E-journal GEO
Online ISSN : 1880-8107
ISSN-L : 1880-8107
16 巻, 1 号
選択された号の論文の22件中1~22を表示しています
調査報告
  • 山本 涼子, 埴淵 知哉, 中谷 友樹, 山内 昌和
    2021 年 16 巻 1 号 p. 1-14
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/27
    ジャーナル フリー

    本研究のねらいは,国勢調査の「不詳」が増加したシナリオを立て,データから観測される指標の地域差がどのように本来の姿からずれてしまうのかを可視化することである.東京大都市圏の市区町村を対象に,(1)年齢階級別の比例按分と(2)属性間の不詳率比に基づく重み付け按分を用いて,2015年国勢調査による未婚率と短期居住率を不詳率の異なるシナリオ別に推計した.その結果,いずれの指標も不詳率が0のシナリオでは都心部で高く周辺部で低い地域差が明瞭であったが,不詳率が1.5倍や2倍に増加したシナリオで推計した地図を見ると,そういった地域差は縮小・消失して見えることが可視化された.このことは,今後さらに「不詳」が増加することで,疑似的な地域差が生じる蓋然性が高まることを意味する.不詳率の高い項目や地域において国勢調査を利用する場合には,結果の慎重な解釈や補正データの利用が求められる.

  • 佐藤 正志
    2021 年 16 巻 1 号 p. 15-32
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/03/02
    ジャーナル フリー

    本研究は,公民連携が地方都市の中心市街地再生に果たす役割や課題を,導入における自治体の財政資源や政策意図の点から検討した.日本では中心市街地再生の文脈で公民連携の手法を導入している地方都市は限定的だが,静岡県藤枝市では先駆的にPREを活用した公共施設整備が中心市街地再生の一翼を担った.この背景には,導入に際し,①市有地における都市機能整備という一貫した姿勢,②補助金や支援制度など国を中心とした政策情報の入手と利用,③民間投資と公益を両立できるような政策立案,を自治体が果たしていたことが大きい.一方で,空きテナント発生や自治体による維持管理への追加的経費のように,公民連携での施設整備が地方都市に見合わない規模になっている可能性も示唆された.

  • 箸本 健二, 武者 忠彦, 菊池 慶之, 久木元 美琴, 駒木 伸比古, 佐藤 正志
    2021 年 16 巻 1 号 p. 33-47
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/03/02
    ジャーナル フリー

    本稿は,立地適正化計画の実施主体となる332市町村へのアンケート調査を通じて,立地適正化計画の導入意図,施策の概要,実施上の課題を分析・検討した.その結果,多くの地方自治体が,政策の理念や必要性には理解を示している一方で,主に経済的理由から都市機能の誘導は限定的な施策にとどまる.また,ローカルな政治的文脈への配慮から,都市機能の集約化や強制力を伴う居住誘導の導入にも慎重な姿勢を崩していない.立地適正化計画をコンパクトシティ実現の切り札と位置づける国と,さまざまな制約条件の下で実施可能な事業を優先せざるを得ない地方自治体との温度差は,現時点では大きいといわざるを得ない.

  • 池田 和子
    2021 年 16 巻 1 号 p. 48-56
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/03/02
    ジャーナル フリー

    本研究は,若者の「聖地巡礼」経験の実態を明らかにするため,小山工業高等専門学校1年次生205名へのアンケートを分析したものである.聖地巡礼経験は学生の約4分の1にみられ,未経験の学生も約3分の1は行ってみたいと考えていた.作品はアニメが中心だが,実写なども含まれた.訪問先は東京都区部が特に多く,次いで近隣の北関東が多いが,国外を含め広範囲にみられた.回答者の能動的な訪問では,効率よく回遊できる東京都心が選ばれる一方,地元への関心を背景とした訪問がある.訪問に至る過程は多様で,訪問意思の強さも一様ではない.訪問は作品の熱心なファンによるものだけでなく,他の目的のついでなどでも行われていた.また訪問には映像との関わりが強く,作品の映像美や聖地巡礼動画に触発されていた.若者の「聖地巡礼」は,幅広い関心度と多様な目的で行われる,身近な観光・レジャーといえる.

提言
  • 武者 忠彦
    2021 年 16 巻 1 号 p. 57-69
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/03/03
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,立地適正化計画によって都市はどのように変化し,それはコンパクト化として評価できるのかを明らかにすることである.立地適正化計画は,コンパクトシティの拠点形成の仕組みとして制度化されたが,計画を策定した都市のうち,大都市圏では,中心部における生活環境の充実などが課題に設定され,福祉や医療などの生活関連機能を中心に都市機能が誘導されはじめている.一方,地方都市の中心部では,計画の課題や生活需要とは別の論理で,補助金を活用した公共施設の再編が進む傾向にある.今後,コンパクトシティを実質化するためには,立地適正化計画にもとづく都市機能の配置だけでなく,中心部における生活スタイルの波及や共有による居住人口の増加が鍵となるだろう.

