
Daniels (1954) によって統計学に導入された鞍点近似法は,特性関数にLévy の反転公式を適用し密度関数を計算する際の簡便法である.今日の計算機環境はこのような方法に依存することなく,Lévy の反転法のような複素数を含む数値積分をも実行可能としている.本論文では数値計算例に基づきLévy の反転法と鞍点近似法の比較を行う.鞍点近似法の精度は前者より落ちるが,鞍点そのものにはLévy の反転公式と同等な式が存在することを示す.さらに鞍点には,漸近正規性を有する統計量について,極限分布からの乖離具合を自然な形で表現できるという特筆すべき能力がある(竹内 (2013, 2014)).核型密度推定量の各点における法則収束の早さを比較・評価する際,特にこの性質が有用である.

経済現象,とりわけ金融市場では時々刻々と連続的に観察される変動とともに,時々ではあるが影響の大きな変動も観察されているが,こうした大きな変動に焦点を当てて計量的に分析する統計的方法は一般的に利用されていない.本稿では点過程の統計モデルを導入して分析する方法を提案する.裾が厚い資産価格の変動に対して閾値を利用して下方への大きな変動(マクロ・ジャンプと呼ぶ)を抽出し,点過程モデルとして拡張された多次元Hawkes 型モデルを利用した統計分析法を提案する.そして各状態変数が実数値をとる離散時間の多次元時系列モデルを利用する計量経済分析では検出しにくい複数の経済・金融市場における大きな変動の連動性の統計分析,Granger 非因果性の分析が可能となることを日米英の市場分析を通じて示す.

経済分析のための基礎資料として作成される公的統計のうち,指数とその応用に関する話題を中心に主要な課題を紹介する.経済指標の作成には広範な統計学および経済学の知識が要求され,今後も統計学の貢献が求められる重要な課題であり続けると予想される.

本稿は,2 つの部分から構成されている.第I 部では,これまでの研究において考察した,3 種類の最適化問題と解の安定性について,その概要を紹介する.具体的には,いくつかのパラメータの最尤推定値に対する安定性問題,2 次制約がある場合の相関係数最適化問題,および最適層別とその安定性の問題である.特に,これら3 種類の問題における安定性については,多少の補足的な検討を行う.第II 部では,我が国の統計教育における現在の諸課題を指摘し,今後の統計教育の目指すべき方向についての検討を行う.また,それらの諸課題への対応策や,いくつかの提案も行う.