日本プロテオーム学会大会要旨集
日本ヒトプロテオーム機構第7回大会
選択された号の論文の136件中51~100を表示しています
プロテオミクスの農学への応用
  • 堀田 雄大, 寺本 華奈江, 佐藤 浩昭, 吉川 博道, 細田 晃文, 田村 廣人
    セッションID: S8-2(P-75)
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    非イオン系界面活性剤アルキルフェノールポリエトキシレート(APEOn)は、最も主要な農薬補助剤の一つである。APEOnは、環境中の細菌によって容易に分解され、その結果として生じるアルキルフェノール(AP)、アルキルフェノールモノエトキシレート、アルキルフェノールジエトキシレートのような分解産物(代謝毒性物)は、エストロゲンおよびアンチアンドロゲン活性を示すため、多くの研究は、分析およびモニタリング手法の発展に焦点が当てられている。APEOnをエストロゲン様物質に分解する細菌が、日本の水田中に普遍的に存在しているという事実は、APEOn分解菌の迅速・簡便なモニタリング手法を構築することの重要性を示している。 最近、MALDI-MSによって観察されたリボソームタンパク質が微生物同定のためのバイオマーカーとして用いられている。50以上のサブユニットタンパク質によって構成されているリボソームタンパク質分子量を、MALDI-MSによって測定し、プロテオームデータベースに登録されているリボソームタンパク質のアミノ酸配列からの算出された計算分子量と比較する。未処理の細胞由来リボソームタンパク質は、30分以内にMALDI-MSによって迅速に同定できるため、このアプローチは、非常に効果的な方法と言える。これまでの研究で、本方法により、Lactobacillus plantarum, Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus, Streptococcus thermophilusおよびPseudomonas putidaのような細菌が、同定されている。 本研究では、APEOn分解能を有するPseudomonas属細菌のDNAジャイレースBサブユニット(gyrB)配列決定およびMALDI-MS測定し、それらの結果を比較した。この発表で、著者らは、環境微生物に対するリボソームタンパク質をバイオマーカーとしたMALDI-MS同定法の有効性について議論する。
  • 小松 節子
    セッションID: S8-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    農林水産業分野では、将来の地球的規模での食糧や環境問題の解決に大きく寄与するものとして、遺伝子組換えによる画期的な農業作物の開発が期待されている。この遺伝子組換え技術による新品種開発の鍵となる農業上重要な遺伝子の単離およびその機能解明・利用において、国際的に熾烈な研究競争が行われている。このような背景のもと、農業上重要な作物についてはゲノム塩基配列完全解読が行われている。本研究では、作物の重要形質の発現機構解明へ応用する目的で、プロテオームデータベースを構築した。 農業上重要なイネやダイズのさまざまな生育時期の各種器官あるいは精製細胞内小器官から抽出したタンパク質を二次元電気泳動し、二次元電気泳動画像に基づいてそれぞれのタンパク質を精製し、気相プロテインシーケンサーあるいは質量分析計でアミノ酸配列を決定した。そして、相同検索結果情報等をカタログ化してイネやダイズのプロテオームデータベースを構築し公開した。さらにイネやダイズの機能性タンパク質を検出するために、環境ストレス応答性タンパク質群の機能解明にプロテオームデータベースを利用した。その結果、イネの低温ストレスおよびダイズの冠水ストレス時において機能するタンパク質群を検出し機能を解析した。 ゲノム塩基配列解析研究が進んでいる作物に関しては質量分析計を利用して、プロテオーム研究が容易にでき、そして膨大なタンパク質情報を得ることができる。一方、ゲノム塩基配列情報が充実していない作物については、機能解明研究にプロテオーム解析技術がおおいに役立つ手法となる。その生物機能情報とともにデータベース化することにより、ゲノム機能の解明を加速させることが可能となる。さらにプロテオーム解析研究はタンパク質間相互作用研究と連動させることにより、生物機能解明に多いに役立つツールになる。本講演では、環境ストレスに関与する有用遺伝子の単離に役立ったプロテオーム研究例を紹介する。
  • 千国 幸一, 室谷 進, 大江 美香, 亀山 眞由美
    セッションID: S8-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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     家畜の骨格筋は食肉として利用される。しかし、食肉は骨格筋とイコールでなく、骨格筋から食肉へなるためには一定の過程を経なければならない。牛肉はと畜後に死後硬直が始まり、2日後が最も硬い状態となる。このときの牛肉は硬いだけでなく味も薄い。その後2週間程度の熟成期間をおくことで柔らかくておいしい牛肉が完成する。この間に牛肉のタンパク質は様々な変化を受ける。死後硬直はカルシウムイオンを引き金とする一連の筋収縮反応である。プロテオーム解析を行うと死後硬直時にタンパク質の分解は認められないが、ミオシン軽鎖のリン酸化変化を見ることができる。死後硬直の後に続く反応は内因性のプロテアーゼによる特定のタンパク質の分解である。食肉の熟成は筋タンパク質の分解による筋構造の崩壊現象であるが、全てのタンパク質が平等に分解するわけではない。多くのタンパク質を同時に見ることができるプロテオーム解析は熟成変化を追う上で非常に有効な手段となる。新鮮な牛肉と熟成後の牛肉を比較すると、筋構造タンパク質のなかでもデスミンとトロポニンTに変化の起きていることがわかる。筋肉を構成するタンパク質はどの筋肉部位でも同じわけではなく、多くのアイソフォームが存在する。動物の筋肉はアイソフォームの種類や存在割合を変化させることで収縮特性を制御している。遅筋型筋線維では遅筋型アイソフォームが発現し、速筋型筋線維では速筋型アイソフォームが発現している。このアイソフォームの違いは多くの筋構造タンパク質に存在し、プロテオーム解析でその違いを見分けることができる。また、筋構造タンパク質だけでなく筋肉に存在するミトコンドリアにも違いがあるのではないかと考えて解析を進めている。筋肉に存在するこれらのタンパク質の違いは調理の過程で生成する成分やテクスチャーに影響を与え、最終的には牛肉の味の違いとなって表れてくる。
  • 梶原 英之, 中村 匡利, 三田 和英, 古川 茂豊, 佐藤 親忠, 下村 道彦, 石坂 真澄
    セッションID: S8-5
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    カイコ(Bombyx mori L., p50)5齢3日目の主要組織(中腸、脂肪体、体液、中部絹糸腺、後部絹糸腺、マルピーギ体、卵巣、および精巣)を二次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動と質量分析からなるプロテオーム解析によって時系列的に調べた。二次元電気泳動ゲル上のタンパク質はそれぞれ切り取った後、4-ビニルピリジンによってアルキル化した。各スポットはトリプシン消化後、キャピラリーHPLCに接続したイオントラップ型質量分析装置でMS/MS分析した。以前の報告ではショウジョウバエゲノムおよびカイコのexpression sequence tagから得たアミノ酸配列データをタンパク質の同定のために使用したが、今回の分析ではカイコゲノム情報から得たアミノ酸配列を使用することができた。それによって大幅にタンパク質の同定率とその精度が向上し、正確なアミノ酸配列情報が得られたことによって、多くの修飾タンパク質の存在が示唆された。プロテオーム解析によって見出されたタンパク質を比較することにより、幾つもの組織特異的な遺伝子の発現が観察された。また、同一組織内でも各部から取った微小組織をMALDI-TOF型質量分析装置によって調べることにより、部位によって一定の量的偏在が見られることがわかった。これらの結果についてはMake 2DDB IIを用いてデータベース化し、農業生物資源研究所のホームページ上にてカイコゲノム情報と密接にリンクさせる形でカイコプロテオームデータベース(http://kaiko2ddb.dna.affrc.go.jp/)として公開した。このデータベースでは、4齢1日目から成虫になる直前までの21日間の変態中における個々のタンパク質の発現変動を二次元電気泳動によって時系列的に追跡したが、同一と思われるスポットについては可能な限りリンクした。カイコの変態に伴って1日の違いでもかなりのタンパク質の発現変動が見られた。
  • 榊原 陽一, 中原 幸太, 岩田 喬子, 竹中 聡, 西山 和夫, 水光 正仁
    セッションID: S8-6
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    【目的】近年、食品に含まれる機能性成分が注目されており、様々な試験法により食品の機能性が評価されている。我々は、プロテオーム解析を用いた食品機能性評価法の確立を目的に、はじめに手軽にできる蛍光ディファレンシャル二次元電気泳動法の確立を行った。次いで、この方法を用いて食品成分処理あるいは酸化ストレス処理により変化するバイオマーカータンパク質の探索を実施した。さらに、より多くの食品成分の機能性をまとめて解析することを目的に、プロテオームの発現データをもとにクラスター解析による、食品機能性成分の系統的分類を試みた。 【方法】蛍光ディファレンシャル解析は、蛍光色素として同仁化学研究所のIC3-OSuおよびIC5-OSuを用いた。これらの蛍光色素はスクシンイミド活性エステルを持ち、タンパク質中のリジン残基の側鎖アミノ基を標識する。これらの蛍光特性の異なる蛍光色素を用いて、プレラベルにて2種類の試料タンパク質を蛍光標識し、その後混合した分析用試料を二次元電気泳動的にて分離し、それぞれの蛍光波長でゲルイメージを取得した。蛍光スキャナは、パーキンエルマー社のProXPRESS 2Dを使用し、イメージ解析はProgenesisを使用した。タンパク質スポットの同定は、MALDI-TOF型質量分析装置を用いてペプチドマスフィンガープリント法により行った。また、食品成分の系統的分析は、発現解析ソフトGeneSpring GXにより分析した。 【結果】蛍光色素IC3-OSuおよびIC5-OSuを用いた蛍光ディファレンシャル解析は、プロテオームの変化を内部標準法により適切にかつ手軽に定量解析できることが示された。この方法を用いて過酸化水素により酸化ストレスを与えたHepG2細胞を解析した結果、発現パターンが変化したタンパク質として、Peroxiredoxin-1とPeroxiredoxin-6が見出された。次に、ヒト肝ガン由来細胞株であるHepG2細胞に種々の約50種の食品成分を作用し、タンパク質発現パターンをクラスター解析により系統的に分析した。これら結果から、プロテオーム解析は食品成分の機能性に関連するバイオマーカーの探索のみでなく、食品成分の構造・機能の相関などの解析が可能であることが示唆された。  本研究はJSTの支援による宮崎県地域結集型共同研究事業により推進された。
ポスターセッション
  • 坂口 菜央, 鈴木 祥夫, 平塚 淳典, 横山 憲二
    セッションID: P-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    二次元電気泳動(Two-dimensional electrophoresis(2DE))法は、タンパク質を等電点と分子量で分離する方法である。この方法は、数百~数千のタンパク質スポットを高分解能で検出可能であり、高感度でタンパク質を検出することが可能な蛍光タンパク質染色色素が用いられている。しかし既存の蛍光染色試薬は、染色時間が長い、タンパク質の種類によって染色効率が異なる、コストが高いなどの問題があった。
    これまでに演者らは、非共有結合によりタンパク質と相互作用する蛍光試薬の開発を行ってきた。その中で、スチリル基とシアノピラニル基を併せ持つタンパク質染色試薬を評価した結果、バックグランド蛍光強度が低く、タンパク質濃度と蛍光強度との間に良好な比例関係が得られた。また異なるタンパク質種間の検量線の変動が小さく、色素同士の結合による測定誤差も検出されなかった。
    本研究では、上記試薬を基に開発され、現在市販中のタンパク質染色試薬(Rapid FluoroStain KANTO(RFK) 関東化学製)を用いて2DE後のゲルのタンパク質スポット染色を行い、既存の染色試薬と比較した。2DEに関しては、演者ら開発した全自動二次元電気泳動装置を使用して行った。
    20μgのマウス肝臓可溶性タンパク質を、全自動二次元電気泳動装置を用いて分離した。得られた2DE後のゲル中のタンパク質をSYPRO Ruby(インビトロジェン製)、Deep purple(GEヘルスケア製)およびRFKを用いて染色した。各染色試薬はそれぞれの標準の方法で染色した。染色に必要な時間は、SYPRO Rubyで約17時間、Deep purpleで17時間、RFKでは90分間であり、RFKが最も染色時間が短い。また任意に選び出した11スポットのそれぞれのタンパク質のスポット強度/バックグラウンド強度比を二次元電気泳動画像解析ソフト(ProFINDER、Perkin Elmer製)で比較した。その結果、強度比の高い順にDeep purple>RFK>SYPRO Rubyが得られ2DE用ゲル染色試薬として通常最も良く利用されているSYPRO Rubyより高感度に検出が可能となった。
  • 緑川 宇一, 坪田 誠之, 森川 崇, 木下 英樹, 丸尾 祐二, 鵜沼 豊, 中村 眞, 荒木 令江
    セッションID: P-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    我々は、2D-DIGE法とiTRAQ法により脳腫瘍(グリオーマ)の悪性化に関連する蛋白質群の解析を行っている。現在までに、抗癌剤耐性グリオーマ特異的な発現亢進蛋白質を合計69個同定した。特に顕著にリン酸化及び特異的切断などの修飾活性が亢進している分子として同定したVimentinに注目し、その発現パターンを詳細に検証するため、我々が開発している全自動2次元電気泳動装置を用いて、高感度・高分離能・高速な2D Western Blotting法 (Auto-2D western法)による微量解析を検討した。2D-DIGEによってVimentinには少なくともリン酸化や切断等の修飾を受けた16個のスポットが存在することが確認されたが、本法にてこれらの発現パターンを解析したところ、Vimentinは分子量が53kDa(グループ1)、48kDa(グループ2)、45kDa(グループ3)、42kDa(グループ4)の4群に分かれており、それぞれ少なくとも3-5個ずつ(計14個以上)のPIの異なるスポットが検出された。Vimentin C末端認識抗体では全てのスポットが検出可能であったが、N末端認識抗体ではグループ4及びグループ1の酸性側は検出されず、Vimentin のN末端での切断やリン酸化等による翻訳後修飾の変化の迅速解析が可能であることが判明した。また、グリオーマ細胞U373において、Staurosporin刺激によるCaspaseの活性化やCa2+イオノフォアによるCalpainの活性化によって、Vimentinが特異的に断片化され特徴的なスポットパターンを発現すること、これらの阻害剤にて断片化が抑制されること、さらに、これらの切断パターンが抗癌剤耐性グリオーマのVimentin特異的パターンと類似していること等がAuto-2D Western法にて詳細に明らかになった。さらに、抗体カクテルを用いたAuto-2D Western法にて、脳腫瘍サンプル内の特異的蛋白質スポットの定量システムを構築し、抗癌剤感受性に関連して変動する各スポットが定量的に測定可能であること、これらのプロファイルから病態の分類が可能であることを証明した。本Auto-2D Western法は、脳腫瘍のみならず、各種の臨床サンプルや病態モデル細胞の解析に応用可能であることが示唆された。
  • 田中 毅, 木下 英樹, 緑川 宇一, 菅野 三奈子, 楠本 晃司, 松永 貴輝, 後藤 真一, 大木 博, 丸尾 祐二, 鵜沼 豊, 中村 ...
