E-journal GEO
Online ISSN : 1880-8107
ISSN-L : 1880-8107
7 巻, 2 号
選択された号の論文の18件中1~18を表示しています
調査報告
  • 菊池 慶之, 髙岡 英生, 谷 和也, 林 述斌
    原稿種別: 調査報告
    2012 年 7 巻 2 号 p. 117-130
    発行日: 2012/09/28
    公開日: 2012/09/28
    ジャーナル フリー
    上海市においては,住宅制度改革が本格化した1998年以降,民間ディベロッパーの供給する居住用商品房の割合が急速に増加してきた.しかし,居住用商品房の価格は,上海市の平均世帯年収の25倍にも達しており,平均的な中流階級が居住用商品房を購入することは簡単ではない.そこで本稿では,居住用商品房購入者がどのようなプロセスを経て住宅の購入に至ったのかを明らかにすることにより,居住用商品房のアフォーダビリティを検討する.調査手法として,最初に上海市における平均世帯年収と住宅販売価格の推移を検討した上で,上海市の老公房と居住用商品房の居住者に対するアンケート調査を実施し,居住用商品房の購入価格と平均世帯年収の関係,過去の居住履歴,資金調達状況など,実際の居住用商品房購入プロセスを考察した.検討の結果,中高収入世帯の居住用商品房購入意欲は非常に高いものの,相対的な価格の高さと住宅金融の不足により,一次取得住宅としての購入は困難であることが明らかになった.また,既購入世帯においては購入以前から何らかの不動産を所有している世帯の割合が高く,現有資産の有無が居住用商品房のアフォーダビリティに大きく影響していることが示唆された.
  • ――伝統工芸の再構築について――
    謝 陽
    原稿種別: 調査報告
    2012 年 7 巻 2 号 p. 131-146
    発行日: 2012/09/28
    公開日: 2012/09/28
    ジャーナル フリー
    本研究では,木曾漆器の産地である長野県旧楢川村を対象に,1980年代以降の生産構造の転換と中国産漆器製品との関係を明らかにし,漆器業者による「伝統」の再構築について考察した.方法論として,漆器業者へのアンケート調査と,特定の業者へのインタビュー調査を組み合わせた.その結果,事業所の生産形態,規模,歴史などによって中国産製品の扱い方はかなり異なっていることがわかった.中国産製品を取り入れている事業所は,製造過程の一部に組み込み,販売面では安価品の提供と考えている.一方,中国産製品を排除する事業所は,自家製造のオリジナリティに「伝統」を再発見しようとしている.ゆえに,「伝統」のとらえ方は一元的なものでなく,中国産製品との関係性の中で常に変化しているものだといえる.中国産製品への評価は,必ずしも品質の悪さに帰結することはなく,漆器業者ごとに多様なとらえ方がある.なお,本稿では歴史-地理的な視点を用いて個人誌に注目し,国境を越えた特定個人間のつながりが,この漆器産地を支えていることを明らかにした.
  • 祖田 亮次, 柚洞 一央
    原稿種別: 調査報告
    2012 年 7 巻 2 号 p. 147-157
    発行日: 2012/09/28
    公開日: 2012/09/28
    ジャーナル フリー
    1990年に建設省が各地方建設局に通達した「多自然型川づくり」の推進は,従来にない環境配慮型の川づくりを目指したものであった.この方針は1997年の改正河川法に取り入れられ,さらに2006年には「多自然川づくり」と改称され,現在にいたっている.この方針のもと,全国各地の河川でさまざまな人工構造物が設置されてきた.本稿では,過去20数年間に行われた環境配慮型河川改修の諸事例を分類・整理することで「多自然(型)川づくり」の実態を把握し,それらが河川関係者の間に大きな混乱をもたらした状況について,その背景を考察する.
  • ――静岡県浜松地域を事例として――
    與倉 豊
    原稿種別: 調査報告
    2012 年 7 巻 2 号 p. 158-177
    発行日: 2012/09/28
    公開日: 2012/09/28
    ジャーナル フリー
    本稿では,研究会や異業種交流会などへの参加によって構築されるインフォーマルネットワークが,イノベーションや知識創造において果たす役割を考察した.事例として取り上げたのは産業支援機関による研究会への支援体制が整っている静岡県浜松地域である.当該地域における研究会参加主体のデータベースを構築し,インフォーマルネットワークが有するポテンシャルを社会ネットワーク分析を用いて検討した.そしてインフォーマルネットワークの関係構造と,共同研究開発に基づくフォーマルネットワークの形成との関連性について考察した.
