日本プロテオーム学会大会要旨集
日本ヒトプロテオーム機構第7回大会
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ポスターセッション
  • 増田 豪, 冨田 勝, 石濱 泰
    セッションID: P-47
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    細胞間接着は近傍にある細胞と強固に結合するために必要な機構であり,細胞の分化やガン細胞の浸潤などに関わっていることが報告されている.一方,adherens junction (AJ)はカルシウム依存的に細胞間結合を形成する細胞間接着構造の一つであり,タンパク質リン酸化を介したシグナル伝達により制御されていることが報告されている.しかし,AJ形成過程におけるリン酸化シグナルネットワークは不明な点が多く,その全貌は明らかとなっていない.そこで本研究ではマウスの乳腺上皮細胞であるEpH4を用いてカルシウム依存的な細胞間接着過程の時系列変化に対する定量的リン酸化プロテオーム解析を行った.
    EpH4細胞は10% FBSを含むDMEMで培養した.培地中からカルシウムを除去するためにEDTAでキレート処理を30分間行った後,カルシウムを含む通常の培地(DMEM, 10% FBS)に交換した.EpH4細胞を培地交換前および交換後15分,60分および24時間後に回収した.タンパク質は相間移動可溶化剤を用いて抽出・消化し,リン酸化ペプチドはHAMMOC法で濃縮した.
    細胞接着過程の時系列リン酸化プロテオーム解析を行った結果,合計で1590種類のリン酸化サイト(pS/pT/pY:1318/212/60)が同定・定量された.その内151種類は細胞間接着に関わるタンパク質に由来していた.それらのリン酸化サイトを含む176リン酸化ペプチドを定量した結果,junctional adhesion molecule A (JAM-1)の285番目のセリンは細胞間接着が形成されるにしたがってリン酸化量が増加していた.ヒトの上皮細胞において,このサイトがリン酸化されたJAM-1は細胞間接着部位に局在し機能することが報告されている.また,ミオシン-9の1943番目のセリンは細胞間接着形成が進むにつれてリン酸化量が減少していた.このサイトは脱リン酸化されると細胞の運動性が低下することが報告されており,本実験においても細胞間接着形成により運動性が低下し,このサイトの脱リン酸化が促進されたと考えられる.この他にも我々はAJ関連分子の新規リン酸化サイトおよびその時系列変化を多数同定しており,大規模な時系列定量的リン酸化プロテオーム解析によりAJ形成過程におけるリン酸化プロファイルの一部が明らかとなった.
  • 飯田 直幸, 藤田 真幸, 小林 道元, 柴垣 芳夫, 川村 猛, 浜窪 隆雄, 服部 成介
    セッションID: P-48
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    タンパク質のリン酸化は、細胞の増殖、分化、遺伝子発現など様々な生命現象を制御している。また、その異常は多様な疾患の発症原因となることも明らかにされている。キナーゼの生理的機能を解明するためには、その基質を網羅的に同定することが重要である。 私たちは、リン酸化タンパク質精製と2D-DIGE法の組み合わせにより特定のキナーゼの基質を網羅的に同定する手法を確立してきた。しかし、リン酸化タンパク質は定常状態の細胞内にも多数存在し、試料間の相違をみる2D-DIGE法において多数のスポットを与えることが問題であった。今回、細胞溶解液を脱リン酸化処理することにより、バックグラウンドとなるリン酸化タンパク質数を減少させ、その後特定のキナーゼでin vitroリン酸化反応を行い、2D-DIGE法とLC-MS/MS法によりキナーゼの基質を網羅的に同定する新たな実験系を構築したので報告する。  キナーゼとしては、既知の基質が多く、特異的阻害剤があり、活性化機構の明らかになっているp38 MAPキナーゼをモデルキナーゼとして使った。その結果、二次元ゲル泳動上でリン酸化反応した試料としていない試料で共通に見られるリン酸化タンパク質スポット数は減少し、リン酸化反応を行った試料のみに認められるスポットが従来法の約10倍確認できるようになった。これらのスポットのうち、55スポットから27種類のタンパク質を質量分析計で同定した。この中には既知のp38 MAPキナーゼ基質が2種類含まれていた。さらに網羅性を高めるために、リン酸化後の試料をプロテアーゼ消化し、リン酸化ペプチドを単離してLC-MS/MSに供したところ、60種類のタンパク質がp38 MAPキナーゼ基質候補として同定された。このうち既知のp38 MAPキナーゼカスケードの基質は4種類あった。これらのことは、in vitro脱リン酸化/リン酸化方法が、キナーゼ基質の探索に有効であることを示している。
  • 井野 洋子, 小池 里紗, 石黒 斉, 窪田 吉信, 荒川 憲昭, 平野 久
    セッションID: P-49
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    前立腺癌のほとんどは男性ホルモン(アンドロゲン)依存性を示すため、アンドロゲン除去や抗アンドロゲン剤投与などの内分泌療法が有効である。しかし、内分泌療法を続けるうちに、アンドロゲン依存性を喪失した内分泌療法抵抗性癌へと進展することが大きな問題となっている。このアンドロゲン非依存的な増殖能の獲得機構にはいくつかの説が提唱されているものの、正確な機構は未だ不明なままにあることから、アンドロゲン非依存的な増殖能の獲得機構を解明することは、新たな診断法や治療法の開発に重要と考えられている。 タンパク質のリン酸化は、細胞内シグナル伝達経路の調節にかかわり、その異常はガンの発症・進展に密接に関与している。そこで本研究ではプロテオミクス手法を用いて、前立腺癌のアンドロゲン非依存的な増殖能の獲得に関与するリン酸化タンパク質を同定することを目的とした。 アンドロゲン依存性前立性腺癌細胞株であるLNCaP細胞を活性炭処理したウシ胎児血清(アンドロゲンフリーFBS)を用いて5ヶ月間培養することにより、アンドロゲン非依存性株LNCaP-AIを樹立した。アンドロゲンフリーFBSを用いて培養すると、親株LNCaP細胞においては全く増殖が認められないが、LNCaP-AI細胞においてはdoubling-time 約170時間で増殖することが観察された。ウエスタンブロット解析の結果、これまでに当該癌細胞のアンドロゲン非依存性獲得機構に関与すると考えられているアンドロゲンレセプターやBcl-2の増加は、今回作製したLNCaP-AI細胞においても確認された。さらにBAXの発現量の低下も認められた。このようなLNCaP-AIの細胞特性の獲得に関わるタンパク質のリン酸化を明らかにするために、LNCaP細胞およびLNCaP-AIの両細胞をアンドロゲンフリーFBSにて培養した時のリン酸化プロテオームの変動を、IMAC法を用いて比較したのでその詳細をここに報告する
  • 中神 弘史, 杉山 直幸, 持田 恵一, ダウディ アルサラーン, 冨田 勝, 石濱 泰, 白須 賢
    セッションID: P-50
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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      リン酸化はタンパク質の機能を調節する代表的な翻訳後修飾であり、植物を含めた多くの生物種で広範囲の生命現象の制御に関わっている。あらゆる生命現象をタンパク質レベルで理解するにあたり、個々のタンパク質のリン酸化制御の有無、更にリン酸化制御を受ける場合のリン酸化部位の情報は、非常に重要な直接的な手掛かりとなり得るが、植物細胞内で実際にリン酸化制御を受けているタンパク質およびタンパク質上のリン酸化部位の情報は非常に限られていた。
      近年の目覚ましい質量分析関連技術の発達は、タンパク質上のリン酸化部位の同定を比較的容易にしたものの、細胞粗抽出液のように非常に複雑な試料に含まれるタンパク質集団のリン酸化状態を網羅的に解析するためには、未だ乗り越えるべき課題が数多くある。
      今回の研究では、植物材料用にリン酸化ペプチドの精製・濃縮法の改良・最適化を行うことにより、はじめて植物の細胞粗抽出液に含まれるタンパク質集団のリン酸化状態を大規模に解析することに成功し1)これまでにシロイヌナズナで4,000程度、イネでは5,000以上のリン酸化部位を同定した。
      本発表では、植物の病害抵抗性の解明を目指して取り組んでいるリン酸化プロテオミクスについて、これまでに得られた結果を交えて紹介する。
      1)Mol Syst Biol. 2008;4:193. Epub 2008 May 6.
