日本統計学会誌
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48 巻, 1 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
原著論文
  • 大石 惇喜, 白石 博
    2018 年 48 巻 1 号 p. 1-28
    発行日: 2018/09/26
    公開日: 2019/04/02
    ジャーナル フリー

    保険会社において,複合ポアソン過程に基づいた古典的リスクモデルを考えるとき,保険会社の余剰金がある境界を上回った部分に関して株主に配当として支払うという配当戦略問題がある.最適な配当境界は,破産時刻までに支払われる累積配当金現在価値の期待値を最大化するものとして与えられる.本論文ではまず,古典的リスクモデルを仮定し,サープラス過程(保険会社の余剰金を表す確率過程)のサンプルパスから最適配当境界の推定量をM-推定により構成する.M-推定量の一致性を示す際には目的関数の一様収束性が重要となり,それはGlivenko-Cantelliの定理として知られている.Glivenko-Cantelliの定理は関数の一様収束性を,関数族の大きさを測るエントロピーによって述べたものである.本論文では一様エントロピーの有界性を用いて関心のある関数の一様収束性を示すことで,構成した推定量の一致性を証明する.そのために,関心のある関数族が,関数の複雑度を表すVC-指数が3のVC-サブグラフクラスであることを示す.最後にシミュレーションを通して目的関数の一様収束性と,推定量の一致性について確認する.

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  • 高橋 塁
    2018 年 48 巻 1 号 p. 29-48
    発行日: 2018/09/26
    公開日: 2019/04/02
    ジャーナル フリー

    本稿は,ベトナムの農村部において自然災害が家計所得に与える影響,および自然災害と貧困との関連を明らかにするものである.ベトナムは日本に並び自然災害の多い国であり,貧困層が多い農村家計の厚生に対して,その影響が懸念されている.Arouri et al. (2015) は家計レベルミクロデータであるVHLSS(Vietnam Household Living Standards Survey)を用い,この問題の分析を行った.しかし彼らの分析が捉えているのは,自然災害(暴風,洪水,干ばつ)が家計所得に与える平均的な効果のみであり,所得分布全体を考慮した影響は捉えられていない.ゆえに我々は,分位点回帰を用いることで,自然災害が家計所得に与える効果を検証した.その結果,干ばつが低所得層に相対的に大きな影響を与えることがわかった.しかし推定された自然災害の効果に内生性問題に伴うバイアスが考えられたため,パネルデータが利用できないという制限下で予備的ではあるが,内生性バイアスを考慮した自然災害の影響を分析した.

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  • 廣瀬 雅代, 朴 堯星, 土屋 隆裕
    2018 年 48 巻 1 号 p. 49-70
    発行日: 2018/09/26
    公開日: 2019/04/02
    ジャーナル フリー

    東京都立川市全体の住民意識の把握を目的として, 朴・土屋(2017)は市に在住する4000人を対象に住民意識調査を実施した. この調査結果を生かして住民へ細かなサービス提供を行うためには, 立川市全体だけでなく, 小区分ごとに住民意識を把握することが重要になる. しかし, わが国の自治体レベル意識調査分析で慣習的に用いられている区分ごとの推定法のままでは, 区分の細分化によって不合理な結果を招きかねない. こうした区分細分化への対策として, 本研究では, 小地域推定に用いられているモデルに基づくアプローチの適用を図る. わが国の自治体レベル意識調査分析にこのようなアプローチを適用すること自体も筆者らの知る限り初の試みとなる. そのため, 数値実験と国勢調査小地域集計結果を利用したモデルに基づくアプローチの評価を行う. 住民の防災意識に関する3項目へのモデルに基づくアプローチの適用結果は以下のとおりである. まず, 慣習的な推定法に基づくコロプレスマップで現れていた, 隣り合った町丁目間の割合推定値に対する大きな差が縮小した. さらに, アプローチの適用によって, すべての区分の信頼区間幅が縮小することを確認した.

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日本統計学会賞受賞者特別寄稿論文
  • 筑瀬 靖子
    2018 年 48 巻 1 号 p. 71-88
    発行日: 2018/09/26
    公開日: 2019/04/02
    ジャーナル フリー
    この論文では,著者の英語で書かれた本Chikuse (2003)で扱われた特殊多様体,特にスティーフェル多様体とグラスマン多様体上の統計解析を紹介する.特に,多様体上の分布論に関する解析を論じる:これら多様体の定義と関連する結果,母集団統計分布,種々の分解定理とそれに伴う不変測度の分解と分布,そして漸近理論など.これら解析結果の詳細や証明,多様体上の他の解析法,そして,結果の導出に有用な行列変数の不変多項式論については原本を参照してほしい.
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  • 青嶋 誠
    2018 年 48 巻 1 号 p. 89-111
    発行日: 2018/09/26
    公開日: 2019/04/02
    ジャーナル フリー

    本論文は,高次元統計解析の理論と方法論について,最新の展開を紹介する.最近,Aoshima and Yata (2018a) は,強スパイク固有値(Strongly Spiked Eigenvalue: SSE)モデルというノイズモデルを提唱した.高次元データのノイズは巨大かつ非スパースであり,それゆえデータがもつ潜在的な幾何学的構造は破壊され,統計的推測に精度を保証することが困難になる.理論的には,SSEモデルのもとでは,高次元統計解析の根幹を成す高次元漸近正規性が成立しない.Aoshima and Yata (2018a) は,巨大なノイズ構造を精密に解析し,強スパイクするノイズ空間を避けるようなデータ変換法を開発した.この方法を用いれば,データは弱スパイク固有値(Non-SSE: NSSE)モデルに変換され,潜在空間の幾何学的構造が浮き彫りになり,高精度な高次元統計的推測が可能になる.Aoshima and Yata (2018b) は,この方法論を発展させ,高次元判別分析に新たな理論を展開している.本論文は,高次元統計解析の最新の展開について,適宜文献を紹介しながら解説する.

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