景観生態学
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25 巻, 1 号
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
特集「河川を基軸とした生態系ネットワークの構築」
原著論文
  • 石松 一仁
    原稿種別: 原著論文
    2020 年 25 巻 1 号 p. 33-41
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/02
    ジャーナル フリー

    都市化に伴う透水層(緑地や湿地など)の減少によって生態系サービスが劣化した結果,表面流水が増量するよう雨水循環経路が改変された.そして,気候変動によるゲリラ豪雨の増加により都市型洪水が深刻化している.既存の下水道システムは老朽化問題に直面しており,財政が逼迫している地方都市に新たに管渠を増設する費用を捻出することは困難である.欧米では雨庭と下水管渠を複合させた雨水処理システムが,経済的合理性が高いため主流化されている.本研究は,1)広島市デルタ市街地における雨庭の建設可能候補地を可視化し,その表面流水抑制効果を評価すること,2)雨庭の社会実装化に向けた政策課題について議論することを目的とした.GISを用いて,デルタ市街地における1)標高5 m未満,2)傾斜度1.1未満,3)地下水位2 m以深の条件を雨庭建設適地として抽出した.次に,その適地上の1)駐車場,2)緑地,3)砂地を抽出し,それらのスペースを雨庭化した場合の表面流水抑制量及びその雨水処理費の削減効果をシミュレートした.その結果,研究対象地において雨庭は,雨量強度20 mm/hの豪雨を処理することができる能力を内包していることが示唆された.本研究成果は,これからわが国で雨庭を含むグリーンインフラ政策を推進していく上での基礎資料として幅広く活用されることが期待される.

  • 中田 康隆, 速水 将人, 輿水 健一, 竹内 史郎, 蝦名 益仁, 佐藤 創
    原稿種別: 原著論文
    2020 年 25 巻 1 号 p. 43-52
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/02
    ジャーナル フリー

    北海道胆振東部地震により森林域で発生した崩壊跡地を対象に,リアルタイムキネマティック-グローバルナビゲーションサテライトシステム(RTK-GNSS)が搭載された小型UAV(Phantom 4 RTK)とSfM多視点ステレオ写真測量を用いた3次元計測の測位精度の実証試験を行うとともに,地形変化の解析を行った.実証試験は,42,500 m2の崩壊跡地を対象に,2019年3月12日に二周波RTK-GNSSが搭載された受信機(ZED-F9P)を使用し取得した11地点の座標データ(検証点間の最大高低差は28 m)を検証点として,RTK-UAVによる空撮画像から構築した3次元モデルから検証点の位置座標を抽出し比較した.地形変化は,2019年3月12日と同年4月23日の2時期にRTK-UAVによる空撮と解析を同様の方法で実施し,数値表層モデル(DSM)の差分解析から地表面の標高変化の把握を試みた.その結果,各検証点とモデルの平均位置精度は,水平・垂直方向で0.060 m~0.064 mであることがわかった.また,植物の生育基盤としての表層土壌の動態や安定性をモニタリングする上で重要となる垂直方向の最大誤差は0.108 mであった.差分解析の結果,-0.1 m以上+0.1 m未満標高が変化した箇所が86.86%と最も多かった.次に,-0.5 m以上から-0.1 m未満標高が変化した箇所が11.36%と多かった.特に侵食域は,崩壊跡地の辺縁部で多く確認された.これらの結果から,標定点設置が困難な森林域の崩壊跡地の斜面表層の変化(1ヶ月間)について,±0.1 mの誤差範囲内で観測可能であることが示唆された.

  • 朝波 史香, 伊東 啓太郎, 鎌田 磨人
    原稿種別: 原著論文
    2020 年 25 巻 1 号 p. 53-68
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/02
    ジャーナル フリー

    海岸マツ林は重要なグリーンインフラの一つであるが,現在,その多くは放置に伴う遷移や松枯れ病によって劣化してきている.そのような中,福岡県福津市の海岸マツ林は,地域住民を主体とする自律的活動で荒れた状態から再生され,継続的な管理作業及びマツ林を活用したイベントが行われている.当地を対象に,地域住民が海岸マツ林の管理に主体的に取り組むようになったプロセスと,それを誘導してきた福津市の地域自治の促進に関する政策・施策を明らかにした.そして,福津市の政策・施策過程を,ガバナンス論をベースに評価した.海岸マツ林の再生・保全に係る活動のエネルギーは「子供の頃に見ていた白砂青松の景観を取り戻し,再び人々が憩う場にしたい」という,体験に基づいた地域で共有されている価値であった.そして,福津市の後押しによって創出された「郷づくり推進協議会」が活動のエンジンとなっていた.海岸マツ林を誰がどのように継続的に管理してゆくのかとの課題に対して,福津市は,権限と財源を「郷づくり推進協議会」に移譲しながら地域自治を強化することで,ガバナンス型問題解決を導いてきていた.

短報
調査研究報告
  • 森定 伸, 野崎 達也, 小川 みどり, 鎌田 磨人
    原稿種別: 調査研究報告
    2020 年 25 巻 1 号 p. 75-86
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/02
    ジャーナル フリー

    高知県土佐清水市の大岐浜の砂丘地では,クロマツ林からの遷移によって見事な照葉樹林が成立している.本研究では,放置されつつある海岸林の管理のあり方についての基礎的知見を得るため,植生調査,毎木調査により現在の森林構造を把握するとともに,年代の異なる空中写真判読から約40年間における植生変遷を把握し,遷移過程を推定した.

    現在の植生配置は,汀線側から内陸に向かって,クロマツ-マサキ群落,ヒメユズリハ群落,タブノキ群落ホルトノキ群,タブノキ群落典型群が分布していた.これらの群落は,内陸側ほど樹木のサイズが大きく,生育本数が少なかった.また,群落を構成する樹種の多くがクスノキ科等の鳥散布型であった.空中写真の判読から,ほぼ全域がマツ枯れ後にクロマツ林から照葉樹林へと移行したことが確認され,汀線からの距離で植生遷移の進行速度が異なっていた.そして,将来的には,海側にマサキ-トベラ群集,陸側にムサシアブミ-タブノキ群集が成立すると考えられた.当地においては,鳥散布など自然過程での照葉樹の侵入により樹林が維持されると考えられ,クロマツを主体としない海岸林の成立・維持過程を検討するための貴重なモデルになる.

技術情報
連載 景観生態学とランドスケープデザイン(1)
連載 景観を読み解く(4)
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