    セッションID: P-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    【背景】
    2D-ウェスタンブロッティング法は特定のタンパク質を検出する手法で、等電点電気泳動とSDS-PAGEにより分離されたタンパク質を転写膜に移動・固定化してブロット(分離されたタンパク質を膜に転写した転写膜)を作製し、免疫反応によりタンパク質を検出する。このタンパク質検出手法はプロテオミクス研究分野で広く利用されている。現在の2D-ウェスタンブロッティング法は等電点電気泳動、SDS-PAGE、ブロッティング、免疫反応が全て独立した装置であり各工程を終了後に次の工程へゲルを移動させる作業を行う。しかしこのゲルの剥離操作、ブロッティング装置へのセッティング操作が煩雑で時間がかかると伴にゲルは変形し易く再現性にも問題があった。そこで我々はゲルの剥離操作無しで一連の操作を自動ででき、分解能と再現性が良好なブロットを簡便に短時間で得ることを目標として装置の開発を行った。
    【実験/装置開発】
    我々はゲルを直接取り扱うことなく等電点電気泳動、SDS-PAGEとブロッティングの全ての工程が全自動化できるシステムを開発した(別図参照)。このシステムの特徴はSDS-PAGEとブロッティングの連続工程にある。この連続工程はタンパク質サンプルがPAGEゲル中で分離されながらゲル末端から排出されると同時に転写膜に固定化される排出転写方式を採用することで実現した。
    我々は実験条件の検討を重ね、各種の工夫をシステムに搭載することにより排出転写技術を確立した。このシステムを用いたブロット作製は等電点電気泳動工程と排出転写(SDS-PAGEとブロッティング操作を同時に行う)工程により行われる。具体的にはサンプルをIPGゲルに導入後、等電点電気泳動工程(45分間で200 V から6,000 V まで段階的電圧印加)を行い、次にIPGゲルを自動搬送アームによりPAGEゲル端に接続後、排出転写工程(2時間程度で25 mA から40 mA の段階的電流印加と転写膜の引き上げ動作)において良好なブロットを作製した。
    【まとめ】
    本開発によるシステムを利用することにより、ゲルを直接取り扱うことなく、ブロット作製の一連の操作を自動でできた。本システムにより分解能および再現性が高いブロットが作製された。ブロット作製工程の簡便さ、短時間化を達成した。
  • 粟田 ちひろ, 佐藤 孝, 高尾 敏文
    セッションID: P-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    Polyacrylamide gel electrophoresis (PAGE) is one of the most popular techniques and has been an important tool for proteomics. It allows proteins to be separated as function of size and charge, and moreover, lots of additives to the polyacrylamide gel, such as SDS, urea, pigments, peptides, sugars, etc, have been used to enhance or modulate the separation. In this study, we developed a novel method “Affinity-Trap-PAGE” for isolating a specific protein from a mixture that has been separated by an ordinary PAGE. The method utilizes, for the first time, orthogonal electro-transfer of proteins from a PAGE gel to a ligand-conjugated polyacrylamide gel, which is stacked upon the PAGE gel. It allows proteins, when specifically interacting with the ligand, to be trapped in a ligand-conjugated polyacrylamide gel via ligand-protein interaction, while those without any interaction with the ligand pass through it. We examined the paformance of the present method by applying it to the isolation of a trypsin inhibitor (SKTI) from soybean flower. A crude extract of soybean flower was subjected to SDS-PAGE. The resultant gel was stacked upon a trypsin-immobilized PAG (TP-PAG). The proteins were then electro-transferred from the original PAGE gel to the TP-PAG. As a result, SKTI could be solely trapped in the TP-PAG, demonstrating that the method allowed one-step purification and detection of SKTI from the crude extract.
  • 岩崎 了教, 瀬田 丈士, 細田 晴夫, 渡辺 淳, Stoermer Carsten, Hartmer Ralf, Lubeck Mark ...
    セッションID: P-5
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    近年、翻訳後修飾を保持した状態でアミノ酸主鎖の解離が可能である電子転移解離(Electron Transfer Dissociation ; ETD)を用いたプロテオミクス解析例が多く示されております。しかし、現在のところイオントラップタイプの質量分析計でのみ、ETDによる解析が可能となっております。  高分解能、高精度なQTOF型質量分析計とETDによる断片化法を組み合わせることにより、データクオリティーの大幅な向上および、より大きなペプチド・たんぱく質解析への応用も期待されます。  ここでは、ETD-QTOF型質量分析装置によるユビキチンのETDフラグメント解析に加え、ETD-LC-MS/MSを用いたBSAトリプシン消化物分析におけるの自動化・高速サンプリングデータをお示し致します。
  • 黒光 貞夫, 横田 博之, 平本 昌志, 由利 正利, 内藤 正規, 中村 尚登, 河畑 茂樹, 小堀 正人, 加藤 正夫, 古市 喜義, ...
    セッションID: P-6
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    生理活性タンパク質を体液や組織から精製する事は困難な作業であり、通常は膨大な試料と多段階の精製工程が必要となる。我々は簡便な方法として、クロマトグラフィーにより部分精製した試料をLC/MS/MSで分析し、各画分における生理活性とタンパク質同定スコアとの相関により生理活性タンパク質の候補を探索する事を試みた。間質性膀胱炎患者尿中に見出したserum response element活性を指標に、弱アニオン交換・逆相の2段階のカラムクロマトグラフィーによる精製を行い、活性ピーク近傍の画分のタンパク質を分析した。その結果、活性とタンパク質同定スコアとの相関が最も高いタンパク質としてEGFが見出され、リコンビナントEGF、抗EGF抗体、抗EGFレセプター抗体を用いて活性タンパク質である事を確認した。本法により20mlの尿試料から2段階のクロマトグラフィーにより目的とする活性タンパク質を簡便に同定できた。
  • 山中 秀徳, 前田 洋祐, 武吉 正博, 美濃部 安史
    セッションID: P-7
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    タンパク質レベルでの分画と逆相系のみのnanoLC-ESI-MS/MSと組み合わせる方法 (選択的ショットガン法) は網羅性を保ちつつ再現性の高い定量比較が可能であることからマーカー探索の強力なツールである。しかしながら、選択的ショットガン法では、nanoLCを用いてペプチド混合物を分離する際に網羅性を追及するためにペプチド混合物の濃度を高くするとキャリーオーバーが生じるため、測定後に洗浄用のrunを複数回実施する必要があり、このため選択的ショットガン法の実用的なスループットは必ずしも高くないという問題があった。これに対して、Chip-Based Infusion法は、測定毎に新しい直径5:µm以下の超小口径ノズルからスプレーするためキャリーオーバーの心配が全く無いとともに、5:µLのサンプルで30分以上のInfusion測定が可能で、nanoLCに比較してスキャン時間を10倍以上に設定できるため超高感度な測定が可能な手法である。 タンパク質分解機構の異常が様々な疾患につながることが知られており、中でもユビキチン化タンパク質の網羅的な解析は癌をはじめとする疾患マーカー探索のターゲットとして注目されている。そこで、我々はChip-Based Infusion法の応用によるユビキチン化タンパク質の高感度な網羅的解析を試みた。 ユビキチン化タンパク質の分画にはPolyubiquitin Affinity Beads (calbiochem社)を用い、ラット肝のタンパク質抽出液からユビキチン化タンパク質のみを回収し得られたユビキチン化タンパク質の酵素消化物に対してChip-Based Infusion法を適用した。本法によりユビキチン化タンパク質の網羅的解析がnanoLCに比較して短時間かつキャリーオーバーフリーに実施可能であることを確認した。さらに、2D-DIGE (2 Dimensional Fluorescence Difference Gel Electrophoresis)とChip-Based Infusion法を組み合わせることで、マーカー候補となるユビキチン化タンパク質がハイスループットに同定可能なシステムを構築した。本法は、種々のアフィニティーカラムと組み合わせることによってユビキチン化以外の翻訳後修飾にも適用可能であり、今後マーカー探索の強力なツールとなることが期待される。
  • 木下 英司, 木下 恵美子, 小池 透
    セッションID: P-8
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    In signal-transduction research, phosphoproteins are usually detected by using anti-phosphoprotein antibodies. However, low levels of phosphoproteins in various cell lysates frequently escape detection, even by immunoblotting with anti-phosphoprotein antibodies. If high concentrations of the antibody and long exposure times are employed as means of circumventing this problem, a lack of specificity can be a problem. Optimization of the conditions for specific detection of individual phosphoproteins by using anti-phosphoprotein antibodies is generally performed empirically and is time consuming.
    Here, we introduce two techniques using Phos-tag-immobilized polymers for selective detection of protein phosphorylation. One is based on the efficient separation of phosphoproteins from complex mixtures containing solubilized cellular proteins together with more-specific immunoblot detection using Phos-tag agarose phosphate-affinity beads. We demonstrated improved detection of phosphorylated Shc and Erk isoforms in A431 cell lysates after EGF stimulation by pretreatment of the lysates with Phos-tag agarose as an immunoblotting enhancer. The other is based on the mobility shift of larger phosphoproteins with molecular masses of more than 200 kDa in agarose-polyacrylamide composite phosphate-affinity gel electrophoresis using Phos-tag acrylamide. We demonstrated reliable determination of the phosphoisotypes of high-molecular-mass proteins, such as mTOR (289 kDa), ATM kinase (350 kDa), and 53BP1 (213 kDa), as clear up-shifted migration bands in HeLa cell lysates after extracellular stimulation by subsequent immunoblotting without anti-phosphoprotein antibodies.
    We believe that these solid techniques could assist in mapping low-abundance phosphorylation events on proteins with a wide range of molecular masses and should increase the utility for detection of hierarchical phosphorylation and dephosphorylation in the phosphoproteome study of the complicated kinase-phosphatase network.
