-
アジアにおける移民・難民の視点から
王 柳蘭
p.
A01-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
本分科会では、少数派の人々による自己同一的なネットワーク、同化・統合といった制度論的アプローチや中心―周縁論的アプローチを超えて、越境者の視点から社会的文化的境界の引き直しや社会的結合といったミクロな交渉、戦略が生み出される場に即して、異文化接触によってどのように他者を包摂し、あるいは他者と共生しつつトランスローカルな営みを実践しているのかをめぐって、「下からの共生」をテーマに議論していく。
抄録全体を表示
-
記憶の中の共生
中山 大将
p.
A02-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
本報告の課題は樺太・サハリンにおけるエスニック・グループ間にどのような多元的結合が発生し、政府などの公権力による公的な「上からの共生」ではなく、住民間の私的で自主的な「下からの共生」がどのように営まれていたのかを明らかにすることである。戦後に刊行された回想録類の記述やインタビュー、先行研究や当時の公文書やメディア資料とを比較し、エスニック・グループ間の関係を再構成するとともに、「記憶の中の共生」の有り様を明らかにする。
抄録全体を表示
-
トロント・チベット人社会の事例より
山田 孝子
p.
A03-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
本報告は、トロント在住チベット人における、1970年代初めのカナダへの再定住から、カナダ市民権取得、2007年のチベットカナダ文化センターの開設へと至る過程を跡づけながら、カナダ市民として生きる中でいかにチベット人としてのアイデンティティ、チベット文化・言語の維持を図ってきたのかを検討する。彼らのエスニシティ・伝統文化の主張と維持とは、まさに、多民族社会カナダにおいて公認される独自文化の主張の枠組みを活用した、ホスト社会との共生戦略そのものであることが明らかにされる。
抄録全体を表示
-
タイ・ミャンマー国境の漢人、ムスリムの比較から
王 柳蘭
p.
A04-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
本発表は越境現象を、統合や同化といった制度論的アプローチや中心―周縁論的アプローチではなく、移民と他者との社会的文化的境界の引き直しやミクロな交渉について、タイ・ミャンマー国境の雲南系華人社会の2つのサブグループである雲南系漢人と雲南系ムスリムを対象に、ホスト社会タイ国におけるトランスローカルなネットワークの動態の共通性と差異を明らかにし、「脱難民化」へのプロセスを多角的に浮き彫りにする。
抄録全体を表示
-
加藤 裕美
p.
A05-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
本発表では、マレーシアにおけるインドネシア人労働者や移民に着目し、資源開発によるアブラヤシ・プランテーションにおける労働力源泉としてのインドネシア人がロングハウス住民との交渉と多様なネットワークによって共同性を構築していく姿を通して、国家の開発政策とは異なって展開していく越境者の生存戦略を指摘する。
抄録全体を表示
-
人類学者の再生産モデルを超えて
伊藤 泰信
p.
A06-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
本分科会は2つの問いを想定している。(1)フィールドワーク、文化的な価値の相対性、多(他)文化への感受性など、人類学というディシプリンのもつ良質の部分をどのように創意工夫しながら教育を通じて社会一般へと提示・提供していくのか。(2)人類学者の再生産にとどまらず、社会一般に対して、どのような人材を育成し、送り出していくことが人類学の応答性でありうるのかという人類学内部向けの問いである。
抄録全体を表示
-
児童の社会的養護の現場から
飯嶋 秀治
p.
A07-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
児童養護施設内での子ども間の「暴力」に応答することは、本プロジェクトを始めた臨床心理学者(田嶌誠一)、職員、子どもにとって想定外の事態であった。だが文化人類学では単身で長期間フィールドに滞在するため、想定外の事態に出遭うことがある。そうした時、想定外の事態に応答することを決めた結果、手持ちの手法が現場で編みかえられることになる。ここではそうした文化人類学の応答性を構想する手がかりを得る。
抄録全体を表示
-
「ダイバーシティ・マネジメント」教育における人類学
関根 久雄
p.
