E-journal GEO
Online ISSN : 1880-8107
ISSN-L : 1880-8107
11 巻, 2 号
選択された号の論文の25件中1~25を表示しています
調査報告
  • 南雲 直子, 大原 美保, バドリ バクタ シュレスタ, 澤野 久弥
    2016 年 11 巻 2 号 p. 361-374
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/16
    ジャーナル フリー

    洪水常襲地帯であるフィリピン共和国パンパンガ川下流域のブラカン州カルンピット市をモデル地域に,降雨流出氾濫モデルによる洪水氾濫解析とGISマッピングを実施し,地域の住民避難や時系列の洪水災害対応計画に役立つリソースマップ,浸水想定マップ,浸水確率マップ,浸水チャートを作成した.こうした資料の作成には,高解像度数値標高モデルをはじめとする地理空間情報と洪水記録の蓄積が必須である.また,地域の浸水危険性の把握には洪水氾濫解析結果だけでなく,地理学的視点からの土地の成り立ちへの理解も重要で,同時に住民が自ら考え行動できるよう継続的な支援を行っていくことが洪水被害の軽減に役立つ.

  • 清水 昌人, 中川 雅貴, 小池 司朗
    2016 年 11 巻 2 号 p. 375-389
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/16
    ジャーナル フリー

    本研究では全国の自治体における日本人と外国人の転入超過の状況を観察した.特に外国人の転入超過が日本人の転出超過の絶対値と同じか上回っている自治体を中心に,自治体の地域分布や人口学的特徴を検討した.総務省の2014年のデータを用い,総人口の転入超過を日本人分と外国人分に分けて分析した結果,外国人分の転入超過が日本人分の転出超過の絶対値と同じか上回っている自治体は分析対象全体の7%だった.それらの自治体は相対的に北関東や名古屋圏などで多く,北海道や東北で少なかった.また単純平均によれば,相対的に国外からの外国人分の転入が多いほか,総人口が多い,日本人の65歳以上人口割合が低い,外国人割合が高いなどの特徴があった.今回の分析による限りでは,全体として外国人の転入超過が自治体人口の転出超過に対して十分な量的効果をもたらしているとはいえず,またこのことは特に小規模自治体で顕著だった.

地理教育総説記事
  • 下池 克哉
    2016 年 11 巻 2 号 p. 390-400
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/16
    ジャーナル フリー

    動態的地誌学習の授業設計において,多くの社会科教員が単元を貫く問いの設定に困難を感じている.先行研究では,地域における中核事象を取り上げ,「なぜ,このような特徴がこの地域にみられるのか」という「なぜ疑問」のもと,中核事象を成り立たせている原因を追究させるというのが一般的な見解となっている.そこでは,中核事象を結果として位置づけて,単元を設計するという方法が取られることになる.しかし,平成20年版の中学校学習指導要領[社会]の中核とする内容に基づく中核事象には,自然環境や歴史的背景のように,結果として位置づけられないものがある.したがって,中核事象を結果として位置づけ,中核事象を成り立たせる原因を探究させるケースと,中核事象を原因として位置づけ,中核事象がもたらす結果を探究させるケースの2パターンに分けて,単元を貫く問いを設定する必要がある.

  • 阪上 弘彬
    2016 年 11 巻 2 号 p. 401-414
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/16
    ジャーナル フリー

    本研究ではドイツ・ニーダーザクセン州ギムナジウムを事例に,ESD(持続可能な開発のための教育)の視点を入れた地理カリキュラムおよび学習の構造ならびに特質を明らかにするために,同州中等地理カリキュラム『コアカリキュラム』ならびに教科書TERRA Erdkundeを分析した.分析結果から,カリキュラムならびに教科書の特質として,学習プロセスに対応して持続可能性および持続可能な開発を反復して学ぶ構造となっていることと,持続可能性および持続可能な開発のもつ価値観を,所与のものとして学習を展開しない構造が明らかとなった.この分析により,日本の地理教育におけるESDの学習にとって,多様な学習プロセスを通じて,ESDの学習を繰り返し学ぶ地理カリキュラム作成,および持続可能な開発の起源あるいは概念を学ぶ機会を設定する必要があることを指摘した.