  • 磯辺 拓海, 大石 正道, 小寺 義男, 前田 忠計
    セッションID: P-51
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    疾患プロテオミクスでは、リン酸化や糖鎖の付加などの酵素的修飾以外に、活性酸素種(ROS)の攻撃によって非酵素的に生じた酸化修飾タンパク質の解析が重要な研究テーマとなる。日本人の死因のトップを占める癌や心臓病、脳卒中をはじめ、糖尿病、動脈硬化などの生活習慣病では、ROSによるタンパク質の酸化傷害が発症に関与している。つまり、タンパク質は酸化傷害によって生じたカルボニル化(アルデヒド化)やニトロ化、および糖化(AGE化)などの非生理的翻訳後修飾を受けることによって生理的機能を失う。そこで、疾患プロテオーム解析においては、タンパク質の存在量を調べるだけでなく、酸化修飾も含めた、タンパク質の機能状態をあらわすさまざまな翻訳後修飾を網羅的に調べる必要がある。 これまでの研究で、ヒトの2型糖尿病モデルラットOtsuka Long-Evans Tokushima Fatty(OLETF)の骨格筋、心筋および精巣では、コントロールに比べて多数のタンパク質でカルボニル化が促進されていることを見出した。そこで本研究では、カルボニル化が促進されたタンパク質に関して、糖化およびユビキチン化について調べることにした。我々は、これらの翻訳後修飾を同時に検出するために量子ドットに着目した。量子ドットは直径数nmの半導体素材からなるナノクリスタルで、粒径のサイズによって蛍光波長が異なるという特長があり、各波長に対応したパンドパスフィルターを用いることで波長別に検出することができる。そこで、二次元電気泳動(2-DE)法とウェスタンブロッティング法を組み合わせて、複数の翻訳後修飾を同時に解析する新たな疾患プロテオーム解析のストラテジーを開発した。糖化(メチルグリオキサールおよびAGE-1)とユビキチン化に対する特異抗体と量子ドットを用いて骨格筋で調べたところ、(1)糖尿病ラットのアクチンはカルボニル化、糖化ともに進行しているにもかかわらずユビキチン化されていないこと、(2)糖尿病ラットのクレアチンキナーゼはカルボニル化、糖化、ユビキチン化ともに促進されていること、および(3)糖尿病ラットでは、カルボニル化蛋白質および糖化タンパク質のスポット数が発症前後で急激に増加するだけでなく、バックグラウンド全体に拡散することなどが明らかになった。このことから、病状が進行するにつれて酸化傷害タンパク質はさらにヘテロな状態が増すと推察された。
  • 新森 加納子, 鹿川 哲史, 森川 崇, 小林 大樹, 坪田 誠之, 緑川 宇一, 柏木 太一, 中尾 光善, 荒木 令江, 田賀 哲也
    セッションID: P-52
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    神経幹細胞は自己複製能をもつと同時にさまざまな分化制御を受けながらニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトを作り出す能力を有する。神経幹細胞の未分化性維持や分化誘導の分子機構を明らかにすることは、脳の発生の基本的メカニズムの解明に寄与するとともに、神経疾患の新しい治療法開発の手掛かりとなることが期待される。これまで遺伝子発現プロファイリングによるアプローチで神経幹細胞の分化制御を司る仕組みについての知見は出つつも全容解明には至っていない。その理由の一つとして、分化・未分化の制御機構が、これまで深く探索されてこなかった蛋白質翻訳後修飾(リン酸化、分解、核移行など)により行われている可能性が挙げられる。本研究では、神経幹細胞の分化の運命づけに転写因子やクロマチン修飾因子を含む蛋白質の翻訳後修飾が関わっていると仮定し、2D-DIGE法を含む最新のプロテオミクスの手法を取り入れた核蛋白質の解析を行った。胎生14日目のマウス終脳から単離した神経上皮細胞を単層培養する際に、神経幹細胞の自己複製にはたらく線維芽細胞増殖因子(FGF2)を添加して神経幹細胞を得た神経幹細胞の培養系からFGF2の除去と再添加を行った後、核蛋白質を分画し、異なる蛍光標識を施して2D-DIGEを行い、画像プロファイルを比較定量解析した。その結果、pH3-11, 24 x 20cm のゲルで検出された4095個の核蛋白質スポットのうちFGF2刺激により量が変化した18個のスポットを認めた。ProQDiamondで染色した結果、18個中11個はリン酸化蛋白質であった。これらの蛋白質スポットはnanoLC-QQTOF MSにより同定され、核移行やクロマチン修飾、あるいは転写調節など核内動態に関与する因子を含んでいた。これらの結果は、プロテオミクスの手法は神経幹細胞の運命決定を調節する仕組みを解明する方法として有効であることを示唆しており、同定された分子の機能解析を行っている。
  • 野村 文子, 荒川 憲昭, 山中 結子, 勝山 真人, 川崎 博史, 平野 久
    セッションID: P-53
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    スーパーオキシドや過酸化水素といった活性酸素種(ROS)は、動脈硬化症などの血管病の発症や進展に重要な役割を果たす。NADPHオキシダーゼは血管組織における主要なROS産生系であり、血管平滑筋細胞(VSMC)では、アンギオテンシンIIやプロスタグランジン(PG)Fなどの刺激により、本酵素の触媒サブユニットであるNOX1が発現上昇し、VSMCの増殖・肥大を引き起こす。この時、NOX1から産生されるROSは、細胞内あるいは細胞間シグナル伝達物質として働くと考えられているが、どのような生体内物質がROSの標的となっているかについてはほとんど分かっていない。そこで本研究では、NOX1がタンパク質のシステイン残基を酸化的修飾 (スルフェニル化、スルフィニル化、スルホニル化、ジスルフィド結合)するという仮説をもとに、酸化的修飾を受けたタンパク質チオールの網羅的定量解析を行った。ラットVSMC株A7r5を低血清培地で培養後、PGFで刺激することによりNOX1の発現誘導を行った。このPGF刺激細胞と比較対照の無刺激細胞から、各々ヨードアセトアミド存在下でタンパク質を抽出後、TCEPを用いてチオール基の還元を行った。両タンパク質試料をそれぞれlight(12C)およびheavy(13C) cICATタグで標識し混合した後、トリプシンを用いて消化した。cICAT標識ペプチドをアフィニティーカラムで精製し、2D-LC MALDI-TOF/TOF質量分析装置を用いて測定を行った。その結果、PGF刺激によりシステイン残基の修飾が亢進していると考えられるタンパク質が48個検出および同定された。これらがNOX1の標的となるのかどうか明らかにするために、siRNA導入後にPGF刺激した細胞を用いて、同様の実験を行った。その結果、上述の48個のタンパク質の修飾部位はすべて検出され、そのうちPGFによる修飾亢進がsiNOX1の導入により減弱したタンパク質が14個検出された。これらはNOX1の標的である可能性が高く、現在、当該タンパク質群の修飾がVSMCの増殖肥大に関与しているのかどうか検証を行っている。
  • 紀藤 圭治, 伊藤 隆司
    セッションID: P-54
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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     我々はこれまでに、複数のタンパク質の絶対的な存在量を系統的かつ正確に計測するための戦略として、PCS-MS法を開発してきた。本方法では、定量対象となる各タンパク質に由来するトリプシン消化ペプチドを、その上流および下流のアミノ酸数残基も含めて連結させた人工タンパク質(peptide-concatenated standard: PCS)をデザインし、これを安定同位体標識したものを定量のための標準物質として用いる。これを定量対象となるタンパク質試料に添加後、プロテアーゼによりペプチドに断片化し、質量分析により各タンパク質の存在量を計測する。PCS-MS法では、各標準ペプチドが正確に当量ずつサンプルに添加されることが保証されるとともに、標準であるPCSの消化効率が定量対象タンパク質のそれを反映することで、正確な定量が可能になる。
     本演題では、大規模な絶対量計測を実現するためのPCS-MS法の改良と出芽酵母を対象とした絶対量計測例について紹介したい。広いダイナミックレンジで大規模な定量解析を実現するには、標準として多数のPCSを異なる濃度で用いなければならない。そこで、PCSを階層的に用いることで、定量可能なタンパク質数とダイナミックレンジのスケールアップを可能にする戦略を開発した。具体的には個々のPCSに識別可能なIDペプチドを持たせておく。一方で、これらのIDペプチドを連結した2次PCSを用意する。この2次PCSにより個々のPCSの量を正確にモニタリングすることで、多数のPCSによる定量値の信頼性を確保する。また、IDペプチドのコピー数を調節することで、モニタリング可能なPCS量のダイナミックレンジを拡張する。本手法により定量可能なダイナミックレンジが一桁向上し、また独立した定量計測間での高い再現性も実現することができた。絶対量計測に成功した出芽酵母の約70種類のタンパク質について、他の解析手法による定量データやmRNAコピー数との比較についても合わせて紹介したい。
  • 松山 由美子, 工藤 寿治, 韮澤 崇, Stephanie Hahner, Anja Resemann, Detlev Suckau
    セッションID: P-55
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    【目的】現在、定量プロテオーム解析を行うための標識試薬として、様々な試薬が存在している。しかしながら、これらの試薬はその定量結果が保証されているものではなく、得られたデータからどのように同定・定量解析を行うかが重要であり、解析方法や定量試薬との組み合わせによって結果が異なってくる場合も多い。今回、新しいICPL標識試薬とバイオインフォマティクスの解析ソフトウエアを組み合わせて、nano-LC-MALDIを用いたタンパク質の定量解析を行ったので、その結果について報告する。 【方法】標識試薬であるICPL (isotope coded protein labeling)を用いた安定同位体によるタンパク質の標識方法は、タンパク質を定量するうえで正確なラベリングが可能であり、新しいICPL 4-Plexは、一度の実験で4種類の異なるタンパク質サンプルを比較定量することができる。今回、濃度の異なる7つのタンパク質を含む2種類のサンプル(n=2、全4サンプル)を調製し、SERVA ICPL 4-Plexキットで標識を行った。ICPL標識したサンプルを混合しトリプシンで消化後、nano- HPLCで分離し直接MALDIターゲットにスポットした。その後MALDITOF/TOF MS測定を行い、得られたLC-MALDIデータからProteinScapeを用いてICPL標識ペプチドの定量値を算出した。 【結果】0.25から30の比で調製されたタンパク質はMS/MS解析により全て同定され、定量の精度はCV(変動係数) <10%であった。ProteinScapeでは、定量結果を含む同定されたタンパク質のリストを、複数のLC runであってもまとめることができ、最終的な同定・定量結果を表示することができた。さらにより正確な定量値を算出するために、quartile関数に基づいてアウトライヤーを検出し、ペプチドの統計表から、変動のあるタンパク質全体を正確に捉えることが可能であった。 このように、ICPL 4-plexキットとProteinScapeを組み合わせることで、より正確な定量結果を導き出すことができ、さらにnano-LC-MALDI法を用いることで定量プロテオミクスの有効な手法となることが示された。
  • 前田 洋祐, 山中 秀徳, 武吉 正博, 美濃部 安史
    セッションID: P-56