A08-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
勤務先で開講している「ダイバーシティ・スタディーズ入門」では、人類学、政治学、社会学、障害科学などの各分野が個々に扱ってきた現代的諸課題をダイバーシティという共通の枠組みで捉え直した上で、課題解決のための問題提起を主とする授業を行っている。多(他)分野連携による人材教育の事例を示し、人類学がその特性を活かしながら社会のニーズに適う人材育成に加わることが「応答」の一つとしてありうることを指摘する。
抄録全体を表示
-
地方大学におけるフィールド教育の現場から
内藤 直樹
p.
A09-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
本発表の目的は、地方大学において複数の学問分野を背景にしたフィールドワーク教育および地域貢献実践が併存する状況に焦点をあて、そうした場に関わる諸アクターによる相互行為のなかで人類学者が果たした役割を分析することを通じて、「人類学的な応答」の可能性について考察することにある。そのために南海トラフ巨大地震のリスク状況下において地域住民-学生-他分野の専門家らと実施した避難器具開発の事例を検討する。
抄録全体を表示
-
非人類学的エスノグラフィとの関係から考える
伊藤 泰信
p.
A10-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
本発表は、社会人・企業人にエスノグラフィを教えるという発表者の経験を通じて、人類学教育(ひいては人類学)の応答性の議論を深めることを目的としている。エスノグラフィはもはや人類学の専売特許ではなく、実務や工学などの領域で独自のやり方で実践され始めている。非人類学的エスノグラフィの拡散という現象を念頭に(1)いかに能動的に関与しうるのか、(2)人類学自体がそれによって変化しうるのか、議論してみたい。
抄録全体を表示
-
趣旨説明
田中 雅一
p.
A11-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
本分科会の目的は、「名誉殺人(honor-killing)」を典型とする「名誉に基づく暴力」(honor-based violence)について、中央アジア、中東、地中海地域を中心にその実態や背景となる考え方、近代化やグローバル化の影響を考察することである。被害者の多くが女性であるという点で「名誉に基づく暴力」は「ジェンダーに基づく暴力」あるいは女性への暴力でもある。
抄録全体を表示
-
ウズベキスタンのソヴィエト近代史と日常性の探求から
和﨑 聖日
p.
A12-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
本発表の目的は、中央アジア、なかでもイスラーム化の歴史の古い定住オアシス地域を数多く含むウズベキスタンのムスリム社会を対象に、「名誉」と呼ばれるものがいかに社会を組織化するのか、それらの関係性をソヴィエト近代史とソ連解体以後の日常性という2つの観点から明らかにすることである。なお、検討と分析は、2007年から現在に至るまでの期間で得られたフィールド資料を中心的な素材として行っている。
抄録全体を表示
-
ギリシャのロマ社会における貞操とコンフリクト
岩谷 彩子
p.
A13-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
本報告は、ギリシャのロマ社会において「処女性」と同義語である名誉(timi)の概念に着目し、(1)ロマ社会においていかに処女性が家の名誉として語られ、婚姻慣行の中で実践されているのか、(2)女性の処女性をめぐる出来事が暴力や紛争に発展した事例より、家や共同体の名誉の保持のために正当化される暴力がいかにロマ社会の持続と女性のエイジェンシーに関わっているのか、また地域の慣行との連続性について考察する。
抄録全体を表示
-
エジプトの宗教言説を事例として
嶺崎 寛子
p.
A14-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
本発表の目的は「名誉と暴力」現象において、どのような社会的条件の下に暴力が発現するのかを、特に醜聞の露見というプロセスに注目して検討することである。主な資料として、カイロにある非営利組織「イスラーム電話」で06年7- 9月、07年12-08年1月に行った調査で聞き取った宗教電話相談(相談2050件)の質問と回答(ファトワー:ウラマーによる法的見解。エジプトでは法的拘束力はない)を用いる。
抄録全体を表示
-
支配、保護、帰属の連続性をめぐって
村上 薫
p.
A15-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
トルコ語でナームスとは親族女性のセクシュアリティの管理を通じて維持される個人や集団の名誉を指す。トルコでは近年の国際世論の高まりを背景にナームスを理由とする殺人が女性の人権侵害として注目を集め、刑法の厳罰化や人権意識向上のための啓蒙活動がなされてきた。報告では民族誌的調査にもとづき、ナームス殺人の理解と防止における人権視点の限界と、日常のナームス現象との連続性という視点の重要性を指摘する。
抄録全体を表示
-
名誉に基づく暴力の行使・抑止・和解
赤堀 雅幸
p.
