本稿は,ロシア極東地域と北西地域を中心とした17連邦構成主体で実施したERINA企業調査のデータを利用し,現代ロシア企業における人事労務管理の特徴に東西地域差が顕著に見られないものの,東部地域が西部地域に比べて高度人材の知識やスキル不足により深刻な危機感をもち,そうした状況への対応として旧ソ連時代から継承した旧社会主義時代の人事労務管理施策への依存が根強いことを明らかにしている.
本稿では,大規模企業アンケート調査結果から,ロシア企業の主に法定外福利の実施の有無と,労務費に占める法定,法定外福利厚生費の割合に着目し,規模の大きな企業や労働組合を有する企業で積極的に福利厚生が実施されているという仮説を検証した.またロシア福利厚生施策の地域差の有無を推定した.その結果,仮説は支持され,地域差が確認された.さらにその地域差と地域市場の福利厚生ビジネス発展との関係について考察した.
本稿は,2015年第4四半期に実施された企業調査の結果に基づき,対ロシア経済制裁が企業経営に与える影響を検証した.分析は主に次の点を明らかにしている.第1に,企業経営幹部は,経済制裁が自社の経営に与える負の影響を,世界金融危機や欧州ソブリン危機と同程度において深刻な問題として評価している.第2に,金融危機の影響とは異なり,経済制裁の影響の評価には地域差が認められない.
20世紀の世界に大きな衝撃を与えたソ連社会主義について,社会主義経済体制と社会主義的民主主義に注目して再考する.社会主義経済体制は一時は大きな成果を挙げたが,体制構築時の犠牲には見合わず,非効率的で,もはや発展途上国にとってさえモデルとはならない.社会主義的民主主義は,非自由主義的で自由が制限されるため採用されるべきではないが,直接民主主義的な制度の重視と個別救済の制度化という点では参照に値しよう.
現代中国政治・社会の統治構造の柱が,1)権力主義(権力の維持,拡大を最高目的とする思想と政策),2)エリート主義(意思決定は少数の選ばれた人間・集団によってなされるべきだとする思想と政策),そして3)実用主義(目的のためには手段を択ばないという思想と政策)という3つの大きな原理だと私は考えるが,それは空想から現実へと社会主義像が変転する中で生まれ,確立してきた原理であった.そのことを立証するために,1)ロシア革命とマルクス・エンゲルス,レーニンの空想的社会主義構想,2)スターリンによって実施されたソ連型社会主義経済の実態,3)中国に輸入されたソ連型モデルと毛沢東による修正,4)毛沢東の空想的社会主義理念とそれがもたらした結末,5)鄧小平による現実的経済体制の選択といった,社会主義像が空想から現実へと転換していく一連の過程とその結果について考察する.
「雪解け」に伴う転換の一つは,ソ連政府が重工業・軍需産業強化のために国民に耐乏を求めるのをやめ,消費生活の急速な改善を前面に掲げたことである。国民は種々の経路で生活上の具体的な要求を表明することを許され,地方機関はそれらへの対応を義務づけられた。この転換は多数の国民に発言の機会と動機を与えたが,長期的には,不足の解消が困難であったために,計画経済の優位性への確信を浸食する方向に作用した。
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