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    血液は、試料採取の容易さと多数のタンパク質成分を含有していることから、疾患診断、治療モニタリング、新薬開発に役立つ新規なタンパク質マーカー探索を目指した疾患プロテオミクス研究の対象となっている。 タンパク質マーカーの探索研究では、網羅性、定量性、再現性が重要な要素であり、2D-DIGE(2 Dimensional Fluorescence Difference Gel Electrophoresis)は、これらの条件を満たす方法の一つである。2D-DIGEは、タンパク質サンプルを3種類の異なる蛍光色素にて標識し混合した後、同一ゲル二次元電気泳動を行うことにより複数のタンパク質サンプルを1枚のゲル上で解析することが可能であるため、薬物を投与した場合としない場合で発現量が異なるマーカータンパク質をより高精度に検出する方法として有用である。 血中にはアルブミン、IgG、トランスフェリン等の数種のタンパク質が大量に存在しているため、マーカーとなる微量タンパク質を分析するためにはこれらの主要タンパク質成分を除去する必要がある。タンパク質の除去にはこれらのタンパク質の抗体カラムによる処理が汎用されているが、この方法では、抗体カラム処理で除去しきれずにわずかに残ったタンパク質が2D-DIGE法による定量比較解析の障害になることがある。また、抗体カラムは繰り返し使用したときのタンパク質の除去率の低下も問題になる。そこで本研究では、抗体カラムを用いて血中に大量に存在するタンパク質をより効果的に除去できる方法を検討し、あわせて改良法による抗体カラムの再使用による劣化も調べたので報告する。 サンプルにヒト血漿及び血清(BIOPREDIC社)を用いた。抗体カラムは、ヒト血中に大量に存在する上位6種のタンパク質(アルブミン、IgG、トランスフェリン、IgA、ハプトグロビン、アンチトリプシン)が一括除去可能なMultiple Affinity Removal Spin Cartridge, Hu-6(Agilent社製)を用い、指定された標準的な方法(以降Agilent法)と、Agilent法と同一条件で試料を同一のカラムにくり返し通す改良法で処理した試料中のタンパク質を2D-DIGEにより定量比較解析してタンパク質の除去効率等を調べた。その結果、Agilent法では除去しきれなかったタンパク質がスポットとして検出され、そのスポットに重なるタンパク質の検出が困難であったが、改良法では2D-DIGEによる検出限界以下まで除去することが可能であった。次に、同一のカラムを30回以上繰り返し使用した場合にも同様の効果が確認されたため、本法は2D-DIGEによるタンパク質の定量比較解析の前処理として有用であることが判った。
  • 鈴木 孝昌, スレッシュ ティルパッティ, 押澤 正, ラメッシュ ドス, 田邊 思帆里, 佐藤 陽治, 鈴木 和博
    セッションID: P-57
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    再生医療の実現化へ向けた課題として、細胞・組織加工医薬品の品質保証、標準化がある。網羅的プロテオーム解析により、細胞の発現するタンパク質、ペプチドの全貌を明らかにすることができ、それらの培養過程における質的、量的変化をとらえることが可能となる。我々はこうしたプロテオーム解析技術を、再生医療に使われるさまざまな細胞・組織加工医薬品の品質評価に利用すべく、ナノLC-MS/MS装置を用いた高感度分析系の確立を行った。 モデル細胞としてヒト骨髄由来間葉系幹細胞を用い、溶解液に細胞を溶かした後、全タンパクをアセトン沈澱にて回収した。還元アルキル化後、トリプシンにて一晩消化しペプチド溶液とし、500ng相当量を一回のLC-MS分析に用いた。分析にはナノLC(DiNa)を用い、流速300nl/min、150分のグラジエントにてペプチドをC18逆相カラムで分離し、Q-TOF型(Qstar-XL)または、リニアイオントラップーFT型(LTQ-Orbitrap)タンデム質量分析装置に導入した。 検出されるペプチドの全体像をつかむため、フリーソフトウエアであるPep3D(TPPソフトに搭載)を用いて、2D-densityプロットによる可視化を行った。得られたペプチドピークの数は、QstarXLに比べてLTQ-Orbitrapの方が多く、分解能、検出感度も高かった。以上の結果から、解析には、高感度かつ高解像度であるLTQ-Orbitrapの利用が望ましいことが明らかとなった。  そこで、LTQ-Orbitrapを用いて、データ依存的MS/MS測定を同時に行い、MASCOTによるデータベース検索にてタンパク質の同定を行ったところ、p<0.05にて764個がヒットした。これらの中には、細胞膜の表面抗原であるCD分子も18種含まれており、間葉系幹細胞の表面マーカーとして用いられているCD29, CD44, CD71, CD73, CD90, CD166が含まれていた。この結果から、抗体を用いることなく網羅的にCD分子種の発現をモニターできる可能性が示され、幹細胞の品質管理に役立つことが示唆された。未同定も含みMS/MS測定されたペプチド数は全体の1/3以下であり、今後同定数を増やすことにより、間葉系幹細胞に発現するタンパク質の全貌を把握するとともに、標準化のためのリファレンスデータベースの構築につなげたい。
  • 岩倉 聖, 津田 夢芽子, 佐野 一広, 内村 太一, 志賀 隆, 塚原 伸治, 小川 園子, 加藤 智啓, 大谷-金子 律子
    セッションID: P-58
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    哺乳類では周生期の雄の精巣から分泌されるテストステロンにより視床下部が不可逆的変化(性分化)を起こすため、思春期以降雌雄で異なるゴナドトロピン分泌パターンや性行動パターンを示すと考えられている。しかし性差形成の詳細な分子メカニズムは未だ明らかにされていない。性差形成に機能する蛋白質は性分化期に雌雄で異なる発現をすると考えられため、本研究では性的二型核として知られる前腹側脳室周囲核(AVPv)に着目し、性分化期特異的に性差を示す蛋白質の探索を行った。具体的には、性分化期(生後1日目、PD 1)および性分化終了期(生後6日目、PD 6)の雌雄ラット新生仔脳切片からAVPvを単離して蛋白質を抽出後、発現蛋白質を雌雄間で比較した。そして性分化時期に発現に性差があり、性分化終了時には発現の性差が消失する蛋白質を探索した。本研究で用いた解析法は以下の2つである。1, CyDye DIGE Fluor saturation Dyesを用いた二次元ディファレンシャル電気泳動(2D-DIGE)とそれに続くMALDI-TOF/TOF-MS/LC-ESI-MS質量分析による蛋白質同定、2, nanoACQUITY UPLC・Synapt HD MSシステムを用いた定量的ショットガン解析。また性差が顕著であった同定蛋白質については、realtime PCRによりmRNA発現量についても雌雄で比較した。 2D-DIGE解析および質量分析からPD 1での発現に性差が見られた蛋白質スポットのうち、12スポットについて質量分析により同定することができた。同定蛋白質の内、collapsin response mediator protein-4(CRMP-4)とalpha‐internexinは雄で発現量が高く、これらのmRNA発現量も雄で有意に高かった。また、PD1で見られた蛋白質およびmRNA発現量の性差はPD 6では消失していた。一方、定量的ショットガン解析では、PD 1で発現している蛋白質として約200の蛋白質を同定した。このうち、hemoglobin alpha adult chain 2およびbeta chainはPD 1では蛋白質およびmRNA発現量ともに雌の方が有意に高かったが、PD 6では発現量の性差が消失していた。本研究により、AVPvでの性差形成に関与する可能性の高い複数の蛋白質が同定された。
  • 山本 行男, 竹内 和世, 岡崎 敦, 西村 欣也, 山岡 和子, 高橋 慶一, 森谷 俊介, 平松 恭子, 佐藤 洋
    セッションID: P-59
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    関節炎は、結合組織を侵す全身性の免疫疾患であり、特に手足の関節にみられる関節軟部組織の肥厚を生じ軟骨を浸食する。更に、大きな特徴として変成蛋白質による反応性アミロイド症を生じ、ネフローゼ症候群や血管への浸潤による出血などの臨床症状を呈する。これまで関節炎患者の脊髄液中に病態マーカーを探索し、コントロールと比較して発現増大を生じるリポカリン型プロスタグランディン合成酵素 (L-PGDS)を見いだしている。今回、本物質の酵素活性低下を生じる要因として、脊髄液中の成分との会合を認めたので報告する。
    方法:脊髄液中の蛋白質を酸で沈殿濃縮し冷アセトンでの洗浄後可溶化した。可溶化サンプルは二次元電気泳動を行い蛋白質成分の分析を行った。泳動プロフィールは解析ソフト(Phoretix 2D)を用いて、コントロールとの有意な発現差異を示すゲルスポットを見出し、抽出蛋白質をMALDI-TOF-MS/MS 質量分析を行いMascot解析により同定した。 PGD, 15d-PGJ, PGEのレベルは、市販キットにより定量化した。会合蛋白質は、ウエスタンブロッティングと免疫沈降実験により分析した。
    結果:関節炎の脊髄液中に、発現増大を示す成分としてL-PGDSを見出している。RA病態におけるL-PGDSの動態を分析するために、L-PGDS 産生物質 PGDと非酵素的代謝物(15d-PGJ)を定量化した。L-PGDS は見かけの発現量が増大しているにもかかわらず、RA 群の酵素活性が減少していることを認めた。次に、酵素活性低下の要因として、RA 患者のL-PGDSが蛋白質変成を生じている可能性を検討した。患者脊髄液中の蛋白質を転写したブロットと抗L-PGDSモノクローナル抗体との反応は、26 kDのL-PGDSと高分子量のバンドを見出した。更に、特異抗体と反応する脊髄液蛋白質との免疫沈降物を分析すると、上記と同様の高分子成分が認められた。そこで、電気泳動後の本成分をゲルから抽出し、トリプシン処理を行い質量分析計にて測定した。Mascot解析から、本物質は α-1 antitrypsin として同定できた。以上、本研究により L-PGDS の酵素活性が低下する要因として、α-1 antitrypsinとの会合に起因している可能性が示唆された。 
  • 栗本 綾子, 北爪 しのぶ, 和田 芳直, 谷口 直之
    セッションID: P-60
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    哺乳動物のタンパク質の大部分は、糖鎖によって翻訳後修飾が行われており、細胞間認識、細胞間相互作用、細胞接着、タンパク質のフォールディングなどに重要な役割を果たしていることが知られている。近年、糖鎖はガンや様々な疾患によって構造を変えることから、バイオマーカーとして着目されている。
    α 1,6 フコース転移酵素 (Fut8)はコアフコースを産生する酵素、すなわちN結合型コンプレックス糖鎖の還元末端GlcNAc残基にGDP-FucからFucを付加する酵素として知られている(1)。コアフコース含有糖鎖は哺乳動物細胞に広く見られるが、肝細胞ガン、肝硬変ではその量が増加していることが知られている(2)
    これまで、コアフコース糖鎖の機能を知るために、Fut8ノックアウトマウスを用いた研究がおこなわれてきた。Fut8ノックアウトマウスは非常に重篤な発育遅延が観察されており、肺気腫様の障害を示し70%が生後3日以内に死亡することが知られている。これはTGF-β1レセプターの活性とシグナリングに影響を与えているためである(3)
    コアフコース糖鎖の機能をさらに解明するためにも、Fut8が認識するタンパク質を知ることは重要である。そこで今回、コアフコース含有糖鎖の機能をさらに知るために、野生型とネガティブコントロールとしてFut8ノックアウトマウスのMEFを用い、キャリアタンパク質の同定を試みた。
    まず、両MEFのライセートと培養上清を用いて、コアフコース認識レクチンである、LCAのアフィニティカラムクロマトグラフィーを行った。SDS-PAGE後のレクチンブロットの結果、通常のMEFに存在しFut8欠損細胞には存在しないシグナルを複数見出したので、これらのシグナルに相当するゲル部分を切り出し、in-gel消化を行った後、MALDI-MSによってコアフコース含有糖鎖のキャリアタンパク質の同定を行ったところ、リソゾーム局在酵素や細胞外マトリックス構成タンパク質などを見出した。
  • 菅谷 昇義, 池田 和由
    セッションID: P-61
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    Modulating protein-protein interactions (PPIs) by small chemicals is an attractive strategy for the treatment of human diseases. To date, over 30 PPIs have been already studied as targets for small chemicals. However, only the limited number of target PPIs and small chemicals (drug candidates) inhibiting them have proceeded to clinical phase of drug development process, while most of the target PPIs and drug candidates have dropped off from the drug development process. Novel methodologies to find druggable PPIs being highly probable to proceed to the clinical phase are greatly needed for the development and success of PPI-inhibiting drugs.

