アドヒーシブの塗布法が,ユニバーサルアドヒーシブの象牙質接着性におよぼす影響について剪断接着強さ(SBS)試験とともに表面自由エネルギー(SFE)測定から検討した.ユニバーサルアドヒーシブとしては,Scotchbond Universal Plus Adhesive を用いた.SBSおよびSFEの測定には,牛歯象牙質を用いるとともに,アドヒーシブの塗布は以下の4条件で行った.1)セルフエッチ条件(SE モード)にてアドヒーシブ塗布,直ちにエアブローを行った群(IA),2)SEモードかつ製造者指示条件で塗布した群(MA),3)リン酸エッチング後(ERモード),IA条件で塗布および4)ERモードかつMA条件で塗布.通法に従い接着試片を製作後,SBS試験を行った.SFE測定は,アドヒーシブ塗布後,これを洗浄した象牙質面から求めた.その結果,いずれの塗布時間においてもSEおよびERモード間の接着強さに有意差は認められなかった.一方,塗布時間の違いで比較するとIA群はMA群に比較して有意に低い接着強さを示した.SEモードのトータル表面自由エネルギー(γS)は,ERモードに比較して有意に高い値を示した.以上のように,本実験に使用したユニバーサルアドヒーシブの象牙質接着性は,塗布時間の影響を受けることが明らかとなった.
疎水性のベンゼン環を導入した重合性基含有芳香族系シランカップリング剤hydrophobic phenyl group 3-(3-methoxy-4methacryloyloxyphenyl) propyltrimethoxysilane(以下,p-MBS)にて表面改質を施した球状フィラーを含有する試作コンポジットレジンについて引張試験,2 種の摩耗試験,電子スピン共鳴法(以下,ESR)によるシランカップリング処理層の運動性測定を行った.また,従来のシランカップリング剤で処理された球状フィラーを含む試作コンポジットレジンと比較,試作コンポジットレジンの引張強さと耐摩耗性を検討した.統計分析として,一元配置分散分析および多重比較検定を行い,2種の摩耗試験の相関関係について,Pearsonの席率相関係数にて分析した.試作コンポジットレジンの引張強さは,シランカップリング処理層のカップリング効果の向上により,水中浸漬の影響を受けず,摩耗深さにおいても市販コンポジットレジンと同程度の耐摩耗性を示した.シランカップリング処理層の運動性は,従来のシランカップリング剤とp-MBS間で吸収スペクトルの分離幅やシグナル強度に差異が認められなかった.また,サーマルストレス負荷後においてもp-MBSのESRスペクトルに変化が認められなかったことから,耐水性を有するシランカップリング処理層が構築されたと示唆された.
1ステップ接着システムを応用したプライマー処理後に,疎水性の高い新規ボンディング材を用いる次世代2ステップシステムの接着強さにおける長期耐久性を評価検討した.ヒト抜去大臼歯の象牙質を被着面として,新規2ステップシステム(以下BZF,GC,東京),G-プレミオボンド(以下GPB,GC,東京)およびクリアフィルメガボンド2(以下MB2,クラレノリタケデンタル,東京)にて歯面処理し,光重合型コンポジットレジン(クリアフィルAP-X,クラレノリタケデンタル,東京)を積層築盛した.各試料を24時間水中浸漬後,試験体を作製し,1年水中浸漬後に,微小引張接着強さ(以下μTBS)試験を行った.また,24時間ならびに1年水中浸漬後の試験体の界面を透過電子顕微鏡(以下TEM)にて観察した.BZF群およびMB2群はGPB群と比較して有意に高い接着強さを示した(p<0.001).BZF群の主な破壊様式は凝集破壊であったが,MB2群とGPB群はそれぞれ混合破壊,界面破壊であった.TEM観察の結果,BZF群の安定した接着界面が確認された.以上より,新規ボンディング材は高い接着耐久性能を有することが確認された.