E-journal GEO
Online ISSN : 1880-8107
ISSN-L : 1880-8107
15 巻, 2 号
選択された号の論文の15件中1~15を表示しています
調査報告
  • 和田 崇
    2020 年 15 巻 2 号 p. 175-188
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/01
    ジャーナル フリー

    本研究の目的はスポーツイベントが開催都市に何をどのように残したかを解明することにある.具体的に,1994年に広島市で開催された広島アジア競技大会を取り上げ,公民館単位で実施された参加国の学習・応援活動が市民や地域コミュニティにどのような遺産を残したのかを時間の経過に着目して解明した.その結果,市民参加型を標榜した広島アジア競技大会は,市民活動の活発化や市民意識の国際化といった無形の財産を広島に残し,大会開催から25年が経過しても存続している.しかし,そうした意識をもち,活動を継続する市民は,広島アジア競技大会に参加して祝祭の時間を共有し,それをポジティブな経験として記憶する高年層が中心であり,それを経験・共有・記憶していない若年層には継承されていない.すなわち,スポーツイベントの祝祭性を経験・共有・記憶する者の高齢化に伴い,市民意識や市民活動など無形遺産は継承されなくなる可能性がある.

  • 夏目 宗幸, 安岡 達仁
    2020 年 15 巻 2 号 p. 189-199
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/01
    ジャーナル フリー

    千町野開発は,武蔵野台地における初期新田開発の一例であることから,地理学上の新田開発研究のモデルケースとして,これまで種々の学説が提唱されてきた.それらの研究は,対象地の計画地割や土地利用,土地生産力,あるいは土豪名主の役割規定などの視点から千町野開発の実態を把握しようと試みているが,幕府の具体的関与の実態について言及していない.本研究はこの点に着目し,千町野開発におけるその実態を明らかにするために,千町野に移住した武家集団の詳細な来歴を調査した.その結果,千町野に移住した武家集団は,三つの職能集団すなわち,1)代官・代官手代の集団,2)鷹狩・鷹場管理を専門とする集団,3)測量・普請を専門とする集団に分類できることが明らかとなった.これにより千町野開発は,幕府技術官僚としての職能武家集団の関与によって遂行されてきたと結論付けた.

  • 岩間 信之, 浅川 達人, 田中 耕市, 佐々木 緑, 駒木 伸比古, 池田 真志, 今井 具子, 瀬崎 彩也子, 野坂 咲耶, 藤村 夏美
    2020 年 15 巻 2 号 p. 200-220
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/30
    ジャーナル フリー

    本研究は,縁辺地域における住民の買い物環境の解明を目的とし,食料品アクセスと食料品充足率を用いた買い物環境の評価と,住民に対するアンケート・インタビュー調査を実施した.研究対象地域は,西日本某県の農山漁村X町である.同町は少子高齢化が進む地域であり,かつ食料品店が少ない.しかし調査の結果,高齢者の自家用車利用や食料品の一部自給自足,住民の相互扶助などにより,現在は一定の生活環境が保たれていることが分かった.ただし,住民の70%以上は,低栄養リスクの高い食生活を送っている.また,食料品店の多くは食料品充足率が低く,自家用車を持たない住民が健康的な食生活を送ることは困難な状況にある.移動販売車も経営的に苦しい状況にある.今後,人口の高齢化がさらに進む中で,当該地域の買い物環境の維持が困難になることも危惧される.生活インフラを維持するために必要な施策の詳細や施策実現の可能性を,具体的に検討する必要がある.

提言
  • 海津 正倫
    2020 年 15 巻 2 号 p. 221-227
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/30
    ジャーナル フリー

    近年,著しい水害が発生しているが,その際に注目されるのがハザードマップである.ハザードマップにはそれぞれの場所の土地条件と関わる場所的特性が十分に示されていないことや,隣接する自治体の地域が示されていないこと,異なる流域ごとにシミュレーションが行われていて同一場所に関する図面が複数にわたる場合があるなどの不十分な点がある.そのような点を補う上で,水害リスクを読み取ることのできる地形分類図と併用することが有効であると考える.ただし,地形分類図はそのままでは一般の人にとって理解しにくい.そこで,陰影起伏図との重ね合わせによって土地の様子をより実感的に示すことが望まれる.

