E-journal GEO
Online ISSN : 1880-8107
ISSN-L : 1880-8107
14 巻, 1 号
選択された号の論文の29件中1~29を表示しています
調査報告
  • 福井 一喜
    2019 年 14 巻 1 号 p. 1-13
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/01/29
    ジャーナル フリー

    東京大都市圏に居住する若者の観光・レジャーにおけるSNS利用を,目的地による情報環境の差異と,SNS上での影響力の個人差に着目して分析した.観光・レジャーにおいてSNSを積極利用するのは,SNS上での影響力が大きい者であり,彼ら彼女らは情報探索時に自治体や観光協会のSNSアカウントよりも,企業のほか友人や知人などのSNSアカウントを参考にしている.それは彼ら彼女らが,SNS上で他者から凡庸と判断される情報の探索や発信を慎重に忌避したり,自身の観光・レジャー体験をより上質なものにしたりするために,目的地の情報の量や流通速度の差を認識しながら,SNSで拡充した個人的な社会関係を活用したためである.こうしたSNS利用は,若者たちが置かれる他者評価を重視せざるを得ない相互監視的な情報環境の中で,戦略的にICTを活用し観光・レジャーを効果的に実施しようとした結果だと解釈できる.

  • 埴淵 知哉, 山内 昌和
    2019 年 14 巻 1 号 p. 14-29
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/01/29
    ジャーナル フリー

    近年,国勢調査の「不詳」増加が懸念されている.本研究は,国勢調査の調査票未提出に関連する諸要因を明らかにし,データの補正や解釈,あるいは将来の調査改善に役立つ情報の獲得を目的とした.インターネット調査により収集された,国勢調査の回答状況を含む個票データの分析から,若年層や未婚者,単身世帯,短期居住者などが未提出になりやすく,特に年齢が未提出発生の基本的な関連要因であることが示された.また,大都市圏居住者において未提出が生じやすいこと,プライバシー意識は予想に反して未提出に結び付いていないこと,国勢調査の理解度が年齢とは独立して未提出に関連していることなども明らかになった.国勢調査データを地域分析に利用する際には,これらの偏りがもたらす疑似的な地域差・地域相関の可能性に留意するとともに,将来の国勢調査では,年齢層を問わず調査結果の利用・公開方法を広く周知していくことの重要性が指摘された.

地理教育総説記事
  • 沼畑 早苗
    2019 年 14 巻 1 号 p. 30-41
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/01/29
    ジャーナル フリー

    高等学校の地理学習におけるフィールドワークが生徒にどのような影響を及ぼしたか,その効果を明らかにするとともに,新学習指導要領の「地理総合」,「地理探究」で求められている課題を追究したり解決したりする活動の実践例として提示することを目的とする.

    生徒はフィールドに出ることで,実際に現地を見なければわからないことがあると実感し,地域の特徴や実態を正確に踏まえた上で課題をとらえ直し,解決に向けた多面的・多角的な考察を行うようになった.また,一つの大きな課題が解決した地域であっても,全てがうまく行っているわけではなく,地域内において住民間の温度差や時には摩擦があることも見定めている.さらに,地域の人たちとのつながりや生徒間の議論を通して,コミュニケーション能力を向上させ,協働的に学ぶことの価値や社会に貢献する意義を理解し,課題探究・解決への意欲を高める効果があることがわかった.

地理紀行
調査報告
  • 海津 正倫
    2019 年 14 巻 1 号 p. 53-59
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/02/23
    ジャーナル フリー

    平成30年西日本豪雨災害における岡山県倉敷市真備町の水害では小田川や支流の末政川,高馬川などが破堤し,洪水氾濫によって大きな被害が発生した.顕著な破堤が発生した末政川の700 m地点では,洪水流は破堤箇所から左岸側,右岸側共に堤防横の建物などを破壊し,さらに細長く伸びる押堀を形成して流れ,その先は障害となる建物をよけながら空き地や畑などの空閑地を流れた.下流側の破堤地点である400 m地点とこの700 m地点との間は顕著な天井川となっており,また,河道がS字状に屈曲していて,小田川との合流部からのバックウォーターに加えて,このような河川の特性が破堤に影響した可能性が考えられる.一方,高馬川・小田川の破堤地点では,破堤箇所からの洪水流が広がった地域でそれとは反対方向からの洪水流も存在し,破堤地点からの洪水流が流れたあとに末政川方向からの流水も到来し,浸水被害を増大させた可能性がある.

