次亜塩素酸水のルーツである強酸性電解水が誕生して30年が経過した。その間、次亜塩素酸(HClO)を含有する電解水に耐性菌が現在のところ見当たらないことやこの電解水が環境にやさしい殺菌料であることから、次亜塩素酸を含有する各種の電解水を生成する装置が次々に開発され、装置が多様化している。それらのうち、酸性電解水(強酸性、弱酸性、微酸性)は2002年(弱酸性は2012年)に"次亜塩素酸水"の名称で食品添加物(殺菌料)に指定され、生成装置が流通している。また、次亜塩素酸を若干含むが弱アルカリ性の次亜塩素酸イオン(ClO
-)を主成分とする電解次亜水(pH 7.5以上)は、酸性電解水より少し早く、1999年に「食品衛生法に基づき定められている“次亜塩素酸ナトリウム”を希釈したものと同等である」と通知され 、生成装置が流通している。さらに、中性電解水(食品添加物ではないが、水道水中の塩化物イオンを電解して次亜塩素酸を含有する水溶液)を生成する装置も存在する。
次亜塩素酸水の製法は、「塩酸または塩化ナトリウム水溶液を電解することによって得られる」と食品添加物公定書に規定されている。しかし、公定書で規格が定められているのは酸性電解水(次亜塩素酸水)のみで、電解次亜水については記載されていない。一方、生成装置に関しては、留意点として電解方式、使用部材(電極、接液部)、長時間耐用性、定期的メンテナンスの実施について通知されているのみであり、装置の管理については事業者の責任で行うことが求められている3)。そのため、包括的な装置の規格基準はなくメーカーの自主基準に任せている状況であり、品質が不明瞭なもの、メンテナンス等のフォローアップがなされていない装置が散見される状態であった。
こうした状況を憂慮して、日本機能水学会第9回学術大会(2010年)において菊地憲次大会長が、次亜塩素酸水及び生成装置の信頼性を得るためにJIS(日本工業規格)化を目指した標準化に取り組むべきことを提唱した。これを契機として、機能水研究振興財団(以後、機能水財団)では生成装置メーカーと協力して議論を重ね、生成装置に関する自主基準を確立し、「次亜塩素酸水生成装置に関する指針(最新版1):第2版追補2013年11月)」をまとめた。続いて、この自主基準を基盤としてJIS化を目指すことになり、日本規格協会(JSA)と経済産業省と面談を重ね、次亜塩素酸水生成装置の新技術性と新市場性について理解が得られ、新市場創造型標準化制度を活用したJIS化に取組むこととなった。その結果、JSAの指導のもと組織された原案作成委員会および分科会において議論を重ね作成されたJIS原案がJSAを通じて2018年3月末に経済産業大臣への申出(申請)がなされ、意見公告を経た後、8月の日本工業標準委員会(JISC)の技術専門委員会での審議を経て2018年10月20日にJIS B 8701として交付された。JISの制定により、食品衛生や公衆衛生などの領域においてユーザーが安心して使用できる信頼性の高い生成装置の基準が提供されることとなったとともに、装置産業の健全な発展が期待される。
本稿では、JIS B 8701:2017の制定までのプロセスと規格の概要および今後の展望について述べる。
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