E-journal GEO
Online ISSN : 1880-8107
ISSN-L : 1880-8107
17 巻, 1 号
選択された号の論文の17件中1~17を表示しています
調査報告
  • 海津 正倫, JANJIRAWUTTIKUL Naruekamon, 小野 映介, 川瀬 久美子, 大平 明夫, PRAMOJANEE Pa ...
    2022 年 17 巻 1 号 p. 1-11
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/03
    ジャーナル フリー

    タイ国南部ナコンシタマラート海岸平野の砂州の形成と発達を,衛星画像,DEM,掘削調査,堆積物の年代測定結果などに基づいて明らかにした.砂州Iは長さ80 kmに及ぶ連続性の高い砂州で,砂州Iの背後にあたる砂州の西側には低湿地が広がり,泥炭層が形成されている.泥炭層基底付近の年代から砂州Iは7500年前頃形成されはじめたと考えられる.砂州Iの東側には砂州IIが発達し,最も新しい砂州IIIは現在の海岸線を縁取るように発達している.埋没砂州Yは海岸平野南部のフラバット山付近から南に向けて延びており,海岸平野の西縁付近には更新世に形成された砂州Xが顕著に発達している.これらのうち,砂州X,砂州I,砂州IIが北から南に向けて発達したと判断されるのに対し,砂州IIIは北のパクファナン入り江に向けて延びている.このような違いは1500年前頃以降の海況の変化を反映していると考えられる.

  • 木澤 遼, 濱 侃, 吉田 圭一郎
    2022 年 17 巻 1 号 p. 12-22
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/24
    ジャーナル フリー

    本研究では,北海道北部の利尻岳における森林限界の変化を検討するため,過去の空中写真と小型無人航空機(UAV)の画像を用いて,森林限界付近の40年間の植生変化を明らかにした.空中写真による土地被覆分類の結果,利尻岳西向き斜面では森林の占める割合が増加すると同時に,高標高側へ拡大していた.ロジスティック回帰分析より森林限界は40年間で41.9 m高標高側へ移動しており,その上昇速度は1.0 m yr-1であった.空中写真およびUAV画像による植生判読から,森林限界付近ではダケカンバ林における林冠木の密度の増加に加え,新たなダケカンバ林分の成立がみられた.新規のダケカンバ林分は高標高側のササ草原やハイマツ群落を置換しており,このことにより,利尻岳西向き斜面において森林限界が上昇したことがわかった.

提言
  • 荒木 一視
    2022 年 17 巻 1 号 p. 23-45
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/24
    ジャーナル フリー

    大規模災害が発生してからの救援活動と避難生活を向上させる必要があるという問題意識のもと,避難生活を支える効果的な救援活動拠点の配置に関する研究を提起する.救援活動拠点とは届いた物資や人員を被災世帯や避難所へと中継する拠点である.まず,災害研究のステージと地理学,特に救援活動期における被災地と発出拠点の関係を整理した.次に,南海トラフ地震が発生した際には大きな被害が想定され,過疎化や高齢化の進行している和歌山県日高郡を事例として,現状の救援システムを地図上に描き出すとともに課題の把握を行った.さらに,その課題を埋める救援活動拠点の候補として,旧役場所在地や学校,寺院に着目し,効果的な救援システムのあり方を検討した.また,こうした大規模災害時の救援システムを論じる上で従来の地理学の研究蓄積が貢献できる余地があることを指摘した.

2021年度サマースクール
調査報告
  • 多々良 啓
    2022 年 17 巻 1 号 p. 50-63
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/02
    ジャーナル フリー

    本稿では,北海道浦河町を事例に,地域おこし協力隊員とその経験者を対象に,隊員間で行われる支援に着目し,その実態を示すとともに,支援が生じる背景を関連するアクターの経歴をもとに考察した.その結果,先に着任した隊員が後輩隊員に対して,「人脈紹介」,「事業・活動の連携」,「相談役としてのサポート」を行っていることが明らかとなった.また,地域おこし協力隊員の中間支援に携わるUターン者や地域住民が,隊員間の支援の起点となり,サポートを受けた者が新たに着任した隊員をサポートする「支援の連鎖」が生じていることを示した.これらは地域おこし協力隊員自身の経験や, Uターン者,地域住民の経験から生じている.本稿では,「支援の連鎖」が生じている一例を示したが,これらを継続・強化するためには,支援に関わるUIターン者や地域住民のコミュニティを広げ,キーパーソンの負担を軽減することが必要だと考えられる.

G空間EXPO2021日本地理学会主催シンポジウム
調査報告
  • 岩井 優祈, 松井 圭介
    2022 年 17 巻 1 号 p. 68-81
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/26
    ジャーナル フリー

    本稿は茨城県鹿嶋市における中心商業地を事例に,店主の経営をめぐる意識を明らかにしたものである.鹿島神宮に隣接する中心商業地では,地元客に加えて観光客の来訪がみられる.そのため本研究では,店主が重視する客層に着目しながら,彼らの経営をめぐる意識を分析した.その結果,店主の大半は依然として地元客を重視しており,その主たる背景には店主の高齢化および人手不足が関係していたことが判明した.一方で観光客対応に積極的な店主は,年齢が比較的若く,大型店の郊外進出に伴う中心商業地の衰退への危機感を抱いていた.観光客の往来が多い通りに店舗が立地することも,観光客対応を促進させる一因であった.一方,創業当時から地元の常連客を重視する店舗では,観光客の来訪は必ずしも望まれていなかった.商店会長らの経営をめぐる意識も踏まえると,鹿嶋市中心商業地では観光客よりも地元客に向けた経営が今後より一層優勢になると予想される.