  • 石濱 泰, 増田 豪, 岩崎 未央, 冨田 勝
    セッションID: P-9
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    膜タンパク質は疎水性が高く難溶性であるため、抽出および消化酵素による切断効率が著しく悪く、ショットガンプロテオミクスによる網羅的な解析は困難である。これらの問題を解決するため、最近、我々は消化後の試料溶液からの除去が可能な相間移動溶解剤(Phase Transfer Surfactant)を用いた相間移動溶解法(PTS法)およびCys残基における化学的切断法とのタンデム消化法を開発し、膜プロテオーム解析に適用した[1, 2]。本研究では相間移動溶解剤の更なる最適化をおこない、デオキシコール酸とラウロイルサルコシン酸の混合カクテルを見出した。さらにスループット向上及び自動化を目的とし、トリプシン固定化カラムを用いた迅速消化プロトコールの確立を検討したところ、最適化したPTS混合カクテルを用いることで、カラム通液に支障をきたすことなく15分間でトリプシン消化を完了させることが可能となった。大腸菌細胞抽出物に本法を適用し、mRNA発現量に対する可溶性タンパク質および膜タンパク質の同定タンパク質の分布比較および膜貫通ドメイン数についての同定タンパク質と対応するmRNAの分布比較を行ったところ、可溶性タンパク質に偏ることなく、膜タンパク質が同定されていることがわかった。さらに、同定タンパク質の量を、タンパク質当たりの同定ペプチド数に基づくemPAI法でセミ定量し、mRNA発現プロファイルと比較した結果、可溶性タンパク質、膜タンパク質に関わらずmRNA発現量に対し同一の相関直線が得られた。すなわち、本法を用いることにより膜タンパク質を可溶性タンパク質と同じ回収率でLC-MSMS測定に供することが可能であり、膜タンパク質も含めた全プロテオームの同時定量がemPAI法により可能となった。本発表では大腸菌遺伝子変異株の定量的膜プロテオーム解析結果を報告するとともに、発現している全タンパク質に対するプロテオーム解析の可能性についても報告する。[1] Masuda et al. J. Proteome Res., 2008, 7, 731-40. [2] Iwasaki et al., J. Proteome Res., 2009 Apr 6. [Epub ahead of print]
  • 中西 豪, 山本 卓志, 古田 大
    セッションID: P-10
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    生体組織切片を試料として、組織中の脂質、ペプチドやタンパク質といった生体分子の分布を描いてみせるマスイメージングの手法が医学・生化学の分野において注目を集めています。なかでもMALDI-MSを用いて行うMALDIイメージングは代謝産物のような低分子からタンパク質といった高分子までを対象として測定できるために、現在最もよく使われるマスイメージング法の一つです。このMALDIイメージング法では、対象化合物のイオン化のために『マトリックス』を使うという特性から、組織切片全体にマトリックスを均一にコーティングする必要があります。このためマトリックスを塗布する方法として、エアブラシを用いたスプレー法やケミカルプリンタ(CHIP-1000)のような微量分注装置を用いたドロップレット法が現在広く使われています。スプレー法は安価な機器で比較的簡単にマトリックスの塗布を行うことができますが、組織切片全体に対してむらなく均一なコーティングを行うためには技術的に熟練した操作を必要とします。これに対して微量分注装置を用いたドロップレット法はスポット間距離が空間分解能となる制限はあるものの、再現性の良い試薬分注が可能であり、組織切片に対するマトリックスの均一なコーティングが可能です。またこのような微量分注装置はマトリックスだけではなく、他のさまざまな試薬の分注も可能であるため、酵素溶液をあらかじめ分注しておき、酵素反応後の分析を微小領域で行うといったことも可能です。ここではラット脳組織切片を対象として、ケミカルプリンタによる酵素(トリプシン)溶液の微量分注を行い、酵素反応後に得られたペプチド断片に対してAXIMA-Performanceによるマスイメージングを行いました。その結果得られたマスイメージは脳組織の構造領域に特有の分布を示しており、それぞれのペプチド断片の由来するタンパク質の分布が推定されました。またこのうち脳組織特有の分布を示したペプチド断片に対して、MS/MS分析によるタンパク質同定を行いました。このようにケミカルプリンタとAXIMA-PerformanceによるMALDIイメージングシステムがスプレー法では困難な酵素消化断片のマスイメージング、あるいはタンパク質同定に対して有効であることが確認されました。
  • 守口 翔平, 坂倉 幹始, 高山 光男
    セッションID: P-11
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    質量分析 (mass spectrometry, MS) は、タンパク質やペプチドなど生体分子の微量分析の一つとして知られている。特に、マトリックス支援レーザー脱離イオン化 (matrix-assisted laser desorption/ionization, MALDI) 法とエレクトロスプレーイオン化 (electrospray ionization, ESI) 法はプロテオーム研究で使われている。ペプチドマスフィンガープリンティングでよく使われるMALDI法では、ペプチドに良く使われるマトリックスはα-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸(α-cyano-4-hydroxycinnamic acid, CHCA)である。CHCAマトリックスは飽和溶液として用いられるが、溶媒(水、アセトニトリル、トリフルオロ酢酸、etc)、溶媒の混合比やCHCA濃度に関しては様々に調製されている。一方、アミノ酸の一つであるセリンやスレオニンを添加したCHCAマトリックスを用いることで、得られるスペクトルからナトリウム付加体 [M+Na]+ やカリウム付加体 [M+K]+ のピークが消失し、試料ピークのsignal to noise ratio(S/N)が高くなるといった報告もされている1)。しかし、アミノ酸の最適な添加量に関してはまだ研究されていない。 本研究では、副腎皮質刺激ホルモンフラグメント(ACTH18-35)を試料として、一定の試料濃度1pmol/μlに対して良好なスペクトルを得るために、最適なCHCAマトリックスの濃度とそのレーザー光照射量(laser fluence, LF)の関係について調べた。セリンやスレオニン添加CHCAについても同様に、最適な添加濃度とそのLF依存性について調べた。各マトリックスの試料に対する最適な濃度は、試料のプロトン化分子のS/Nで評価した。 また、最適化したマトリックスを用いて、ACTH18-35および構成アミノ酸の異なる類似のペプチド7種類に対して試料絶対量の検出限界を求めた。セリンやスレオニン添加は、リン酸化ペプチドに対しても、S/Nが向上するだけでなく、検出限界の向上も見られた。 1)T.Nishikaze and M.Takayama, Rapid Commun. Mass Spectrom., 21 (2007) 3345-3351.
  • 坂倉 幹始, 高山 光男
    セッションID: P-12
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    1、はじめに タンパク質の同定にとってアミノ酸配列は最も信頼性の高い情報を与える。情報獲得には,ソフトイオン化質量分析法と組み合わせることが微量解析の点で有利である。これまでにマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)法を利用したイオン源での分解反応(In-source Decay : ISD )が報告されている。これは、イオン化時に生じる水素ラジカルがタンパク質・ペプチド主鎖のカルボニル酸素に付加することで進行する反応で、ペプチド主鎖のN-C結合が特異的な開裂をおこす。この反応はイオン化時に一度のみの反応であるために副次反応がおきにくい特長をもつ。 本発表は、これまでMALDI-ISDに用いられているマトリックス 2,5-ジヒドロキシ安息香酸(2,5-DHB)および 1,5-ジアミノナフタレン( 1,5-DAN ) に加え、さらに今回新たに発見した5-アミノサリチル酸( 5-ASA )をマトリックスとして用いさまざまなペプチドを測定し分解の評価を行ったので報告する。 2、実験 モデルペプチドとしてACTH18-35およびリン酸化ペプチドを10pmol/uLに調製したものを、マトリックスには2,5-ジヒドロキシ安息香酸( 2,5-DHB )を10mg、1,5-ジアミノナフタレンおよび5-アミノサリチル酸は飽和量( >10mg )を50% アセトニトリル水溶液で調製したものを用いた。 3、結果  DHBを用いた場合、分解生成物に加え二価イオンが強く観測された。DANを用いた場合分解生成物のピーク強度が強く二価イオンの強度およびメタステーブルピークも低いスペクトルを得ることができたが、履歴効果が確認された。5-ASAを用いた場合、ペプチドの分子量関連イオンはペプチドの物性に強く依存することが確認された。ISD生成物の強度は[M+H]+のピーク強度が強いほど高くなる傾向を示した。リン酸化ペプチドの場合にもISD生成物も確認することができ、リン酸化部位の特定およびアミノ酸配列解析が可能であった。
  • 正木 俊平, 田岡 万悟, 松田 亮蔵, 山内 芳雄, 中山 洋, 延 優子, 高橋 信弘, 礒辺 俊明
    セッションID: P-13
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    近年、転写や翻訳、タンパク質輸送などの細胞機能の調節にさまざまなRNA/タンパク質(RNP)複合体が関与していることが明らかになっている。これらのRNP複合体の構造と機能、生合成や作用機構を理解するためには、複合体を構成する全てのRNAとタンパク質成分を同定し、転写後修飾を含む化学構造を詳細に解析することが必要である。我々は、培養細胞などの生体試料から低分子RNAを含むRNP複合体を回収し、複合体を構成するRNA/タンパク質を網羅的に解析する「リボヌクレオプロテオミクス」研究を目的として、RNP複合体を構成するタンパク質とRNAを統一的に解析できる質量分析(MS)プラットフォームの開発を行っている。本研究では、現在までに開発したRNA解析用の高性能nanoLC-Orbitrap MS/MSシステムと、RNase消化で生じたRNA断片のMS/MSスペクトルからもとのRNAを同定するために開発した世界で初めてのデータベース検索エンジン(Ariadne)を利用して、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)から精製したsnRNA/タンパク質(snRNP)複合体のリボヌクレオプロテオミクス解析を行った。まず、TAPタグを付加したSpliceosomeの構成タンパク質成分をベイトにして酵母細胞からさまざまなSpliceosome関連RNP複合体を分離した。この複合体からフェノール/クロロホルム抽出法によってタンパク質成分とRNA成分を回収して、それぞれをゲル電気泳動で分離し、タンパク質バンドはトリプシン、RNAバンドはRNase T1で消化したのち、ペプチド断片は従来のプロテオミクス解析法、RNA断片は現在開発中のnanoLC-Orbitrap MS/MS-Ariadneシステムで解析した。その結果、プロテオミクス解析では従来知られているsnRNP複合体の構成成分のほとんどを同定し、またRNA成分の分析では、それぞれのRNP複合体を構成する主要なU snRNA(U4, U5L/S, U6など)を同定することができた。さらに、例えばU4 snRNAの解析ではトリメチルグアノシンキャップを含む5’末端フラグメントが検出できた。またU4やU6 snRNAの解析では、試料としたsnRNP複合体の中に3’末端に存在する反復U配列が不均一なU4/U6 snRNA分子種が存在することを明らかにできた。以上の結果は質量分析法を用いるRNP解析法が細胞機能を担うさまざまなRNP複合体の構成成分の同定と化学構造の解析に有用であることを示唆している。
  • 許 波, 嶋田 修一郎, 張 螢, 藤中 秀彦, 吉田 豊, 矢尾板 永信, 山本 格
    セッションID: P-14
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    The current explosion of emerging technologies of proteomics expects to discover biomarkers and mechanisms of diseases. To define the difference in protein profile in diseased tissues with low abundance, minimized experimental errors and contamination of keratins should be considered. Gel-based separation of large-scale proteins is the most popular procedure for proteomics analysis. During this critical procedure, contamination of human keratins to specimens becomes a frightful problem. To solve this problem, we have tried many procedures generally described in the textbooks of proteomics and protocols reported form other laboratories. However, the keratin contamination was not able to eliminate satisfactorily. Therefore, we examined all of the steps of gel-based proteomics analysis from gel preparation, electrophoresis, staining, gel cutting, in-gel digestion to mass spectrometry and found critical steps to have the contamination. Of course, all reagents should be prepared without contamination, and researchers need to wear gloves, hair cap, lab coat, and mask. To avoid contamination, we minimized time of the procedure by using dispensers and vacuum suction for liquid handling, and washed fingers at several steps, and avoided adherence of dusts to sample tubes. We found that the keratin contamination mostly happened at the steps of in-gel digestion and that the course was considered to be adhesion of air dusts due to static electricity. To reduce the static electricity from the bench, equipments and sample tubes, a static eliminator was employed. We compared 2 sets of proteomics analysis data of human glomerulus proteins; one was obtained by using the static eliminator and the other was not. Human glomerular protein of 20 g each was separated in several lanes on a 12.5% polyacrylamide gel, each lane was divided into 15 slices and each slice was subjected for in-gel digestion. Peptides were extracted and analyzed by mass spectrometry using Agilent 1100 series LC-MSD and the data were processed by Spectrum Mill software. By using the static eliminator combined with our modified procedures, the keratin contamination was drastically eliminated. None or few human keratins were identified with very low level of peptide spectral intensity. A practical, easy applicable and efficient experimental method to avoid the keratin contamination during the procedures for proteomics analysis is introduced in the presentation.
