レギュラトリーサイエンス学会誌
Online ISSN : 2189-0447
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14 巻, 2 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
巻頭言
報告
  • 牧野 加代子, 小原 教仁, 守田 真, 最上 理
    2024 年14 巻2 号 p. 175-185
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/31
    ジャーナル フリー

    新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な流行は,本邦においても大きな影響を与えた.ファイザー日本法人は2021年2月にコミナティ筋注の特例承認を取得し,その3日後からは臨時予防接種が開始された.特例承認の状況下では国内での使用経験も限られていることから,製造販売開始時の安全性監視は特に重要である.そのため,安全性情報を確実かつ迅速に収集,検討し情報提供することがワクチン被接種者の安全性の確保と,臨時予防接種事業の促進に不可欠であると考え準備を進めた.コミナティ筋注の使用が開始される前に,筆者らは予想される世界市場への製品供給量と直近のH1N1インフルエンザのパンデミック時の実際の有害事象報告率に関する科学文献にもとづきコミナティ筋注の有害事象報告件数を予測し,安全性部門の要員を含む体制の構築を開始していた.しかしながら,実際に受領した有害事象報告件数は,ワクチン接種の促進もあり,予測を大幅に超える件数の有害事象が報告された.ファイザーは,重篤な有害事象報告を優先的に対応するプロセスを導入し,ワクチン接種状況と有害事象報告件数にもとづく安全性部門の要員の確保に努めた.また,市販直後調査においては,ファイザー日本法人は,ワクチン接種円滑化システム(V-SYS)のワクチン納入情報を使用し,デジタルを活用した情報提供・収集を実施した.本稿では新型コロナウイルス感染症のパンデミック下において,コミナティ筋注の製造販売業者として実施した安全管理業務の経験を報告し,今後パンデミックが発生した際に整備が必要と考える事項を報告する.

  • 吉山 忠宏, 須藤 宏和
    2024 年14 巻2 号 p. 187-194
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/31
    ジャーナル フリー

    2023年6月に発行されたOECD GLP Advisory Document No. 17 Supplement 1(OECD GLPガイダンス)により,クラウドシステムを使用するために適用されるGLP原則の要件が明らかとなった.クラウドシステムを使用する場合,GLP試験施設は,Data Integrity,データの品質,データの可用性,データの保持,およびデータアーカイブに対するリスクを評価し,GLP適合に最終的な責任を負うことが示されている.国内のGLP施設においては,紙記録を取り扱っている施設が多いため,現状クラウドシステムを利用したGLP施設は多くはないと思われる.しかし,資料保存スペースの問題やLIMSデータのアーカイブがクラウド仕様になりつつあることを鑑みると,電子データの管理にクラウドシステムの利用が増加することが推察される.そこで,GLP試験施設がGLP要件を遵守したクラウドシステムを容易に導入できるように,SaaSシステムを使用したGLP電子データのData Integrityの確保のためのスポンサーとシステムサプライヤーとのGLP運営体制とリスク評価の視点を検討した結果を紹介する.これにより,国内GLP施設の電子データ管理の信頼性確保および生産性向上に貢献し,医薬品早期上市の一助となれば幸いである.

  • 中山 能雄, 山内 園子, 小林 正次, 清水目 梢, 原田 千智, 中西 顕伸, 松本 直之, 尾崎 恭代, 樽井 行弘, 藤川 誠, 高 ...
    2024 年14 巻2 号 p. 195-209
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/31
    ジャーナル フリー

    日本製薬工業協会薬事委員会では2022年に日米欧における品質に係る承認事項の記載内容,承認事項の変更手続きのカテゴリーおよび審査期間並びにGMP調査の運用状況に関する第1回アンケート調査を行い,日米欧間の違いを報告した1).認められた日米欧間の違いの原因を追究するために2022年の調査結果をもとに行った第2回アンケート調査から,日米欧の承認事項の差異および変更手続き制度の違いについて報告する.