  • 山本 健太, 申 知燕
    2022 年 17 巻 1 号 p. 82-92
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー

    本研究では,ヘアサロンの検索・予約サイトからウェブスクレイピングによって収集したデータをもとに,東京都内ヘアサロンの集積地を析出した.その上で,テキストマイニング分析手法の一つである共起ネットワーク分析を用いて,各集積地のヘアサロンが想定している顧客層を明らかにし,集積地区の類型化を試みた.店舗情報を分析したところ,集積地ごとに施術料金やスタッフ数などに特徴がみられた.また店舗紹介文を共起ネットワーク分析したところ,集積地ごとに想定されている顧客層は異なり,ヘアサロンはそれら想定される顧客層に向けた施術メニューや店舗内空間を提供していることが確認された.その結果,都内のヘアサロン集積地区を「都心ターミナル」,「都心近隣繁華街」,「郊外繁華街」に類型化できた.

解説記事
調査報告
  • 小坪 将輝, 中谷 友樹
    2022 年 17 巻 1 号 p. 112-122
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    新型コロナウイルスのパンデミックが生じた2020年には,世界の多くの大都市で大規模な人口の転出が確認された.日本においても東京都からの転出の増加を含む人口移動パターンの変化が生じている.そこで東京大都市圏の中心となる東京都区部からの転出に着目して,その移動先の分布の変化にみられた特徴を分析した.結果として,移動者が増加した地域として東京大都市圏の郊外部と大都市圏外の北西部および南西部の地域が検出された.これらの地域の特徴と推定される移動者の年齢や職業の構成からは,新型コロナウイルスの流行が大都市圏都心部からのライフスタイル移住を促進したことが示唆された.

調査報告
  • 南雲 直子, 大原 美保, 藤兼 雅和, 井上 卓也, 平松 裕基, ジャラニラ サンチェズ パトリシア アン
    2022 年 17 巻 1 号 p. 123-136
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/04
    ジャーナル フリー

    地理情報や被災記録に乏しい途上国において将来の洪水災害に備えるためには,ハザード情報を簡単に可視化・共有でき,住民らが地域の氾濫特性を理解するための手助けとなるような技術が重要な役割を果たす.そこで本研究では,フィリピン共和国の洪水常襲地を対象に,Google Earthを用いて降雨流出氾濫(RRI)モデルによる洪水氾濫計算結果を描画し,建物高さと浸水深の関係を可視化できる3D浸水ハザードマップを作成した.また,このハザードマップに関する講義およびチュートリアル教材を作成し,フィリピンでの技術普及を目的としたオンライン研修で取り上げた.その結果,3D浸水ハザードマップはフィリピンの人々も簡単に作成・利用できるものであり,地域の浸水リスクを理解するのに役立つことが明らかとなった.Google Earthは多言語に対応する無償ソフトウェアであることから,本研究によるハザードマップ作成手法は予算や人材が不足する途上国においても有用な技術であると考えられる.

  • 植村 円香
    2022 年 17 巻 1 号 p. 137-154
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/04
    ジャーナル フリー

    本研究では,ハワイ島における新たな担い手によるコナコーヒー生産の実態とその課題を明らかにするとともに,彼らがコナコーヒー産地に与えた影響について考察することを目的とする.1890年代以降,コナでは日系移民がコーヒーの原料となるチェリーを生産し,島内の精製工場に出荷していた.しかし,1980年代以降に世界的なスペシャリティコーヒーブームが起きると,新たな担い手がコーヒー生産を開始した.彼らは,チェリーの生産,精製,焙煎を行い,豆を消費者等に販売していた.しかし,新たな担い手は,害虫被害によるチェリー生産量の減少などから豆の販売価格を上げざるを得ず,それが消費者離れにつながるという課題に直面していた.また,新たな担い手が産地に与えた影響として,彼らは衰退しつつあった産地の回復に貢献したが,従来とは異なる品種や精製方法を導入して独自の風味を追求することで,コナコーヒーの風味が多様化するという課題をもたらした.

2022年春季学術大会シンポジウム
調査報告
  • 山内 啓之, 鶴岡 謙一, 小倉 拓郎, 田村 裕彦, 早川 裕弌, 飯塚 浩太郎, 小口 高
    2022 年 17 巻 1 号 p. 169-179
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/14
    ジャーナル フリー

    近年,バーチャルリアリティ(VR)の技術が様々な分野の教育実践において注目されている.地理教育においてもVRを活用することで,対象者の地理的事象への関心や理解を向上できる可能性がある.そこで本研究では,仮想空間に再現した現実性の高い環境を観察したり,散策したりするVRのアプリケーションを構築した.対象は横浜市にある人工の横穴洞窟の「田谷の洞窟(田谷山瑜伽洞)」とした.アプリケーションは,田谷の洞窟保存実行委員会と研究者が連携して取得した洞窟内の三次元点群データと,筆者らが現地で撮影した全天球パノラマ画像,洞窟の小型模型,環境音を用いて構築した.アプリケーションの使用感と効果を評価するために,市民の交流イベントにおいてVRの体験会とアンケート調査を実施した.その結果,VRアプリケーションは,幅広い年代の利用者に体験の満足感や地理的事象に対する関心や理解を与えることが判明した.

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