  • 村山 朝子
    2016 年 11 巻 2 号 p. 415-424
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/16
    ジャーナル フリー

    本稿では,地理学習において物語や小説などの文学作品を活用することの意義と視点について論じた.話の舞台となる地域の風土や文化,人々の気質を内包する文学作品は,学習者の地理的想像力を刺激し,地域についての豊かなイメージや認識をもたせる資料としての可能性を有する.特に世界を対象とする学習において有用である.また地理的想像力は地理教育が育むべき力の一つである.電子メディアの発達などに伴い断片的で一過性の情報が溢れる今日,文学作品を活用し地理的想像力を鍛えることが望まれる.

調査報告
  • 田林 明, 菊地 俊夫
    2016 年 11 巻 2 号 p. 425-447
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/10
    ジャーナル フリー

    現代の日本では,農村本来の機能である食料生産を存続させ,持続的に発展させることが重要な課題となっている.この報告は,稲作が卓越する北陸地方において存続・成長の可能性の高い農業経営事例を検討し,その特徴と役割を明らかにする.ここで取り上げた三つの大規模借地経営は,利潤を追求するとともに,農地活用・管理のみならず,地域社会の維持,雇用創出といった役割を果たしている.それぞれは,大規模化と多角経営化と企業的性格を強めるという方向に進んできている.今後,ますます生産物を多様化し,加工・流通部門も加えて,規模拡大を進めるものと考えられる.しかし,すべての地域の農業がこれらの企業的経営によって維持されるのは困難であり,利潤追求というよりも一定水準の農業を継続し,農地を管理し,地域社会を持続させていこうとする集落営農が,大規模借地経営の隙間を埋めるように機能していくと考えられる.

  • 西野 寿章
    2016 年 11 巻 2 号 p. 448-459
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/10
    ジャーナル フリー

    1990年代半ばから野菜の輸入が急増し,輸入野菜の農薬問題が顕在化して,安全性を求める消費者の声が高まった.これに対応するように,地産地消型の農産物直売所の開設が活発となった.本稿は,地方都市近郊に開設された農産物直売所が設立された背景や活動状況を追いながら,農産物直売所の地域農業持続に果たす役割について考察した.調査地域では,養蚕が盛んに行われていたが,1980年代末の繭価の下落を契機として養蚕を終了し,野菜栽培に転換した.その結果,畑地面積が増加して地域農業は維持されたものの,後継者の育成は困難を極めている.地域農業の存続のためには,就農を希望している人々に農業技術と販売方法を伝えていくことが重要となっている.

  • 菊地 俊夫, 田林 明
    2016 年 11 巻 2 号 p. 460-475
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/10
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は東京都多摩地域の立川市砂川地区を事例にして,農産物直売所の存在形態と農村空間の商品化の関連性から,都市農業の維持・発展メカニズムを明らかにすることである.立川市砂川地区における都市農業の維持・発展は農産物直売所の立地に大きく依存している.それは,農産物直売所が都市住民に農産物を直接販売する施設であり,その施設を都市住民のニーズに応えるかたちで維持することで,農産物生産が行われているためである.結果として,農村景観や農業的土地利用が維持されるだけでなく,農村コミュニティも維持されることになる.また,農産物直売所を都市住民が訪れて購買することにより,それを核とする農村空間は生産空間としてだけでなく,消費空間としても意味づけられるようになる.

  • 畠山 輝雄
    2016 年 11 巻 2 号 p. 476-488
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/03/29
    ジャーナル フリー

    本稿は,徳島県三好市三野地区太刀野山地域を事例に,過疎地域における集落維持を目的とした廃校利活用事業の可能性と,同事業が地域住民へ及ぼす影響について明らかにした.太刀野山地域の廃校利活用事業は,域外からの社会的企業が三好市の休廃校等利活用事業を活用し,介護保険事業の地域密着型通所介護や地域支援事業(介護予防)を核としたコミュニティビジネスを実施している.同事業の結果,利用者の活動増加や健康増進がはかれただけでなく,太刀野山地域の住民の集落維持意識が向上した.このように,同事業は公民連携の「新しい公共」による地域づくりとしての事例だけでなく,近年過疎地域の地域づくりのあり方として議論されている「ネオ内発的発展論」の事例として,研究蓄積に寄与できると考える.