  • 是永 龍巳, 目野 浩二, 鈴木 秀昭, 高野 純, 内田 和彦
    セッションID: P-15
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    【背景】従来、ペプチドのMALDI-TOF-MSにおいてはマトリクスとして-cyano-4-hydroxycinnamic acid (CHCA)が用いられている。しかしながら、CHCAはその結晶化、測定ペプチドとの共結晶の生成の制御が困難であり、結晶化の状態によってはイオン化効率が低下し、定量的MALDI-TOF MS測定の再現性を阻害する要因となる。今回液体マトリクスとしてCHCAの1,1,3,3-テトラメチルグアニジン(TMG)塩であるG2CHCAを用いて、マトリクスを結晶化することなくMALDI-TOF MS測定を行ない、定量プロテオミクスにおける課題である感度、定量性、再現性についての改善を試みた。 【試薬と方法】CHCAを10 mg/ml (w/v)となるようにメタノールに溶解し、TMGをCHCA : TMG = 1:2(モル比)となるように加えて混合した。この溶液を遠心乾固し、G2CHCAを得た。G2CHCAをメタノールに超音波にて溶解して90 mg/ml溶液を調製し、これをメタノールで適宜段階希釈し、液体マトリクス溶液として定量的MALDI-TOF MS測定に用いた。ターゲットプレート(AnchorChip)に測定対象ペプチド溶液及び液体マトリクス溶液を滴下し、風乾後にAxima CFR plus(Shimadzu)を用いてMS測定を行なった。なお、比較対照として、固体マトリクス(CHCA)を用いた測定を行なった。 【結果】固体マトリクスを用いたMSと比較し、液体マトリクスを用いた場合はマススペクトルのバックグラウンドノイズがはるかに低下した。また、MALDI-TOF MS測定における再現性の検討において、固体マトリクスを用いた時の標準偏差60%と比較して、液体マトリクスを用いた場合は10%と改善が認められた。液体マトリクスを用いた場合の定量性の検討においてペプチド濃度依存性について良好な直線性(相関係数: 0.998)が得られた。 【まとめ】 液体マトリクスを用いたMALDI-TOF-MS測定において、マススペクトルの低バックグラウンド化ならびに再現性の向上が認められ、MALDI-TOF MSを用いた定量プロテオミクスに液体マトリクスが適していることが示された。
  • 九山 浩樹, 島 圭介, 園村 和弘, 山口 実, 安藤 英治, 西村 紀, 綱澤 進
    セッションID: P-16
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    蛋白質のNおよびC末端部位はその生体内での機能発現に極めて重要な働きをしていることが知られている。従って蛋白質の末端部位の構造(アミノ酸配列)を知ることはこれらの機能の解明に不可欠である。また、蛋白質末端部位の数残基のアミノ酸配列情報が蛋白質同定の確度を向上させることが報告されている。 一般に成熟蛋白質の一次構造は質量分析法とゲノムからの情報を主として構築されているデータベース検索によって行われている。しかしながら、生体内で機能している蛋白質は翻訳を経て成熟体となる過程で様々な修飾等をうけるため、対応するDNA配列から予測されるアミノ酸配列とは一致しないことがしばしばである。従って、上で述べた質量分析法とデータベース検索を組み合わせた方法ではN及びC末端部位のアミノ酸配列をはじめ、その正確な構造の解明はきわめて難しいというのが現状である。 今回我々は、TMPP試薬(Tris(2,4,6-trimethoxyphenyl)phosphonium bromide)のアルファアミノ基選択的な反応性と、その(データベース検索によらない)de novo 配列を可能にする性質を利用した、蛋白質末端部位の質量分析法による構造解析法を開発した。このセッションではこの方法について報告する。
  • 宮崎 賢司, 田伏 洋, 寺本 礼仁, 宗政 歓子, 松村 貴由, 相澤 健一, 永井 良三, 鈴木 亨
    セッションID: P-17
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    NECでは、等電点電気泳動と質量分析を組み合わせた蛋白質・ペプチドの分離検出デバイス(チップ)の開発を行ってきた。前回までの大会ではこのチップを用いてさまざまなモデル蛋白質やペプチドの実験で得られた基礎的なデータの報告を行ってきた。また応用例として心疾患患者の血清に対して免疫沈降を行い、トリプシン消化の後得られるペプチド断片群の等電点・質量プロファイリングが可能であることを示した。 今大会では検体数を増やしてチップによるプロファイリングとデータ解析の結果得られた心血管疾患関連ペプチドピークについて報告する。  動脈硬化性疾患はわが国の死因の第2位(心疾患15.9%、脳血管疾患11.8%)を占めており、その予防対策は医学的かつ社会的に重要な課題となっている。動脈硬化の病態の進展、悪化においては蛋白質・ペプチドの酸化修飾などによる変性が中心的な役割を果たすため、これらの酸化修飾を測定、診断する技術開発により動脈硬化の進展予防、早期発見、さらに治療効果の判定が可能となると思われる。事実、酸化LDL等の研究から酸化ストレスが心血管疾患の病態において中心的な役割を果たすことが示されてきている。そこで、抗-酸化LDL抗体を用いて血清に対して免疫沈降を行い、心血管疾患に関連する蛋白質の修飾部位の特定を行うことを目指して、チップを用いた実験を試みた。 冠動脈病変枝数が0から3のいずれかの段階に分類される80人の患者の血清を対象に免疫沈降を行った。回収産物は抗体からはずさずに、直接トリプシン処理によりペプチド断片化を行った。断片化ペプチドに対して等電点電気泳動をチップ上で行った。泳動後凍結乾燥して等電点分離状態を保持した状態でペプチドを流路内に乾燥状態で保持し、引き続きマトリックスを塗布した。流路長に対して区画割を行い、各区画ごとに質量分析して、等電点と質量スペクトルの情報を併せ持つ2次元データを取得した。こうして得られた等電点・質量プロファイルを患者ごとに作成し、疾患関連ペプチドの探索を行ったところ疾患群を統計的に有意に分類するいくつかのピークの特定に成功した。
  • 初谷 守朗, 黒川 真奈絵, 紅露 剛史, 永井 宏平, 有戸 光美, 増子 佳世, 末松 直也, 岡本 一起, 伊東 文生, 加藤 智啓
    セッションID: P-18
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    [目的]
    潰瘍性大腸炎(UC)およびクローン病(CD)は原因不明の難治性炎症性腸疾患であり、その病態には免疫系の異常が関与していることが示唆されている。病初期には、両疾患のどちらであるか鑑別の困難な例が存在し、両者を区別できるマーカーの確立が望まれている。そこで我々はUCおよびCDの患者末梢血単核球で発現している蛋白質を網羅的に検出かつ定量し、その蛋白質発現プロファイルを解析することにより、両疾患の鑑別が可能であるか否かを検討した。なお鑑別に有用な蛋白質の同定は病因・病態解明の一助にもなると考えられる。
    [方法]
    UC患者17例、CD患者13例およびこれら患者と性・年齢を一致させた健常人14例より末梢血を採取し、単核球を分離し蛋白質を抽出した。すべての蛋白質試料を等量ずつ混合して標準試料を作製し、Cy3で標識した。各蛋白質資料はCy5で標識した。患者または健常人の一試料と標準試料とを同一のゲル上で2D-DIGE法にて展開した。検出した蛋白質スポットのそれぞれについて標準資料との比較から個々の患者での存在量比を算出した。これを用いてSIMCA-P+による多変量解析を行い、両疾患群の鑑別および臨床所見あるいは検査値の結果予測が可能か否かを検討した。
    [結果]
    UC患者、CD患者および健常人全44例を2D-DIGE法にて解析した結果、576個の共通した蛋白質スポットが得られた。UC群、CD群、健常群間でANOVA検定を行い、有意差のみられた276個の蛋白質スポットを用いOPLS法にて多変量解析を行った結果、UC群とCD群とを判別することができた(R2=0.994、Q2=0.462)。より信頼性、寄与度の高い蛋白質スポット58個を用いてOPLS法を行ったところ判別能の向上がみられた(R2=0.948、Q2=0.566)。臨床所見あるいは検査値の結果予測では、UCにおいて罹患期間(R2=0.960、Q2=0.660)、活動性(R2=0.776、Q2=0.760)、腸管病変の範囲(R2=0.961、Q2=0.821)、CRP(R2=0.945、Q2=0.909)、および治療反応性(R2=0.980、Q2=0.595)を高率に予測できることが判明した。
    [結論]
    UCおよびCD患者における末梢血単核球由来蛋白質の網羅的解析により、両疾患群の判別ができること、またUCにおいては活動性や腸管の罹患範囲、治療反応性等を予測できることが示された。末梢血単核球のプロテオミクス解析は、UCとCDとの鑑別診断に有用な検査を提供する可能性があることが示唆された。また、UCにおいては病態把握や治療法選択に有用なマーカーとなりうる可能性が示された。
  • 荒木 香代, 三上 哲夫, 吉田 功, 佐藤 雄一, 岡安 勲
    セッションID: P-19
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】潰瘍性大腸炎(UC)は粘膜の炎症と再生を繰り返す炎症性腸疾患であり、長期経過例で大腸の発癌頻度が極めて高い。当単位におけるこれまでの検索で、UCからの発癌においては粘膜リモデリングに加えて、間質細胞のゲノム不安定性が早期に生じることが重要であることを示してきた。このことは、炎症巣における間質微細環境の変化と上皮細胞との相互作用が発癌において重要な役割を果たしている可能性を示しており、上皮間質を含めたUC炎症巣での微細環境を特徴づけるタンパクの同定が望まれる。本研究では、UC炎症巣での微細環境を特徴づけるタンパクを明らかにするために、生検材料を用いたプロテオーム解析を行った。
    【方法】北里大学東病院で生検を行った潰瘍性大腸炎(UC)症例(活動性と非活動性)の粘膜を用いた。組織からタンパクを抽出した後、アガロース二次元電気泳動によるタンパク分離と二次元電気泳動解析ソフトウェアを使用したスポットの比較・定量化を行った。活動性UC粘膜と非活動性UC粘膜で発現に有意な差が認められたスポットからタンパクを回収し、質量分析装置(MALDI-TOF-MS)を用いてタンパクの同定を行った。
    【結果】活動性UC粘膜と非活動性UC粘膜の比較では有意な発現差の認められたスポットが18個検出された。そのうち活動性UC粘膜で発現の増加しているスポット12個、発現の低下しているスポット6個についてタンパク同定を行った。その結果、活動性UC症例で有意に発現が減少しているタンパクとしてGalectin 4 が検出された。
    【考察】Galectin 4 は消化管に特異的に発現している糖鎖結合タンパクで、上皮細胞の増殖や遊走に関与することが示されており、上皮細胞の修復に関与することが報告されている。今後、症例数を増やして解析するとともに、Galectin 4を含む検出された有意なタンパクについて組織上で免疫組織化学染色による解析を行い、慢性炎症に関る特異的タンパク発現の局在や発現量を確認していく予定である。
  • 大橋 和也, 丸橋 正弘, 大谷 真理, 大石 正道, 伊藤 一郎, 佐藤 絵里奈, 大草 洋, 松本 和将, 馬場 志郎, 前田 忠計, ...
