琵琶湖はTVの報道などで、いまも「汚れている」、「環境が悪化している」といわれるが、どう汚れていて、どう悪化しているのか、正確に説明されているとはいえないと感じる。見た目あるいは何かの化学的成分の濃度上昇をさしているのか。あるいは、以前に湖底で魚が大量に死んでいる映像が報道されたことで話題となった無酸素化のことなのか。その「汚れて、環境が悪い?」琵琶湖へ、筆者は月に1回ほど観測に出かけ、夏場にのどが渇けば、採水時に残った深層の水を飲んでいる。研究室の学生も含め、なんらかの障害や問題が生じたことは一度もない(とはいえ、飲用に供する湖水の採水深度は、より安全と考えられるものである)。
滋賀県はこの20年あまり、下水道の普及に非常に力を入れてきた。筆者が所属する滋賀県立大学は1995年に開学したが、当時の普及率は40%程度であった。現在は全国でも有数の高さになり、2009年度は85.4%に達している。下水高度処理の普及率でも全国首位である。琵琶湖開発に関する様々な訴訟が起きた1970-80年代に比べ、窒素やリン、有機物を含む家庭排水が直接琵琶湖に流入する量は劇的に少なくなり、赤潮やアオコの発生報告も少なくなりつつある。
その点では、水はずいぶんきれいになったのだから、これくらいでいいのではないかとも思われがちだが、琵琶湖の環境には現在も様々な話題、問題が存在している。
有機物濃度の目安であるCODは下がらず、むしろ緩やかに上昇してきた。平均水深の浅い南湖(琵琶湖大橋よりも南の部分)では水草の繁茂が著しく、悪臭や船舶航行障害などの問題が生じている。また、外来魚の増加と食用在来魚の激減が漁業者を悩ませている。北湖(琵琶湖大橋よりも北の部分)の湖底では溶存酸素飽和度の低下傾向が見られる。これらは人為的な要因と生態系の様々な要素の変化が絡み合っていると考えられ、その中に水環境の変化も含まれる(これらの関係を解明することを目的として、滋賀県立大学環境科学部が設置された)。筆者はこれらの現状を念頭に置きつつ、琵琶湖の水に含まれている化学成分の由来・それらの相互作用に中心をおいて研究を行っている。
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