自律神経
Online ISSN : 2434-7035
Print ISSN : 0288-9250
57 巻, 4 号
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総説
  • ―1.生理的味覚性発汗と味覚発汗反射―
    田村 直俊, 中里 良彦
    2020 年 57 巻 4 号 p. 193-199
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/21
    ジャーナル フリー

    生理的味覚性発汗の本態について考察する.Brown-Séquard(1850)は学会でチョコレートを食べながら講演して,自らの生理的味覚性発汗を呈示し,本現象が1種の反射によること,全てのヒトにみられる訳でないことを指摘した.その後,本現象の断片的な記述が散見され,家族性の報告もある(Wende & Busch, 1909; Bepperling, 1959; Mailander, 1967).大多数は甘味・酸味で顔面正中部に発汗を示す.本現象はcapsaicin性発汗と同一視されるが,①本来の生理的味覚性発汗は非capsaicin性の味覚によること,②capsaicin受容体は温度覚受容体であることから,両者は異なる現象である.本現象は味覚発汗反射によると考えられる.味覚発汗反射は通常は何らかの機序で抑制されており,本現象を示すヒトは遺伝的にこの反射が脱抑制状態にあるヒトであろう.

  • ―2.発現機序に対する一元的仮説―
    田村 直俊, 中里 良彦
    2020 年 57 巻 4 号 p. 200-205
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/21
    ジャーナル フリー

    病的味覚性発汗の原因には耳介側頭症候群(Frey症候群),交感神経切除,糖尿病などがある.耳介側頭症候群は耳下腺の外傷・手術・炎症により,耳介側頭神経の支配領域に味覚性発汗・顔面紅潮を生じる病態で,温熱性発汗には異常を認めない.Glaisterら(1958)は本症候群が耳神経節ブロックで消失することを示し,味覚性発汗が副交感神経性であることを証明した.交感神経切除では温熱性発汗が消失するが,同側に味覚性発汗が出現する.顔面紅潮は伴わない.Guttmann(1931)は顔面の汗腺が交感・副交感神経の二重支配であり,交感神経が失われると副交感神経性発汗が顕在化すると考察した.全ての病的味覚性発汗は味覚発汗反射(第1編参照)の脱抑制で生じている可能性がある.本反射の遠心路は交感神経と副交感神経で,通常は前者が後者を抑制しているが,前者が失われると副交感神経性発汗が顕在化すると考えられる.

ミニレビュー
  • 堀田 晴美, 鈴木 はる江, 井上 富雄
    2020 年 57 巻 4 号 p. 206-211
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/21
    ジャーナル フリー

    咀嚼には摂食・消化の補助だけでなく,覚醒や注意力向上など脳への作用もある.咀嚼中に大脳皮質局所血流(rCBF)は増加するが,その仕組みは不明だった.我々は最近,麻酔ラットの皮質咀嚼野の電気刺激により血圧変化に依存しない顕著なrCBF増加と,それに先行する前脳基底部マイネルト核(NBM)のニューロン活動増加が誘発され,そのrCBFの増加はNBM活動を抑制すると減弱することから,咀嚼中のrCBF増加にNBM活性化が関与することを示唆した.咀嚼野刺激によるrCBF増加は筋活動の抑制に影響されないことから,咀嚼をイメージすることで,実際の咀嚼運動と同様,NBM活性化とrCBF増加がおこる可能性が考えられる.

  • 内田 さえ
    2020 年 57 巻 4 号 p. 212-216
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/21
    ジャーナル フリー

    前脳基底部に起始するコリン作動性神経は,認知・記憶・嗅覚に関わる大脳の新皮質・海馬・嗅球に投射する.新皮質や海馬では,コリン作動性神経は自律神経様の血管拡張神経として機能する.近年筆者らは,嗅球の血流調節におけるコリン作動性神経の役割を調べてきた.嗅球に入力するコリン作動性神経はアセチルコリンを放出するものの,その量は新皮質の半分以下であり,嗅球の局所血流に影響を及ぼさない.一方,匂い刺激で誘発される嗅球血流増加反応は脳内ニコチン受容体の活性化により増大することから,コリン作動性伝達は嗅球の匂い感受性を高めると考えられる.認知症初期にみられる嗅覚障害にコリン作動系障害の関与が示唆される.