    セッションID: P-20
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    シスプラチンやタキソールは優れた抗腫瘍効果から、悪性腫瘍の治療において頻用されている抗癌剤であり、膀胱癌においても一般的な化学療法に組み込まれている。これら抗癌剤の有効性は証明されているものの、徐々に抵抗性を示す症例を経験する。これは膀胱癌がシスプラチンやタキソールに対して耐性を獲得したことが原因の一つとして考えられる。そのため、これら抗癌剤に対する耐性獲得機序の解明が求められている。しかし、膀胱癌において薬剤耐性を獲得する機序は未だ不明な点が多い。そこで、我々は予後因子としてのマーカーの発見ならびに薬剤耐性獲得機序解明を目的として研究を進めている。 本研究では、膀胱癌細胞株 T24 、膀胱癌細胞株 T24 より樹立されたシスプラチン 26.6μM の培地で成育された T24 シスプラチン耐性株を用いた。これらを二次元電気泳動法により定量分析し、シスプラチン耐性関連タンパク質を探索した。二次元電気泳動法は一般的な方法よりも高分子量タンパク質を分析可能なアガロース二次元電気泳動法を用いた。二次元目の SDS-PAGE 用ゲルのアクリルアミド濃度は 12% 均一ゲルと、高分子領域の分離能が高い 6-10% 濃度勾配ゲルを用いた。また、二次元電気泳動ではゲル毎の泳動パターンの差が問題となるので、再現性確認のため、T24 、T24 シスプラチン耐性株を各 3 回独立に電気泳動し、解析した。 T24 と T24 シスプラチン耐性株を比較分析した結果、12% 均一ゲルにおいて約 300 スポット中 22 スポット、6-10% 濃度勾配ゲルにおいて約 150 スポット中 9 スポットのシスプラチン耐性獲得関連タンパク質を検出した。これらを LC-MS/MS により分析した結果、最終的に 25 種類のタンパク質の同定に成功した。同定されたタンパク質はシスプラチン耐性関連として報告されているものが 3 種類、報告されていないものが 22 種類であった。 現在、22 種類のタンパク質から T24 シスプラチン耐性株において増加した 5 種類、消失した 1 種類、大きく減少した 2 種類の合計 8 種類のタンパク質に注目し、発現量解析を Western Blotting 法により行っている。 発表ではこれらの結果をタキソール耐性株の分析結果と共に報告する。
  • 南 尚, 松本 俊英, 影山 泰平, 松本 和将, 岡安 勲, 佐藤 雄一
    セッションID: P-21
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    現在、種々の腫瘍において早期診断ならびに腫瘍の悪性度や抗癌剤感受性等の評価は極めて重要な課題である。尿を用いた疾患の診断は簡便かつ無侵襲性であるため、様々な疾患への応用が期待されている。このため、癌患者尿を用いた腫瘍マーカーの探索が広く行われているが有用な腫瘍マーカーの獲得の報告は少ない。その理由として、尿中のアルブミンや免疫グロブリン等の主要タンパク質の存在が疾患に関連した微量タンパク質の検出を困難にしていることが報告されている。 このことから我々は、尿中に存在する腫瘍特異的抗原を直接探索するのではなく、尿中の自己抗体を用いることで腫瘍特異的抗原の高感度な検出が可能であることを示すと共に、腫瘍のgradeにより発現が変化する腫瘍関連自己抗体の探索を行った。 膀胱癌細胞株(T24)を用いて二次元電気泳動を行い3枚のゲルを作製した。1枚はCBB染色(図1)によりタンパク質スポットの可視化を行った。2枚のゲルはウェスタンブロット法(W.B法、図2)を用いてgradeの異なる膀胱癌患者尿を反応させ、両者を比較することにより、gradeに応じて発現量の異なる尿中自己抗体の探索を行った。この際、未処理の尿中の自己抗体を直接解析することは困難であった為、独自の方法により膀胱癌患者尿中の免疫グロブリンの精製を行った。精製した尿を一次抗体として用いることでgradeにより発現量の異なる複数のタンパク質スポットが検出できた。これらのスポットはCBB染色を行ったゲル上で対応するスポットを切り出し、トリプシンによるゲル内消化後に質量分析を行った。その結果、複数の腫瘍関連タンパク質が同定された。今後、多検体の患者における尿、組織、血清中での発現と患者の臨床病理学的因子との関連性をより詳細に評価を行う予定である。 今回、膀胱癌患者尿中に含まれる自己抗体を独自の方法により精製を行うことで、gradeに応じて異なった反応を示す複数の腫瘍関連自己抗体の同定に成功した。以上より、尿中に存在する自己抗体を利用した腫瘍マーカー候補タンパク質の探索は有用であり、今後の発展が期待される。
  • 本田 一文, 尾野 雅哉, 廣橋 説雄, 山田 哲司
    セッションID: P-22
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    膵がんは固形がんのなかでは、もっとも予後不良なもののひとつである。なぜならば早期膵がんは臨床症状が乏しく、進行がんの状態でなければ発見が困難であるからである。われわれは検診に応用できる膵がん診断法の開発を目的に、膵がん患者と健常者血漿のペプチドプロファイルを用いた新規血漿膵がんマーカーを開発し、その有用性を報告してきた(Honda K., Cancer Res. 2005, 65(22):10613-22)。今回われわれは、magnetic-bead-based hydrophobic-interaction chromatography (MBHIC) -MALDI-QqTOF-MS法による血漿検体測定法を開発し、以前報告したペプチドプロファイルが早期膵がん検診マーカーとして臨床応用が可能かどうかを検証した。本システムは血漿サンプルの脱塩処理からMALDIプレート上への添加まですべて自動に行えるように構築された。本法により検出できる質量範囲は1000-30,000 m/zで、標準血漿から検出できるピーク検出総数は2200本以上であり、実験再現性は相関係数が0.974-0.992、変動係数は0.0595-0.0373と良好であった。 本検出システムを使用し、他の目的で収集した血漿検体(n=318)を2つの独立した検証セットに分割し後向きに検証研究を行ったが、両検証セットでもAUC0.90以上で検証できることを証明した。さらに、実用化の可能性をさぐるため第3次対がん総合戦略研究事業「がん検診に有用な新しい腫瘍マーカーの開発」研究班が国内7臨床施設から前向きに収集した血漿検体(n=833)を用いて、診断精度の検証を試みている。 本研究は厚生労働省科学研究費補助金、第3次対がん総合戦略事業「がん検診に有用な新しい腫瘍マーカーの開発」により行われた研究である。
  • 増石 有佑, 荒川 憲昭, 川崎 博史, 宮城 悦子, 平原 史樹, 平野 久
    セッションID: P-23
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    卵巣明細胞腺癌(CCA)は、高い薬剤耐性と血行転移性を示し、早期発見されても再発率の高い、予後不良な卵巣癌組織型である。このような性質をCCAが獲得するための分子メカニズムについては不明な点が多い。先にわれわれは、プロテオミクス的アプローチから、アネキシンIV(ANX4)の発現量がCCA特異的に増加していることを見いだした。これはmRNAレベルにおいても同様の結果が得られたことから、CCAにおけるANX4の発現は転写レベルで起きていることが示唆された。そこで、まずCCAの分子生物学的特徴を明らかにするために、ルシフェラーゼレポーター遺伝子を用いて、ANX4遺伝子の発現調節機構を解析したところ、CCAにおけるANX4遺伝子の発現に重要なp53結合領域が見つかった。さらに、siRNAを用いてp53を発現抑制すると、CCA細胞におけるANX4の転写活性およびmRNAが低下した。しかしながら、p53タンパク質の発現量においては、CCA細胞では非CCA細胞と比較して著しく低いという、ANX4発現とは相反する関係が見られたが、p53遺伝子の変異は全く検出されなかった。これは様々な卵巣癌の症例においてp53の変異はCCAでは認められないという、これまでの報告と一致している。したがってANX4は、野生型p53により発現調節を受けるp53の新しい標的遺伝子であることが明らかになった。p53標的遺伝子は、主に細胞の増殖抑制やアポトーシス誘導に関連することがよく知られているが、これとは逆に負のフィードバックによりp53の細胞内寿命を低下させる癌遺伝子も存在する。そこでCCAにおけるANX4の生理的役割を明らかにするために、siRNAを用いてANX4の発現抑制を行った。その結果、ANX4 siRNAを導入したCCA細胞では、p53およびp21のタンパク質の増加と細胞増殖の阻害が引き起こされることがわかった。これらの結果から、CCAにおいてp53により発現上昇している ANX4が、負のフィードバックを介してp53の細胞内存在量を低下させるという、本疾患の発症・進展に関わる複雑な機構が存在することが示唆された。
  • 荒川 憲昭, 田矢 史織, 川崎 博史, 宮城 悦子, 平原 史樹, 平野 久
    セッションID: P-24
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    上皮性卵巣癌組織型の中で、明細胞腺癌(CCA)は早期で発見される率が高いにも関わらず再発率が高く、また化学療法に抵抗性を示す悪性度の高い組織型である。全卵巣癌組織型の明細胞腺癌が占める割合は、日本では欧米諸国に比べて高く、CCAの治療成績改善は我が国の喫緊の課題となっている。われわれは先にCCA細胞株のプロテオーム解析を行い、CCA細胞におけるアネキシンIV(ANX4)の発現量が、他の卵巣癌組織型と比較して著しく高いことを見いだした。またCCA細胞におけるANX4の発現をRNA干渉により抑制すると、細胞増殖能の有意な低下が見られたことから、ANX4が新しい分子標的治療の候補となることが示唆される。ほ乳類には12種類のANXアイソフォームが存在し、どれもが構造面でカルシウム結合ドメインを保有することが知られているが、それぞれの生理的役割はほとんど明らかになっていない。そこで本研究では、CCAにおけるANX4と相互作用するタンパク質を解析することで、ANX4の生理機能を明らかにすることを試みた。CCA細胞株OVISEからNP-40を含む緩衝液を用いてタンパク質を抽出し、一次元目にブルーネイティブPAGE、二次元目にSDS-PAGEで分離後、イムノブロットを行った。その結果、ANX4は単量体の分子量(36 kDa)よりも遥かに大きい約200 kDaおよび400 kDaのスポットとして検出された。ジギトニンを用いて抽出した場合でもANX4は同等の分子量のスポットとして認められたが、DDMやSDS存在下では検出されなかった。また、これら二種のスポットは、EGTA処理を行ってもその泳動度に変化は認められなかった。これらの結果は、ANX4はCCAにおいてカルシウムイオン非依存的に複合体を形成して機能することを示唆するものである。そこでANX4複合体を免疫沈降法により精製し、その構成成分をSDS-PAGE分離後、蛍光染色にて検出されたバンドを質量分析装置により同定した。またこれとは別に、本精製標品をショットガン法により解析した。その結果、翻訳伸張因子1αを代表として、核酸結合性のタンパク質が多数同定された。現在これらの分子群とANX4との相互作用の検証実験を行っている。
  • 川上 隆雄, 森 泰昌, 永坂 恵子, 和田 計也, 日比 泰造, 金森 英彬, 坂元 亨宇, 荻原 淳
    セッションID: P-25
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    発表者らはLC-MS/MSを解析のプラットフォームとしておもに悪性腫瘍の分子マーカー研究を行っている。少数症例を用いた探索段階では一般に100種類を超えるマーカー候補が挙げられるが、臨床使用に耐えうるマーカー蛋白質の開発に当たっては多数例の検証実験が不可欠である。本演題では探索技術の改良に言及するとともに、マーカー開発の実例を紹介する。
    培養細胞あるいは外科的切除組織から抽出した蛋白質混合物をポリアクリルアミドゲル中でトリプシンによって加水分解し、生じたペプチド混合物を分析試料とした。つぎに、一次元または二次元(2D)LC-MS/MSによって各試料由来のペプチドプロファイルを個別に取得した。2DLCは強カチオン交換LC(6分画)と逆相LCからなり、MSにはLTQイオントラップ質量分析計を用いた。発表者らが開発した、LC溶出時間の非線形的なゆがみを補正するプログラムの上で、ペプチドプロファイルの統計的な比較解析を行った。
    膵臓癌の高い転移能を特徴付ける蛋白質分子の探索では、腫瘍組織由来の細胞株を神経浸潤性の高低によって2群に分けた。両群のペプチドプロファイルの比較から計214個のペプチドピークを選択した (P < 0.0001)。この候補ペプチド群から、高浸潤株でmRNAとともに正に制御されている唯一の蛋白質であるSynuclein-gammaを見出した。切除症例の免疫組織染色像を用いた後ろ向き試験 (N = 62) では、膵臓癌の有意な予後因子であることを確かめた。さらに、short hairpin RNAによる発現抑制実験およびマウスモデルの検証結果は、この蛋白質が制癌治療のための新規標的分子になりうることを示した。
    肝細胞癌は一般に肝硬変から多段階に進展するが、このうちで早期腫瘍の確実な診断法が求められている。本研究では、早期癌および周辺部前癌病変の両組織(各N = 4)より取得されたペプチドプロファイルを比較し、両群を区別する283個のピークを検出した。この情報を計111種類の蛋白質に変換した。うち1種類について現在検証実験を進めている。
    以上のとおり、LC-MS/MSペプチドプロファイルを用いたプロテオーム統計解析法が腫瘍研究に対して成功裡に適用されうることを示した。今後は、より高精度の質量分析計の導入を含め、さらに正確・堅牢な解析システムの構築を進める予定である。
  • 三崎 健太郎, 瀬山 邦明, 小川 秀興, 高森 建二, 柳田 光昭
    セッションID: P-26
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    リンパ脈管筋腫症 (LAM) は肺に主病変を示す疾患であり、平滑筋細胞様の形態を示すLAM細胞のクローン性増殖を特徴とする。肺病変においては、直径が数ミリから数センチの嚢胞が肺実質の破壊に伴って多数形成され、病態が進行すると呼吸不全になり肺移植が必要となる。LAMは妊娠可能年齢の女性に主に発生することや、TSC遺伝子異常と関連することなどが明らかにされている。しかし、LAMの発生原因や誘導機構、進展機構については未解明の部分が多い。本研究ではこれらの解明や疾患のバイオマーカータンパク質の発見を目指してLAM患者の血漿プロテオーム解析を行い、健常者と比較して特異的あるいは顕著に増減するタンパク質を調べ、さらに絞り込んだ候補タンパク質に対して定量解析を行った。 疾患の重篤度により分類した女性のLAM患者(軽症患者と重症患者)および女性の健常者から血漿を採取した。健常者、LAM軽症患者、LAM重症患者の3つのグループそれぞれにおいて5人分の血漿をまとめてプールした試料に対して、血漿中に多量に含まれるタンパク質の特異抗体カラムによる除去を行った後に、陰イオン交換HPLCによりタンパク質を分画した。以上の処理により得られた試料中のタンパク質を2D-nanoLC/ESI/IT MSを用いて網羅的に解析して、健常者、LAM軽症患者および重症患者のいずれにおいても200種類前後のタンパク質を同定した。各タンパク質のペプチド同定数を判定基準として比較した結果、健常者に対して顕著に増減したタンパク質が軽症患者で23種、重症患者で21種認められた。これらのタンパク質には細胞外マトリックス構成分子やその制御に関わるもの、補体、免疫系、神経系に関わるもの等が主に含まれた。変動を示したタンパク質のうち着目したタンパク質の血漿中濃度を、健常者、LAM軽症患者、重症患者の各人に対してELISA法またはwestern blotting法で測定した。現在までに解析を行った2種類のタンパク質のうち1種類のタンパク質において質量分析の結果と相関する定量データを得ている。今後は他のタンパク質についても定量評価を行い、病態により変動するタンパク質と疾患との機能的関連を調べる予定である。
  • 影山 泰平, 古内 美穂, 松本 和将, 佐藤 雄一, 岡安 勲
    セッションID: P-27
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    目的:本研究では、肺癌と膀胱癌において新たな腫瘍マーカーの確立のため、癌細胞を直接マウスに免疫し抗体を作製するランダム免疫法より、モノクローナル抗体を作製しているが、今回はその有用性を検討した。 方法:肺癌細胞株また、膀胱癌細胞株をマウス(BALB/c)に腹腔注射し、同じ細胞株を免疫染色するスクリーニング法で、網羅的に腫瘍特異的なモノクローナル抗体を作製するランダム免疫法により、抗体を作製した。また、抗癌剤感受性予知マーカーの作製のためcyclophosphamide(免疫抑制剤)を用いた、subtractive immunization 法にもこのランダム免疫法を応用しモノクローナル抗体を作製した。作製したモノクローナル抗体は、肺癌細胞株(LCN1、LCN2、N231、A549、LC2ad、RERFLCAI)、膀胱癌細胞株(TCCSUP、T24、5637、RT4)、胃癌細胞株(MKN45)、またシスプラチン(抗癌剤)耐性株(LCN1cis、LCN2cis、A549cis、LC2adcis、T24cis、MKN45cis)計17種類の細胞株を用いて免疫染色や免疫ブロット法を行った。免疫染色、免疫ブロット法より選択されたモノクローナル抗体は、免疫沈降法やプロテインアクティブアレイ法を用いて抗原タンパク質を単離し、トリプシンによるゲル内消化を行い、質量分析装置により抗原タンパク質の同定を行った。 結果と考察:ランダム免疫法により90個のモノクローナル抗体を作製した。そのうち、肺癌細胞株を用いて作製したモノクローナル抗体は70個、膀胱癌細胞株を用いて作製したモノクローナル抗体は20個ある。17種類の癌細胞株を用いた免疫染色と免疫ブロットより、特徴的な反応を示す30種のモノクローナル抗体を選択した。そのうち2種類のモノクローナル抗体の抗原タンパク質を同定したところ、CD44、CK18であった。これらの抗原は癌における報告がなされているが、アミノ酸配列の相同性は全くないが、同じ構造モチーフを有している2つの異なる抗原(タンパク質)を認識するモノクローナル抗体もあった。この抗体は、癌における報告がなされておらず、各種癌組織との反応性を検討している。本研究より、ランダム免疫法では、網羅的に腫瘍細胞に対する抗体が作製でき、従来のペプチドなどを免疫する方法では作製できない立体構造を認識する抗体の作製が可能であり、癌では報告がなされていない抗体の作製も可能であることが見出された。