地理教育総説記事
2018年秋季学術大会シンポジウム報告
2018年秋季学術大会巡検報告
調査報告
  • 荒木 俊之
    2019 年 14 巻 1 号 p. 105-115
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/20
    ジャーナル フリー

    本稿では,大阪府北部地域における7市(豊中市,池田市,吹田市,高槻市,茨木市,箕面市,摂津市)の地域防災計画を取り上げて,自然的,社会経済的な視点からみた地域特性が,予防対策や応急対策などの災害対策,被害想定や対策を行う想定地震などに考慮され,目次構成や想定災害に示されているかどうかを検討した.7市では,災害応急対策,中でも,事故災害に対する対策,そして,対策を行う想定地震に相違がみられた.想定地震の相違は,各市が想定する際の考え方の違いによるものであり,自然災害に対しては,自然的な視点からみた地域特性を踏まえて項目立てされている.事故災害に対する対策では,社会経済的な視点から類似性のある地域特性を有していても,各市の判断により,地域特性を考慮した項目立てがなされない場合がみられた.

  • 横山 貴史
    2019 年 14 巻 1 号 p. 116-129
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/20
    ジャーナル フリー

    アルギン酸は,褐藻類から作られる安定剤として,食料品生産のみならず様々な工業生産に欠かせない製品である.南米,チリ共和国は,世界のアルギン酸原料海藻類の一大生産地である.本稿は,チリにおける近年のアルギン酸原料海藻類の生産動向を,現地調査をもとにして報告するものである.チリでは,2000年代初頭から,アルギン酸原料海藻類生産の急増がみられた.その要因には,中国国内の養殖コンブの工業用から食用への利用用途の変化を背景とした中国の購買力の高まりがあった.そのため,海藻価格は上昇し,第3州ウアスコ地区では,海藻採取人の所得が上昇した.近年では,海藻採取が行われていなかった地域でも海藻採取が開始されるなど,チリではアルギン酸の原料海藻類の採取が過熱している.

  • 林 紀代美
    2019 年 14 巻 1 号 p. 130-151
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/13
    ジャーナル フリー

    本研究は,岐阜県飛騨地域において,ブリ・サケの消費動向と,年末の伝統的風習「年取り」で用いられる年取魚としてのブリに関する人々の消費実態やそれへの認識について明らかにする.アンケート調査によると,日常の食事では,ブリよりもサケを食べる頻度が高い人が多い.しかし,ブリの摂食頻度は20年程前に比べても維持している人が多い.産地に対する人々の関心,認知も高い.年取魚としてのブリ消費の習慣を多くの人々が知っていて,かつそれを実行していた.多くの人が年末にブリを食べることが地域の食文化として重要と考え,年取魚ブリは日本海産であることを望み,伝統的形態からの変更(減塩での製造や切り身での販売)があっても「年取り」に用いる品として妥当と考えていた.

G空間EXPO2017日本地理学会主催シンポジウム
G空間EXPO2018日本地理学会主催シンポジウム
特集
調査報告
  • 中川 清隆, 中村 祐輔, 渡来 靖
    2019 年 14 巻 1 号 p. 163-179
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/07/03
    ジャーナル フリー

    Summersの式はシンプルな数式でありながらプルーム型都市境界層の形成とそれに伴う都市ヒートアイランド形成をうまく説明するが,同式により予測される都市温度の水平分布は閉じた等温線を形成せず,市街地の最風下端に最高温度が出現する,という矛盾を含んでいることは自明である.この矛盾が市街地内の一様な熱源分布の仮定に起因するか否か調査したところ,例え市街地内に非一様に熱源が分布しても,熱源付近で等温線間隔が密になるものの地上気温の閉じた等温線は出現せず,市街地の最風下端が最高温度となることが明らかとなり,Summersの式が都市境界層内に冷熱源を持たないことがその原因と推測された.そこで,都市境界層内に都市温度に対応するニュートン冷却機能を付加したところ,市街地スケールおよび風速の条件によっては明瞭なドーム状の都市境界層が形成され,最高温地点が風上寄りに移動した地上気温の閉じた等温線形成に大きく近づくことが明らかになった.