    We have previously proposed an in silico integrative approach to efficiently discover druggable PPIs from human PPIs [1]. Our approach has been further developed to integrate a supervised machine-learning method, support vector machine (SVM), for the purpose of more objective assessment of the druggability of PPIs [2]. In the previous studies, we assessed the druggability of a PPI by comparing various attributes (associated with 3D structure and biological function of interacting proteins and related to drugs/chemicals binding to the proteins) of the PPI with those of already-studied target PPIs. In this study, we re-assess the druggability of PPIs, especially from a structural point of view, based on the comparison with the proteins targeted by the FDA-approved drugs. Shape and physicochemical properties of the drug-binding pockets on the protein surface are compared with the pockets located on PPI interface by using the SVM-based method. We will report the results and implications of our studies in the meeting.

    References:
    [1] Sugaya et al. (2007) BMC Pharmacol 7:10.
    [2] Sugaya and Ikeda (2009) BMC Bioinformatics submitted.
  • 今泉 紀明, 堀越 朋恵, 中山 孝, 大津 昌弘, 赤間 邦子, 中村 愛, 戸田 年総, 近藤 靖, 鈴木 豊, 井上 順雄
    セッションID: P-62
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    Understanding neurogenesis is valuable for the treatment of nervous system disorders. To gain more insight into the induction from monkey embryonic stem (ES) cells to neural cells, we sought to identify proteins associated with differentiation from the ES cells into neurons via neural stem cells by Neural Stem Sphere (NSS) method. Protein extracts of the cells in each stage (the ES cells, neural stem cells and neurons) were subjected to two-dimensional gel electrophoresis (2-DE), and identified by peptide mass fingerprinting. We found altered expression of proteins related to axon pathfinding, fatty acid binding protein-related proteins, and some proteins, which were different from those found previously in mouse. Expression levels of mRNA were determined by realtime RT-PCR. Our results provide new insight into the molecular events associated with the differentiation from monkey ES cells into neurons.
  • 中村 愛, 森澤 拓, 戸田 年総
    セッションID: P-63
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    【目的】酸化ストレスは老化の一要因である。我々はドパミン代謝能を持つヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞を用いて6-hydroxydopamine(6-OHDA)による酸化ストレス負荷における蛋白質の変化の網羅的解析を行ってきた。昨年度本大会で、できるだけ生理的な条件下での蛋白質の変動を探るためblue-native 電気泳動(BN-PAGE)法の応用について報告した。今回は早老症Hutchinson-Gilford症候群の原因遺伝子LMNAの産物であるLamin A/Cの酸化ストレス負荷における挙動を中心に報告する。
    【方法】SH-SY5Y細胞に6-OHDAを添加して培養し、経時的に細胞を採取した。細胞内蛋白質をBN-PAGE用のsample bufferで抽出後、BN-PAGEを行った。lamin A/Cの変化はWestern blottingにより検討した。BN-PAGEのlaneを切り取り還元SDS化し、二次元目のSDS-PAGEを行って蛋白質複合体の構成成分を分離した。それらの蛋白質スポットをインゲル消化しAXIMA-CFR質量分析計を用いてMS測定しペプチドマスフィンガープリンティングにより蛋白質を同定した。カルボニル化蛋白質はWestern blotting後のPVDF膜をジニトロフェニルヒドラジン (DNPH) 処理した後、抗DNP抗体を用いて検出した。
    【結果】1-D BN-PAGE 後のWestern blotting の結果、lamin A/C抗体陽性のバンド(300kDa)は酸化ストレス負荷により増加することがわかった。2-D BN/SDS-PAGEにより、300kDa バンドの主たる蛋白質はHsp90であることが明らかになった。細胞全体のlamin A/Cの発現量の酸化ストレス負荷による変化は認められず、Hsp90結合型のlamin A/Cがストレス応答により増加することがわかった。さらにこのlamin A/Cはカルボニル化を受けていることが示唆された。
  • 横山 亮, 田口 歩, 柳澤 聖, 柴田 猛, 青島 理人, 工藤 憲一, 津幡 卓一, 安東 純江, 高橋 隆
    セッションID: P-64
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    Lung cancer is the leading cause of cancer death in most economically developed countries. Recently amplification and overexpression of the miR-17-92 microRNA (miRNA) was found in lung cancer. This miRNA has been suggested to play a role in B-cell lymphoma development. Therefore the miR-17-92 overexpression in human cancers may have important roles in cancer development, but only a few targets for the miR-17-92 cluster have been identified thus. In this research study, we investigated target proteins for miR-17-92 using iTRAQ® reagents followed nano-LC-ESI-QqTOF mass spectrometer. 479 proteins were identified and quantified using ProteinPilotTM 2.0 software. The number of proteins which was more than a 2-fold down-regulation in the miR-17-92 transfected clone was eight. Four of the eight proteins with significant down-regulation, PGK1, ENO2, ENO1, TP11, are in the glycolytic pathway and six of the eight proteins lacked potential target sites for the miRNAs comprising the miR-17-92 cluster. Down-regulation of multiple proteins lacking potential target sites for miR-17-92 suggested the possibility that miR-17-92 could target a key transcription factor that commonly regulates their expression. We consequently discovered that HIF-1α, a well-known molecule regulating the glycolytic pathway, was computationally predicted to be a target for multiple miRNAs comprising the miR-17-92 cluster. Significant down-regulation of HIF-1α protein in BEAS2B cells was confirmed by Western blot analysis.
  • 福田 哲也, 野村 将春, 藤井 清永, 濱崎 裕子, 川村 猛, 比毛 浩, 板東 泰彦, 加藤 治文, 西村 俊秀
    セッションID: P-65
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    MRM定量アッセイは、プロテオミクスにおける“Proof-of-Concept”の新手法として注目されている。この方法は、数十アトモルでの高感度検出を可能とし、多検体のターゲットを同時に定量解析することが出来る極めてスループットの高い測定方法である(Fig.1)。我々研究グループではMRMにより大細胞神経内分泌肺癌LCNECを区別できる新規マーカーを同定・検証したので報告する。LCNECは2004年にWHOの肺癌組織分類の改訂により、非小細胞癌の1亜型として加えられた。しかし、典型的非小細胞癌LCCと比較して予後が非常に悪い。むしろ、もともと神経内分泌系である小細胞癌SCLCとの類似性が指摘されている。現在LCNECの治療方針につき、小細胞癌か非小細胞癌かのどちらの治療方針が適切か大きな議論がなされている。しかしLCNECは生検あるいは細胞診による診断が難しいことが知られており、まずは客観的に判定できるマーカーが熱望されている。今回サンプルとしてホルマリン固定パラフィン包埋組織サンプルを用いLCNEC4検体、LCC5検体、SCLC5検体の特定癌細胞のみをLMDによって回収し、Liquid Tissue® MS prep-kitによりタンパク質を抽出した。探索的プロテオーム解析によって見出した44のマーカー候補のMSMSフラグメントスペクトルからMRMメソッドの構築を行い(Fig. 2)、MRM測定を実施した。結果、新規に20以上の変動を示すプロテインを見出したがそのうちある3種類のマーカーを組み合わせることで明確にLCNEC、LCC、SCLCを区別できることが明らかになった。また当研究グループが予後診断マーカーとして提唱しているあるプロテインはLCNEC、SCLCで有意に変動し既得データを裏付ける結果を示していた[1]。また神経内分泌系肺癌のマーカーとして既知のsecretagoginにおいてもLCNEC、SCLCにおいて特異的に変動を示していた。[1] T. Nishimura, M. Nomura, et. al. MRM Assay for Stage-related Proteins upon Non-metastatic Lung Adenocarcinoma. J. Proteome Res. (2009) Revision submitted on April 18.