特集(分散化臨床試験(DCT))
  • 松倉 裕二
    2024 年14 巻2 号 p. 211-216
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/31
    ジャーナル フリー

    分散化臨床試験(DCT)には,効率的な治験の実施に加え,患者の置かれた環境にかかわらず容易に治験にアクセスできるなど,さまざまな付加価値が期待されている.情報通信技術の大幅な進歩に伴い,DCTは新しい治療法の開発のために世界的に導入が進められている.わが国の創薬力を強化し,医療ニーズの高い治療薬の国内への導入を促進するためには,DCTなどの新たな技術を取り入れた国内治験環境の整備が必要である.本稿では,DCT推進のための取り組みの一環として,厚生労働省が2023年3月に発出したオンラインでの説明・同意(e-consent)に関するガイダンスを中心に,DCTをめぐる最近の日本の規制動向を概説する.ガイダンスでは,本人確認の方法,治験参加者のプライバシー保護,コミュニケーションのあり方,動画の活用,電子署名などについて留意が必要な点を示している.

  • 近藤 良仁, 小澤 秀志
    2024 年14 巻2 号 p. 217-226
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/31
    ジャーナル フリー

    この論文は,日本における分散化臨床試験(DCT)に関連する今後の進展と課題に焦点を当てた.DCTの国際的および国内的状況の包括的な分析を提示し,日本の臨床試験の枠組み内でのDCTの推進と開発のための戦略的な推奨事項を提供する.議論には,患者中心の戦略,データ統合の重要性,被験者の参加機会の拡大などが含まれる.DCTがどのように臨床試験を合理化し,患者の医療を強化できるかについての考察も提供されており日本の臨床試験エコシステムの改善におけるDCTの重要な役割が示されている.

  • 正木 猛, 藤本 紫野, 宮崎 由美子
    2024 年14 巻2 号 p. 227-235
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/31
    ジャーナル フリー

    近年,Patient Centricityの概念のもとで,臨床試験への患者・市民参画が促進され,患者の臨床試験へのアクセス向上が期待されている.本稿では,製薬企業の視点から,海外におけるDCTの背景と歴史,米国におけるDCTの枠組み,日本における弊社のDCTへの実際の取り組み事例などについて提示した.米国と日本を比較すると,そもそも臨床試験を取り巻く環境や法規制,さらには文化が異なることは自明である.また,DCTの概念は世界で共通化されたものであっても,DCTのすべての手法を全世界共通のものとして,そのまま各国に当てはめることが難しいことは,弊社の本邦における取り組みからもわかってきた.よって,本邦において,DCTを推進する際には,「Think Globally,Act Locally」の精神のもと,世界共通で進める部分と,日本における独自性(日本の環境に即した導入の方法)を強く意識して進める部分との,両方を強く意識する必要がある.また,Act Locallyを進めるにあたって,「柔軟な規制環境」は大変重要な要素の一つとなる.今後日本におけるGCP E6 R3の実装が,DCTのようなさまざまなイノベーションを阻害しないものになるとともに,厚生労働省で検討が続いているDCTの各種ガイダンスが早期発出されること,さらには関連する法規制の整備が進んでいくことが強く待ち望まれる.そして,DCT実施体制の構築・浸透にはインフラストラクチャーの整備,ガイダンスや通知などの発出による規制環境を整えていくことに加えて,すべての関係者(被験者,医療機関,規制当局,サービスプロバイダー,製薬企業など)が一体となって,「共創」と「挑戦」を続け,そこから得た「学びを共有」し続けることがとても重要である.

シリーズ(医薬品・医療機器評価をめぐる最近の話題)
  • 西村 次平, 小川 久美子, 西川 秋佳
    2024 年14 巻2 号 p. 237-247
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/31
    ジャーナル フリー

    ICH S1(R1)専門家作業部会(EWG)では,開発医薬品のがん原性評価に際し,複数の証拠の重み付け(weight of evidence)にもとづく統合的アプローチにより,2年間ラットがん原性試験を実施する価値を判断可能か否か検討が続けられてきた.この度,当該可能性を検証すべく実施された前向き評価の結果から,一部の医薬品群において,2年間ラットがん原性試験を実施することなく,ヒトの発がん性リスクの評価に価値を付加するかどうかを判断可能であった.そのため,証拠の重み付け(weight of evidence)による統合的評価にもとづく新たながん原性評価の枠組みを拡張することが妥当と判断され,2022年8月にICH S1B(R1)ガイドラインが最終化され,本邦では2023年3月に実装化された.本稿では,ICH S1B(R1)ガイドラインの改定経緯および改定の根拠となった前向き評価を中心に概説する.

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