  • 日下 博幸, 猪狩 浩介, 小久保 礼子, 佐藤 拓人, ドアン グアン ヴァン
    2019 年 14 巻 1 号 p. 180-196
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/07/03
    ジャーナル フリー

    本研究は,商業地,住宅地,緑地という異なる土地利用を1~2 km以内に有する東京都渋谷区を対象に,土地利用や人間活動の違いが気温とWBGTの非一様性の形成に及ぼす影響を観測によって明らかにした.観測結果から,日中では,住宅地の気温が商業地に比べてやや高く,緑地が最も低いことが明らかとなった.夜間は,商業地の気温が最も高く,緑地が最も低かった.また,緑地では夜間に接地逆転層が認められる一方で,商業地では夜間に少なくとも観測範囲内(地上から高度33 mまで)では絶対不安定となっていた.熱画像観測は,昼夜を問わず,商業地と住宅地で同程度の表面温度であることを示した.これらの結果は,商業地の大きな表面積・建物体積・熱容量による大きな熱慣性と人工排熱によると考えられる.この結果は,多層都市キャノピーモデルを用いた数値実験からも支持された.WBGTの場合は,気温とは異なり,商業地と緑地で大きな差はなかった.これは,緑地の高い湿度が原因であることが分かった.

  • 大和 広明, 浜田 崇, 田中 博春, 栗林 正俊
    2019 年 14 巻 1 号 p. 197-212
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/07/03
    ジャーナル フリー

    本論文の目的は,長野市を対象にヒートアイランド現象と冷気湖および山風との関係について,土地利用から求めた都市化率と標高に着目して明らかにすることである.寒候期の晴天静穏夜間の100事例を対象に日没時刻を基準とした気温のコンポジット解析をした.

    日没後2時間半以降に気温が都市部で高く郊外で低い,明瞭なヒートアイランド現象の気温分布が見られた.日没後数時間後には冷気湖も発達し,日出前まで冷気湖の底に明瞭なヒートアイランド現象を伴う気温分布が確認された.長野市中心部では山風が吹いている時に,中立に近い都市境界層が形成されていた.山風による力学的混合により都市境界層が維持されていた可能性が考えられた.また,日没後6時間過ぎ以降は郊外から都市に向かう冷気の流れの存在が示唆され,この流れが冷気湖の底でヒートアイランド現象の強さを若干弱めるものの,ヒートアイランド現象の気温分布を維持していたと考えられた.

  • 中村 祐輔, 重田 祥範, 渡来 靖
    2019 年 14 巻 1 号 p. 213-222
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/07/03
    ジャーナル フリー

    地上気温観測において,その観測値は周辺環境に大きく影響される.観測点周辺の土地利用は一般的に不均一であるために,その影響を受けた気温のばらつきを評価することは観測値の空間代表性を理解する上できわめて重要である.そこで本研究では,一つの気温観測所周辺域で発生する気温のばらつきを評価することを目的に地上気温の多地点観測を行なった.観測は,熊谷地方気象台の周辺域において2014年3月1日から2015年2月28日にかけて実施された.観測の結果,観測領域内の気温のばらつきは年平均で1°C程度であることが示された.さらに,熊谷地方気象台が位置する地点の気温は,観測領域内において恒常的に高い傾向を示した(平均+0.4°C).そして,領域内における気温のばらつきの要因としては都市が影響していることが示唆された.

  • 瀬戸 芳一, 福嶋 アダム, 高橋 日出男
    2019 年 14 巻 1 号 p. 223-232
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/07/03
    ジャーナル フリー

    本研究では,夏季の関東地方南部を対象として,風向の定常性を示す定常度や風向の日変化に着目し,都市の気温分布とも密接に関連する局地風系の交替時刻の地域分布を検討した.日中と夜間との風向変化が内陸で明瞭な海陸風日を抽出し,定常度の変化から判断した交替時刻の等時刻線を描いたところ,日中には海風前線に対応する海岸線に平行した等時刻線の内陸への進行が認められた.一方,夜間の陸風への交替は海風よりも進行速度が遅く,翌5時においても東京都区部の大部分では陸風への交替がみられなかった.東京都区部など海岸に近い地域ほど,1日を通して南寄りの風が卓越し陸風が到達しない日数の割合が大きく,特に東京湾岸では海陸風日のうちの約60%を占めた.そこで,海陸風日の中で沿岸部まで陸風が到達した日について改めて交替時刻を求めたところ,陸風への交替は海陸風日よりも早く,翌5時には東京都区部のほぼ全域において陸風への交替が認められた.

