E-journal GEO
Online ISSN : 1880-8107
ISSN-L : 1880-8107
15 巻, 1 号
選択された号の論文の16件中1~16を表示しています
調査報告
  • 重野 拓基, 澤田 康徳, 埼玉県熊谷市政策調査課
    2020 年 15 巻 1 号 p. 1-13
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    ジャーナル フリー

    本研究では,夏季の高温が顕著である熊谷市を対象とし,熱ストレスにより保健室に来室した児童生徒の割合の地域性を明らかにした.さらに,在校時(8~18時)の最高気温・湿度と来室者割合との関係を明らかにすることを試みた.来室者割合と各地点の全地点平均からの湿度差との相関係数はr=0.43で有意であったが,気温差との相関係数はr=-0.06で有意でなかった.来室者割合が大きい地点は,市北東部~南西部に認められた.これらの地点では全地点平均より平均的に湿度が高く,気温差は小さい地点が多い.市北東部~南西部の土地利用が水田であることから,児童生徒の熱ストレスによる身体的不調には,学区の土地利用に関係した湿度の影響が大きい可能性がある.児童生徒の熱中症やそれに至る熱ストレスによる身体的不調を予防するためには,学区スケールの暑熱環境の把握が重要であると考えられる.

  • 酒井 扶美, 立見 淳哉, 筒井 一伸
    2020 年 15 巻 1 号 p. 14-28
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    ジャーナル フリー

    「田園回帰」という言葉で,都市から農山村への移住に注目が寄せられている.しかし,農山村への移住者の増加による新たな「なりわい」の創造と,自治体をはじめ多様な主体が行う起業支援とは密接にかかわっていると考えられる一方,その実態についての調査研究は十分には行われていない.これに対し,本稿では,兵庫県丹波市を事例に,特に制度的な起業支援のみならず,移住者と地域住民との起業を介した新しい関係性の上で,どのようなサポートが生み出されているのか,その詳細な実態を明らかにした.移住起業のサポート実態を理解する上で,単に制度的なサポートだけではなく,地域における様々な主体が行なっている支援の総体を把握する重要性を改めて示すことができた.

  • 畠山 輝雄
    2020 年 15 巻 1 号 p. 29-43
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    ジャーナル フリー

    本稿は,全国の地方自治体へのアンケート調査により,公共施設へのネーミングライツ(以下,NR)導入の最新動向を明らかにし,その特徴について考察する.またそれを踏まえ,関連する既存研究と併せて今後の地理学的研究の可能性を探る.日本のNRは,地方自治体の脆弱財政下において官民協働や自主財源確保を目的とした広告事業の一環として導入されている.しかし,その導入状況には地域差が生じている.この理由として自治体の保有する公共施設の種類やスポンサーとなりえる企業等の立地状況が関係している.また,NR導入により施設名が変更されることで,施設名から地名が消失する事例も生じている.さらに,NR導入に対して,議会承認をはじめとする合意形成が行われていないことも明らかとなった.これらの課題に対して,経済地理学,行政地理学,地名研究,政治地理学,社会地理学をはじめとする地理学的研究の蓄積が望まれる.

  • 尾方 隆幸, 大坪 誠, 伊藤 英之
    2020 年 15 巻 1 号 p. 44-54
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/02/22
    ジャーナル フリー

    琉球弧の最西端に位置する与那国島で,数値標高モデル(DEM)による地形解析と,露頭における地層・岩石と微地形の記載を行い,隣接する台湾島との関係も含めてジオサイトとしての価値を検討した.与那国島の表層地質は,主に八重山層群(新第三系中新統)と琉球層群(第四系更新統)からなり,地質条件によって異なる地形が形成されている.与那国島の代表的なジオサイトとして,ティンダバナ,久部良フリシ,サンニヌ台が挙げられる.ティンダバナでは,八重山層群と琉球層群の不整合が崖に露出し,地下水流出に伴うノッチが形成されている.久部良フリシでは,八重山層群の砂岩が波食棚を形成し,岩石海岸にはタフォニが発達する.サンニヌ台には正断層の露頭があり,断層と節理に支配された地形プロセスが認められる.与那国島のジオサイトは,外洋に囲まれた離島の自然環境や背弧海盆に近いテクトニクスを明瞭に示しており,将来的には台湾と連携したジオツーリズムやボーダーツーリズムに展開させうる可能性を秘めている.そのためにも,地球科学の複数分野を統合するような基礎的・応用的研究を継続することが必要である.

