内視鏡は、組織病変の観察だけでなく、患者に対する負担が少ない内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)など治療目的でも日常的に使われている。使用した内視鏡は、体液や微生物で汚染されており、適切な再処理を必要とするが、内視鏡は精密な機械であるため通常の滅菌手法を適用できない。そのため、内視鏡を介した感染が使用頻度の増加に伴い危惧されている。そこで、内視鏡の適切な再処理のため、国際的には「Multi-society Guideline on Reprocessing Flexible GI Endoscopes: 2011」 がInfection Control and Hospital Epidemiologyに掲載され、日本では日本環境感染学会、日本消化器内視鏡学会、日本消化器内視鏡技師会より、2008年に「消化器内視鏡の洗浄・消毒マルチソサエティガイドライン【第1版】」が発行され、2013年7月に「消化器内視鏡の感染制御に関するマルチソサエティ実践ガイド」として改定された。いずれも十分な洗浄と高水準消毒を実施すべきことが明示されている。
現在、高水準消毒薬として汎用されている過酢酸、グルタラール、フタラールは、信頼性の高い消毒効果をもっているが、細胞毒性が強く、揮発による咽頭刺激や、直接接触による皮膚炎・化学熱傷、飛沫による角膜障害、アナフィラキシーショックなどの症例が報告されている。また、高水準消毒薬は何度も再使用されるのが一般的で、繰返し使用による濃度の低下を招くため、開封後の日数や回数、濃度のチェックが常に必要である。さらに、「ランニングコストが高い」、「廃棄の方法や環境への影響」などの問題を抱えている。
こうした中、わが国では医療機器の認可を取得した「機能水による消化器内視鏡洗浄消毒器」が、数多くの医療施設において採用されている。機能水(強酸性電解水とオゾン水)は、日本で開発・評価され、より安全・安心でかつ低コストでの消毒が可能で、人や環境に対する安全性が高く、廃棄も容易という長所をもっている。その反面、有機物存在下では殺菌効力が容易に低下するという弱点がある。特に、生検や吸引を行うチャンネル内(内視鏡管路内)は多量の粘液や血液などが付着するので特別の注意が必要である。したがって、機能水による確実な殺菌効果を得るためには、高水準消毒薬の使用の場合と同様に、事前のブラッシング洗浄作業が特に重要である。
そこで日本機能水学会では、これまでの知見をもとに財団法人機能水研究振興財団が進めてきた「機能水による消化器内視鏡洗浄消毒のあり方に関する調査研究」に協力し、監修した。その成果として、内視鏡の前洗浄の確実な実行と医療機器認可を取得した「機能水による消化器内視鏡洗浄消毒器」の特徴を生かした最も確実な使用方法をまとめた標記の使用手引きが作成・刊行された。こうした取組みと使用手引きの内容が評価され、機能水研究振興財団のホームページに使用手引きの開示が求められた。さらに、「機能水による消化器内視鏡洗浄消毒器」は“本手引きを参照の上、各施設の責任において適正かつ慎重に使用することが強く望まれる”と「消化器内視鏡の感染制御に関するマルチソサエティ実践ガイド」に記載されるに至った。
機能水による消化器内視鏡洗浄消毒器の使用にあたっては、機能水の特徴と欠点を正しく理解し、使用上の留意点をしっかり守ることが肝要である。今後はさらに、内視鏡の使用直後から次に使用する直前までの総合的な微生物制御のあり方や医療機器としての特性を考慮した新たな視点からのエビデンスの集積が必要である。現在、実際に取組んでいるところであり、そのデータをもとに第2版に向けた作業を進めている
上記のことを踏まえて本稿には、「機能水による消化器内視鏡洗浄消毒器の使用手引き」の中から学術的なものを抜粋して掲載するとともに、最後に今後の課題などについて展望することとした。
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