  • 岡 暁子, 高橋 日出男, 中島 虹, 鈴木 博人
    2019 年 14 巻 1 号 p. 233-245
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/07/03
    ジャーナル フリー

    本研究では,東京都と埼玉県を主な対象とし,15年間の夏季(6~9月)における,稠密な降水量観測網(290地点)の時間降水量データを用いて,降水域(≧5 mm/h)の局地性と広域性に着目して強雨(≧20 mm/h)発現の地域的な特性を解析した.その結果,関東山地東麓と都区部西部や北部で局地的強雨の頻度が高く,それによる降水量も多い.全強雨に占める局地的強雨の頻度割合は,都区部北部から埼玉県東部で大きく,総降水量への寄与も大きい.一方,関東山地や埼玉県西部,多摩地域では広域的な降水に伴う強雨の頻度や降水量が多い.また,南風時に都心の数十km風下側の埼玉県東部で夏季を通して局地的強雨の頻度割合が大きいことに関し,強雨発現と風系との関係を調べた.局地的強雨には基本的に風の収束が関与しており,いわゆるE-S型風系だけでなく,関東平野内陸からの北風に伴う収束や,相模湾からの南風と東京湾からの南東風との収束も重要と考えられた.

調査報告
  • 川端 光昭, 佐野 可寸志
    2019 年 14 巻 1 号 p. 246-257
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/07/03
    ジャーナル フリー

    持続的な地域公共交通網形成には,地域の実情に合わせ多様な運行主体の組合せを検討する必要がある.本稿では,タクシー事業者の地域公共交通への参画状況,自治体のタクシー事業者の活用意向を明らかにする.加えて,先行事例の分析を通して,官民協働による地域公共交通のマネジメントに役立つ知見を得ることを目的とする.おおよそ半数の自治体が,公共交通事業をタクシー事業者に委託しており,タクシー事業者の参画が進んでいることがわかった.しかし,事業委託による運転士増等の雇用創出効果は限定的であること,委託事業者との情報共有が不十分な自治体が多いことが明らかとなった.先行事例の分析を通して,持続的な公共交通網形成には,タクシー事業者の経営資源を有効活用することの重要性を確認した.さらに,タクシー事業者の経営体力を十分に情報共有・理解し,実行可能な公共交通サービスを官民協働で制度設計するプロセスが不可欠と言える.

  • 市川 康夫, 中川 秀一, 小川 G. フロランス
    2019 年 14 巻 1 号 p. 258-270
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/07/03
    ジャーナル フリー

    現在,西ヨーロッパ農村では,都市から農村への人口回帰が進展している.本研究は,フランスの人口増加農村を事例に,農村移住者の田園生活はどのようなものであり,その背景には何があるのかについて,彼らの意識に注目して論じた.カンティニ村の移住者増加は,通勤・通学地としての都市との結びつき,静かな環境,手頃な土地価格,古い農村家屋や景観の美しさが背景にあった.移住者の多くは自主リフォームを好むため,公務員など時間に余裕のある人々であった.彼らは,立地や環境だけではなく,村に活気があることを高く評価していた.カンティニ村は,住民同士の地域内でのコミュニケーションを重視する一方,それを必ずしも強制しない点が特徴といえる.

  • 小室 隆, 赤松 良久, 山口 皓平, プトゥ エディ ヤスティカ, 清水 則一, 二瓶 泰雄
    2019 年 14 巻 1 号 p. 271-287
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/07/03
    ジャーナル フリー

    平成29年7月5日に発生した九州北部豪雨により,福岡県朝倉市に点在する溜池では決壊や一部決壊が生じた.それらの溜池を対象に災害後に国土地理院によって撮影された空中写真から15箇所の溜池を選び,現地調査を行った.また陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2)に搭載されているLバンド合成開口レーダ(PALSAR-2)により観測された災害前後の地表面データを用いて,土砂堆積などにより地表面に変化が生じた溜池の抽出を行った.調査対象とした溜池のうち,5ヶ所の溜池で決壊・一部決壊を確認した.決壊・一部決壊が生じていた溜池以外では,決壊までは到達していないものの,溜池上流部において土砂の流入・堆積を確認した.PALSAR-2によって得られた地表面データを解析したところ,5,000 m2以上の面積の大きい溜池では土砂や流木の堆積による変化を捉えることが出来た.一方,山間地域に築造された小さな溜池では,周囲の斜面勾配による画像の歪みの影響により,必ずしも明確に抽出することができないことが明らかとなった.

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