運動疫学研究
Online ISSN : 2434-2017
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23 巻, 1 号
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巻頭言
総説
  • 天笠 志保, 荒神 裕之, 門間 陽樹, 鳥取 伸彬, 井上 茂
    2021 年 23 巻 1 号 p. 5-14
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/05/09
    [早期公開] 公開日: 2020/12/08
    ジャーナル フリー

    本研究では,感染症の流行時,特にSARS流行時に実施された身体活動研究を振り返ったうえで,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行下における身体活動研究の現状を明らかにした。特に,報告されている研究として主である身体活動の記述疫学的研究のレビューを行い,COVID-19の流行が身体活動量に与えた影響を明らかにした。スマートフォンのアプリケーションを用いた国際比較研究によると,COVID-19流行前と比較して,ロックダウンや外出制限下では最も歩数が低下していたが,低下の程度は各国で異なった。我が国では,流行前の2月上旬と比較して,4月の緊急事態宣言下に歩数がおよそ30%減少していた。また,COVID-19流行下で多く実施されたインターネット調査の結果によると,座位行動時間が増加し,中高強度の身体活動時間が減少したことが報告されている。しかし,これらの研究はロックダウンや外出制限下における一時的な状況を示しているに過ぎず,今後,長期的な視点をもって,COVID-19の流行やそれに伴うライフスタイルの変化が日常の身体活動や身体活動の格差に与えた影響を明らかにしていく必要がある。また,インターネット調査やデバイスを用いた身体活動研究が浸透し,今後更なる研究が進むことが期待されるが,対象者の代表性に留意する必要がある。

  • 田島 敬之, 齋藤 義信, 小熊 祐子
    2021 年 23 巻 1 号 p. 15-35
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/05/09
    [早期公開] 公開日: 2020/12/15
    ジャーナル フリー

    目的:本研究は,成人を対象とした身体活動ガイドラインにおける認知・知識の評価方法の特性や,身体活動ガイドラインの認知・知識と身体活動量の関連について網羅的なレビューを実施することで,これまでの国内外の研究動向を整理し,今後の研究課題の探索と提言を行うことを目的とした。

    方法:データベースはPubMedPsycINFO,医中誌を用いた。検索語は「ガイドライン」,「認知または知識」,「身体活動または座位行動」に関するキーワードが含まれるように選定し,検索式を設計した。設定した適格基準を基にスクリーニングを実施して採択の可否を判定し,論文の概要を抽出した。

    結果2001年以降に発表された25編を採択した。身体活動ガイドラインの認知の評価方法は純粋想起法と助成想起法に大別された。純粋想起法と身体活動量の間には正の関連を認めたが,助成想起法では結果が一貫していなかった。ガイドラインの知識の評価方法は多様であり,推奨量を数値で回答させる評価方法が多かった。ガイドラインの知識では,推奨量を数値で回答させる・選択肢から適切な推奨量を回答させる研究で身体活動量との正の関連を認めた研究が多かった。座位行動を評価した研究は1編のみであった。

    結論:身体活動ガイドラインの認知・知識の評価方法は,研究間で異なっており,身体活動量との関連は結果が一貫していなかった。認知・知識の評価方法の確立と客観的な身体活動・座位行動の評価による研究の蓄積が今後の課題である。

原著
  • 鈴木 康裕, 清水 如代, 椿 拓海, 野崎 礼, 紺野 春生, 平田 紳悟, 羽田 康司
    2021 年 23 巻 1 号 p. 36-44
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/05/09
    [早期公開] 公開日: 2020/12/08
    ジャーナル フリー

    目的:ボートレーサーの競技成績(勝率)の変化率をアウトカムとし,関連する因子をコホート調査によって検討した。

    方法:対象者は110名のボートレーサー(平均42.7±7.5歳)とし,ベースライン(baseline; BL)時,3年後に行われたレース結果の勝率を用い,(3年後勝率-BL勝率)/BL勝率×100にて勝率変化率を算出しアウトカムとした。3年間の勝率変化率と性別,BL時の変数(勝率,年齢,体重,動的バランス能力)および各変数の変化量(体重,動的バランス能力)との関連について,重回帰分析を行った。

    結果:勝率変化率はBL時の年齢および体重と有意に負の関連を示した(p<0.05)。一方,BL勝率,性別,動的バランス能力については,関連因子としての有意性は認められなかった。

    結論:ボートレーサーの競技成績の3年間の変化率は,BL時の年齢および体重と負の関連を示した。

  • 伊藤 真紀, 伊香賀 俊治, 小熊 祐子, 齋藤 義信, 藤野 善久, 安藤 真太朗, 村上 周三, スマートウェルネス住宅調査グループ
    2021 年 23 巻 1 号 p. 45-56
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/05/09
    [早期公開] 公開日: 2020/12/08
    ジャーナル フリー