  • 久我 佳菜子, 曽川 一幸, 佐藤 守, 川島 祐介, 松下 一之, 小寺 義男, 朝長 毅, 前田 忠計, 野村 文夫
    セッションID: P-66
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    【背景】 本邦における原発性肝細胞癌の8割はC型肝炎ウイルスによる慢性的な肝障害に起因しており、C型肝炎ウイルスへの推定罹患者数は200万人と言われている。肝細胞癌に特異性の高い腫瘍マーカーとしてAFP・AFP-L3・PIVKA-_II_が有用とされているが、腫瘍マーカー単独での早期癌の検出率は非常に低く、確定診断には超音波検査等の画像診断や、患者への負担の大きい肝生検を必要としているのが現状である。超音波検査による小病変の拾い上げは検者の熟練度に左右されやすく、絶対的なものではない。したがって早期診断、治療方針の検討を行う上で、侵襲性が低く、簡便である血液を用いた検査として、高感度な新規腫瘍マーカーの発見が望まれる。
    【方法】 血清プロテオーム解析の問題点として、「存在量の多いタンパク質の除去」・「キャリアータンパク質に結合しているタンパク質の抽出」等が挙げられる。この問題点を解決した方法として、北里大学で開発されたペプチド抽出法(K法)がある。K法はアセトン沈殿法や限外ろ過膜法に比較して低分子量タンパク質及びペプチドの抽出効率及び再現性に優れ、またアルブミン等のキャリアプロテインに結合している成分の抽出も可能にしている。 C型肝炎ウイルス感染をバックグラウンドに持つ原発性肝細胞癌患者及び肝硬変患者血清と健常者血清各5例に応用した。 血清中のペプチド成分を抽出し、逆相HPLCで分画後、各フラクションをMALDI-TOF MS(AutoFlex II, Bruker Daltonics Inc)で比較解析した。
    【結果・考察】 原発性肝細胞癌患者血清中で有意に増大しているピークを3本検出し、そのうち2ピークの同定に成功した。2ピークは同一のタンパク質の断片であり、肝細胞癌患者血清での報告がなされていないペプチドである。本ペプチドは原発性肝細胞癌の診断の新たな指標になる可能性があり、残り1ピークの同定と平行して、今後多検体での検討を進めていく。
  • 阿部 康人, 鍋田 基生, 原口 竜摩, 植田 規史, 木藤 克己
    セッションID: P-67
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    教室では、新たな血清学的診断法確立の目的でTOF-MSを利用し、疾患特異的自己抗体性バイオマーカーの検索を行っている。これまで膵癌と口腔扁平上皮癌を標的として患者血清を集め、標的細胞に膵癌あるいは口腔扁平上皮癌細胞株等を用いて2次元電気泳動法+ウエスタンブロッティング法にて患者血清中の自己抗体認識スポットを検出した。CBB染色ゲルより反応スポットを切り出し、トリプシン処理ののちMS解析して蛋白同定を行った。その結果、膵癌においては抗phosphoglycerate mutase I自己抗体ならびに抗triosephosphate isomerase I自己抗体が血清診断マーカーとして有用である可能性が示された。同様に、口腔扁平上皮癌においては抗sideroflexin 3自己抗体が新たな癌の血清診断マーカーとなりえることが示された(Proteomics Clinical Application 2, 517-527, 2008)。免疫組織化学法にて膵癌血清において高反応を示した自己抗原2種につき組織局在を検討すると、膵癌癌細胞自体において比較的高い発現性が認められ、癌細胞増殖活性とこれら抗原発現性との関連が示された。一方、線維芽細胞株を標的として得られた口腔扁平上皮癌の自己抗原sideroflexin 3は組織では癌細胞よりもむしろ周囲の癌関連性線維芽細胞に高発現しており、癌が間質へ浸潤する際に周囲の線維芽細胞の破壊が起こってsideroflexin 3蛋白が線維芽細胞から放出され、その結果自己抗体反応が起こる可能性が示された。最近、子宮内膜症の血清診断法確立のため本法を応用し、これまでに3種類の自己抗体を同定した。そのうちの一つである抗αエノラーゼ自己抗体は子宮内膜症診断において、CA125とほぼ同等の感度と特異度を示した。免疫組織染色の結果、内膜症組織でαエノラーゼが比較的高く発現することも明らかとなった。このことから、月経周期に応じて脱落する内膜症組織中からのαエノラーゼ流出によって抗αエノラーゼ自己抗体が上昇するというメカニズムが示唆された。以上のように、自己免疫疾患のみならず癌、子宮内膜症などにおいても疾患特異的自己抗体の存在が示されており、疾患特異的自己抗体プロテオーム(autoantibodiome)と呼ぶべき概念が確立できると思われた。
  • 松本 俊英, 小畠 陽子, 小林 信, 影山 泰平, 岡安 勲, 佐藤 雄一
    セッションID: P-68
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 肺癌は難治性癌の代表例であり、日本における男性癌死の第1位、女性でも第2位を占めている。その中でも神経内分泌癌である小細胞癌(SCLC)と大細胞神経内分泌癌(LCNEC)は5年生存率が他の肺癌に比して著しく低く、予後の非常に悪い癌である。臨床における神経内分泌肺癌の診断にはNSEやproGRPが用いられているが、Stage I, IIといった早期癌における陽性率35~45%と低い上に、LCNECに対する特異的な血清診断マーカーは未だない。本研究は、神経内分泌肺癌の大幅な予後の改善を目的とした、早期血清診断マーカーの獲得を目指す。そこで、癌患者の免疫系が腫瘍関連抗原に対して早期の段階で自己抗体を作り出す点に着目し、神経内分泌肺癌患者血清中に特異的に流出する自己抗体の同定を行った。 【材料と方法】 4種の肺癌細胞株(LCN1(LCNEC由来), N231(SCLC由来), RERF LC-AI(扁平上皮癌: SCC由来), A549 (腺癌: AD由来))を用いて、その可溶化物を2次元電気泳動し、神経内分泌肺癌患者血清を一次抗体とした免疫ブロット法を行う。神経内分泌肺癌細胞株(LCN1, N231)のスポットにだけ反応したタンパク質のスポットを切り出し、トリプシン消化後MALDI-TOF-MSにて質量分析を行い、自己抗体と反応したタンパク質を同定する。 【結果と考察】 神経内分泌肺癌細胞株の2-DE及び患者血清を一次抗体とした免疫ブロット法により、現在までに10症例患者血清中7種の抗原タンパク質が同定された。ELAVL3は別名HuCと呼ばれる分子量34~43kDaの神経系ヌクレオチドタンパク質であり、抗HuC自己抗体はすでに腫瘍随伴性神経症候群(PNS)を伴ったSCLC患者血清中に認められている。HuCを含めたHuファミリーは神経系の発生と維持に重要な役割を果たすと考えられているため、SCLCの診断や原因の究明において有用であるとされている。hnRNP A2/B1は中枢神経系小細胞の細胞質やグリア細胞の核に存在し、mRNA前駆体と直接結合し、遺伝子発現の調節を行う。リウマチ性関節炎や全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患患者血清中に、抗hnRNP A2/B1自己抗体が高率に検出される。また、多種の腫瘍において発現が亢進するとされ、肺癌を含め早期診断マーカーとしての臨床応用の試みもなされている。  このように、癌患者血清を一次抗体とした免疫ブロット法により、高率に新規の腫瘍関連分子やPNSに対する自己抗体の同定ができた。同大学医学部B倫理委員会への申請・承認の下、肺癌患者血清300例を収集済みであり、今後HuCのような神経内分泌腫瘍に特異性の高い自己抗体が同定される可能性は十分に高いと考えられる。
  • 金城 永幸, 小板橋 賢一郎, Yang Xiang, 永井 宏平, 黒川 真奈絵, 岡本 一起, 有戸 光美, 増子 佳世, 遊道 和雄, ...
