動指針策定の際に閾値の設定を行うかどうか十分に議論することが重要である。

  • 中田 由夫, 難波 秀行, 小谷 究, 鈴木 宏哉, 宮田 洋之, 渡邊 裕也, 天笠 志保, 原田 和弘, 桑原 恵介
    2023 年 25 巻 1 号 p. 83-93
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2024/05/18
    [早期公開] 公開日: 2023/04/21
    ジャーナル フリー

    新型コロナウイルス感染症の蔓延に伴い,感染リスクを下げられるオンラインシステムやデジタル技術を活用した介入研究が世界的に注目されている。しかしながら,運動疫学領域での活用方法の実際に関する本邦の知見は乏しく,コンセンサスも得られていない。そこで本稿では,アプリやオンライン指導といった「手法」,子どもや高齢者といった「対象集団」に着目し,いくつかの事例を紹介しながら,身体活動に関するオンライン介入研究の実際と可能性について論じることを目的とした。なお,本稿の内容は,2022 年9 月20 日に「日本運動疫学会第7 回運動と健康:分野横断型勉強会」で発表・議論された内容を中心にまとめたものであり,主な内容は下記の通りである。1)オンライン介入研究の長所と短所,2)Webベースの身体活動評価システムやウェアラブルデバイスを用いた研究の概観,3)オンライントレーニングを活用した運動部活動や体育授業の事例,4)幼児を対象としたオンライン運動指導の事例,5)高齢者向けオンライン運動教室の事例。本稿を通じて,オンラインシステムを活用した運動疫学研究がさらに発展することを期待する。

実践報告
  • 山北 満哉, 安藤 大輔, 佐藤 美理, 秋山 有佳, 鈴木 孝太, 山縣 然太朗
    2023 年 25 巻 1 号 p. 94-101
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2024/05/18
    [早期公開] 公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー
    電子付録

    目的:山梨県甲州市において実施した骨強度調査の取組について,PAIREM(Plan: 計画,Adaptation: 採用,Implementation: 実施,Reach: 到達,Effectiveness: 効果,Maintenance: 維持)の枠組み(6 局面)に基づいて報告することを目的とした。

    方法:市内の小中学校において実施した2011~2020 年の取組を対象とし,PAIREMモデルの6 局面について評価した。

    結果:計画:骨強度調査は別調査の追加調査として計画され,市内の希望校を対象として実施されたが,骨強度調査の具体的な到達目標は設定していなかった。採用:10 年間で中学校による協力の申し出(採用)がなくなったものの,小学校では61.5%から84.6%に増加した。実施:骨強度調査の結果を活用した健康教育が展開されるとともに,学校保健委員会(5 校,計7 回/10 年)及び骨の研究部会(5 回/10 年)において骨強度に関する情報提供が行われた。到達:対象とした7,362 人のうち,7,200 人(97.8%)の高い到達度で骨強度を測定できた。全対象児童(100%)に対して,骨強度に関する情報提供が行われた。効果:具体的な到達目標が設定されていなかったため,骨強度に対する骨強度調査の効果(目標達成度)を評価することができなかった。継続:参加校における10 年間の平均継続年数は8.36(標準偏差2.2)年であったが,個人に対する取組の長期的な継続効果については検討できなかった。

    結論:学校における骨強度調査の取組により高い到達度で健康教育を実施できる可能性が示された。今後は健康教育の詳細を把握するとともに,骨強度に関する具体的な数値目標を設定し,その達成を目指した取組を実施することが課題である。

  • 佐藤 文音, 北濃 成樹, 藤井 悠也, 大藏 倫博
    2023 年 25 巻 1 号 p. 102-109
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2024/05/18
    [早期公開] 公開日: 2023/05/02
    ジャーナル フリー

    我が国では,ボランティアによる運動実践活動(サークル)を普及させる事業が行われてきた。我々は2009 年より茨城県笠間市において,サークル普及を目的とした事業を実施している。こうした事業の評価方法にPAIREMモデルがある。PAIREMとは,事業を6つの局面(計画,採用,実施,到達,効果,継続)から包括的に評価するモデルである。本稿では,笠間市におけるサークル普及に関する事業をPAIREMモデルに基づき報告・評価し,事業の成果および課題を検討する事を目的とする。さらに,本モデルを用いた評価に必要なデータの一例を示す事を目的とする。笠間市における事業の計画,採用,実施,到達,効果,継続を報告・評価した。計画では,事業の計画に関する記録が残っておらず,報告できなかった。採用では,市内全域で事業が実施され,5つの組織が事業に関わっていた。実施では,ボランティア養成やその後の支援に関する教育機会が1 年間で48 回提供されていた。到達では,2009 年4 月から2017 年3 月までに32のサークルが設立され,661 名の高齢者がサークルに所属者していた。効果として,サークルへの参加が,ボランティアや他の高齢者の身体機能,認知機能を維持・向上させる事を報告した。継続では,サークル数,サークル所属者数が2021 年まで増加し続けていた。笠間市でのサークル普及事業は,サークル数の増加や女性ボランティアの増加という一定の成果をあげていた。しかし,サークル所属者には男性や虚弱な高齢者が少ない可能性があり,幅広い高齢者が参加できる体制を検討する必要がある。また,事業の人的・経済的コストの推定,介護予防効果の検証を行い,費用対効果を明らかにする必要がある。

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