本発表は、世界に先駆けアメリカ合衆国で誕生した国立公園に焦点を当て、国家によって保護される「自然」について考える。そのために、1916年に内務省に設置された「国立公園局」(National Park Service)の歴史的形成プロセスを検証する。そのうえで、組織研究として知られるスタンフォード学派の新制度論(new institutionalism)を参照しながら、国立公園局という国家機関の綿密な制度化(institutionalization)によって、「自然」に関するさまざまな意味や価値が創造され共有されている場を議論する。
本発表は鉄道院製作のAn Official Guide to Eastern Asiaを事例に大正初期の日本の外客誘致戦略と欧米諸国の反応を、アーリの「観光のまなざし」を手がかりに考察する。「観光のまなざし」の主な主体は欧米諸国の白人中流階級で、客体たる非欧米諸国の非白人の意思や反応は看過された一方向的なものになっている。当時既にその客体となっていた日本が、自らを記述した「公式」旅行ガイドブックを製作するという一方向的ではない状態に加え、その出来栄えに対する評価を保留するという慎重な書評のもたらす意味を考察する。
本発表は、北インド・ダラムサラ在住のチベット難民芸能集団Tibetan Institute of Performing Arts(以下TIPA)に着目し、彼らのメディアをとおした伝統文化表象を取り上げる。彼らの表象は国内と海外と受け手に応じて異なった戦略がとられているが、今回特に注目するのは、インド国内在住のチベット難民向けのメディア戦略である。難民社会の若者たちが抱える問題に対し、「チベット文化」の独占的発信者であるTIPAがどのような対応をしているのか明らかにする。