A16-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
エジプト西部砂漠のベドウィンについて血讐と名誉殺人の慣行を取り上げ、個人の不名誉が直ちに集団の不名誉へとつながり、それが集団の成員一人一人に名誉の回復を求める論理を検討する。その上で、暴力の行使だけでなく、抑止と和解もまた名誉の名の下に行われることから、西・南アジアにおける「名誉に基づく暴力」の研究に新しい角度から光を当て、翻ってはこれら地域において重視される「名誉」概念のあり方に考察を加える。
抄録全体を表示
-
松岡 悦子
p.
A17-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
アジアの都市部においては、帝王切開率の高さに見られるように、極端に医療化された出産が行われている。また、アジアに伝統的に見られた産後の養生が、専門の施設で行われるようになり、産後の市場化や産後の医療化が見られるようになっている。また、このような出産の医療化は、女性の健康に貢献すると同時に健康を害する側面をもっており、産後の強調はそのような傷つけられた体をいやすために必要性が増している側面もある。
抄録全体を表示
-
圧縮された近代との関連で
松岡 悦子
p.
A18-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
韓国における出産の医療化を説明するのに、チャン・キョンスプの提唱した「圧縮された近代」の概念が有効である。韓国では、助産師が無資格者と自らを区別するために医療を多用し、医師に近い活動をしていた。そのために、韓国では医療化を押しとどめる力が弱く、医療化が進んだものと思われる。
抄録全体を表示
-
曾 璟蕙
p.
A19-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
台湾では、産後の1か月間は養生の期間として、伝統的には家族の中で主に姑によって担われていたが、近年は専門的なケアを求めて、産後ケアセンターに入所する人が増えている。産後養生の目的は、かつては女性が労働に復帰し、次の子どもを妊娠できるようにする為であったが、現在では出産によって負った傷を回復させるためと、女性がより美しくなるためへと変わってきている。
抄録全体を表示
-
出産体験のある女性の事例から
安 サンサン
p.
A20-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
中国の3つの病院での参与観察に基づいて、女性の視点から出産経験を明らかにする。中国では、帝王切開を選んだ女性たちは帝王切開をしたくて選んでいるわけではないこと、また女性たちは麻酔などの医療によって痛みを避けようとするが、必ずしもそれで痛みが軽減されてはいないこと、さらに女性たちにとって満足できる出産は、病院環境や、医療従事者の態度などの出産をとりまく状況に大きく左右されることを明らかにする。
抄録全体を表示
-
ラオス南部における産後養生
嶋澤 恭子
p.
A21-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
ラオスにおいて、出産までは、医療化の流れの中にあり、都市部ではさらにその傾向が強い。一方で、出産後において医療化は進みにくいといえる。ラオスの出産に関する議論として産後養生がしばしば取り上げられる。発表では、ラオスにおける産後養生であるユー・ファイが、ラオス南部のモン・クメールの人々において、地域の女性たちの健康と経験を繋ぎ、再構成しつつ、かつ自らの健康を守るものであることについて考察する。
抄録全体を表示
-
モンゴル高原を中心に
尾崎 孝宏
p.
B01-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
本分科会の目的は、モンゴル高原を中心とする内陸アジアの牧畜民社会において、牧畜民自身が急速に変化する状況に対応するため経営戦略を多様化させている現状を把握するとともに、多様化をもたらす要因について検討することにある。具体的には、各報告者が自身のフィールド調査の成果に基づいて事例報告を行い、個別事例の枠を超えた多様化の要因をリストアップし、さらに各要因の及ぼす影響力の大きさなどについて議論する。
抄録全体を表示
-
モンゴル国・中国・カザフスタン共和国の比較より
風戸 真理
p.