  • 梶田 真
    2016 年 11 巻 2 号 p. 489-501
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/03/29
    ジャーナル フリー

    福島第一・第二原子力発電所が立地している4町の中で,放射能の線量が低い楢葉町では,2015年9月5日に避難指示が解除されている.しかし,その後,約1年間を経過しても,帰還者の比率は1割にも満たない.その原因は,長い避難生活の中で避難先において生活の基盤が確立してしまったことだけでなく,帰還が可能となった後の楢葉町がもはや災害前の姿ではなくなってしまっていることにもある.本稿では,住民が生活することができなかった4年半の間にどのようなことが生じ,そのことが避難指示解除後の地域の有り様と町づくりにどのような影響を及ぼしているのかについて分析する.

地理教育総説記事
  • 石川 菜央, 岡橋 秀典, 陳 林
    2016 年 11 巻 2 号 p. 502-515
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/03/29
    ジャーナル フリー

    筆者の3人は,広島大学大学院の分野融合型のリーディングプログラムであるたおやかプログラムにおいて,現地研修の企画,実施を担当してきた.筆者らは,ともに地理学を学問的バックグラウンドとしてもっている.本稿では,地理学で培われた地域への視点や調査法が,分野融合型教育における現地研修にどのように貢献し,そして実施後にいかなる課題が残されたのかを考察した.検討の結果,事象を地域内の文脈でとらえ,さまざまな要素と関連づけて地域を総合的に把握する視点や,現地調査でオリジナルなデータを得る方法などが研修にも有効であった.また,これまでの地理学的研究では控える傾向があった,地域内の現象の比較的早期の一般化や,課題を解決するための具体的提案も研修という見地から学生たちに積極的に行わせた.今後は,長期間にわたって地域に繰り返し足を運び,さらに研究を深めることや,より長期の現地研修と効果的に結びつけることが課題である.

  • 伊藤 智章
    2016 年 11 巻 2 号 p. 516-525
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/03/29
    ジャーナル フリー

    高等学校の地理教育におけるGISの普及低迷を打破するための手段として,タブレットコンピューターの活用を企図し,学校の現状に合わせた教材を開発した.沖縄への修学旅行の事前学習と現地研修において,現地の新聞記事とデジタル地図を組み合わせたアプリケーションソフトを作り,地図と記事との関連づけや,現地での研修を行うことにより,生徒に沖縄の歴史と市街地の変遷について深く理解させることができた.タブレットコンピューターによるGIS教材は,パソコンよりも操作が容易であり,かつインターネットへの常時接続を必要としないため,汎用性が高い.本教材を地理教育にGISを浸透させるための有効な手段として位置づけ,今後も普及を図っていきたい.

提言
  • 荒木 一視, 岩間 信之, 楮原 京子, 熊谷 美香, 田中 耕市, 中村 努, 松多 信尚
    2016 年 11 巻 2 号 p. 526-551
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/03/29
    ジャーナル フリー

    東日本大震災を踏まえて,広域災害発生時の救援物資輸送に関わる地理学からの貢献を論じた.具体的には遠くない将来に発生が予想される南海トラフ地震を念頭に,懸念される障害と効果的な対策を検討した.南海トラフ地震で大きな被害が想定される西南日本の太平洋沿岸,特に紀伊半島や南四国,東九州は主要幹線路から外れ,交通インフラの整備が遅れた地域であると同時に過疎化・高齢化も進んでいる.また,農村が自給的性格を喪失し,食料をはじめとした多くを都市からの供給に依存する今日の状況の中で,災害による物資流通の遮断や遅延は,東日本大震災以上に大きな混乱をもたらすことが危惧される.それを軽減するためには,迅速で効果的に物資を輸送するルートや備蓄態勢の構築が必要であるが,こうした点に関わる包括的な取組みは,防災対策や復興支援などの従来的な災害対策と比べて脆弱である.

2016年秋季学術大会シンポジウム
2016年秋季学術大会巡検報告
2016年度若手研究者国際会議派遣事業 発表報告書
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