本研究は,同一説明変数に対する複数の異質な回帰係数を同時に推定可能にする階層ベイズ回帰モデルを提案し,その有効性を検証することを目的とする.提案モデルの有効性は,数値実験と実データを用いた解析で検証した.数値実験では,真のモデルを精度高く再現できるという意味で,提案モデルの有効性を確認した.また,POSデータを用いた実証分析では,提案した枠組みで市場反応を製品異質性と時点異質性に分解可能であることを示した.提案した枠組みは,反応係数の明示的な要因分解を実現し様々な社会科学現象のモデル化およびそのモデルに基づく意思決定で有効活用できる.
本稿では,深層ニューラルネットワークの標準的手法に対する優位性の解明を目的とした,ノンパラメトリック回帰のミニマックス誤差レート解析を紹介する.ノンパラメトリック回帰の問題では,多くの標準的手法が滑らかな関数に対して汎化誤差のミニマックス最適レートを達成することがよく知られており,深層ニューラルネットワークの理論的優位性を明らかにすることは容易ではない.本稿で紹介する研究は,超曲面上に特異性を持つ非滑らかな関数のクラスに対する推定を考え,この理論的なギャップを埋めるものである.当該研究で得られた結果は以下の通りである:(i) 深層ニューラルネットワークによる関数推定量の汎化誤差を解析し,その収束レートが(対数オーダーの影響を除いて)最適であることを証明.(ii)深層ニューラルネットワークが カーネル法,ガウス過程法などの標準的手法を優越する状況を特定し,その相図を構成.この深層ニューラルネットワークの優位性は,多層構造が特異点の形状を適切に処理できることに由来する.
予測に基づく時系列の統計推測について考える.時系列の予測問題は調和可能安定過程を出発点として統一的に扱う.これにより,予測誤差と補間誤差はスペクトル密度関数の汎関数として表現することが可能である.スペクトル密度関数のモデルを当てはめることにより,予測誤差や補間誤差を最小にするコントラスト関数を導入する.多くの安定分布の確率密度関数は陽に表現できないため,時系列モデルの母数推定において最尤法を用いることが難しいが,コントラスト関数を用いれば,最小コントラスト推定量が母数の一致推定量となることが示せる.これに加えて,最小コントラスト推定量の漸近分布を示す.また,重要指標となる母数の仮説検定について,経験尤度比検定法を議論し,近年の理論的研究成果を与える.