B02-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
本研究は、畜糞に関する民俗知識と畜糞の多角的な利用・加工・所有・交換のあり方を検討し、内陸アジア牧畜諸地域における畜糞の資源としての役割を明らかにした。内陸アジアの牧畜地域においては畜糞に関するミクロな民俗知識が通時的・広域的に発達し、多様な利用と加工がなされていた。畜糞は、牧畜地域内での世俗的/超自然的な自家利用と、草原と都市の人びとのあいだでの贈与・交換の2つの領域で重要な機能を果たしていた。
抄録全体を表示
-
モンゴル国東部牧畜社会における居住単位と家畜管理にみる牧畜戦略
辛嶋 博善
p.
B03-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
本発表は、モンゴル国東部の牧畜社会の事例から、宿営単位と家畜管理の担い手の変化を提示し、牧畜戦略の一端を論じるものである。家畜管理の拠点である宿営単位と牧畜経営のための資源である家畜管理の担い手は牧畜戦略に関わる問題である。家畜管理のための宿営単位とその担い手に関わる牧畜戦略は、制度変化や管理対象となる家畜頭数のみならず、状況に応じて人員の確保の仕方を巡って動き続けてきたと見ることができる。
抄録全体を表示
-
中国内モンゴル自治区四子王旗の事例を中心として
尾崎 孝宏
p.
B04-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
本発表では、南モンゴルの事例研究として内モンゴル自治区中部に位置する四子王旗の事例を主として取り上げ、牧畜戦略に影響を与える要因の中で経済階層や生態環境が占める割合の大きさを確認するとともに、その結果としてもたらされる牧畜戦略の空間分布について検討する。また本発表の後半部分においては、分科会「現代牧畜民社会における牧畜戦略の多様化要因について―モンゴル高原を中心に」のまとめと総括も実施する。
抄録全体を表示
-
冨田 敬大
p.
B05-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
市場経済化後のモンゴル国の都市近郊では、牧畜経営の小規模化・定着化が進むなかで、牧民が畜産物取引の多角化を選択する傾向にあり、そのための手段の一つとして乳製品の生産・販売が行なわれてきた。牧民たちは、市場に相対的に適したやり方で乳製品の生産・販売を行なっており、それらが市場からの物理的な距離のみならず、既存の社会・経済的なネットワークを活用することによって成り立っていることを明らかにした。
抄録全体を表示
-
新しい分析の枠組みを考える
上村 明
p.
B06-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
本発表では、牧畜民世帯をさまざまな関係が交差し束ねられている結節点ととらえ、発表者が90年代前半から調査して来た西モンゴルの事例を中心に、その経営形態の変化にもとづいて諸関係を整理し、宿営地集団(ホトアイル)や季節移動と機会主義的移動(オトル)といったこれまでの概念を再検討する。それによって、ポスト社会主義以降のモンゴル国における牧畜経営の記述と今後の変化を予想する新しい分析の枠組みを考える。
抄録全体を表示
-
Anthropology of Radiation disaster and Fukushima Daiichi Nuclear Power Power Plant Explosion
高倉 浩樹
p.
B07-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
2011年3月に発生した東日本大震災は、地震・津波・原発爆発による放射能被害の三つの被害をもたらした。本分科会は、このうち放射能被害に関わる人類学的取り組みについて現状報告を行い、知見を共有するとともに、このテーマでの研究の発展と方向性について、参加者とともに検討することを目的とする。3.11 Tohoku Earthquake ended in three disastrous impacts of earthquake, tsunami, and radioactive pollution from the explosion of Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant. This panel is to focus on the radiation disaster and societies. The purpose is to exchange the knowledge on the disaster case studies and to argue the way of development as an anthropological discipline with the participants.
抄録全体を表示
-
宮城県丸森町筆甫地区を事例として
山口 睦
p.
B08-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
宮城県丸森町の最南端に位置する筆甫地区は、福島県の新地町、相馬市、伊達市と県境を挟んで接している。2011年3月11日の東日本大震災、続く福島第一原発事故により大気中に放出された放射性物質は、筆甫地区にも降り注いだ。従来、東日本大震災後の放射線問題では、福島県が中心であり、宮城県の事例は看過されてきた。本発表では、東日本大震災における宮城県丸森町筆甫地区の被災状況、その後4年間の人々の生活、住民自治組織である筆甫連絡協議会の取り組みについて、福島県との比較を念頭に、報道資料、現地調査資料に基づき、分析・考察を加えていく。
抄録全体を表示
-
福島県二本松市東和地区にみる“除染”のアポリア
植田 今日子
p.