  • 久家 貴寿, 聶 華, 佐藤 守, 松下 一之, 前島 一博, 野村 文夫, 朝長 毅
    セッションID: P-28
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
     癌細胞は染色体の構造異常が起こりやすい状態(染色体不安定性)にあり、その不安定な状態を維持しながら増殖し続けられるという正常細胞にはない特徴を持つ。また、染色体不安定性は癌の悪性度や抗癌剤抵抗性に寄与するとも言われており、その原因やメカニズムを理解する事は、癌の新しい診断・治療法の開発に結びつくと思われる。染色体不安定性の機序として、細胞分裂時における姉妹染色体分配を保証するメカニズムの破綻が考えられているが、まだ詳細なメカニズムは明らかになっていない。我々はプロテオーム解析技術を用いて、染色体不安定性の新規メカニズムの解明を目指し研究を行っている。  これまでに、染色体不安定性を示す大腸癌培養細胞株(CIN+)と示さない細胞株(CIN-)の核タンパク質を用いた2D-DIGE解析から、核膜蛋白質の1つであるlamin B2の発現がCIN+細胞株で低下している事を見出している。さらに、CIN-細胞のlamin B2をRNAiでノックダウンする事で染色体異数性、染色体不均等分配およびM期遅延が誘導される事、その際に紡錘体の形成異常が起きている事を示してきた。今回我々は、CIN+細胞にlamin B2を強発現させる事で染色体の安定性を改善する事ができるのかどうかを検討した。CIN+細胞の特徴の一つとして細胞間で染色体数が不均一である事が挙げられるので、FISH(fluorescence in situ hybridization)法でlamin B2強発現細胞の染色体を調べた結果、lamin B2の強発現により染色体の均一性の改善が見られた。次に、Histone-H2Bを用いて染色体分配を生細胞観察したところ、lamin B2の強発現により染色体不均等分配が抑制され、M期の進行が速やかになる事が示された。さらに、mCherry-α-tubulinを用いて紡錘体形成を生細胞観察した結果、紡錘体形成異常の発生頻度がlamin B2の強発現により減少する事が示された。  これまでの我々の研究から、lamin B2の発現低下は紡錘体形成異常を介した染色体不安定性を誘導する事、およびlamin B2を強発現する事で染色体の安定性が改善される事が示唆された。lamin B2の発現低下は染色体不安定性のバイオマーカーとして有用であり、lamin B2の発現を高い状態に維持する事は癌の悪性化や抗癌剤抵抗性化を防ぐ手段になる可能性がある。
  • 小森 美華, 松山 由美子, 韮澤 崇, 田中 正美, 冨本 秀和, 高橋 良輔, 田代 啓, 近藤 誉之, 池川 雅哉
    セッションID: P-29
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    多発性硬化症をはじめとする中枢神経性脱髄疾患の臨床プロテオーム解析
  • 飯塚 進子, 岡本 一起, 有戸 光美, 永井 宏平, 黒川 真奈絵, 増子 佳世, 末松 直也, 広畑 俊成, 加藤 智啓
    セッションID: P-30
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    【背景と目的】全身性エリテマトーデス(SLE)は、多臓器を障害する自己免疫性疾患である。中でも、中枢神経に障害が生じる状態を中枢神経ループス(CNS-Lupus)とよび、診断が困難で非常に予後の悪い病態である。近年、このCNS-Lupus患者血清に神経細胞に対する自己抗体(抗神経細胞抗体)の存在することが報告された。しかし、抗神経細胞抗体の対応抗原はいまだ同定されていない。その為、本研究ではこれらを明らかにすることを目的とする。 【方法と結果】培養したヒト神経芽細胞種株(SK-N-MC)より抽出したタンパク質をSDS-PAGE (1DE) にて泳動し、PVDF膜に転写した。この膜にCNS-Lupus患者30名及び中枢神経症状のないSLE患者30名の血清を各々反応させ、反応した抗原タンパク質を2群間で比較した。その結果、CNS-Lupus群で有意に反応が多いバンドが4つ認められた。次に、抗原タンパク質の同定を行うため、SK-N-MCの抽出タンパク質を2次元電気泳動(2DE)にて分離し、PVDF膜に転写した。CNS-Lupus患者群から目的抗原バンドに強く反応する患者血清5名分を混合してウェスタンブロットを行った。CNS-Lupus群で有意に反応が認められた1DEの4つのバンドの内、3つのバンドに相当するスポットを7つ検出した。それらのスポットのタンパク質をMALDI-TOF/MSにより同定した。その結果、 heat shock protein beta-1, peroxiredoxin-4, NADH dehydrogenase ubiquinone iron-sulfur protein 3, ubiquitin carboxyl-terminal hydrolase isoform L1, Histone H2A type 1, mitochondrial single-stranded DNA-binding protein の計6種のタンパク質を得た。 【結語】今回我々は、CNS-Lupusにおける抗神経細胞抗体の対応抗原の候補タンパク質を6種同定した。現在、これらのタンパク質に対する抗体がCNS-Lupus患者血清で有意に高率に認められるか否かについての組換えタンパク質によるウェスタンブロットで検証を行っている。
  • 鍋田 基生, 阿部 康人, 草薙 康城, 植田 規史, 伊藤 昌春
    セッションID: P-31
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】子宮内膜症とは子宮内膜様組織が本来の正常な位置である子宮腔内面以外の組織や臓器などに、異所性に存在し増生するために生じる病態である。生殖年齢女性の約10_%_に発症するといわれ、良性疾患でありながら生殖年齢の間、増殖・浸潤などにより進行性に発育する。約90_%_に月経困難症などの症状を認めるが、月経期以外にも下腹部痛をはじめとする疼痛を認めることが多く、女性のQOLを著しく損なう疾患である。子宮内膜症の診断は、腹腔鏡または開腹による視診と組織診での確定診断が推奨されているが、外科的侵襲を伴うため患者の負担となる。私達は簡便な子宮内膜症診断方法の確立を目指し、患者血清中に発現する自己抗体性血清診断マーカーを探索した。 【方法】ヒト悪性胸膜中皮腫由来細胞株を用いて2次元電気泳動及びWestern blottingを行い、子宮内膜症患者と健常者の血清中に存在する自己抗体を検索した。患者血清に特異的に反応したスポットをMALDI TOF-MSを用いPMF法にて解析し、抗原タンパク質を同定した。大腸菌発現系を用いてリコンビナント蛋白質を精製し、血中自己抗体検出のためのELISA法を確立した。 【成績】数種の自己抗体を同定した。ELISA法で解析すると、抗α-enolase自己抗体価が、健常者群(223.9±113.8 U/ml)および疾患対照群(236.5±119.7 U/ml)と比較して、子宮内膜症群(348.6±225.1 U/ml)で有意に高値(vs.健常者群p=0.00035、 vs.疾患対照群p=0.0022)であった。血清抗α-enolase自己抗体の感度(36.9_%_)と特異度(91.4_%_)は既存の診断マーカーである血清CA125とほぼ同等であった。血清抗α-enolase自己抗体とCA125を組み合わせることにより、子宮内膜症診断の感度を60.0%に上げることが可能であった。 【結論】血清抗α-enolase自己抗体は子宮内膜症の新たな血清診断マーカーとなる可能性があり、CA125と組み合わせることにより、更に有用性が高くなることが示された。
  • 泉 友則, 小田 泰崇, 荒木 由佳, 大村 真裕子, 秋吉 祐樹, 鶴田 良介, 笠岡 俊志, 前川 剛志
    セッションID: P-32
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    心肺停止に伴う全脳虚血により引き起こされる急性脳障害の神経学的予後は非常に悪い。心肺停止の病因として、心原性が最も多く、それ以外にもクモ膜下出血、窒息や溺水、外傷など、様々な原因により引き起こされる。迅速な心肺蘇生術により心拍の再開が得られる場合もあるが、虚血再灌流に伴う二次的な脳障害が発生し、さらに複雑な病態を形成する。早期に病態を把握し、適切な治療方針を選択することが救命と神経学的予後の改善に不可欠であり、救急医療においては急性脳障害の病態解明と早期診断法の開発が急務である。脳脊髄液(CSF)は脳室とクモ膜下腔を満たす体液で、循環血液との物質輸送は血液脳関門(BBB)により制限されている。CSFは一部の血漿タンパク質に加えて中枢神経組織に由来するタンパク質を豊富に含む。疾患にともなうこれらの変動を解析することで、病態と密接に関連するタンパク質群や早期診断に有効なマーカー候補を特定することが期待できる。我々はナノフロー液体クロマトグラフィーとQ-TOF質量分析を組み合わせたタンパク質同定システムにより、蘇生後脳症を含む急性脳障害について患者CSFのタンパク質解析を進めている。初期の小規模解析において、急性脳障害の神経学的予後と関連する一群のマーカー候補タンパク質を同定したが、同時に、患者CSF中のタンパク質濃度や組成は検体間で大きく異なることが明らかとなり、解析対象となる検体を選別する必要性が示唆された。そこで、より病態特異的な候補タンパク質を同定するためにi)タンパク質濃度や溶血の有無、SDS-PAGEパターンなどに基づき解析検体を選別し、プール試料を調製、ii) アフィニティーカラムにより主要血漿タンパク質を除去、iii) iTRAQ試薬を利用したショットガン法での相対定量解析を行うこととした。さらに、iv) 選別前の患者群全体に対して、同定された候補タンパク質の特異性をウエスタンブロッティングにより確認することで、検体選別の影響を最小限に抑えることとした。このような手順に基づく解析で患者CSFから同定された急性脳障害特異的な候補タンパク質には既知の病態マーカーに加えて、中枢神経機能や組織損傷、また炎症反応などに関連する一群のタンパク質が含まれていた。
  • 高田 哲秀, 松原 まどか, 大石 正道, 小寺 義男, 前田 忠計, 守屋 達美
    セッションID: P-33
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    糖尿病慢性合併症は初期には自覚症状の無い事が多く、早期に簡便にスクリーニングする臨床検査が無いため、長期間にわたって放置されている症例が多く見られる。慢性合併症の早期診断、早期の治療介入は、合併症の発症・進展の抑制に重要であり、臨床の現場では簡便で有用なバイオマーカーが必要とされている。我々は糖尿病慢性合併症早期診断のため、進展・増悪の指標となりえるバイオマーカー探索を目的として糖尿病患者血清を用いたプロテオーム解析を行った。【方法】対象は、健常者9例、1型糖尿病16例、2型糖尿病42例。HbA1c は1型8.9±1.8、2型9.6±2.3、空腹時血糖1型146.7±66.7、2型152.9 ± 54.9であり、病悩期間は1型3.8±5.9年、2型7.5±7.7年であった。血清中には、大量のアルブミンやグロブリンが含有されており、これらのタンパクにより他の微量タンパクの解析が困難となる。このため我々は、特異的アルブミン・グロブリン除去カラムを用いてこれらのタンパクを除去し、SDS-PAGEにてタンパクの解析を行った。また、血清には分子量10Kda以下の数多くのpeptideが存在する。peptideの解析は再現性が乏しく、またpeptideを解析する際の高分子タンパクの除去において、多数のpeptideが失われることが問題点であった。我々の行っているpeptide解析法(北里法)は高分子タンパクを除去することなくpeptideを再現性よく解析できることが特徴である。この方法を用いてpeptide解析を行った。【結果】SDS-PAGEにて健常者と糖尿病患者を比較したところ、糖尿病患者血清で1種類のタンパク成分の増加が認められた。HbA1cと、このタンパクの発現量を検討したところ、HbA1c7.5_%_以上の群、10.5%以上の群では、7.5%以下の群と比較して、発現量が有意に増加していた。peptide解析の結果、糖尿病患者で1種類のpeptideの増加を認めた。このpeptideの発現量をnormoalbuminuria(NA)群,microalbuminuria(MA)群に分けて解析を行った結果、NA群と比較してMA群では発現量が有意に増加していた。また、NA群においても健常者より発現量が有意に増加していた。このペプチドからは血小板関連タンパクが同定された。【総括】糖尿病患者の血清プロテオーム解析を行い、数種類のタンパク変動を認めた。これらのタンパク変動は、HbA1cおよび糖尿病性腎症の病態に伴う変動と考えられた。これらのタンパクが、糖尿病の有用なバイオマーカーとなる可能性が考えられた。
  • 高桑 由希子, 黒川 真奈絵, 大岡 正道, 永井 宏平, 有戸 光美, 増子 佳世, 末松 直也, 岡本 一起, 尾崎 承一, 加藤 智啓
    セッションID: P-34
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    【目的】顕微鏡的多発血管炎(MPA)はいわゆる血管炎群に属する疾患であり、小血管(毛細血管、細小動・静脈)を主座とした壊死性血管炎を惹起する。急性腎不全や間質性肺炎・肺出血により予後不良となる。MPAの病因は未だ不明であり、本研究では質量分析を用いてMPAの病態解明と早期診断に有用な血清ペプチドを探索することを目的とした。 【方法】MPA患者26例について治療前と治療開始1週間後または6週間後に、対照として調べた全身エリテマトーデス(SLE)患者27例については治療前に、文書同意のもと末梢血を採取し血清を分離した。この血清より疎水性担体(C18)を用いてペプチドを分離し、MALDI-TOF型質量分析器を用いて、ペプチドを網羅的に検出した。また、ClinProt®を用いて、上記において差異のあるペプチドを抽出した。さらにそのペプチドの一部は2D-HPLCと質量分析の組み合わせにより、アミノ酸配列を同定した。 【結果】MPA患者血清中のペプチドを解析した結果、治療前でイオン強度が高値を示し治療により減弱する1523m/z、1737m/z、2503m/zおよび7767m/zのペプチド、また治療前ではイオン強度が低く治療により増強する1625m/z、2115m/z、7160m/zのペプチドを検出した。この中で1523 m/zと1737 m/z はSLEの治療前群では殆ど認められず、MPA患者の治療前群において特異的に検出された。de novoシークエンスより1523m/zはアポリポ蛋白質 A1のC末端の13アミノ酸残基であることが判明した(以下p1523)。また、MPA患者14症例の治療前と治療後6週間のアポリポ蛋白質A1の血中濃度をELISAで測定したところ、治療前(平均5.9 µg/dL)では低値であるが、治療後(平均12.9 µg/dL)には健常人(平均11.9~16.5 µg/dL)と同程度にまで回復することを認めた。p1523の病態的意義を検討するため、このペプチドを化学合成して培養血管内皮細胞に添加し各種炎症性サイトカインの分泌量をELISAにて調べた。その結果、p1523は血管内皮細胞からIL-6とIL-8を分泌させることが明らかとなった(P<0.01)。 【結論】アポリポ蛋白質A1のC末端13アミノ酸残基からなるペプチドは、MPAの活動期に血清中で増加している。血管内皮細胞からのIL-6とIL-8の分泌を増強させることから、好中球の遊走を含み血管炎病態を増悪させる可能性が示された。
  • 池川 雅哉, 箕畑 俊和, 山崎 雄三, 伊藤 之康, 小森 美華, 近藤 誉之, 藤分 秀司
    セッションID: P-35
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    [Introduction] Serum is the most generally informative proteome from a medical standpoint and at the same time, its complexity and enormous dynamic range make serum the most difficult specimen to be dealt with. As low molecular weight proteins may be excreted through glomerular filtration system in a very short time range, targeting multiprotein complex in serum may be an attractive way of elucidating pathogenesis of various diseases. Here we established method for multiprotein complex analysis in serum using two dimensional Blue Native / SDS Gel electrophoresis (2D BN/SDS) and evaluated its diagniostic potentials by applying into animal models. [Methods] We collect murine serum samples from two experimental models; 1) Acute brain ischemia model and 2) Experimental Autoimmune Encephalomyelitis model (EAE). Both experiments were performed on SJL/J mouse background. Blood sampling was performed from orbital plexus in both experiments. Serum was obtained in each time point. One microliter of serum was run on a 2D BN/SDS gels. For the first dimension, 5–15% gradient gels cast on the Bio-Rad protean minigel system and were run overnight at 4 °C. Then the second dimension was run on a 15% gel with SDS condition. Proteins were stained with CBB reagents and stored at 4 °C before analysis. The data analysis was conducted by computational gel evaluating system and protein/peptide identification was performed by MALDI-TOF-MS. [Results and Discussion] We have generated a standard protocol for diagnostic 2D BN/SDS PAGE for serum samples. Applying this method, we have mapped all the peptides/proteins on this diagnostic 2D gels as a basic database of mouse serum. In the next step, abundance of each peptides/proteins was plotted according to its time course for both of the animal studies and have determined its annotation. As a result, multiprotein complex in serum shows a dynamic change on this diagnostic 2D gels and this was beautifully moved in a time course dependent manner. Especially, hemoglobin- haptoglobin (Hb-Hpt) complex revealed most dynamic change in both an acute brain ischemia and an experimental autoimmune encephalomyelitis models. By contrast, the complement system was shifted in terms of the complex formation in the later part of an acute brain ischemic model. This method can be applied to human serum proteomics.
