本研究では,山形県庄内地方におけるヒメボタルの生息環境を定量的に評価することを目的とした.鶴岡市に位置する高館山周辺に,地形・森林植生タイプの異なる16個の調査サイトを設定した.それぞれの調査サイトで,2018年6月から7月の間に成虫の発生個体数を数えた.成虫の発生個体数と地形の指標であるTopographic Position Index(TPI)および森林植生タイプ(広葉樹林,マツ林,スギ林)との関係を一般化線形混合モデル(GLMM)によって解析した.さらに,幼虫期に重要とされる餌資源量(陸貝と土壌動物)の調査を2018年10月に,土壌水分量の調査を2018年6月と10月にそれぞれ行った.餌資源量と土壌水分量は,それぞれをTPIと森林植生タイプで説明する一般化線形モデルもしくはGLMMによって解析した.統計解析の結果,成虫の発生個体数にはTPIが関係しており,谷に近い環境で個体数が多くなる傾向が明らかになった.また,このような環境は,陸貝の個体数が多く,土壌水分量も高い傾向にあることが示された.すなわち,成虫が多く発生すると示された環境は,同時に幼虫の生息にも適した環境であることが示唆され,これには成虫メスと幼虫の移動能力の低さが関係している可能性が考えられた.
抄録全体を表示