B09-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
報告の目的は、福島県二本松市旧東和町(2005年合併;以下東和地区)で有機農業に取り組んできた人びとの放射線による土壌汚染への対応から、汚染された農地を耕作放棄することなく、ひきつづき生産の場として引き受けていこうとする実践を明らかにすることである。農薬や化学肥料などの化学物質にひときわ敏感だったはずの有機農業者が、なぜ放射線を含む土壌を手放そうとしないのかについて考えてみたい。
抄録全体を表示
-
福島原発事故と放射能災害の人類学 分科会報告
関谷 雄一
p.
B10-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
本報告は、高倉浩樹(東北大学)主催の分科会「福島原発事故と放射能災害の人類学」に献じるものである。報告者は2011年12月に福島県福島市飯野町を訪れた時を起点に、原発事故被災者・被災地と交流を持ち始め、放射能災害が人類にもたらしている見えない恐怖と迫りくる欠乏への不安を目の当たりにしている。中間報告ではあるが、具体的な調査内容を盛り込みつつ、人類学がこうした問題にどう取り組むべきか、考察したことを報告する。
抄録全体を表示
-
東京都内の母子避難者の事例から
辰巳 頼子
p.
B11-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
本発表は、東日本大震災における避難者のなかでも、放射線被害の恐れから子どもを連れて東京都内に避難した、母子避難者に焦点を当てる。まず避難所での調査によって明らかになった避難行動の様子を報告したのちに、避難所閉所以降、長期化する避難生活のなかでの母子避難者の困難について民族誌的データから報告する。そのうえで、今後どのような研究/支援の可能性があるかについて考えたい。
抄録全体を表示
-
狗類学(こうるいがく)への招待
池田 光穂
p.
B12-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
この分科会は、発表者の各々が文化人類学、社会人類学、生態人類学、医療人類学、芸術人類学、宗教学等の学徒として、各々のフィールド経験からインスパイアーされた「犬との出会い」を、さまざまな文献を渉猟しつつ、知的に再構成した試論の集成として出発する。本分科会は、従来の「人間と動物」の関係論という研究分野が、もはや「動物一般」として取り扱えない状況に到来しつつあることを、多様な事例を通して指摘する。
抄録全体を表示
-
人の道具でもあり、人に近い非人間
奥野 克巳
p.
B13-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
本発表では、マレーシア・サラワク州(ボルネオ島)の熱帯林に住む狩猟民・プナン(Penan)を取り上げて、狩猟の主要な道具であり、また、人に最も近い非人間でもあるイヌとともに/イヌによって生きてきた人とその世界を、民族誌のなかに描きだす。
抄録全体を表示
-
山田 仁史
p.
B14-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
人類とさまざまな仕方で、長く付き合ってきた犬。ヨーロッパ中世でも、犬は猟犬、番犬、愛玩犬、野犬などとして人間とともに、あるいは人間の近くに生きてきた。本発表は、そうした犬のさまざまなあり方のうち、食肉としての犬をとりあげ、その諸相を論じることを通じて、動物全般と人間との関係、および犬の特殊性をあらためて考え直すことを目的とする。
抄録全体を表示
-
謎めいた呪術的存在からユニークなペット犬へ
池田 光穂
p.
B15-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
三千年以上の飼育・肥育の歴史をもつメキシカン・ヘアレス・ドック、ペロッ・ペロン(ずるむけ犬)、あるいはショロイツクイントゥリ(Xoloitzcuintli)と呼ばれる犬の、象徴的-先史考古学-歴史学-栄養学的-生態学的-育種学-文化研究的な考察を試みる。このような複雑な記号論的な歴史存在の解明は、現今のメキシコの複雑怪奇な文化社会現象を解明する実践の隠喩になりうることを論証する。
抄録全体を表示
-
―狩猟をつうじた生態学的なニッチ構築とその重層的な文化化―
大石 高典
p.
