近年,Patient Centricityの概念のもとで,臨床試験への患者・市民参画が促進され,患者の臨床試験へのアクセス向上が期待されている.本稿では,製薬企業の視点から,海外におけるDCTの背景と歴史,米国におけるDCTの枠組み,日本における弊社のDCTへの実際の取り組み事例などについて提示した.米国と日本を比較すると,そもそも臨床試験を取り巻く環境や法規制,さらには文化が異なることは自明である.また,DCTの概念は世界で共通化されたものであっても,DCTのすべての手法を全世界共通のものとして,そのまま各国に当てはめることが難しいことは,弊社の本邦における取り組みからもわかってきた.よって,本邦において,DCTを推進する際には,「Think Globally,Act Locally」の精神のもと,世界共通で進める部分と,日本における独自性(日本の環境に即した導入の方法)を強く意識して進める部分との,両方を強く意識する必要がある.また,Act Locallyを進めるにあたって,「柔軟な規制環境」は大変重要な要素の一つとなる.今後日本におけるGCP E6 R3の実装が,DCTのようなさまざまなイノベーションを阻害しないものになるとともに,厚生労働省で検討が続いているDCTの各種ガイダンスが早期発出されること,さらには関連する法規制の整備が進んでいくことが強く待ち望まれる.そして,DCT実施体制の構築・浸透にはインフラストラクチャーの整備,ガイダンスや通知などの発出による規制環境を整えていくことに加えて,すべての関係者(被験者,医療機関,規制当局,サービスプロバイダー,製薬企業など)が一体となって,「共創」と「挑戦」を続け,そこから得た「学びを共有」し続けることがとても重要である.
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