自律神経
Online ISSN : 2434-7035
Print ISSN : 0288-9250
59 巻, 2 号
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
特別講演
  • 上田 陽一
    2022 年 59 巻 2 号 p. 165-171
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/16
    ジャーナル フリー

    視床下部は,生体の恒常性維持を始め,多彩な生理機能を調節している.また,視床下部には多くの神経核が密集しており,それぞれの神経核が異なった生理機能を有している.その中でも,室傍核(PVN)は,自律神経系と神経内分泌系の統合中枢であることが知られている.私は,大学院の頃にラットを用いて迷走神経胃枝からの神経性入力が脳内ノルアドレナリン系を介してPVNに限局する神経分泌ニューロン活動を修飾し,バソプレシン・オキシトシン分泌を調節することを明らかにした.その後も一貫して視床下部と自律神経系および神経内分泌系についての基礎研究を続けてきた.これまで辿ってきた基礎研究の一端を紹介したい.

  • ―Onuf-Mannen’s nucleus―
    岩田 誠
    2022 年 59 巻 2 号 p. 172-177
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/16
    ジャーナル フリー

    萬年は,第2仙髄前角のOnuf核はALSではおかされないが,尿便失禁を呈したShy-Drager症候群ではおかされることを見出した.Onuf核神経細胞が肛門および尿道の外括約筋支配ニューロンであることは,動物実験で確認された.また,Onuf核と第3仙髄の中間外側角には体部位局在があることが明らかになった.Onuf核には平均661個のニューロンがあり,その37%が保たれていれば尿便失禁はないが,13%以下になると尿便失禁が生ずる.Onuf核は,Onufによって解剖学的に記載され,萬年によってその機能的意義が明らかにされたため,Onuf-Mannen’s Nucleusと呼ばれるべきである.

レクチャー
  • 志水 泰武, 椎名 貴彦
    2022 年 59 巻 2 号 p. 178-182
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/16
    ジャーナル フリー

    私たちは,グレリンアゴニストをラットに投与すると排便が誘発されるという想定外の現象に遭遇し,その作用機序を追究したところ,グレリンの作用点は脊髄(腰仙髄部)の排便中枢であることが明らかとなった.グレリン以外にも,ノルアドレナリン,ドパミン,セロトニンが脊髄に作用して大腸運動を亢進させることが判明したが,これらのモノアミン類が下行性疼痛抑制経路の伝達物質であることから,“痛みの抑制経路と大腸運動の調節経路が脊髄を接点として連動する”という新しい概念に立脚した研究を展開するに至った.本稿では,消化管運動の中枢性制御機構について,私たちの知見を中心にまとめる.

  • 榊原 隆次, 澤井 摂, 舘野 冬樹, 相羽 陽介
    2022 年 59 巻 2 号 p. 183-190
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/16
    ジャーナル フリー

    排尿排便の自律神経障害について述べた.神経因性膀胱と鑑別を要するものとして,前立腺肥大症(エコー計測20 ml以上)などの器質性疾患,腹圧性尿失禁,夜間多尿,薬剤性排尿障害,心因性排尿障害などがある.神経因性排便障害と鑑別を要するものとして,大腸癌,潰瘍性大腸炎などの器質性疾患,薬剤性排便障害,心因性排便障害などがある.これらの鑑別のために,問診,検尿・便潜血,時刻-排尿量記録,腹部エコー,内視鏡検査などを必要時行う.その上で,骨盤臓器の自律神経障害に対して,積極的な治療を行うと良いと思われる.

  • 内田 さえ
    2022 年 59 巻 2 号 p. 191-196
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/16
    ジャーナル フリー

    嗅覚は認知症のごく早期から機能低下することから,認知症の早期発見と予防への応用が期待されている.筆者らの研究室では認知症で脱落する前脳基底部コリン作動性神経が投射先の新皮質や海馬の血流を増やす,自律神経様の血管拡張神経として働くことを動物実験で明らかにしてきた.同神経は嗅覚一次中枢の嗅球にも投射する.近年筆者らは,嗅球ではニコチン性コリン作動性刺激が嗅覚誘発性の嗅球血流応答を増大させる,すなわち嗅覚感度を高める役割を示唆する結果を報告した.更に臨床研究に展開し,高齢者の嗅覚と認知機能とくに注意機能との関連を報告した.本稿ではコリン作動系に着目した嗅覚と認知機能に関する基礎・臨床研究を紹介する.

  • ―情動と自律神経―
    田村 直俊
    2022 年 59 巻 2 号 p. 197-203
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/16
    ジャーナル フリー

    情動と自律神経活動の因果関係について,自律神経活動の変化が情動を形成するとするJames-Lange学説(1884, 85)と情動が自律神経活動に影響を及ぼすとするCannon-Bard学説(1927, 28)があるが,両学説が正反対のことを述べているようにみえる原因は,「自律神経系には中枢線維も求心線維もない」と定義したLangleyの見解(1898)にある.Langleyの学問的ライバルL. R. Müllerは,情動と自律神経活動の因果関係は双方向性で(1906),両者ともに間脳の神経ネットワークで惹起されると述べていた(1929).PrechtlとPowley(1990)は臓器感覚(内受容感覚)の伝導路,すなわち自律神経求心路は脊髄視床路であると主張した.Craig(2002)は内受容感覚を伝達する求心線維と交感神経線維が脳内で中枢自律神経線維網(CAN)を構成することを解明した.