地理紀行
解説記事
調査報告
  • 篠原 弘樹, 坂本 優紀
    2020 年 15 巻 2 号 p. 253-266
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/09
    ジャーナル フリー

    本稿は,メキシコ合衆国テキーラにおける観光地の形成プロセスを観光に関わるアクターの取組みと景観整備に着目しながら明らかにした.1990年代後半にツアー会社主導で始まったテキーラの観光は,2000年代に入り行政の観光促進プログラム導入や世界遺産登録,テレビドラマの舞台化などの外的要因を受け観光地としての整備がなされていった.観光地化のプロセスではツアー会社やガイド,蒸留所など観光に関わるアクターが登場し,積極的に観光を促進した.当初,各アクターはテキーラのローカル性を強調する事物や事象を積極的に採用していったが,観光が発展するに従いメキシコを象徴するような対象も利用するようになった.現在は大手蒸留所が大規模な観光施設を建設し,観光客を誘引する主要なアクターとなっている.

  • 畔蒜 和希
    2020 年 15 巻 2 号 p. 267-284
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/09
    ジャーナル フリー

    オンラインのプラットフォームを通じて単発の仕事を請け負う「ギグエコノミー」が注目されている.本稿ではその一例であるマッチング型ベビーシッターサービスに着目し,ギグエコノミーの実態における一端を明らかにした.マッチング型ベビーシッターサービスでは利用者が希望する日時を指定した上でシッターを選択し,インターネット上で直接契約を交わす.サービス利用者の多くは共働き世帯であり,保育所への送迎や子どもの病気など短時間や突発的なニーズによる利用が多く,施設型の保育では供給できないサービスの領域を埋め合わせていた.シッターは保育士資格や主婦経験を持つ者の参入が多く,資格や育児経験は利用者からの信用を担保する機能を果たしていた.また生活時間のすき間を活用して保育に従事する柔軟な働き方が実現する反面,トラブルの対応やギグワーカーへの補償など,プラットフォーマーの役割や責任をめぐる課題も明らかになった.

  • 牛垣 雄矢, 久保 薫, 坂本 律樹, 関根 大器, 近井 駿介, 原田 怜於, 松井 彩桜
    2020 年 15 巻 2 号 p. 285-306
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/10
    ジャーナル フリー

    アクアラインの通行料引下げの結果,高速バスによる東京都心部や川崎・横浜方面への通勤者が増加し,その中にはパーク&ライドを行う人も多い.東京大都市圏郊外としては相対的に地価も安いため,木更津市の人口は増加し,中心市街地から離れた郊外住宅地がその受け皿となっている.市や県など行政の協力・連携のもと,イオンモールなどのショッピングセンターが立地し,周辺ではチェーン店等が集積した.これにより木更津市の買物環境と商業中心性は向上したが,中心市街地の個人商店は厳しい状況にあり,スーパーやドラッグストアが少なく生活必需品が購入しづらい状況にある.その中でイオンによって無料送迎バスが運営され,高齢者の重要な移動手段となっている.木更津市の人口分布や商業は自家用車の利用を前提とした構造となり,イオンとの関わりや更なる高齢化が進展する中で,住民に対する買い物の機会や移動手段の確保が課題となっている.

  • 吉田 圭一郎, 宮岡 邦任
    2020 年 15 巻 2 号 p. 307-318
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/10
    ジャーナル フリー

    ブラジル北東部には熱帯乾燥林のカーチンガが分布する.本研究では,ペルナンブコ州ペトロリーナ近郊のカーチンガを対象に,フェノロジーと立地環境の水分条件との関連性を検討した.その結果,カーチンガ構成樹木の葉フェノロジーは水分条件の季節変化とよく対応しており,カーチンガ構成樹木は雨季開始直後のわずかな水分条件の変化に素早く応答して展葉していた.その後2週間程度で成熟した林冠が形成されており,カーチンガ構成樹木は不規則な降水に適応した生活史を持っていた.落葉は雨季の終わりから徐々に進行しており,カーチンガ構成樹木は樹体内の水分状態を調整することで,乾季の高い水ストレスの中でもしばらくは生産活動を継続するものと推察された.これらの結果から,水分条件に敏感に応答する葉フェノロジーにより,カーチンガ構成樹木は半乾燥域の限られた水資源を効率よく利用できていると考えられた.