    セッションID: P-69
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    【目的】 現在、IgA腎症の確定診断は、腎炎症候に加え、腎生検でのメサンギウムにおけるIgA免疫複合体の沈着の確認である。しかし、腎生検は患者の身体的、精神的な苦痛を伴う。そのため、より簡便で侵襲性の低い診断方法の確立が求められている。今回、IgA腎症の診断マーカーとなりうる血中ペプチドの探索を目的として、未治療のIgA腎症患者の血清を用いた網羅的なペプチドミクス解析を行った。【方法】26名のIgA腎症患者および25名の健常者の血清から、弱陽イオン交換磁性ビーズ(MB-WCX, Bruker Daltnics社)を用いてペプチド(~7kDa)を回収し、MALDI-TOFによって検出した。次に、検出されたペプチドイオンのピーク面積データを用いて、Orthogonal-partial-least-squares判別分析(OPLS-DA)を実行し、IgA腎症患者群と健常人群を判別するモデルの作成を試みた。作成されたOPLD-DAモデルの判別予測力は、7分割の交差検定にもとづいたQ2値によって評価した。[結果と考察] MALDI-TOF解析によって、IgA腎症患者および健常人の血清から97本のペプチドが検出された。これらのペプチドの定量情報を用いてOPLS-DA解析を試みたところ、IgA腎症患者群と健常人群を完全に分離する予測力の高い判別モデルが作成された(R2 = 0.92, Q2 = 0.861)。97本のペプチドの内、IgA腎症患者群で有意に増加する5本 (m/z 2951.24, 5907.91, 5865.34, 3240.43, 2659.80, p < 0.01)と、有意に減少する1本(m/z 1778.80, p < 0.01)のペプチドが、両群の判別に特に有効であることが示され、この6本のペプチドの定量データのみを用いても、十分に予測力の高い判別モデルを作成することが出来た(sensitivity = 0.96, specificity = 0.96, R2 = 0.807, Q2 =0.790)。これら6本のペプチドはIgA腎症の診断マーカーとして有用であると考えられた。現在、これらマーカー候補ペプチドの同定および、IgA腎症の病態との関わりについての解析を進めている。
  • 斎藤 達也, 川島 祐介, 相野谷 学, 丸橋 正弘, 南田 諭, 大草 洋, 松本 和将, 馬場 志郎, 佐藤 雄一, 前田 忠計, 小寺 ...
    セッションID: P-70
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    膀胱癌は罹患者、死亡数ともに尿路がんの中で最も多い。さらに悪性度の高いものは転移が早く、悪性度の低いものであっても尿路内再発を繰り返し悪性度の高いものに変化する可能性がある。しかし現在、確実な診断法は膀胱内視鏡検査のように患者に負担がかかり、苦痛を伴うものに限られている。そのため、浸襲が小さく簡便に検査できる血中診断マーカーを発見できれば非常に有用である。 本研究では分子量2万以下の低分子量タンパク質やペプチド(以下ペプチドと総称する)を対象として、膀胱癌診断マーカー候補ペプチドの探索を行った。近年の研究では各種癌ごとに特異的なプロテアーゼを分泌することが報告されており、これら特異的プロテアーゼにより切断された血清中のタンパク質断片を検出することで、特定の癌のみを診断する特異度の高い診断マーカーとなる。さらに、血清中のペプチドにはホルモン、サイトカインなど細胞間、組織間の情報伝達など重要な働きを担う物質が含まれているため、分析することができれば発症メカニズムの解明や医薬開発のための重要な情報を得ることが期待される。 しかし、血清は総タンパク質の99%をアルブミン、IgGなどの22種類の高存在量タンパク質が占めている。そのため、残りの1%に含まれるペプチドを詳細に分析するためには、高存在量タンパク質を除いてペプチドを抽出する技術が必要不可欠である。しかし、アルブミンなどのキャリアタンパク質と結合しているペプチドが存在するため、従来法による高存在量タンパク質の除去では同時にこうしたペプチドも同時に除去されてしまう可能性が高い。 当研究室ではこれまでに血清中からペプチドを高効率に、再現性良く抽出する方法を開発し、逆相HPLCと、MALDI-TOF-MSと組み合わせて疾患特異的ペプチドの探索を行ってきた。この分析法は既に大腸癌患者血清の分析に応用され、診断マーカー候補ペプチドの発見に成功しており、その有用性は既に実証されている。 本研究では、この分析法を用いて膀胱癌患者の術前、術後、健常者の血清を比較解析した。その結果、複数の診断マーカー候補ペプチドの探索に成功した。
  • 梅村 啓史, 外川 明, 曽川 一幸, 西村 基, 松下 一之, 小寺 義男, 野村 文夫
    セッションID: P-71
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    胃癌は現在、日本における年間死者数が約5万人であり、臓器別癌死亡者数の第2位を占めている。また、その中でも特にスキルス胃癌のように予後不良なタイプを早期に発見することは重要な課題である。そこで本研究では胃癌の低侵襲な早期診断法の確立を目指し、ClinProtTM System (Bruker Daltonics社)を用いたMALDI-TOF MS profilingによって血清のペプチドーム解析を行い、胃癌の血中バイオマーカーを探索した。 検体は君津中央病院において手術が施行された胃癌患者84症例の術前後のペア血清、および正常人コントロール検体84人分の血清を使用した。磁気ビーズはWCX、IMAC-Cu (Bruker Daltonics社)の2種類を使用し、マトリックスにはCHCA(&alpha-cyano-4-hydroxycinnamic acid)を用いた。ビーズ処理およびAnchorChip Target plateへのスポッティングにはClinProtRobotを使用した。測定およびデータの解析にはautoflexII TOF/TOF MSおよびClinProTools ver.2.1を用いた。 解析の結果、複数のピークを診断マーカー候補として検出することが出来た。本発表ではその詳細を報告する予定である。
  • 堀江 正樹, 川島 祐介, 中 彩乃, 小寺 義男, 飯田 薫子
    セッションID: P-72
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    競技スポーツでのドーピング技術は時代と共に進化しており、現在では、遺伝子を直接操作する遺伝子ドーピングが新たな問題となっている。遺伝子ドーピングが危惧される物質にErythropoietin (Epo) がある。造血ホルモンであるEpoは、赤血球造血を促進して酸素運搬能を高めることにより持久力を亢進させる。Epoの遺伝子発現は、転写因子であるHIF (hypoxia inducible factor)と、GATAにより発現調節を受けている。現在、このEpo発現調節機構を応用し、転写レベルでEpo遺伝子発現を促す遺伝子ドーピングの開発・使用の可能性が危惧されている。しかしながら、このドーピングに対する検出方法は確立されていない。 我々は上記Epo発現調節機構を利用し赤血球造血を促す経口貧血改善薬K-11706 (KOWA) とFG化合物 (Fibrogen)投与マウスをそれぞれGATA抑制操作モデルマウス、HIF活性化操作モデルマウスとして使用し、まず始めにマウス骨髄細胞を用いて遺伝子レベルのバイオマーカー探索を行った。その結果、薬剤投与特異的に発現が変化するOsm、Lpo遺伝子を発見し、これら遺伝子のバイオマーカーとしての使用の有効性を示唆した。しかしながら、実際の検査では選手の骨髄細胞を採取することは困難であり、検査の実用性と簡易化が求められる。そこで今回、血漿タンパク質に注目し、マウス血漿のプロテオーム解析を行い、薬剤投与特異的に変動するタンパク質の探索を行った。その結果、K-11706 、FG化合物投与特異的に存在量の変化する数種類のタンパク質の検出に成功した。さらに、ウエスターンブロッティング法により、これらのタンパク質の変動を別個体の薬物投与マウス血漿で評価し、今後バイオマーカー候補として、Epo遺伝子ドーピングの検出および、HIF、GATA標的薬剤共通の検出方法へ応用できる可能性を示唆した。
  • 岩田 喬子, 小栗 エリ, 榊原 陽一, 西山 和夫, 水光 正仁
    セッションID: P-73
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    【目的】我々の体は常に様々なストレスにさらされており、フリーラジカルや活性酸素種などによる酸化ストレスがガンや動脈硬化など生活習慣病や老化と深く関係していることが明らかとなっている。そして現在、抗酸化作用を持つ食品が、酸化ストレスにより起こる身体の不調や疾患を予防することで注目されている。本研究では、酸化ストレスを与えた培養細胞において、特異的に変動する酸化傷害タンパク質を探索した。そしてこれらの酸化傷害タンパク質を指標として、食品成分や食品中の抗酸化物質が酸化ストレスを与えた培養細胞に及ぼす影響を解析し、その作用や機構を解明することを目的とした。 【方法・結果】酸化ストレスとして過酸化水素を処理したヒト肝がん細胞HepG2の細胞抽出液をサンプルとした。サンプルの解析は、タンパク質中のリジン残基の側鎖アミノ基を特異的に標識する励起波長の異なる2種類の蛍光色素にてラベルし、蛍光ディファレンシャル二次元電気泳動で行った。その後、それぞれの蛍光色素に適した波長で泳動パターンを可視化し、イメージ解析ソフトによって解析することにより、酸化ストレスによって特異的に変動するスポットを検出した。検出したタンパク質スポットは、MALDI-TOF型質量分析装置を用いたペプチドマスフィンガープリント法により同定した。これら同定された酸化傷害タンパク質のうち、過酸化物質消去酵素の一つであるPeroxiredoxin1は、等電点の異なる酸性型と還元型の2つのスポットとして検出され、酸化ストレス処理時間の経過によって、これら2つのスポットが特徴的な変動をしていることが確認できた。現在、このPerpxiredoxin1を指標として、ウコンに含まれるクルクミンやブドウの皮やワインに含まれるレスベラトロールなどの食品成分や食品中の抗酸化物質が酸化ストレスを与えた培養細胞に及ぼす影響を検討している。 尚、本研究はJST宮崎県地域結集型共同研究事業により推進された。 
  • 石川 伸一, 大畑 素子, 有原 圭三, 伊藤 良
    セッションID: P-74
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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     2次元電気泳動(2D-PAGE)と質量分析を用いたプロテオーム解析技術は、生命科学の分野で、組織や細胞成分内のタンパク質の全体的な変化を調べるのに大いに役立っている。近年では、食品タンパク質全体を鑑別するのに役立つ、新しいプロテオミクスの試みが行われている。私達は、食品科学分野におけるプロテオミクスの今後の利用可能性に注目し、本研究では貯蔵中における牛肉および鶏卵卵白の経時的プロテオーム解析への利用性を調べることを目的とした。
     牛肉試料は、と殺後の大腿二頭筋から採取した。食肉試料は、4°Cで、1、10、15、23、30日間、保存した。産卵直後の鶏卵は、40°Cで0日、1日、3日、7日間保存した。タンパク質の1次元目の分離にはpH3-10のIPG(固定化pH勾配ゲル)ストリップを、2次元目の分離には10-20%グラジエントのSDS-PAGEを用いた。2D-PAGE後、ゲル中の総タンパク質とリン酸化タンパク質を高感度の染色キットを用いて検出した。
     2D-PAGE図の結果、貯蔵にともない、食肉の可溶性画分中に含まれる分子量38 kDa、等電点7.8-9.5のスポット群が10日まで徐々に減少し、15日目以降にはほとんど消失することが明らかとなった。ウェスタンブロッテングにより、そのスポット群はグリセルアルデヒド 3-リン酸脱水素酵素(GAPDH)であることが示された。また、各貯蔵期間の卵白を2D-PAGEに供した結果、それぞれ200以上のスポットが検出された。0日目と7日目の電気泳動図を比較した結果、時間の経過とともに、オボアルブミン(分子量45kDa)のスポット群の等電点がよりアルカリ側にシフトすることが明らかとなった。これは、リン酸化タンパクに特異的な染色によって、オボアルブミンの一部が脱リン酸化した結果であることが示唆された。さらに、等電点6.0~6.5,分子量35kDa付近のスポット群が貯蔵時間の経過とともに出現した。これは、LC/MS/MSによるペプチドマスフィンガープリンティングにより、オボトランスフェリンの分解物であることが明らかとなった。今後、より詳しいプロテーム解析を行うことによって、最終製品の品質を予測できるバイオマーカーなどを見つけることができると思われる。
  • 池上 春香, 園 陽平, 永井 宏平, 吉廣 卓哉, 井上 悦子, 小林 直彦, 松橋 珠子, 大谷 健, 中川 優, 森本 康一, 松本 ...