解説記事
  • 原 裕太
    2021 年 16 巻 1 号 p. 70-86
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/03/03
    ジャーナル フリー

    中国では,環境汚染,内陸水産養殖業の急速な発展にともなう水田環境の喪失,農村部の貧困問題を改善するため,新たな農業のかたちが模索されている.中でも近代的な稲作と水産養殖の統合は,地域経済を発展させつつ水田環境と生態系を保全するための有効な方法の一つとして注目を集めている.一方,多くの地域では,依然として水田養殖の普及率は低い.その要因として,野生種の生息域内外ではその動物の養殖業の競争力に地域差があること,養殖動物の消費需要の地域的偏りと生育に必要な気候環境が制約条件になっていること,都市部の消費者の間で,水田養殖に関する生態学的なメリットやブランドの認知が広がっておらず,付加価値の創出に課題を抱えていること等が挙げられる.加えて,今後の課題として,養殖に導入された種による陸水域生態系への影響と,食の嗜好変化によって伝統的な方法を維持する中国西南地域へ近代的な水田養殖が無秩序に拡大すること等も懸念される.

  • 佐藤 弘隆, 武内 樹治, 今村 聡, 矢野 桂司
    2021 年 16 巻 1 号 p. 87-101
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/03/03
    ジャーナル フリー

    2020年の京都祇園祭は新型コロナウイルスの流行を受けて大幅な自粛を余儀なくされた.この状況を受けて,立命館大学アート・リサーチセンターはこれまで蓄積してきた祇園祭に関するさまざまな研究やアーカイブ成果を取りまとめ,一般の人々や地元関係者,研究者などに向けて発信すべく「祇園祭デジタル・ミュージアム2020―祇園祭の過去・現在・未来―」を構築・公開した.本稿はそのWEBサイトの内容と活用の可能性を解説する.

地理教育総説記事
  • 杉江 あい
    2021 年 16 巻 1 号 p. 102-123
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    本稿では,バングラデシュを主なフィールドとするムスリマとしての立場から,イスラームとムスリムに関する学習のために次の3点を提案する.第1に,イスラームとムスリムに接する上で必要なリテラシーを高めること.ここでいうリテラシーとは,クルアーンなどの章句の理解にはアラビア語やイスラーム学の深い知識が必要であり,西洋のバイアスがかかった生半可な知識では誤解しやすく,一部の研究者やムスリムの間でも誤った解釈や恣意的な章句の引用などがなされていることに注意することである.第2に,イスラームとムスリムを切り離してとらえること.イスラームをムスリムの言動のみから解釈し,またムスリムの生活文化をイスラームに還元するアプローチは誤りである.第3に,イスラームにおいて重視される信仰や人格,現世での利点について説明すること.義務や禁忌を表面的に教えるだけでは,イスラームを特異視するステレオタイプから脱却できない.

2020年秋季学術大会シンポジウム
G空間EXPO2020日本地理学会主催シンポジウム
調査報告
  • 穂積 謙吾
    2021 年 16 巻 1 号 p. 160-175
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/15
    ジャーナル フリー

    本研究は,愛媛県宇和島市宇和島地区の養殖業者における出荷対応の実態を,ブランド品の生産ならびに中間流通業者との取引関係に注目して解明し,一連の対応を可能とする要因を考察した.ブランド品は事業収入の安定化を目的に,労働力規模が大きい一部の養殖業者により生産されていた.ただし,宇和島地区においてブランド品は副次的であり,大多数の養殖業者は負担が軽いノンブランド品に特化していた.安定的な価格よりも経営上の負担軽減を優先する出荷対応は,ノンブランド品の流通形態である市場流通を中間流通業者が重視しているため可能になっていると考えられる.ノンブランド品を生産する養殖業者は,取引を行う中間流通業者の数を選択し,取引により得られた情報を経営に活用していた.これらの対応は,出荷先の中間流通業者を問わず一律であるノンブランド品の出荷価格や,中間流通業者との相互依存性により可能になっていると考えられる.

解説記事
  • 桐村 喬
    2021 年 16 巻 1 号 p. 176-186
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/15
    ジャーナル フリー

    地域メッシュ単位で集計されたメッシュデータをGISソフトで地図に示すには,メッシュのポリゴンデータを用意したうえで結合する必要があり,場合によっては事前の加工が必要なこともある.そこで,これらの手間を省き,メッシュデータから簡易的にメッシュマップを描画する,ウェブブラウザベースの「MeshDataView3D」を開発した.本ツールでは,e-Statのデータも含めたメッシュデータを読み込むことができ,ポイントやポリゴン,3Dポリゴンでメッシュマップを描画できる.本ツールを使用することで,メッシュマップの描画に要する時間を大幅に削減でき,授業であれば,さまざまなメッシュマップから情報を読み取り,地理的思考を働かせることに十分な時間を割くことができる.また,インターネット接続と最新のウェブブラウザさえあれば動作することから,自宅学習などでも活用でき,GIS教育や地理教育に役立てることができる.

2021年春季学術大会シンポジウム
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