B16-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
犬は、人の狩猟活動のパートナーとなることで、人とともに生態系の中にニッチ構築を行なってきただけでなく、人と共通する認知特性を進化させ、人社会の共同性の維持に貢献してきた。本発表では、カメルーン共和国東部州における狩猟採集民バカ社会における犬の位置、とりわけ狩猟実践における犬の役割と、そこから日常生活全般に拡張される人と犬の関係を事例に、犬の文化化のアンビバレントな重層性について考察する。
抄録全体を表示
-
宇宙論の「境界」を更新するイヌとオオカミ
石倉 敏明
p.
B17-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
イヌは最古の家畜動物の一つと考えられているだけに、人間との文化的な紐帯は強く多様である。他方、それは野生種であるオオカミの仲間とも深い遺伝的つながりをもつ。本発表では上記の特性を踏まえ、特に日本の現代美術に現れたオオカミとイヌのイメージを検証し、人間の生活圏の内側と外側を行き来するイヌ科動物が、野生と馴化という両極を結ぶ宇宙論の境界をいかに更新するのか、という問題を考察する。
抄録全体を表示
-
沖縄・奄美・台湾の比較研究
玉城 毅
p.
B18-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
本分科会の目的は、台風常襲地域である沖縄・奄美・台湾における台風被害の歴史的実態を明らかにし、それぞれの地域社会が台風にどのように対応し、台風被害からどのように復興を図ったかを明らかにすることである。それによって、自然環境と人との相互作用によって歴史的に形成された災害に対応する社会文化的特徴を解明することを目指す。
抄録全体を表示
-
沖縄における台風による家屋被害と家づくりの慣習
玉城 毅
p.
B19-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
本研究の目的は、沖縄における台風による家屋被害に着目し、生活の基盤たる住居が破壊された状況において、人びとがどのようなつながりの中で、どのように台風に対応し、どのように復旧を図っていったかについて、社会関係資本の視点から明らかにすることである。そのために、台風被害の歴史的な実態、災害復興と関わる村の慣習的行為、家屋構造の変遷とそれに伴う慣習の変化に焦点をあてて報告する。
抄録全体を表示
-
「伝統的」相互扶助の成立背景
山田 浩世
p.
B20-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
本報告の目的は、前近代の沖縄における災害被害への対応、とりわけ毎年襲来する台風災害への対応のためにどのような特徴を持つ社会を構築してきたかを明らかにすることである。そのために、村の「強い紐帯」によって支えられていた沖縄の伝統的な災害対応策が、①どのような政治・経済的脈絡の中で成立し、さらにそれが②具体的にどのような社会的慣習(法)として展開し、災害対応のあり方に影響を与えていたのかを明らかにする。
抄録全体を表示
-
先住民アミの家屋形態と社会の変化から
西村 一之
p.
B21-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
本報告は台湾先住民アミの台風災害への対応に着目する。台湾は台風常襲地域である。台風は、アミの家屋に周期性を与え、男子年齢組織が家屋の建造修築を担ってきた。家屋形態の変化と、年齢組織が持つ社会関係資本としての役割が変わった時期はほぼ重なる。戦後出稼ぎが浸透、集落の中心にいた青年組男性は海外も含め外へ出た。家屋の脆弱さに対処してきた社会関係資本は大きく変化し、集落が持っていた自律性は低下した。
抄録全体を表示
-
奄美群島における家屋の変遷と社会の変化
藤川 美代子
p.
B22-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
本報告では、台風常襲地域である奄美群島において、台風通過により家屋が倒壊するという大被害を受けた時に働く村落内の社会関係資本に着目し、自然災害という危機が襲ってきた時に、人はそれをいかに受け止め、対処し、復興へ向かうのか考察する。長い間台風に対応してきた奄美の村落は、1970年代以降、人口減少・高齢化という社会動態により災害への対応力を弱め、災害時に機能的していた社会関係資本を縮小し変質せしめている。
抄録全体を表示
-
ポスト・スハルト期インドネシアの事例から
山口 裕子
p.