  • 前田 竜孝
    2020 年 15 巻 2 号 p. 319-331
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/10
    ジャーナル フリー

    本稿では,兵庫県南あわじ市南淡漁協の水産物流通を事例に,販路開拓の歴史と集出荷に関わる諸活動を考察する.南淡漁協では,長らく出荷先が二つの流通業者に限られていた.しかし,2012年にその片方のS水産が倒産すると,漁業者は販路の減少による魚価の低下を懸念するようになった.そこで,漁協は,新たな試みとして自らで水産物を荷受けして,関西地方から北関東の卸売市場までの幅広い地域へ水産物を出荷する取組みを始めた.販路はこれまでS水産が構築してきたものを利用した.一方,集出荷作業は地元の労働者が,配送作業はS水産の家族企業であるS運輸が担った.遠隔地への水産物の配送は,さまざまな主体が関わり,彼らの活動が生産地から消費地まで連鎖することで可能となった.

  • 小林 直樹
    2020 年 15 巻 2 号 p. 332-351
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/10
    ジャーナル フリー

    本稿では,昆虫食習慣のある地域として長野県伊那市を取り上げ,地域の食文化とされる昆虫食について,食用昆虫の採集および流通,消費実態を明らかにし,昆虫食の成立,継続する要件を考察した.アンケート調査の結果,当地域では現在でも多くの住民が昆虫を食べており,昆虫を地域の食材,食文化として認識していた.一方,喫食頻度は低下傾向にあり,食用昆虫の流通構造などにも変化がみられる.伊那市の昆虫食は食用とされる昆虫の種類ごとに異なる特徴をもっており,流通構造などの変化の仕方や変化度合いも昆虫ごとに違いがみられた.今後当地域の昆虫食文化の存続を考えるためには,昆虫を食べない者の多い若い世代の増加による昆虫製品の需要の減少や,域外の原料に頼るかたちとなっている食用昆虫の流通の面に内在するリスクについて,さらに詳しい調査が必要である.

  • 野澤 一博
    2020 年 15 巻 2 号 p. 352-373
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/25
    ジャーナル フリー

    イングランドでは,2011年の地域産業パートナーシップの組成以降,都市協定,成長協定,権限移譲協定,合同行政機構の組成,公選制市長などと立て続けに政策が展開されている.本稿では,地域産業パートナーシップ設立以降のイングランドにおける権限移譲政策の展開を明らかにし,地域がどのように国の政策を受容し,どのように変容していったかについて明らかにすることを目的とする.事例として取り上げた北東イングランドでは,ノース・オブ・タイン,北東,ティーズバレーの三つの合同行政機構が形成された.合同行政機構は,新市場主義において都市地域の集積効果を利用した経済開発のために生み出された新しいガバナンスであり,その管轄領域は,政府との協定により権限が積み重なられることにより正当化されている.

  • 相馬 拓也
    2020 年 15 巻 2 号 p. 374-396
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/25
    ジャーナル フリー

    本調査は,アルタイ山脈に居住する西部モンゴル牧畜民の「日帰り放牧」を行動分析により視覚化・計数化し,家畜群コントロール技術と地域の草地利用の実態解明を目的としたフィールド調査の報告である.主要調査地のバヤン・ウルギー県ボルガン村ムンフハイルハン山麓の夏牧場2地点(SS1アルツタイ・ホロー/SS2ツンヘル・ノール)で,遊牧民世帯の日帰り放牧合計19日間に同行し,その行為と行動範囲を記録・観察した.フィールドワークからは,家畜群コントロールには3カテゴリー(物理・聴覚・投入)の行為により管理・介入する技術的側面を明らかとした.また,日帰り放牧が省力化する傾向があり,熱心な放牧が一部富裕層に限定されつつある現状が明らかとなった.

  • 福井 一喜
    2020 年 15 巻 2 号 p. 397-418
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/25
    ジャーナル フリー

    近年,日本の観光政策は観光振興による雇用拡大や経済成長を目指してきた.しかし各県の2012年から2016年の観光経済振興を分析すると,観光客数や消費額はほぼ全国で増加したが,観光産業の雇用拡大や付加価値額の増加は大都市圏とりわけ首都圏に集中し,地方圏では観光の基幹産業化や既存の地域経済格差を覆すような経済振興が生じた県はほぼ見られない.それは観光のサービスとしての宿命である貯蔵の不可能性と機械化による生産性向上力の小ささが地方圏に条件不利性として作用し,他方で大都市圏では立地優位性によって観光産業集積が累積的に増大し,知識集約的な都市的サービス業との連携による経営の合理化の機会も拡充されるからである.観光振興を促進する観光政策はすべての地域で有効とは限らず,大都市圏と地方圏との地域格差を再生産する構造を持つ.COVID-19を契機に,日本の観光政策は経済振興への偏重から転換し,観光の「豊かさ」の意味を再考すべきである.

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