    セッションID: P-76
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    背景 : 近年、農学分野においてもプロテオミクス研究が進展している一方、家畜の育種・生産分野では、家畜の育種選抜・生産や病気を診断するバイオマーカーの探索はほとんど実施されていない。我々は、ウシの経済形質(枝肉重量,ロース芯面積,BMS No.(脂肪交雑基準)など)に関与するバイオマーカーの探索を目的として、10944頭のウシの生物情報(血統や枝肉形質43項目)をデータベース化するとともに、ウシ白色脂肪組織を用いた大規模プロテオーム解析システムを構築した(文献[1])。
    方法 :データベースに登録したウシから任意に220個体を抽出し、白色脂肪組織に発現しているタンパク質について、二次元電気泳動を用いた発現量解析とMALDI-TOF/TOF型質量分析機(4700, ABI)を用いたタンパク質の同定をおこなった。プロテオーム解析データはLIMSソフトウェアBIOPRISM(NEC)で一元管理し、ウシの生物情報43項目とプロテオーム解析情報(879個のタンパク質発現量)を用いて統計解析をおこなった。
    結果 : ウシ白色脂肪組織のタンパク質から、詳細なMS/MSスペクトルの解析により2種類のAnnexin A5アイソフォーム(CaBP33, CaBP37)を検出・同定した。CaBP33とCaBP37両方を発現する個体群(96頭),CaBP33のみを発現する個体群(106頭),CaBP37のみを発現する個体群(18頭)に分類した。各群間の生物情報を比較したところ、月齢には優位な差が見られないのに対し、枝肉重量とロース芯(最長胸筋)面積について差が見られ、CaBP33とCaBP37両方を発現する個体群がどちらか一方を発現する個体群よりも小さい傾向にあった。また、分類した各群間のAnnexin A5以外のタンパク質発現量を比較したところ、28スポットのタンパク質発現量に差が見られた(p<0.05)。さらに、200検体のAnnexin A5発現パターンで分類しない個体群から枝肉重量の大きい個体群(>平均値+標準偏差の個体,n=27)と小さい個体群(<平均値-標準偏差の個体,n=26)を抽出し、各タンパク質の発現量を比較したところ、44スポットについて有意差があり(P<0.05)、5スポット2種類のタンパク質についてAnnexin A5アイソフォーム発現パターンで分類した群間で発現量に差のあったタンパク質と共通していた。各タンパク質のバイオマーカーとしての検証をおこなうとともに、経済形質の予測診断に最適なタンパク質バイオマーカーの組み合わせに関して検討している。
    文献[1] K. Nagai et al., Animal Sci. J. Vol.79, No.4, 2008
  • 永井 宏平, 池上 春香, 木村 創, 四ツ倉 典滋, 森本 康一
    セッションID: P-77
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    [背景と目的] 近年の地球温暖化により、多くの生物の勢力地図が変わろうとしている。日本沿岸では各地で磯焼けにともなう種多様性の消失が進んでおり、温暖化対策が急務である。そのために我々は、高温耐性をもつコンブ目海藻の分子機構をプロテオーム解析により解明することを目的とした。またコンブ目海藻は多くがゲノム未解読であり、そのような生物のプロテオーム解析のモデルケースとしての手法確立も目指した。特に本発表では、高温ストレスで発現量が変化するタンパク質の同定を試みたので報告する。
    [材料と方法] コンブ目海藻カジメ(Ecklonia cava)とクロメ(Ecklonia kurome)の葉状部に含まれるタンパク質をエタノール/フェノール法により抽出し、二次元電気泳動(pI4-7、10% polyacrylamide gel、タンパク質量 200 μg)により分離した(文献1)。タンパク質115スポットをゲル内トリプシン消化し、MALDI-TOF/TOF型質量分析計によりMSと MS/MSスペクトルを得た。MS/MS スペクトルからアミノ酸配列を推定し(De novo sequence)、その推定配列と相同性をもつタンパク質をMS Blastにより検索した。さらに、10°C,20°C,30°Cで培養したカジメ個体のタンパク質を抽出して二次元電気泳動ゲルに展開した。各処理区でタンパク質発現量を定量比較し、増減のあったタンパク質を同様に決定した。
    [結果] 画像解析により、各二次元電気泳動ゲルから約700スポットをCBB染色により検出した。115スポットのタンパク質をMascot検索とMS Blast検索した結果、96スポット(84%)のタンパク質を同定することに成功した。高水温で誘導されるタンパク質はHSP70, HSP90, vanadium dependent bromoperoxidase (vBPO)などで、その発現量は増加していた。よって、コンブ目海藻にも高等植物と同様のHSPファミリータンパク質による高温耐性機構が考えられ、さらにvBPOなどの海藻特異的なタンパク質が強く関与する特異な高温耐性メカニズムを有する可能性が示唆された。
    文献 1) K. Nagai, et al., Electrophoresis 29, 672-681 (2008)
  • 石田 洋一, 竹下 正彦, 赤松 絵奈, 大森 裕介, 須藤 正幸, 宇都 浩文, 坪内 博仁, 片岡 寛章
    セッションID: P-78
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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     C型肝炎ウイルス(Hepatitis C virus; HCV)は、慢性肝炎を引き起こすことで知られており、ウイルス感染後、長い歳月(20~30年)をかけて、慢性肝炎から肝硬変、更に肝細胞がんに進展する恐れがある。現在、C型肝炎治療は、インターフェロン・リバビリン併用療法が主流であるが、著効率は概ね50%前後しかなく、副作用も問題となっており、新しい予防・治療法が求められている。我々は、毎日摂取する食品の機能性を活用して、HCV感染が起因となって生じる肝細胞がんを予防することを目標に掲げている。
     HCVの増殖を抑制する高機能性食品を見出すため、HCV複製のin vitro系であるHCVレプリコン細胞を用いて、宮崎県産農作物283品種、1700サンプルからスクリーニングを行った。その結果、ラビットアイブルーベリー(Vaccinium virgatum Aiton)の葉に強力な抗HCV活性を認めた。更に、精製・同定を進めた結果、プロアントシアニジン(Proanthocyanidin; PAC)が活性成分であることを突き止めた。
     PACはポリフェノールの一種で、化学構造としては、カテキンのようなフラボノイドを基本骨格とした重合体である。単量体や2量体では抗HCV活性は認められなかったことから、重合することが活性発現に必要であることが分かったが、PACの標的分子も含め、作用機序は不明な点が多い。そこで、アフィニティクロマトグラフィーを用いてPAC標的蛋白質の同定を試みた。HCVレプリコン細胞抽出液に、PAC或いはカテキン(コントロール)を固定化した樹脂を処理し、結合蛋白質画分を得た。両画分を蛍光ディファレンシャル二次元電気泳動で比較し、PAC結合蛋白質画分で増加するスポットをPMF法で同定した。25スポットの同定に成功し、その多くは、mRNAの翻訳に関わるeukaryotic translation initiation factor 3(eIF3)構成蛋白質とheterogeneous nuclear ribonucleoproteins (hnRNPs)に分類され、RNAウイルスであるHCVとの関連性が示唆された。この事を確かめるため、同定蛋白質に対するsiRNAを用いてノックダウン実験を行なったところ、hnRNP A2/B1のノックダウンに伴い、HCV複製量が減少したことから、PAC結合活性を有するhnRNP A2/B1はHCV複製に必要であることが分かった。以上の結果、PACの抗HCV活性に関わる標的蛋白質は、hnRNP A2/B1である可能性が示唆された。現在、HCV複製におけるhnRNP A2/B1の関連性について、更に詳細な解析を進めている。
  • 神崎 浩孝, 大内田 守, 伊藤 佐智夫, 田丸 聖治, 花房 裕子, 清水 憲二
    セッションID: P-79
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】マイクロRNA(miRNA) は約20-23塩基の内在性のnon-coding RNAであり、その発現異常と癌との関連が示唆されている。中でもmiR-17-92 clusterは肺癌や悪性リンパ腫などにおいての過剰発現が報告されており、癌遺伝子様の機能を有していることが示唆されている。miRNAは標的とするmRNAの3’UTRの相補的な配列を認識し結合することにより、翻訳のプロセスを抑制的に制御するとされている。しかしながら、miRNAの直接的な標的に関する報告は少なく、miRNAが癌化に及ぼす影響は標的とメカニズムにおいて不明瞭であるといえる。今回我々は、肺癌におけるmiRNAの直接的な標的の同定を目的とし、肺癌培養細胞を対象に、2次元電気泳動によるディファレンシャル・ディスプレイと質量分析計を用いたプロテオミクス解析を行った。 【方法と結果】35種類の癌培養細胞に対してTaqman Real-time PCRを行うことによってmiR-17-92 clusterを高発現している肺癌培養細胞を2種類同定した(SBC-3, LK-79)。このうちSBC-3細胞に対しanti-miRNA locked nucleic acid (LNA)を用いてmiR-17-92 clusterの発現を抑制し、抑制効果と作用時間を検討した。anti-miRNA LNAの作用群と非作用群からタンパク質を抽出し、IPG Dry strip を用いた2次元電気泳動(2-DE)により分離を行った。SYPRO ruby protein gel stain(Invitrogen社)を用いて蛍光染色し、FLA-3000(FUJIFILM社)にて検出したゲルイメージ像について、画像解析ソフトPDQuest ver.8.0を用いてスポットの検出及び定量比較を行い、両群間のタンパク発現量の差を比較解析した。検出された2387スポットのうち、1866スポットが有効解析スポットであった。そのうち発現量に1.5倍以上の上昇が認められた347スポットのうち、液体クロマトグラフィー質量分析計;ナノフローLC/MS/MSシステム(Agilent社)を用いて解析を行い、112種類のmiR-17-92 cluster標的タンパク質候補を同定した。 【結語】miR-17-92 clusterを高発現している肺癌培養細胞株(SBC-3)に対するプロテオミクス解析によって、miR-17-92 clusterの標的となる可能性があるタンパク質を同定した。同定されたタンパク質についてその遺伝子の3’UTR領域におけるmiRNA標的配列の確認、Luciferase reporter assay、Western blottingを行うことでさらに解析を進めている。今回の検討によりえられた候補タンパク質の機能解析を進めていくことによって、miRNAが癌化に及ぼす影響とメカニズムの解明が期待できる。
