消化器内視鏡が使用されている場は、医療施設である。そこでは、さまざまな医療機器による検査・診断が行われ、確定した疾患の治療のためにカテーテル・経口・輸液等により医薬品が投与される。治療を受ける患者は様々な基礎疾患を有し、年齢層も幅広い。また、消化器内視鏡を使用しない患者も通院・入院している。つまり、感染管理上、相反する環境が同じ施設に存在し、易感染宿主と感染症患者が混在することになる。このような医療環境で、病原微生物を全て殺菌する試みや、侵入を完全に防止する試みは意味がない。そのため、感染症患者由来の病原微生物によるアウトブレイクの早期発見と封じ込めが重要な感染防止対策となる。具体的には、感染症患者より病原微生物が他の患者・医療従事者へ伝播しないように、基本的手技である手洗い・環境整備等が行われる。また、確定診断の結果は速やかに感染対策チーム(Infection control team, ICT)に伝えられ、このICTが中心となって様々な感染拡大の防止対策が図られている。さらに、耐性菌対策が主となるが、地域ネットワークが構築され、感染症専門医が不在の施設に対するコンサルテーションも行われ、地域における感染対策の適正化を行うことが可能となりつつある。
消化器内視鏡は、組織病変の観察だけでなく、患者に対する負担が少ない内視鏡的粘膜下層剥離術など治療目的においても日常的に使われている。使用頻度の増加に伴い適切な再処理が必要であるが、内視鏡は高価で精密な機械のために通常の滅菌手法(オートクレーブなど)が使用できないために、内視鏡を介した感染の危険性が危惧されている。特に、1990年代に内視鏡検査後の急性胃粘膜病変の原因がHelicobacter pylori であることがマスコミの報道で社会問題化し、B型肝炎ウイルス等の感染事例も報告された。このような現状から、「Multisociety guideline on reprocessing flexible Gastrointestinal endoscopes:2011」が Infection Control and Hospital Epidemiology に公表されたのを受けて日本では、2013年7月に「消化器内視鏡の感染制御に関するマルチソサエティ実践ガイド 改訂版」が発行された。消化器内視鏡は、Spauldingの分類ではセミクリティカルに該当し高水準消毒処理を求める消毒レベルである。これは全ての微生物(マイコバクテリア、ウイルス、真菌胞子、細菌、一部の細菌芽胞)が殺滅可能なことが求められるが、適切な洗浄と高水準消毒薬の使用で感染防止ができていることから推奨されているのが現状と思われる。
抄録全体を表示