日本統計学会誌
Online ISSN : 2189-1478
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50 巻, 1 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
原著論文
  • 芦川 敏洋
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 50 巻 1 号 p. 1-45
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2020/12/10
    ジャーナル フリー

    日本経済の潜在成長力や成長可能性に関する先行研究は数多く取り組まれているが,県レベルでの(セミ)マクロ経済分析になると,データ上の制約もあって限定的となる.そこで,本稿では,資本ストックデータを独自に試算し,47都道府県それぞれの潜在GDPとGDPギャップの推計を試みる.さらに,その推計値を活用する形で,近年の市場経済における長期停滞の要因を解く「長期停滞論」の視点から仮説を設定し,地域経済圏域を分析対象にして検証を試みる.国内の多くの県において「需要不足による長期停滞」なのか,特に東京都を中心とした東京大都市圏はその傾向が顕著なのか,それとも,それ以外の地方圏では「供給不足による長期停滞」であるのかを,潜在成長率やGDPギャップの動きなどに関する実証分析を通じて明らかにする.

特集:大規模データの利活用におけるプライバシー保護
  • 木村 映善, 大寺 祥佑, 佐々木 香織, 黒田 知宏
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 50 巻 1 号 p. 47-80
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2020/12/10
    ジャーナル フリー

    我が国は超高齢化社会に伴う医療費の拡大を控え,政策に資するエビデンスを導出するために,外的妥当性が高いと期待されるReal World Dataを用いた研究に注目しつつある.次世代医療基盤法の認定事業者は2019年末に第1号が認定されたばかりであり,管理,匿名加工,データ提供の方法論を模索中である.一方包括的かつ悉皆的な医療情報の収集体制を制度的に実現したフィンランドは,オプトアウト方式で全国の医療機関から個人番号つきで患者情報を収集し,様々なデータソースから個人番号を用いた個人単位のデータ連結を行い,二次利用用途に匿名化したデータを提供している.まさに認定事業者が担わんとしている役割を先行的に実現しているところであり,同国の現状を知ることは 我が国における今後の医療情報に関する政策の方向性を検討する上で,有意義であると推察される.渡航及び文献調査にもとづいて,フィンランドの健康医療情報に関するレジスタ,制度環境,匿名加工に関するガイドラインならびに最近の動向を紹介する.

  • 佐々木 香織, 大寺 祥佑, 木村 映善
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 50 巻 1 号 p. 81-108
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2020/12/10
    ジャーナル フリー

    わが国では診療情報の二次利用を促進する「次世代医療基盤法」が2018年5月11日より施行された.この法律により「認定事業者」なる機関が,日本全国の施設から診療記録を収集・保管し,更に膨大なデータから医療統計を用いた研究を行う専門家に対して「認定事業者」が匿名加工を施したデータを供与することが可能となった.イギリスのEnglandでは我が国に先んじて,Care dot Data(2013–6)という医療データの二次利用を促進させる政策を実行したが,市民からの信頼を得られず逆に不信感をつのらせ,2015年に一時中断し2016年には正式に廃止する結果となった.ところが2015–6年よりNHS Digitalを中心として,新たな制度と基盤を構築し始めたところ,その政策は成功を収める結果となった.そこで本稿はEnglandにおいて政策的失敗後に,如何にしてより包括的でより正確な医療統計を可能とするような医療情報の二次利用の基盤や社会システムを整備し,政策的成功へと導いたかを議論する.その目的はEnglandの経験や知恵が日本にどのように活かすことができるかを考察し,我が国により良い制度が構築できるよう提言することである.なお本稿における論考は専門家と専門知が如何に現代社会を支えているかを論じたルーマン(1990),ギデンズ(1993),ベック(1998)に依拠し,医療統計をはじめとした様々な統計の社会的な役割を含め,専門家と専門知に支えられた今日の社会秩序の構築と,それらに対する市民からの「信頼」に関する課題を視野に入れて進められる.