  • 尾野 雅哉, 松原 淳一, 本田 一文, 佐久間 朋寛, 橋口 朋代, 能勢 博, 増田 万里, 高倉 美智子, 下重 美紀, 桑原 秀也, ...
    セッションID: P-36
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    われわれが開発した2DICAL法(2-Dimensional Image Converted Analysis of Liquid chromatography and mass spectrometry)は、無標識サンプル間比較解析が可能なシステムであり、多数検体の比較解析が必要な臨床検体からのバイオマーカー探索に極めて高い能力を有している。このシステムを用いて、膵臓がん患者血漿と健常者血漿との比較から両群間で大きな差のあるペプチドを発見し、精密質量分析計による詳しい解析で新規の翻訳後修飾を解明し、さらにその構造に対する特異抗体を作成し、その存在を証明したので報告する。 コンカナバリンAによる前処理を施した膵がん患者38症例、対照健常者39症例の血漿のLCMS測定を行い、2DICAL法にて115325ピークから両群間でもっとも有意差のある6ピークを選別した。精密質量分析計を用いてペプチド配列、タンパク質同定を行ったところ、3ピークはプロリンが水酸化プロリンに変化したα-フィブリノゲンのペプチド配列由来であることが解明され、その変化はこれまでに報告のないタンパク質翻訳後修飾であることが示された。この結果を検証するために、この翻訳後修飾をもつ合成ペプチドを作成し、それに対する特異抗体を新規に作成した。この抗体はタンパク質の状態でのα-フィブリノゲンでも反応することが証明されたため、ウェスタンブロットを行い、2DICAL法で認められたのと同様に、膵がん患者血漿でこの翻訳後修飾のあるα-フィブリノゲンの発現が上昇していることを確認した。また、水酸化プロリンに変化したα-フィブリノゲンを産生する培養細胞をスクリーニングし、得られた培養細胞を用いてこの修飾を起こすプロリン水酸化酵素を同定した。 2DICAL法はタンパク質同定結果から解析する手法では不可能な新規のタンパク質翻訳後修飾を発見でき、多数件検体の解析を必要とするバイオマーカー探索に極めて有用な解析手法であることが示された。また、新規に発見されたα-フィブリノゲンの翻訳後修飾の臨床的、生理的、病理的意義については今後さらに検討していかなければならない。
  • 横銭 拓, 石井 俊, 赤津 裕康, 朝田 隆, 内田 和彦
    セッションID: P-37
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    The dementia with Lewy bodies (DLB) shows the important associations with the Parkinson disease and the Alzheimer disease (AD). In this study, quantitative proteome analysis of DLB brains was performed using fluorescent two-dimensional difference gel electrophoresis (2-D DIGE) to identify disease-specific changes in protein expression. We compared signals corresponding to individual proteins between post mortem brain tissues from DLB patients and those from age-matched nondemented controls (NDC). In order to provide a more complete picture of pathogenesis in DLB, we investigated proteins from three brain tissues such as hippocampus, frontal cortex and occipital cortex. We detected 30 spots as differentially expressed proteins in hippocampus, 41 spots in frontal cortex and 73 spots in occipital cortex. Among them we identified 33 proteins and found that most of proteins are related to oxidative stress or mitochondrial glycolysis. As noted, we found that septin 8, a member of family proteins whose functions are involved in cell polarity, cytoskeletal remodeling, vesicle transport and cell cycle progression, was increased in all tissues from DLB. Taken together, our findings support the hypothesis that both mitochondrial dysfunction and oxidative stress are involved in the pathogenesis of neurodegenerative disease and in addition, propose septin 8 as a novel protein possibly involved in the pathogenesis of DLB.
  • 藤ノ木 政勝
    セッションID: P-38
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    Mammalian sperm have to be capacitated in order to be fertilized eggs. Capacitated sperm show an acrosome reaction in head and a hyperactivation in flagellum. Although previous studies have demonstrated that the acrosome reaction is regulated by a non-genomic regulation of steroid hormones (i.e. progesterone and estrogen), it is not well known whether the hyperactivation is also regulated by same system. In the present study, progesterone could enhance sperm hyperactivation through a non-genomic regulation. Most effective concentration of progesterone for enhancement of hyperactivation was 20 ng/ml. Moreover, PLC-IP3 signals, PLC-DG-PKC signals and PKA signals were associated with a non-genomic regulation of progesterone. Interestingly, enhancement of hyperactivation by progesterone was suppressed by 17β estrogen in a concentration dependent manner. From results, it is likely that sperm capacitaion is regulated by competitive balance of progesterone and estrogen.
  • 深澤 雅彦, 岡本 一起, 中村 学, 永井 宏平, 有戸 光美, 黒川 真奈絵, 増子 佳世, 末松 直也, 肥塚 泉, 加藤 智啓
    セッションID: P-39
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    〔背景と目的〕ヒトのめまいのモデル動物として片側内耳破壊(unilateral labyrinthectomy: UL)ラットが使用されている。ULにより、前庭神経核の活動性に左右差が生じ、その結果、前庭-動眼反射を介する眼振と、前庭-脊髄反射を介する平衡障害が出現する。しかし、時間の経過とともにこれらの症状は寛解し、この自然寛解を前庭代償と呼ぶ。これには、前庭神経核を中心とした中枢前庭系の情報伝達の再構築が関与しているが、その機序は未だ解明されていない。本実験は、前庭神経核に対し抑制性に働いて左右のアンバランスを是正していると考えられる小脳片葉の蛋白質の変化を網羅的に解析することにより、めまいの治療標的となりうる蛋白質を探索することを目的としている。 〔方法と結果〕 Sprague Dawley ラットにULを施行し、前庭代償モデルを作成した。前庭代償急性期(48時間)と慢性期(1週間)に小脳片葉(破壊側、対側)を摘出し、蛋白質を抽出した。これを2次元ディファレンシャルゲル電気泳動で分離して解析した。48時間後および1週間後のUL群(破壊側、対側)をsham群(手術側、対側)とそれぞれ比較したところ、のべ120個のスポットが、UL群で有意に増加(1.3倍以上)もしくは減少(1/1.3倍以下)していた。その内21個のスポットが手術側、対側、48時間後、1週間後のいずれかで重複しており、結果、のべ99個の蛋白質スポットが変化していた。この99個中、48時間後において、両側小脳片葉で有意に変化したのが4個、片側のみで有意に変化したのが45個、さらに48時間後に変化せず1週間後にのみ変化するスポットが50個(破壊側のみで変化21個、対側のみで変化25個)であった。片側のみ変化の45個のうち30個は内耳破壊対側で変化しており、さらにそのうち19個が1週間後に両側で変化なしとなった。すなわち、48時間後対側でのみ変化する19個のスポットは急性期の代償に、1週間後に変化する50個のスポットは慢性期の代償に深く関与していると考えられる。次にこれらのスポットについてMALDI-TOF MSを用いて同定を試みた。その結果、13スポットから11種類の蛋白質、vesicle-fusing ATPase, mitochondrial aconitate hydratase, brain glycogen phosphorylase, heat shock congnate 71 kDa protein, lamin-B1, alpha-internexin, heterogeneous nuclear ribonucleoprotein K, protein disulfideisomerase A3, mitochondrial ATP synthase subunit beta, mitochondrial ATP synthase subunit b を同定できた。 〔結語〕 前庭代償急性期には、対側の小脳片葉が、慢性期には両側の小脳片葉が関与している可能性が示唆された。今後、前庭代償に関与するスポットを同定し、同定した蛋白質については機能解析を行い、めまいの治療標的分子を解明していく予定である。
  • 内田 和彦, 井出 政行, 石井 俊, 吉川 武男, 朝田 隆
    セッションID: P-40
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    Quantitative trait locus (QTL) analysis is an established method crossing strains which have difference in a quantitative phenotype and identifying the genomic regions containing genes relevant to the phenotype. This method is helpful to explore the genes contribute to a certain phenotype, though it is not enough to narrow down to a single gene. Microarray analyses have been performed to search genes causing QTL peaks. However, the genes less than 1% of them have been characterized. Thus, the improvement of analytical tool for gene identification is urgently needed. Here, we developed the proteomics method for identification of the gene involved in QTL in mice. Two-dimentional differential gel electrophoresis (2-D DIGE) using Cy-dye followed by mass spectrometry analysis using two different tissues, brain and lymphocytes, of C57BL/6 (B6) and C3H/He (C3H) was applied to detect the proteins involved in QTL. The protein spots on 2-D DIGE showing different spot location in both brain and lymphocytes between B6 and C3H were detected. These proteins included mortalin, peroxiredoxin 6, NDK B, Nucleophosmin 1 and MST, and DNA sequencing revealed all of them had single nucleotide polymorphisms causing amino acid substitution or deletion between B6 and C3H. The genes for these proteins located on QTL of various phenotypes between B6 and C3H. Peroxiredoxin 6 is located on QTL of hyperlipidemia and body weight, and the amino acid substitution of peroxiredoxin 6 in B6 and C3H alter enzymatic activity and plasma lipid levels in mutant mice. Nucleophosmin 1 is located on QTL of Lyme disease arthritis, depression related phenotype, FST and TST, and atherosclerosis. MST is also located on QTL of Lyme disease arthritis. These data indicate that present approach link proteomics to QTL by 2-D DIGE using mice tissues is powerful tool for identification of quantitative trait genes. These gene/protein variations in lymphocytes might be a potential biomarker for complex trait phenotypes in human diseases.
