自律神経
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59 巻, 3 号
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第74回日本自律神経学会総会
  • ―副交感性血流増加反応を中心にして―
    石井 久淑, 佐藤 寿哉
    2022 年 59 巻 3 号 p. 256-263
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/03
    ジャーナル フリー

    顎・顔面・口腔領域の自律神経性血流調節に関する一連の研究は,顔面皮膚,咀嚼筋や唾液腺に特有な副交感性血管拡張線維の存在を明らかにしている.副交感性血管拡張線維は脳神経の感覚入力を介して反射性に活性化され,これらの臓器に急峻かつ広範囲な血流増加を誘発する.したがって,副交感性血流増加反応は同領域の血流動態に重要であり,この血管反応の破綻が諸種の血流・機能障害の発症機序や病態に関連する因子の一つであると考えられる.本稿では,i)副交感性血流増加反応の特殊性,ii)それらの機能修飾(特に咀嚼筋)について述べるとともに,iii)これらの生理的役割或いは血流・機能障害との関連性について考察してみたい.

  • ―臨床の立場から―
    朝比奈 正人
    2022 年 59 巻 3 号 p. 266-269
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/03
    ジャーナル フリー

    自律神経系は内部環境を一定の設定値に保つhomeostasisを担う.一方,生体リズムや外部環境変化への適応のために内部環境は変動する.また,ヒトは近い未来に行う行動を予測し,内部環境を変化させる.例えば筋肉は運動時に多くの血液供給を必要とし,脳は筋肉を動かす命令と同時に自律神経系を介して筋肉の血流を増加させる命令をだす.この見込み制御をcentral commandと呼ぶ.もうひとつがストレスを認知することで惹起される情動行動に合わせて事前に内部環境を変化させるallostasisで,allostasisと情動行動の不一致があると体調不良が生じる.本稿では予測と内部環境の変動に着目し,自律神経系の役割とその異常について解説する.

  • 平山 正昭
    2022 年 59 巻 3 号 p. 272-275
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/03
    ジャーナル フリー

    近年,神経疾患の発症への腸内細菌の関与について多くの報告がなされている.特に,免疫疾患の代表とされる多発性硬化症と神経変性疾患としてパーキンソン病で多くの報告がなされている.小腸には腸内細菌は乏しく,多くは好気性菌であるが,大腸には100兆個近くの細菌が存在し,その役割は大きく異なっている.本稿ではこの二つの腸内細菌の役割について我々のパーキンソン病研究を含めてレビューする.

  • 堀田 晴美, 鈴木 はる江
    2022 年 59 巻 3 号 p. 278-283
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/03
    ジャーナル フリー

    加齢に伴う筋量と筋力の低下(サルコペニア)の原因を明らかにするには,筋や運動神経系に加え骨格筋支配の自律神経系の働きの解明も必要である.アドレナリン作動性血管収縮神経とされる筋交感神経が,組織学的には筋線維や神経筋終板にも分布し,骨格筋量の維持や収縮力の調節に関与しうる.我々は,脛骨神経刺激による下腿三頭筋強縮力が腰部交感神経幹,腰髄後根,頸髄の切断により減弱し,筋収縮時に腰部交感神経節後線維に反射電位が誘発されることから,骨格筋収縮による交感神経の反射性興奮がその筋の収縮力維持に寄与することを明らかにした.加齢によりこの仕組みが減退し,サルコペニアの一因となる可能性について考察する.

  • ―運動習慣定着率との関連の可能性―
    増木 静江, 眞鍋 憲正, 住吉 愛里, 森川 真悠子, 能勢 博
    2022 年 59 巻 3 号 p. 286-292
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/03
    ジャーナル フリー

    我々は,「インターバル速歩」を核としたIoTによる個別運動処方システムを開発し,長期間の定着率と効果を検討した.その結果,1)定着率に比例して,体力が向上し,生活習慣病が改善すること,2)定着率に影響する因子に,従来報告のあるBMI,性別などに加え,遺伝因子として,バソプレシンV1a受容体遺伝子多型が影響すること,3)マウスにおいて脳内のV1a受容体が中枢性昇圧反応を引き起こし自発運動の開始促進に関与すること,4)ヒトにおいて高体力者ほど自発運動開始時の中枢性昇圧反応が大きいことを発見した.以上,中枢性昇圧反応が運動習慣の定着に関係し,それには脳内のV1a受容体が関与している可能性が示唆された.

  • 吉本 光佐, 三木 健寿
    2022 年 59 巻 3 号 p. 293-299
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/03
    ジャーナル フリー

    運動により交感神経活動と動脈圧は上昇する.交感神経活動は運動強度に比例して増加し,その結果動脈圧も運動強度に比例して上昇する.運動中に腎交感神経活動の動脈圧受容器反射カーブが右上へ急性にシフトする.おそらく,生体全体の交感神経の動脈圧受容器反射カーブも同様なシフトが生じ,運動中は全身一様に交感神経活動の増加が生じていると考えられる.運動強度に比例した交感神経活動の増加は,筋肉収縮の強度に比例した求心性情報の変化が中枢に伝えられていることによる.セントラルコマンドは,臓器特異的に交感神経活動を変化させることができるが,運動中には全身一様に交感神経活動を増加させる作用をしている.以上,動脈圧受容器反射の急性シフトにより,運動中に交感神経活動と動脈圧が同時に持続的に増加する.