    その結果,特定の主体が複数の研究会に参加することによって,新奇的な知識を異なる研究会の間で伝達し,イノベーションや知識創造において重要な役割を果たしていることが明らかになった.そのような主体は,フォーマルネットワークの形成において主導的な役割を果たし,先端的な知識や市場情報を流通させる可能性が高いことが示された.長年にわたり開催される研究会では参加主体が同質的になり,多様な主体との接触が抑制される傾向にある.しかし,浜松地域の場合には県外からの参加主体や,複数の研究会に流動的に参加する主体によって,新奇的な知識を獲得するチャネルが確保されることにより,信頼を基にしたフォーマルネットワークが形成され,「認知的ロックイン」が回避されうることが示唆された.
  • 岩間 信之, 佐々木 緑, 田中 耕市, 駒木 伸比古, 浅川 達人
    原稿種別: 調査報告
    2012 年 7 巻 2 号 p. 178-196
    発行日: 2012/12/31
    公開日: 2013/01/31
    ジャーナル フリー
    本稿の目的は,被災地における食品流通の復興プロセスを明らかにするとともに,仮設住宅入居後における買い物環境の変化と食品供給問題改善のための課題を整理することにある.研究対象地域は岩手県下閉伊郡山田町である.東日本大震災により,山田町の市街地は壊滅的な打撃を受けた.震災発生当初,被災者は深刻な食糧難に見舞われた.現在,商業施設の復興はある程度進んでいるものの,仮設住宅の住民の間で買い物環境が悪化している.市街地および仮設住宅周辺において,フードデザートエリアの拡大が確認された.
  • 後藤 秀昭, 杉戸 信彦
    原稿種別: 調査報告
    2012 年 7 巻 2 号 p. 197-213
    発行日: 2012/12/31
    公開日: 2013/01/31
    ジャーナル フリー
    国土地理院の基盤地図情報として公開されている数値標高モデル(5 mメッシュおよび10 mメッシュ)すべてを用いて実体視可能な地形ステレオ画像を作成した.地理情報システムにステレオ画像と既存の活断層分布図を読み込み,変動地形学的な地形判読を行ったところ,これまで認められていない新期変動地形を新たに多数見いだした.これらの地形の一部を速報し,数値標高モデルのステレオ画像を系統的に判読する重要性を例証すると同時に,空中写真とは異なる特性をもつ数値標高モデルのステレオ画像の長所についてまとめて紹介する.
解説記事
  • 松多 信尚, 杉戸 信彦, 後藤 秀昭, 石黒 聡士, 中田 高, 渡辺 満久, 宇根 寛, 田村 賢哉, 熊原 康博, 堀 和明, 廣内 ...
    原稿種別: 解説記事
    2012 年 7 巻 2 号 p. 214-224
    発行日: 2012/12/31
    公開日: 2013/01/31
    ジャーナル フリー
    広域災害のマッピングは災害直後の日本地理学会の貢献のあり方のひとつとして重要である.日本地理学会災害対応本部は2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震直後に空中写真の詳細な実体視判読を行い,救援活動や復興計画の策定に資する津波被災マップを迅速に作成・公開した.このマップは実体視判読による津波の空間的挙動を考慮した精査,浸水範囲だけでなく激甚被災地域を特記,シームレスなweb公開を早期に実現した点に特徴があり,産学官民のさまざまな分野で利用された.
    作成を通じ得られた教訓は,(1)津波被災確認においては,地面が乾く前の被災直後の空中写真撮影の重要性と (2)クロスチェック可能な写真判読体制のほか,データ管理者・GIS数値情報化担当者・web掲載作業者間の役割分担の体制構築,地図情報の法的利用等,保証できる精度の範囲を超えた誤った情報利用が行われないようにするための対応体制の重要性である.
  • 二村 太郎, 荒又 美陽, 成瀬 厚, 杉山 和明
    原稿種別: 解説記事
    2012 年 7 巻 2 号 p. 225-249
    発行日: 2012/12/31
    公開日: 2013/01/31
    ジャーナル フリー
    生理学・生物地理学の研究者であるジャレド・ダイアモンドが1997年に上梓したノンフィクション『銃・病原菌・鉄』は,一般書として英語圏で幅広い読者を獲得し,2000年に刊行された日本語版も売れ行きを大きく伸ばしていった.地理的条件の違いがヨーロッパ(ユーラシア)の社会経済的発展を優位にしたと主張する本書については,そのわかりやすさとダイナミックな内容ゆえに多くの書評が発表された.しかしながら,本書は英語圏では地理学者をはじめ学術界から数々の強い批判を受けてきたのに対し,日本では多方面から称賛されており,また地理学者による発信は皆無に近い.本稿は主に書評の検討を通して英語圏と日本における本書の受容過程を精査し,その差異と背景について明らかにする.また,これらの検討を通じて本稿では,諸外国からの地理学的研究成果の積極的な導入が必要であるとともに,より批判的な視点が求められることを論じていく.
2012年春季学術大会シンポジウム記事
2012年秋季学術大会シンポジウム記事
2012年春季学術大会シンポジウム
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