    目的:成人を対象に,冬季の暖房使用と住宅内の座位行動および身体活動の関連を検討すること。

    方法:本研究は横断研究である。調査は沖縄県を除く46都道府県の工務店等を通して募集した断熱改修工事予定のある住宅に居住する20歳以上の成人を対象に2014年度から2017年度までの冬季(11月~4月)に実施し,3,874名から同意を得た。加速度計は連続14日間の装着を依頼した。行動日誌から覚醒在宅時間帯を特定し,住宅内の座位行動と身体活動を評価した。コタツおよび脱衣所暖房使用の有無と住宅内の座位行動,身体活動との関連は目的変数を対数変換したうえで,日レベル(室温,オフセット項として覚醒在宅時加速度計装着時間等),個人レベル(年齢,BM等),世帯レベル(世帯年収,同居人数等)で調整した線形混合モデル(ランダム切片モデル)を男女別に実施した。非標準化偏回帰係数は指数変換し,目的変数への関連の程度を算出した。

    結果:有効データは3,482名であった。多変量解析の結果,コタツを使用しない場合は住宅内の座位行動時間が約2%短く[男性:exp(B)=0.98p=0.022,女性:exp(B)=0.98p=0.020],その中断回数は約10%多く[男性:exp(B)=1.10p=0.001,女性:exp(B)=1.11p<0.001],身体活動も57%多かった[男性:exp(B)=1.07p=0.005,女性:exp(B)=1.05p=0.012]。脱衣所を暖房する場合も同様の関連が確認された。

    結論:コタツを使用しない人,脱衣所を暖房する人は,住宅内の座位行動時間が短く,かつ頻繁に中断し,身体活動量も多かった。局所暖房を使用せず,非居室でも暖房を行い家を暖かく保つことは,住宅内の座位行動を抑制し身体活動を促進する可能性がある。

  • 鈴木 康裕, 田島 敬之, 村上 史明, 高野 大, 亀沢 和史, 青木 航大, 羽田 康司
    2021 年 23 巻 1 号 p. 57-69
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/05/09
    [早期公開] 公開日: 2020/12/08
    ジャーナル フリー

    目的:本研究の目的は,男性勤労者を対象に我々の作成したボード・ゲーム教材を用いた介入を行うことで,身体活動量が増加するかどうか,また介入終了後に維持されるかどうかについて予備的に検討することである。

    方法:筑波大学芸術系と共同開発した本教材は,プレーヤーが身体活動量を増やすことで有利に進めることができる。本研究の対象者は,地域の大学および大学附属病院にて勤務する男性職員11名[年齢2448歳,中央値(四分位範囲)34.0(33.539.5)歳]であった。介入期間は6週間,全4回(1回/2週間,30分間/1回)のゲームを行った。介入開始前に2週間,介入終了後に12週間を設定し,最初の2週間をベースライン期間,介入終了後の12週間を介入効果の持越し観察期間とした。対象者は,介入群と対照群の2群に無作為に割り付けた。対照群は日常生活における身体活動量の増減をゲームのインセンティブとして与えなかった。身体活動量は対象者全員に3軸型加速度計を配布し測定を行った。

    結果:中高強度活動時間(中央値)の群間比較において,介入期間中の変化量は,対照群+0.2分/日に対し介入群+1.6分/日であった。経時的変化については,ベースライン期間と比べた介入12週間後の変化率は,介入群+48%,対照群+10%であった。

    結論:男性勤労者の身体活動量は,我々の作成した教材を用いた介入を行うことで増加し,また介入後も中期的に維持される可能性がある。

  • 山田 綾, 門間 陽樹, 龍田 希, 仲井 邦彦, 有馬 隆博, 八重樫 伸生, 永富 良一, エコチル調査宮城ユニットセンター
    2021 年 23 巻 1 号 p. 70-83
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/05/09
    [早期公開] 公開日: 2021/01/13
    ジャーナル フリー
    電子付録

    目的:日本人女性を対象に,妊娠前および妊娠中,産後1.5年と3.5年の身体活動レベルの経時変化を記述することを主たる目的とし,更に,産後1.5年と3.5年で低い身体活動レベルを維持してしまう要因について探索的に検討することを目的とした。

    方法:子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)の宮城ユニットセンター独自の調査に参加同意した女性1,874名を対象とした。身体活動はIPAQ短縮版を用いて,妊娠前,妊娠中,産後1.5年および3.5年に測定し,低身体活動と中高身体活動の2カテゴリーにそれぞれ分類した。更に,育児期の産後1.5年と3.5年で低い身体活動レベルを維持してしまう要因については,出産時年齢,婚姻状況,学歴,就労状況,出産歴,再妊娠の有無,非妊娠時BMI,過去の運動経験の有無,妊娠前および妊娠中の身体活動レベルを説明変数とし,ポアソン回帰分析を実施した。

    結果:低身体活動に該当する女性の割合は,妊娠前で51.7%,妊娠中で64.5%,産後1.5年で92.0%となり,産後3.5年では65.3%であった(妊娠前の割合と比較してすべての時点でP<0.001)。産後1.5年と3.5年で低身体活動を維持してしまう要因は,出産時年齢が高いこと,高学歴,産後の仕事の継続,休止および未就労,過去の運動経験なし,妊娠前と妊娠中の低身体活動レベルであった(P<0.05)。