  • 加藤 悠, 川崎 博史, 平野 久
    セッションID: P-41
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    細胞極性とは細胞がもつ空間的な極性のことである。細胞極性の形成と制御は、細胞分裂、分化、細胞遊走などにおいてもその根幹となっている。出芽酵母においても、出芽部位選択によって細胞極性が形成される。
    出芽酵母は一倍体と二倍体では出芽様式が異なり、各々異なる出芽マーカーによって出芽が制御されている。網羅的な解析により、二倍体の出芽部位選択に関する遺伝子が多数同定され、その中には他の機能を担っている遺伝子も二倍体の出芽部位選択に関与することが報告されている。本研究で用いたBUD32もこの網羅的解析によって同定されたものの1つである。二倍体BUD32破壊株では、正常な出芽部位選択が行われず、ランダムな部位から出芽が起こる。Bud32pはヒトPRPK(p53-related protein kinase)と相同であり、セリン/スレオニンプロテインキナーゼ活性を持つ。PRPKはp53に結合して、p53をリン酸化し、その活性制御に関与していると考えられている。近年、Bud32pを含む2つの複合体が単離され、それぞれ、転写制御とテロメアの伸長維持に関与していることが示唆された。しかし、Bud32pがどのように出芽部位選択に関与するか明らかでなかった。
    本研究において、Bud32p複合体が二倍体の出芽マーカーであるBud9pの局在を制御していることがわかった。一倍体と二倍体におけるBUD32の破壊株の表現型から出芽部位選択の異常は二倍体のみで起こることが明らかになった。そこで、二倍体からBud32p複合体の構成成分を同定し、各成分の破壊株の表現型を解析すると共に、各破壊株での出芽マーカーの局在を解析した。Bud32複合体の構成タンパク質の破壊株での表現型や出芽マーカーBud8p、Bud9pの局在の観察から、この複合体が出芽マーカーであるBud9pの局在維持に関与していることが明らかになった。2つの出芽マーカーBud8p、Bud9pは、対極の位置関係を保っているが、Bud32複合体の破壊株でみられるランダムな出芽はBud9pが局在しないために、その軸がずれ、その結果、出芽部位が両極よりずれた位置で生じるために起こると考えられた。これは、BUD9を破壊した菌株では、Bud32複合体が欠損してもランダムな出芽がみられないこととも矛盾しない。
  • 杉山 直幸, 大沼 澄子, 塚原 麻伊, 冨田 勝, 石濱 泰
    セッションID: P-42
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    近年、IMACや酸化金属クロマトグラフィーによるリン酸化ペプチド濃縮法と質量分析計の高性能化により、大規模なリン酸化プロテオーム解析を短時間で行うことが可能になった。一方で、MS/MSスペクトルからリン酸化部位を特定することはアミノ酸配列同定と比較して非常に困難な場合があり、MascotやSequestによる検索から決定されたリン酸化部位と目視でスペクトルを確認した場合で結果が異なる場合がある。現在までにAscoreやPTMscoreなど修飾部位同定のための確率的なスコアリング法が開発されている。しかし、これらの方法は一つのMS/MSスペクトル内に修飾部位の異なる複数のリン酸化ペプチドに由来するフラグメントイオンが混在している場合、両方のペプチドに信頼性を持たせて同定することが困難である。 本研究では最初に合成リン酸化ペプチドライブラリのnanoLC-MS/MS測定を行い、アミノ酸配列が同一で修飾部位が異なるリン酸化ペプチドの中にほとんど同じ保持時間で溶出し、分離してMS/MS測定を行うことが不可能なものがあることを確認した。そこで我々はペプチドが混在しているケースにおいても、リン酸化部位を同定することが可能なスコアリング法の開発を行った。 ノイズレベルのMS/MSピークを除去したピークリストファイルに対してMascot解析を行い、得られたリン酸化ペプチド同定結果について考えられる全ての修飾ペプチドに対して、b, y-イオンと脱リン酸化イオンのマッチングを行いprobability-based scoringを行った。最高スコアでヒットした結果とのスコア差が一定値以下の同定結果に対し、リン酸化部位が正しい事を説明するために必要なフラグメントイオンの組み合わせに着目し、新たにスコアリングを行った。 当スコアリング法により決定したリン酸化部位の妥当性について評価するために、リン酸化部位が既知の合成リン酸化ペプチド、および修飾部位が異なるリン酸化ペプチドを混合した試料のMS/MS測定を行った。MascotスコアやPTMスコアと比較した結果、当手法によってより多くの正しいリン酸化サイトの同定が可能であることが示された。
  • 山田 英, 柴垣 芳夫, 服部 成介
    セッションID: P-43
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    【目的】  ヒトの先天性心疾患など、心臓発生過程において起こる疾患については、心臓発生を制御する転写調節因子群の異常によって引き起こされると考えられており、転写因子に結合するタンパク質を網羅的に解析することは、詳細な心臓発生のシグナル伝達系を明らかにするためにきわめて重要と考えられる。我々は心臓発生及び形態形成に重要な働きを持つ転写因子GATA4 を中心に、これら転写因子と相互作用する新規結合因子の網羅的同定及び機能解析を行った。 【方法および結果】 転写因子GATA4に結合するタンパク質を探索する目的で我々は、FALG単独、あるいはFLAG及び Protein C 結合部位の両方を融合した転写因子を用いた精製法(TAP) を比較した。また抗 FLAG 抗体による精製の際、FLAG peptideによる溶出と、Ureaによる溶出の2つの方法を行うことによってより特異的な結合タンパク質の検索を行った。溶出画分を直接トリプシン消化、あるいはSDS-PAGEによる分画後にトリプシン消化してLC-MS/MS 解析を行った。その結果、TAP 法ではFLAG免沈のみに比べて大幅にタンパク質の数を減らすことが出来たが、既知の結合タンパク質も検出できなかったことより洗浄の条件にさらに検討が必要と考えられた。また抗 FLAG 抗体による精製の際、Ureaによる溶出を行うと、Beitタンパク質の混入が少ない画分を得ることができ結合タンパク質の候補が検出できた。さらにFLAG免沈の溶出画分を直接トリプシン消化したものとSDS-PAGEによる分画したもの比較すると、ゲル内消化したものの方が圧倒的に同定されたタンパク質数は多く、細胞内に微量しか存在しない因子も同定された。数回の LC-MS/MS 解析の中から同定された回数が多く、また GATA4 と同様に心臓発生に重要な転写因子 Nkx2.5 をリン酸化するセリン/スレオニンキナーゼである Casein kinase II (CK2) に着目し、機能解析を行ったところ、CK2のβ サブユニットとGATA4 とが直接結合することが分かった。また CK2 の強制発現による GATA4 のリン酸化も認められ、GATA4 は CK2 の新たな基質である事が明らかになった。
  • 京野 完, 杉山 直幸, 冨田 勝, 石濱 泰
    セッションID: P-44
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
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    LC/MS法をベースとするショットガンプロテオミクスとIMAC法等のリン酸化ペプチド濃縮法を組み合わせることで、細胞抽出液等の生体試料から直接1,000以上のリン酸化部位を一度に同定することが可能となった。演者らのグループは先に親水性ヒドロキシ酸を修飾したチタニアおよびジルコニア等の酸化金属を用いた高効率なリン酸化ペプチド濃縮法(HAMMOC)を開発した。本手法はヒドロキシ酸の効果により目的試料から非リン酸化ペプチドのみを除去し、高選択的にリン酸化ペプチドを精製・濃縮することが可能であり、最適化条件においてHeLa細胞抽出物100gから3,000以上のリン酸化部位を恒常的に同定するまでに至った。しかしながら、HAMMOC法で同定されるリン酸化ペプチドの8割以上は一リン酸化ペプチドであり、多重リン酸化ペプチドの占める割合はIMAC法等に比べると相対的に低い傾向があった。HAMMOC法でHeLa細胞抽出液を一旦、精製・濃縮した後、その溶出液をIMAC法で精製したところ、IMAC法単独で精製した際に同定された多重リン酸化ペプチドと同数・同量の多重リン酸化ペプチドが同定され、その多くは重複することが確認された。以上の結果より、HAMMOC法においては、多重リン酸化ペプチドは十分に溶出されているにも関わらず、存在量の多いもしくはMS感度の高い一リン酸化ペプチドに妨害され同定される機会を失っていることが示唆された。一方、IMAC法を併用することで、50%以上の回収率の低下が認められたことから、より効率的に多重リン酸化ペプチドを同定するためには、他手法を併用することなく、一リン酸化ペプチドと多重リン酸化ペプチドを選択的にHAMMOCカラムから溶出することが必要であると考えられた。検討の結果、試料溶液にホスホン酸塩を添加することで、高選択的に多重リン酸化ペプチドを濃縮することが可能となった。一般的に、チタニアを用いたリン酸化ペプチド濃縮法はIMAC法等と相補的に用いることが推奨されているが、本検討の結果よりHAMMOC法は単独で、従来の相補的濃縮法の組み合わせによる結果を凌駕する性能を有することがわかった。本法の開発により、解析対象リン酸化ペプチド群が更に拡大し、より効率的で包括的なリン酸化プロテオーム解析が期待される。
  • 長野 光司, 新川 高志, 矢吹 奈美, 猪股 則行, 渡辺 祥規, 長橋 茂久, 石井 暢也, 青木 裕子, 原村 昌幸
    セッションID: P-46
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/14
    会議録・要旨集 フリー
    Although recent advance of phosphoproteomic analysis enables to identify thousands of phosphopeptides, it is still unsatisfactory for understanding the activity state of the intracellular signaling due to low coverage of the known phosphorylation sites of the key signaling molecules identified as well as lack of information on their expression level. Here, we describe a novel strategy for obtaining the activity map of the major signaling pathways. Independent LC-MS analyses of phosphopeptides enriched with metal affinity chromatography and anti-phosphotyrosine antibody led to the complimentary identification of phosphopeptides from HCT-116 cells, and the coverage of the intracellular signaling molecules increased significantly. This analysis also revealed that phosphorylation and activation of the non-receptor tyrosine kinases, particularly Hck, Fyn, and FAK, were striking, and adaptor proteins p130Cas and Shc appeared to be hubs of the protein complexes connecting activated receptor and non-receptor tyrosine kinases in HCT-116 cells. LC-MS analyses of whole cell extract pre-fractionated with off-gel fractionators and cell surface proteins labeled with biotin identified intracellular signaling molecules and transmembrane receptors, respectively, giving the information on their expression level. Combining the multiple proteomic analyses enables to observe whether the augmented phosphorylation of signaling molecule was stemmed from the pathway activation or up-regulation of the expression level. Thus, our combinatorial proteomic approach uncovers the activity states of the intracellular signaling ranging from plasma membrane to nuclear proteins.
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