  • 鈴木 晃志郎, 于 燕楠
    2020 年 15 巻 1 号 p. 55-73
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/02/22
    ジャーナル フリー

    今日の地理学において,幽霊や妖怪を含む怪異は,専ら民俗学的な手法に依拠して検討されている.しかし隣接分野では,定量的な手法に基づいた知見が数多く存在し,客観性と厳密性を確保することによって学術的信頼性を高める試みが多くなされている.そこで本研究は富山県を対象とし,今からおよそ100年前(大正時代)の地元紙に連載された怪異譚と,ウェブ上に書き込まれた現代の怪異に関するうわさを内容分析し,(1) 怪異を類型化して出現頻度の有意差検定を行うとともに,(2) カーネル推定(検索半径8 km,出力セルサイズ300 m)とラスタ演算による差分の算出により,怪異の出没地点の時代変化を解析した.その結果,現代の怪異は大正時代に比して種類が画一化され,可視性が失われ,生活圏から離れた山間部に退いていることが示された.

  • 木戸 泉
    2020 年 15 巻 1 号 p. 74-100
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/02/22
    ジャーナル フリー

    バルカン半島西部に位置するクロアチアは,1990年代のクロアチア紛争を経て,多民族国家ユーゴスラヴィアから独立を果たした.紛争終結から20年以上が経過した現在,クロアチア国内では紛争の記憶を強固にし,さらに次世代へ継承しようとする動きが見られる.特に激戦地となった都市ヴコヴァルでは,クロアチア系住民の紛争の記憶を強化し継承する行事の開催やモニュメントの設立が積極的に行われている.本研究では,それらの表象内容や設置主体を分析し,地域レベルと国家レベル,またナショナル・マジョリティとナショナル・マイノリティの間で,紛争に対する受け止め方に差異が生じていることを明らかにした.そしてこれを踏まえて,EU加盟を果たしたクロアチアという国家のナショナル・アイデンティティをめぐるダブルスタンダードについて検討を加えることができた.

地理紀行
2019年秋季学術大会シンポジウム
提言
解説記事
  • 埴淵 知哉, 川口 慎介
    2020 年 15 巻 1 号 p. 137-155
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/04/04
    ジャーナル フリー

    近年,学術研究団体(学会)における会員数の減少が懸念されている.本稿では,日本学術会議が指定する協力学術研究団体を対象として,日本の学会組織の現状および変化を定量的に俯瞰することを試みた.集計の結果,学会のおよそ3分の2は会員数1,000人未満であり,人文社会系を中心に小規模な学会が多数を占める現状が示された.過去10年余りの間に個人会員数が減少した学会は3分の2にのぼるものの,それは理工系,中小規模,歴史の長い学会で顕著であり,医学系や大規模学会ではむしろ会員数を増加させていた.また,学会の新設に対して,解散は少数にとどまっていた.結果として,既存学会の維持および会員数の選択的な増減,そして新設学会の増加が交錯している状況が示された.そして,地理学関連学会は学術界全体の平均以上に会員減少が進んでおり,連合体や地方学会を含めてそのあり方を検討する必要性が指摘された.

地理紀行
調査報告
  • 小川 滋之
    2020 年 15 巻 1 号 p. 165-172
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/06/18
    ジャーナル フリー

    近年,日本各地において伝統野菜や地方野菜などのタネ(固定種)の重要性が認められるようになり,種苗交換会はそれらの多様性を保全する取組みとして開催されている.本稿では,埼玉県日高市の農家ネットワーク「たねのわ」が主催する種苗交換会の出品品種と参加者の特徴を報告し,その可能性と課題について考察する.参加者は,近隣の山地部や平地部を含めたさまざまな地域から集まり,約半数は営利を目的としない非農家であった.このことは各地の多様な品種が集まり,採算性が低い品種の生産も守られていることを示唆している.出品品種の特徴は,いずれかの地域の在来野菜に由来する固定種であり,採種,挿し芽,苗作りが容易なことであった.これまでに報告されていない,近隣の山地地域に所縁がある在来野菜についても多くを見出すことができた.これらから,種苗交換会は在来野菜の固定種の保全や発掘において重要であり,明確に貢献していると結論した.

2018年度斎藤功研究助成研究成果報告書
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