    結論:妊娠~育児期における女性は低い身体活動レベルに該当する者が多く,産後1.5年で最も高い値を示した。育児期に低身体活動を維持してしまう要因は,高年齢,高学歴,産後の就労継続,未就労および休止,過去の運動経験なし,妊娠前および妊娠中の低身体活動レベルであった。

実践報告
  • 桑原 恵介, 難波 秀行, 武田 典子, 齋藤 義信, 小熊 祐子, 井上 茂
    2021 年 23 巻 1 号 p. 84-91
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/05/09
    [早期公開] 公開日: 2020/12/08
    ジャーナル フリー
    当初,2020年9月8日から12日まで横浜で開催予定であった2020横浜スポーツ学術会議は,突如とした新型コロナウイルス感染症の世界的な蔓延に伴い,開催形式は対面からオンラインへと変わり,また,予定していたプログラムも変更あるいは中止となり,会期も変わるなど大きな影響を受けた。日本運動疫学会が準備を進めていたセッションも一度はすべて中止となったが,関係者の理解と協力を得て,新たに企画を立案し,公開講座という形でFiona Bull氏(世界保健機関ヘルスプロモーション部局身体活動部門長)と鈴木大地氏(スポーツ庁長官)による講演と対談を2020年9月9日に日本とスイスをリアルタイムにバーチャルでつなぐことで実現することができた。当日は300名以上の参加者があり,事前質問も含めてたくさんの質問をいただいたが,すべての質問に答えることができなかったことや,参加者間のディスカッションができなかったこともあり,翌日にオンラインで緊急討論会を開催した。本稿では,運動疫学研究の普及・促進活動の実践報告として,これらの開催までの経緯等を概観したうえで,同講座から得られた知見等を基に,今後の展望について述べる。
二次出版
  • Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscleに掲載された英語論文の日本語による二次出版
    渡邊 裕也, 山田 陽介, 吉田 司, 横山 慶一, 三宅 基子, 山縣 恵美, 山田 実, 吉中 康子, 木村 みさか, Kyoto-Ka ...
    2021 年 23 巻 1 号 p. 92-106
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/05/09
    [早期公開] 公開日: 2020/12/08
    ジャーナル フリー
    電子付録

    背景:長寿社会において,最も深刻な社会問題の1つにサルコペニアおよびフレイルがある。高齢者の自立と生活の質を維持するためには,これらを予防することが重要である。本研究では,地域在住高齢者を対象に,自己管理式の包括的介護予防プログラム(Comprehensive geriatric intervention program; CGIP)が身体機能および骨格筋量に及ぼす効果を調査した。我々は,CGIPを自宅で実施する群(自宅型)と自宅での実施に加えて週に1度の集団指導を行う群(教室型)の介入効果を比較した。

    方法526名の参加者を,居住地区に基づいて2群(教室型251名,自宅型275名)のいずれかに無作為に割り付けた。低負荷レジスタンストレーニング,身体活動量の増加,口腔機能の改善,栄養ガイドで構成されるCGIP12週間実施した。参加者全員に,プログラムの説明を含む90分の講義を2回受講するよう促した。参加者にはトレーニングツール(3軸加速度計内蔵活動量計,アンクルウエイト,ゴムバンド)と日誌が提供された。教室型介入群は毎週90分のセッションに参加し,その他の日には自身でプログラムを実施した。一方,自宅型介入群はプログラム実施方法の説明のみを受けた。12週間の介入前後に,膝伸展筋力,通常および最大歩行速度,Timed up and go(TUG)テスト,大腿前部筋組織厚などの身体機能を測定し,Intention-to-treat法を用いて分析した。

    結果526名の高齢者のうち,517名(教室型:243名,74.0±5.4歳,女性57.2%,自宅型:274名,74.0±5.6歳,女性58.8%)が研究対象として組み入れられた。9名(教室型8名,自宅型1名)は介入前の測定に参加していなかったため,解析から除外された。いずれの介入も膝伸展筋力(教室型18.5%,自宅型10.6%),通常歩行速度(教室型3.7%,自宅型2.8%),大腿前部筋組織厚(教室型3.2%,自宅型3.5%)を有意に改善した。なお,膝伸展筋力は教室型でより大きな改善が認められた(P=0.003)。最大歩行速度(教室型4.7%,自宅型1.8%,P=0.001)およびTUGテスト(教室型-4.7%,自宅型-0.2%,P<0.001)は教室型介入群のみで有意に改善した。

    結論:本介入プログラムはサルコペニア,フレイルの予防に有効であった。両介入後,ほとんどの身体機能と大腿前部筋組織厚は改善した。自型介入は費用対効果が高く,大規模高齢者集団におけるサルコペニア,フレイルの予防に貢献できるかもしれない。

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