原著
  • ―胃電図および心拍変動解析を用いた検討―
    篠原 大侑, 岡田 岬, 宮崎 彰吾, 久島 達也, 今井 賢治
    2020 年 57 巻 4 号 p. 217-224
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/21
    ジャーナル フリー

    Virtual reality(VR)技術を用いて悪心の誘発を行い,その際の自律機能の生理的変化を胃電図および心拍変動(heart rate variability: HRV)解析を用いて評価した.解析対象は,成人男性16名とした.VR動画は,円筒形の内部に白黒のストライプが配置された動画を製作し,15分間回転させた.実験はVR動画負荷の前後15分間を含む計45分間とし,対照群は静止画のみを見せた.悪心の評価を行い,さらに胃電図記録およびHRV解析を行った.VR負荷群では,90%の確率で悪心が出現し,胃電図は正常波成分の減少および異常波成分の増加が示された(p<0.05).しかし,心拍数,HFおよびLF/HFにおいては有意差がみられなかった.以上より,VRシステムを用いることで,従来より簡易に視覚性動揺病による悪心と胃電図の異常波成分の増大を得た.

  • 蒲生 真里, 原 直人, 君島 真純, 向野 和雄
    2020 年 57 巻 4 号 p. 225-230
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/21
    ジャーナル フリー

    現代の情報機器や照明での情報機器やLED(Light Emitting Diode)照明による羞明や眼周囲不快感を訴える患者の存在と視機能を報告する.症例は34歳から62歳の男性3名女性6名の合計9例.臨床的特徴は,主な症状として羞明,眼痛または眼周囲不快感があった.とくに室内照明やPC,スマートフォンのディスプレイ,車のヘッドライトで光過敏を引き起こした.矯正視力は良好で眼位・眼球運動に異常はなく,コントラスト感度視力検査では光刺激であるグレアを与えても視力低下はみられなかった.赤/青の光刺激を使用した瞳孔対光反射検査は正常であった.眼球および視路に病変がないにもかかわらず,持続的な光過敏および眼痛のために日常視に支障をきたしていたが,今回の検査程度の刺激では異常を捉えることはできなかった.これらの症例は,視力に関連する高次脳機能障害の可能性が考えられるが,発症メカニズムは不明である.

症例報告
  • 小野里 規子, 原 直人, 鎌田 泰彰, 向野 和雄
    2020 年 57 巻 4 号 p. 231-236
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/21
    ジャーナル フリー

    Fisher症候群の回復過程において瞳孔対光反射と近見縮瞳,屈折値と眼圧の経過を追った.症例は61歳女性.上気道炎2日後から複視を自覚し両眼瞳孔散大と外斜視にて近医から紹介された.矯正視力は右眼1.2と左眼0.9,眼圧は右眼22.2 mmHgと左眼23.7 mmHgで高眼圧だった.眼球運動は両眼とも全方向不動,眼瞼下垂,輻湊麻痺がみられた.瞳孔径は明室で両眼6.5 mmと散大し,対光反射と近見縮瞳は消失していた.ふらつきと膝蓋腱反射消失,抗GQ1b抗体陽性からFisher症候群と診断された.重度の眼球運動障害のため免疫グロブリン療法を行った.第11病日に対光反射は改善し始めたが近見縮瞳は消失したままだった.眼球運動は2回目の免疫グロブリン療法で内転は改善し始めたが輻湊麻痺は続いた.さらに屈折値の遠視化と眼圧が変動した.対光反射と近見縮瞳の乖離,内転障害と輻湊麻痺の乖離から本症例は末梢性だけでなく中枢性神経障害も生じたと考えられた.

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