C01-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
本分科会では、脱中央集権化が進む現代インドネシアで活発化する「国家英雄」推戴運動に光をあて、従来国民創造と国民統合の象徴的手段だった制度の多元的な展開を比較民族誌的に検討する。人々を運動に向かわせるドライブを、国家と地方の歴史過程、民族構成、宗教、地方資源と開発の状況などの諸変数を視野に考察し、国民統合の次のフェーズに入った成熟期の国民国家における地方や民族の生成、再生の動態を明らかにする。
抄録全体を表示
-
認定取り消しを求められたバリ人国家英雄をめぐって
中野 麻衣子
p.
C02-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
インドネシアの中では開発の優等生として今日豊かさを享受しているバリ州において、2007年に起こった、人々の知らぬ間に手続き上、外部からの推薦という形で新たなバリ人国家英雄が認定された出来事を取り上げ、その認定取り消し要求に及んだバリ人たちの批判の中から、過去の様々な記憶が喚起され、新たに認定されたその国家英雄を反転像として、国民としてもバリ人としても「真」なる英雄像が立ち上がっていった様相を分析する。
抄録全体を表示
-
津田 浩司
p.
C03-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
2009年、インドネシアの国家英雄の殿堂にジョン・リーなる華人系の人物が加えられた。彼の推戴運動には、スハルト体制期に抑圧されてきた華人の地位回復を象徴的に目指そうとする華人団体のみならず、同体制期に定式化された国史記述を見直そうとする歴史家も深く関与していた。諸個人の営為をナショナルな枠組みに回収し顕彰する制度としてあった国家英雄制度は、今や歴史記述見直しの手段としても活用されている面がある。
抄録全体を表示
-
周辺的地方社会における国家英雄制度の現在
山口 裕子
p.
C04-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
本発表では、国家英雄を輩出したことがないインドネシアの周辺的な地方社会での英雄推戴運動の事例をとおして、地方社会にとっての制度の今日的意義と国家による認証志向を、スハルト国民統合期からの連続性と差異に留意して考察する。グローバル、ナショナル、ローカルな多様な企図が交差する地方社会における英雄制度の布置を見極め、今日の国民国家と周辺的な地方社会の動態的関係性の一端を明らかにする。
抄録全体を表示
-
―インドネシア共和国・ランプン州の事例―
金子 正徳
p.
C05-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
2012年にインドネシア共和国ランプン州で地方英雄制度が創設された。将来に新たな国家英雄推戴を目指すとするこの地方英雄制度では、特定の民族集団に限定されない人選と、地域社会建設に貢献した文民の顕彰が特徴である。植民地主義への武力抵抗と独立国家建設への貢献を特徴とする国家英雄像や国家史観等と対照することで、ランプン州における多民族状況を投影した地域社会建設への変化を事例分析する。
抄録全体を表示
-
岩佐 光広
p.
C06-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
本分科会は、ケアの営みへの注目から東南アジアの社会基盤を探るとともに、そこから広く人間にとってのケアの価値と意味を問うという全体的な目的のもと、そのための一つの試みとして、東南アジアにおいて進行する社会変化のなかで近年現れている高齢者の「新たな暮らし」に焦点を当て、それをめぐり生じているケアの価値と規範の変化について考察する。具体的には、北タイ山地のカレン社会における高齢者ケアの実践と意味の20年間の変化、ベトナム中部の農村部における高齢者の独居も含む居住選択、インドネシアの都市部における福祉施設に入所する高齢者、ラオス南部の低地農村部における老親によるマゴ育という4つの地域の事例を取り上げながら、日常的なケアの現場において人びとが抱く矛盾や葛藤、戸惑いが織りこまれた現在進行形の変化について考察する。
抄録全体を表示
-
北タイ山地における高齢者の居住形態の事例より
速水 洋子
p.
C07-
発行日: 2015年
公開日: 2015/05/13
会議録・要旨集
フリー
まず、なぜ今東南アジアでケアを問うのか、本分科会とその背景にある進行中の共同研究の趣旨を述べる。そのうえで事例として、北タイ山地における高齢者の居住形態の選択とケアについて論じる。現地で「ケア」を文脈化し、都市への労働人口流出が顕著ななかで、在村の高齢者の日常的なケア実践がどのような関係のもとで行われているか、居住の配置をふまえて論ずることで、個と関係性について考察する。
抄録全体を表示