  • 古江 秀昌, 中村 善隆, 中村 亜由美, 古賀 啓祐
    2022 年 59 巻 3 号 p. 301-305
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/03
    ジャーナル フリー

    排尿は,橋などの排尿中枢を介し,最終的に脊髄副交感節前ニューロンの指令により膀胱が収縮することで開始される.著者らは排尿時の副交感節前ニューロンの生理的役割を明確にするために,脊髄ニューロン活動と下部尿路活動を同時に記録・解析するin vivooパッチクランプ記録法を開発した.排尿時in vivoの節前ニューロンは一過性に発火し,同時に膀胱内圧の上昇や尿道内圧の減少を惹起した.また,シナプス応答や膜電位変化など神経興奮の詳細な機構が明らかとなった.本稿は,in vivoの電気生理学的手法を概説し,排尿時の脊髄神経機構を紹介する.本法は生理的役割の解明に加え,薬効解析や神経因性の病態解明にも有用と思われる.

  • 加藤 倫卓, 栗田 泰成, 塚本 敏也, 中野 渉, 中野 聡子, 髙木 大輔
    2022 年 59 巻 3 号 p. 307-310
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/03
    ジャーナル フリー

    心疾患患者において,運動療法は自律神経(ANS)の是正を含む多面的な効果から有効である.運動の効果を最大限に引き出すためには,運動による循環生理を理解することはもちろん,異常なANS活動を是正するための適正な運動処方を知ることも重要である.運動中のANSを介した循環調節について述べるとともに,心疾患患者に対する運動療法がANS機能障害に与える効果についてレビューする.

総 説
  • 榊原 隆次, 澤井 摂, 尾形 剛, 飯村 綾子
    2022 年 59 巻 3 号 p. 311-319
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/03
    ジャーナル フリー

    80歳台高齢者では白質型多発性脳梗塞(white matter disease, WMD),アルツハイマー病(Alzheimer’s disease, AD),レヴィー小体型認知症(dementia with Lewy bodies, DLB)がそれぞれ80%: 33%: 7-8%にみられ(重複を含む),特にAD+WMDの組み合わせが多い.さらに,高齢者では末梢神経障害をきたす糖尿病も多い.自律神経障害の中の起立性低血圧,過活動膀胱,消化管運動障害は,加齢と共に増加することが知られている.このうち,起立性低血圧には糖尿病とDLBが,過活動膀胱にはWMDとDLB(と一部AD)が,消化管運動障害には糖尿病とDLBが大きく関与しているものと考えられる.高齢者の自律神経障害には適切な対処法があるので,生活の質の改善のために,積極的に治療介入を行うことが望まれる.

原 著
  • 伊藤 宏文
    2022 年 59 巻 3 号 p. 320-326
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/03
    ジャーナル フリー

    慢性上咽頭炎の治療法の1つに上咽頭擦過療法(EAT)がある.本研究はEATが自律神経機能に及ぼす影響を解明することを目的として,慢性上咽頭炎症例27名の心電図記録について心拍変動解析を行った.EATを安静時,鼻腔内診察時,経鼻的擦過時,経口的擦過時の4つのイベントに分類した.4つのイベント毎にHR,CVRR,ccv HF,L/Hの4項目を測定して統計的検討を行なった.結果,経鼻的擦過時にはHRの減少とccv HFの増加を認めた.経口的擦過時にはHR,CVRRの増加を認めた.EATは心拍変動に影響を及ぼし,経鼻的擦過時には副交感神経を刺激し,経口的擦過時には交感神経と副交感神経の両方を刺激して咽頭反射を誘発していると考えられた.EATは興奮性と抑制性の相反性刺激により自律神経機能を賦活化すると考えられた.

  • ―エルゴメーター負荷を用いた短時間測定法による心拍変動の解析―
    後藤 由佳, 奥田 博之, 中塚 幹也
    2022 年 59 巻 3 号 p. 327-334
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/03
    ジャーナル フリー

    45歳以上55歳未満の更年期女性126名を漢方医学的診断で実証・虚証の2群と,中間証を加えた3群の2通りに分け,エルゴメーター運動負荷を用いた心拍変動(HRV)を測定し比較検討した.体重,BMIの2項目で実証群が他の群より有意に高く,クッパーマン更年期指数,気血水6項目全て虚証群が有意に高い値を示し,CMI健康調査票では身体12項目中5項目で虚証群が実証群より有意に高かった.HRVの変化では,安静時,運動最大負荷時,負荷終了後でHR,Nnmsec,CVRR,SDNN,rMSSD,VLF,LF,HF,LF/HF比いずれの時点も2群間の有意差を認めず,3群比較において負荷終了後のCVRR,SDNNで虚証群が他の2群より低値の傾向を示した.従って,虚証の更年期女性では強い負荷に対する自律神経回復力の低下が示唆された.

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