  • 真鍋 一郎
    2022 年 59 巻 2 号 p. 204-207
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/16
    ジャーナル フリー

    循環系には自律神経が張り巡らされており,自律神経は心機能や血圧の調整等,循環系の恒常性をダイナミックに維持している.最近,自律神経は循環機能の制御だけでなく,臓器連関による恒常性の維持や慢性炎症による臓器機能障害にも寄与していることが明らかとなりつつある.また,自律神経による多臓器の制御はmultimorbidityをもたらす可能性もある.本稿では,心腎連関を中心とした臓器連関と,心筋梗塞後の心臓組織における自律神経とマクロファージの相互作用について概説する.

  • 永山 逸夫, 上村 顕也, 高 昌良, 大脇 崇史, 名古屋 拓郎, 寺井 崇二
    2022 年 59 巻 2 号 p. 208-211
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/16
    ジャーナル フリー

    肝臓の様々な病態で,肝臓,脳,消化管が種々の因子を介して密接に連関することが明らかになりつつある.我々は,非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)でも肝-脳-腸が自律神経を介して連関することを明らかとしてきた.そこで,本稿では,肝疾患と自律神経の関連,これまでの我々の研究結果を紹介したい.

  • 井林 賢志, 川合 謙介
    2022 年 59 巻 2 号 p. 212-220
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/16
    ジャーナル フリー

    迷走神経刺激療法(VNS)は,体内植込型の電気刺激装置で,左頸部迷走神経を刺激し,てんかん発作を緩和する治療である.開発から約30年経過し,薬剤抵抗性てんかんに対する緩和治療としての位置付けが確立している.本邦の初期385例の追跡調査でも,先行する欧米からの報告と同様の有効性と安全性が確認された.VNSの求心性刺激は孤束核に到達後,ノルアドレナリン系,セロトニン系,アセチルコリン系等を経由し大脳皮質の広汎な安定化をもたらし,抗てんかん作用を発現する.頭部ではVNS誘発電位が計測でき,動物実験にてVNSは大脳皮質神経細胞の過分極と自発放電減少をもたらす.ラット聴皮質計測では健常状態での音刺激への周波数応答を向上させる一方,誘発発作下での同期性を低下させるホメオスタティックな作用を示す.VNSは近年,治療抵抗性うつ,頭痛等の病態に対する有効性も示され,今後も注目される脳刺激モダリティである.

  • 鈴木 一博
    2022 年 59 巻 2 号 p. 221-225
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/16
    ジャーナル フリー

    近年,自律神経系が免疫系に多様な影響を及ぼしていることが示され,そのメカニズムが分子レベルで解明されている.我々は,交感神経がリンパ器官に投射していることに着目し,リンパ器官における交感神経と免疫細胞のクロストークについて研究を進めてきた.その過程で,交感神経がリンパ球のリンパ節を介する体内循環を制御していることを見出すとともに,この仕組みがリンパ節における免疫応答の日内変動や,中枢神経や皮膚の炎症に関与することを突き止めた.これらの知見に基づいて,交感神経がリンパ球の挙動を制御する分子機構とその生理的意義,臨床応用の可能性について議論する.

  • 坪井 貴司, 原田 一貴, 中村 匠, 大須賀 佑里
    2022 年 59 巻 2 号 p. 226-229
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/16
    ジャーナル フリー

    小腸上皮内に存在する小腸内分泌L細胞から分泌されるグルカゴン様ペプチド-1(glucagon-like peptide-1: GLP-1)は,インスリン分泌を促進し,食欲を抑制する.このGLP-1分泌は,消化管管腔内の様々な物質や血中に含まれる神経伝達物質やホルモン,さらには腸内細菌叢が産生する様々な代謝物などによって制御されているが,その詳細な制御機構は不明である.そこで本稿では,特にアミノ酸や腸内細菌代謝物などがGLP-1分泌に及ぼす影響について紹介する.

共催シンポジウム
原著
  • 章 斯楠, 小野 弓絵
    2022 年 59 巻 2 号 p. 246-254
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/16
    ジャーナル フリー

    近年,ヘッドマウントディスプレイを用いたVirtual Reality(VR)の利用が進むに伴い,視聴に伴う不快症状(VR sickness)の発生事例が多く報告されている.本研究では,VR sicknessを生体信号から客観的に評価する方法の確立を目的として,VR sickness発生時の心臓自律神経活動の変化を検討した.健康な若年成人16名を対象とし,直進・回転・往復運動を含む5分間のジェットコースターVRコンテンツを視聴させた際の主観的不快感と心電図を連続的に計測した.VRコンテンツ視聴中に主観的不快感が増大した時間帯では,安静時と比較して心拍数と交感神経活動が有意に増加し,副交感神経活動が有意に減少した.自律神経活動が主観的不快感の発生と関連し,VR sicknessを客観的に評価する有用な生体指標となりうることが示唆された.

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