  • 伊藤 伸介
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 50 巻 1 号 p. 109-138
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2020/12/10
    ジャーナル フリー

    ヨーロッパ諸国の中で,北欧諸国を中心に行政記録情報に基づく「レジスターベース」の統計作成システムが確立されてきた.デンマークのような北欧諸国やオランダのような国々では,学術研究のための行政記録情報の利用サービスも展開されている.それに伴い,行政記録情報の1つである医療健康データへのアクセスを可能にするための仕組みも整備されてきた.本稿では,デンマークとオランダの事例をもとに,行政記録情報としての医療健康データの二次利用の展開方向を洞察する.デンマークやオランダにおける医療健康データの二次利用の特徴は,IDによって各種のレジスターデータをリンケージした上で仮名化された医療・健康に関するデータの利用が可能になっていることである.これらの事例は,わが国における行政記録情報の利活用のあり方を検討する上でも参考になる点が少なくないと思われる.

  • 伊藤 伸介, 寺田 雅之
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 50 巻 1 号 p. 139-166
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2020/12/10
    ジャーナル フリー

    公的統計の分野では,個体情報の安全性を確保した上で統計データに付与されるノイズを調整する方法として,主に情報工学の分野で展開されてきた「差分プライバシー(differential privacy)」の方法論の適用可能性が,海外の統計作成部局から注目されている.その理由として,とくに小地域レベルの統計の結果数値においては,複数の統計表の組み合わせによって,個体の特定化を行う「差分攻撃(differencing attack)」のリスクの存在が指摘される.本稿では,アメリカセンサス局が行った2010年人口センサスを用いた差分プライバシーの適用に関する実証研究について紹介する.つぎに,差分プライバシーの概念を整理した上で,わが国の平成22年国勢調査のメッシュ統計を用いて,差分プライバシーの方法論に基づくラプラスノイズが付与された統計表の安全性と有用性に関して実証研究を行う.それによって,わが国の国勢調査の小地域データにおいても,差分プライバシーの方法論が適用可能であることが確認されている.

日本統計学会賞受賞者特別寄稿論文
  • 小暮 厚之
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 50 巻 1 号 p. 167-190
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2020/12/10
    ジャーナル フリー

    近年多くの国々において進行している死亡率の低下とそれに伴う寿命の伸長は,「長寿リスク」という新たなリスクを顕在化させている.このような死亡率のダイナミックな変動とその影響に対処するために,確率的死亡率モデルと呼ばれる一連の統計モデルが活用されている.本稿では,いくつかの代表的な確率的死亡率モデルを説明し,その応用として,著者らによって提案されたベイズ・アプローチによる長寿リスクの評価手法を紹介する.

日本統計学会小川研究奨励賞特別寄稿論文
  • 茂木 快治
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 50 巻 1 号 p. 191-204
    発行日: 2020/09/30
    公開日: 2020/12/10
    ジャーナル フリー

    時系列データは様々な頻度で観測される.従来の多変量時系列分析は,分析対象となる変数の観測頻度が統一されていることを前提として成り立っていた.観測頻度を統一する際,一部の変数の時制集約が行われ,分析精度の低下が引き起こされる.この課題を解決すべく,複数の観測頻度の混在を許容する時系列分析が急速に発展している.この新たなアプローチは,Mixed Data Sampling (MIDAS)と総称される.近年,MIDASはベクトル自己回帰モデルとグレンジャー因果性検定に導入された.本稿では,これら最新の研究成果を解説し,米国の月次の物価上昇率と四半期の経済成長率の相互依存関係を分析する.分析の結果,経済成長率から物価上昇率への有意なグレンジャー因果性が検出された.物価上昇率を四半期に集約すると,経済成長率から物価上昇率への有意な因果性は検出されなくなる(見せかけの非因果性).これはMIDASの有用性を示唆する分析結果である.

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