ストレス防衛反応とは,敵などのストレッサーに遭遇した時に闘争逃走行動を効果的に行う為に,血圧・心拍数・呼吸数を上昇させ,筋血流を増やして当面不必要な内臓血流は減少させるという反応である.これらの反応は無意識の領域を司る自律神経系の働きによって実現されており,これが上手く働かないと生命の危機に直面することにもなりかねない.防衛反応の表出に際し,視床下部の防衛領域が一斉にそのスイッチを入れる重要な部位であることが20世紀中頃には既に知られていた.しなしながら,その詳細が明らかになったのは比較的最近である.この神経回路メカニズムの解明を目的とした我々の研究成果を解説する.視床下部に存在するオレキシン産生神経細胞がその主役であり,またオレキシン産生神経細胞は睡眠覚醒を司る神経でもあった.すなわち,意識にのぼる活動を制御する神経メカニズムと無意識の領域との接点が明らかになった.
グレリン-神経ペプチドY(NPY)空腹系は,個体や種族維持の根幹を担ってきた食欲・体重調節系であり,進化の長い歴史の中にあっては,飢えに応答する役割を有してきたと考えられる.グレリン-NPY空腹系はまた,健康長寿をもたらすカロリー制限の効果を介在するシステムでもある.近年,高齢化の進む我が国において,サルコペニア(骨格筋萎縮)を基礎としたフレイル(frailty)が注目されている.このフレイルの引き金になるのは食欲不振であり,グレリン-NPY空腹系の加齢によるシグナリングの低下が,その要因であると考えられる.漢方薬,とりわけ人参養栄湯は,グレリン-NPY空腹系を活性化し,フレイル病態への有用性が期待される.
耐糖能異常患者で最も早期から高頻度に出現する病態が「小径線維ニューロパチー」である.我々は,尿中ミオイノシトール値+レーザードプラ皮膚血流検査による血管運動神経機能の評価を核とした耐糖能異常ニューロパチーの超早期診断法を樹立した.さらに,本診断法を活用していく中で,耐糖能異常の中でもかなり軽症な「準境界型(75g-OGTT後1時間での血糖値が180 mg/dL以上)」に属する患者の中にも,明らかに小径線維障害を認める一群が存在することも確認できた.我々はこの一群を「準境界型ニューロパチー」と称し,現在その発症機序の解明と超早期診断法の考案に努めている.
パーキンソン病(PD,大脳皮質に広がった形はレヴィー小体型認知症[DLB])は,ときに高度の便秘をきたす場合があり,消化器科救急として偽性腸閉塞/麻痺性イレウスをきたす場合もある.さらに最近,PD患者の便秘が,運動症状などをほとんど伴わず,初発症状となりうることが明らかとなってきた(レヴィー小体型便秘Lewy body constipation).その機序として,腸管壁内(Auerbach)神経叢の変性・レヴィー小体出現を反映しているものと思われ,一部,大脳黒質・青斑核の病変も関与していると考えられる.救急受診を予防するためにも,PDの便秘に対して,十分な治療が望まれる.とくにレヴィー小体型便秘の患者さんは,内科・消化器内科を初診することが少なくないと思われ,脳神経内科と消化器内科の協力が重要と思われる.
多系統萎縮症は自律神経系,小脳系,錐体外路系が障害される神経変性疾患である.診断には自律神経障害が必須であるが,病初期には運動障害が主体で自律神経障害が軽度の場合や,病初期から自律神経障害が目立つ場合などがあり,診断が困難なことが少なくない.近年,多系統萎縮症の病初期において運動障害と自律神経障害の重症度は必ずしも相関しないことを示唆する論文が自験例も含めて発表されたため,本稿では自律神経障害の中で最も頻度の高い下部尿路機能障害と運動障害の関係について概説する.
本研究の目的は,触刺激の影響を昇圧時と非昇圧時とで比較することである.昇圧を起こすために,右手首までを冷水(8-10℃)に浸水させた(冷浸水実験).対照浸水実験には,30-32℃の水を用い,いずれの場合も3分間浸水させた.血圧の測定には自動血圧計を用いた.冷浸水または対照浸水を開始した1分後から徒手による触刺激を背部に2分間加えた.冷浸水中に背部へ触刺激を加えると,触刺激がない場合と比べて収縮期血圧と拡張期血圧の昇圧反応がいずれも有意に減弱した.対照浸水のみでは収縮期血圧,拡張期血圧ともに有意な変化を認めなかったが,浸水中に触刺激を加えることで拡張期血圧が有意に減弱した.また,触刺激の降圧効果は対照浸水時よりも冷浸水時において顕著であった.以上の結果より,急性昇圧時の降圧における触刺激の有効性が示された.