  • 鈴木 祥夫, 横山 憲二
    セッションID: P-80
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】血管新生は癌の増殖と転移に密接に関わっていることから、近年、その分子生物学的研究が盛んに行われている。血管新生に関与する因子として、エフリン、アンジオポエチン、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)などが知られている。このうちVEGF はその中心に位置し、癌の増殖・転移、増殖性糖尿病性網膜症、慢性リウマチなどに深く関わっている。このため、その成果を医療や健康管理の現場で役立てるためには、VEGF を、簡便,迅速かつ長時間にわたりモニタリングする技術を確立しておくことが重要となってくる。
     本研究では、上記性能を有し、かつVEGF 検出に用いられている抗原-抗体反応の欠点である再利用性を補うために、VEGF 受容体のVEGF 結合部位から構成される新規蛍光ペプチドを系統的に設計・合成し、VEGF との相互作用について評価を行った。
    【結果と考察】PBS 緩衝液中において、ペプチド単独は弱い蛍光を発するが、ペプチドとVEGF を室温で混合すると、瞬時に蛍光強度の増加が観察された。これは、ペプチドとVEGF が複合体を形成することによって、蛍光発色団近傍の環境が疎水的になったためであると考えられる。検量線については、良好な直線関係が得られた(r2 > 0.998)。また、妨害物質(無機塩、還元剤など)の影響について検討したところ、これらの物質が過剰量に存在していても、反応に影響を与えないことが分かった。さらに、金薄膜上にコーティングした自己組織化単分子膜表面のカルボキシル基と、ペプチド中のリジン残基をカップリングすることによって、ペプチドを基板表面に固定化した後、ペプチドとVEGF との相互作用をSPR 法および蛍光法を用いて検討を行った。その結果、高い親和性と蛍光強度の増加が見られた。このような試薬を用いることにより、従来よりも手軽にかつ短時間でVEGF の分析を行うことが出来ると考えられる。
  • 佐々木 一樹, 里見 佳典, 高尾 敏文, 南野 直人
    セッションID: P-81
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    神経系・内分泌系細胞では、殆どの生理活性ペプチドは調節性分泌経路のシステムの中で前駆体蛋白質から切り出されて生成してくる。場合によっては特定のアミノ酸残基が活性発現に重要な修飾を受ける。このような一連の過程はプロセシングと呼ばれ、プロセシング酵素群の協調的な働きによって遂行される。前駆体蛋白質のプロセシング様式の解明は、未知の生理活性ペプチドの発見に重要な手がかりを与えるが、ゲノム情報のみに依存したプロセシングの推測には限界がある。一方、細胞が実際に産生するペプチドの一次構造を逐次解析するアプローチがこの問題に答えを与えることも期待される。これまでは、生理活性ペプチドを豊富に含む脳や内分泌器官が重点的に解析されてきた。しかし、プロセシングの結果生じてくるペプチドは、様々なプロテアーゼによって速やかに分解されていく。さらには、組織抽出の過程でプロテアーゼが活性化されて、細胞内の蛋白質が分解されてアーティファクトとなる。したがって、プロセシング酵素が作用した直後の分泌ペプチドを検出することは難しく、調節性分泌経路で生じているであろうプロセシングを追認することは事実上不可能だった。今回、分泌顆粒を有する培養細胞に短時間の脱分極刺激を与え、その培養上清中のペプチドの解析が、プロセシング研究に有効であることを報告する。一例として、甲状腺の内分泌細胞由来培養株を2分間刺激して、培地に放出されるペプチドを400同定したが、そのうち387ペプチドは、調節性分泌経路でプロセシングを受けることが文献的に知られている前駆体蛋白質由来であった。9種のペプチドホルモン・神経ペプチド前駆体蛋白質や、分泌顆粒のマーカー蛋白質である7種のグラニン類や、調節性分泌経路のプロセシング酵素(プロホルモン変換酵素1/3および2, アミド化酵素)が含まれていた。同定ペプチドの切断部位を調べると、373ペプチドは、これらのプロセシング酵素による切断を示唆するN端またはC端を有していた。詳細に検討すると、従来の生化学的研究で明らかにされているペプチドホルモン前駆体のプロセシング様式が反映されていることが判明した。従って、未知の生理活性ペプチドの探索に有益な知見を与えることが示された。
  • 山崎 千里, 村上 勝彦, 武田 淳一, 佐藤 慶治, 野田 彰子, 坂手 龍一, 羽原 拓哉, 中岡 源, 富所 布紗乃, 松矢 明宏, ...
    セッションID: P-82
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    H-Invitational Database (H-InvDB; http://www.h-invitational.jp/) はヒトの遺伝子と転写産物を対象とした統合データベースである。2004年4月20日の一般公開開始以来、約5年が経過した。この5年間にH-InvDB release 1.0, 2.0, 3.0, 4.0, 5.0, 6.0の6回のメジャーリリースを公開し、Evola(分子進化アノテーション), PPI view(ヒトタンパク質間相互作用), Gene family/group(遺伝子ファミリー)、H-DBAS(選択的スプライシング), VarySysDB(多型アノテーション)、LEGENDA(テキストマイニング)などのサブ・関連データベースを新規に公開するなど、精査されたアノテーション(注釈付け)情報の追加を行ってきた。
    最新のH-InvDB release 6では、合計219,765本のヒトmRNA配列をヒトゲノム(NCBI b36)上にマップし、43,159のヒト遺伝子クラスター(遺伝子座)を定義したアノテーション結果を、http://www.h-invitational.jp/より公開している。なお、H-InvDBのデータをプログラムから利用することができるwebサービスや、遺伝子構造・機能・発現・進化など16のコンテンツの任意の組み合わせで複合検索ができる検索ナビゲーションシステムも提供しており、さまざまな研究ニーズに応えることができる。

    参考文献:
    1.The H-Invitational Database (H-InvDB), a comprehensive annotation resource for human genes and transcripts. Yamasaki C, et al. (2008) Nucleic Acids Research 36, Database issue D793-D799. 2.Integrative Annotation of 21,037 Human Genes Validated by Full-Length cDNA Clones. T. Imanishi et al. (2004) PLoS Biology 2 (6), 856-875.
  • 森澤 拓, 中村 愛, 廣田 三佳子, 戸田 年総
    セッションID: P-83
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
     質量分析データの標準化は、多様な質量分析機器のデータをプロテオーム研究者間で共有化することを可能にし、データ内容の多面的な解析を促すことが期待されています。HUPOを中心におこなわれているデータの標準化作業は、機器メーカーによる質量分析手法の様々な先進的開発が、逆に標準化作業に技術的な問題与えています。一方、標準形式の質量分析データのビュワーをオープンソースで開発することは、研究者間でデータの共有化、データベース化を促進することができます。東京都老人総合研究所では、プロテオーム研究情報管理システム(LIMS)の開発の一部としてオープンソースのmzXML形式の質量分析データビュワー(TMIG mzXML Viewer)の開発を行いました。mzXML形式は、標準質量分析データ形式の一つです。様々な機器メーカーの質量分析装置から出力されるmzXML形式のデータには、MS/MS、LC-MASSなどの手法において、形式の利用方法が機器メーカーによって差異があるようでした。2008年よりHUPOは、新たな高度な標準形式としてmzML形式を策定しホームページ上でサンプルデータの配布が始めています。本報告では質量分析データビュワーを改良し、mzML形式のサンプルデータの取り込みを可能にしたので報告します。また、mzMLデータ形式とmzXMLデータ形式との比較、LIMSでの利用等について検討したので報告します。
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