日本統計学会誌
Online ISSN : 2189-1478
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51 巻, 2 号
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
会長就任講演
  • 樋口 知之
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 51 巻 2 号 p. 213-244
    発行日: 2022/03/03
    公開日: 2022/03/10
    ジャーナル フリー

    2012年,一般物体認識の精度を競う国際コンテストILSVRC (ImageNet Large Scale Visual Recognition Challenge) で,他のチームがエラー率26%前後のところ,トロント大学チームが深層学習によりエラー率17%弱とダントツの認識率を示した.また,オバマ政権がビッグデータ研究開発のための戦略プラン(通称,ビッグデータイニシアティブ)を発表したのも2012年である.よって2012年は,第三次AI ブームの起点と断言できる.現在,それからまだ10年しかたっていない.特にこの数年間のデータ分析手法の著しい発展は,学生の頃から統計的データ分析を実際に携わっていた私にとって最大の衝撃である.本稿では,1980年代から統計学および周辺分野の研究に関わってきたあくまでも“私の視点”から,この40年間の統計学の発展を振り返る.前半は自伝的内容が中心であるが,今後の統計学にかかわる人材育成のヒントがもしあれば,筆者としては望外の喜びである.後半は,私がこだわってきた帰納推論と演繹推論の統合の一実現形である,データ同化および深層学習について概説する.本稿が,今後の統計学の動向を考える上で少しでも参考になることを期待してやまない.

日本統計学会賞受賞者特別寄稿論文
  • 内田 雅之
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 51 巻 2 号 p. 245-273
    発行日: 2022/03/03
    公開日: 2022/03/10
    ジャーナル フリー

    離散観測データに基づく確率微分方程式モデルのハイブリッド型推定法および確率偏微分方程式モデルの適応的推定法について考察する.離散観測データを用いて確率微分方程式モデルの最尤型推定量を求める際に,疑似対数尤度の最適化を成功させるためには適切な初期値が必要である.初期値として縮約データおよび間引きデータを用いた初期ベイズ型推定量を導出して,その初期ベイス型推定量を用いて最尤型推定量を求める.この推定量をハイブリッド型推定量とよぶ.初期ベイズ型推定量とハイブリッド型推定量の漸近的性質について示し,数値シミュレーションによって初期ベイズ型推定量とハイブリッド型推定量の漸近挙動について検証する.次に,高頻度時空間データを用いて微小撹乱パラメータをもつ2階線形放物型確率偏微分方程式モデルのパラメータ推定問題を取り扱う.確率偏微分方程式モデルの未知パラメータの適応的推定量を導出し,得られた推定量の漸近的性質について考察する.さらに,大規模数値シミュレーションにより,適応的推定量の漸近挙動を検証する.

日本統計学会研究業績賞受賞者特別寄稿論文
  • 二宮 嘉行
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 51 巻 2 号 p. 275-294
    発行日: 2022/03/03
    公開日: 2022/03/10
    ジャーナル フリー

    赤池情報量規準AICを元来の定義に基づいて導出したときに,罰則項がパラメータ数の2倍から大きくずれるような設定として,因果推論の基本である傾向スコア解析がある.周辺構造モデルにおける周辺構造の選択問題に対し,傾向スコアに基づくセミパラメトリックアプローチをとっているにもかかわらず,AICを形式的に用いると大きく過適合することになる.そのセミパラメトリックアプローチにおいて近年広く用いられているものに,二重頑健推定と呼ばれる,モデル誤特定に対して強い推定がある.本稿では,共変量バランシングのアイディアを採用した二重頑健推定に関して,損失関数を通常の対数尤度から変更することで外れ値に対しても強い推定を考える.そして,その頑健性を保持させたまま罰則項を導出し,妥当性を有する情報量規準として三重頑健情報量規準を提案する.数値実験では,まずモデル誤特定も外れ値もないケースで,罰則項をパラメータ数の2倍とした形式的な情報量規準と比べ,三重頑健情報量規準が明らかに予測性能の意味で優越することを示す.そして,モデルを誤特定させたり,外れ値を混入させたりしたケースを扱い,三重頑健情報量規準が影響を受けにくいことを確認する.

日本統計学会小川研究奨励賞特別寄稿論文
  • 菅澤 翔之助
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 51 巻 2 号 p. 295-317
    発行日: 2022/03/03
    公開日: 2022/03/10
    ジャーナル フリー

    ビッグデータ時代と称される現代では,様々な分野において大規模データの利活用が進んでいる. 一方で,データの大規模化と共に異質な集団が混在した状況が多く見受けられるようになり,従来の「1つのデータに1つのモデル(one-model-fits-the-whole-population approach)」による単純な統計モデリングだけでは適切な分析を実行することができない.このような状況にも対応できる様々な方法論が既にいくつか存在しているが,現実的な計算コストで柔軟な統計モデリングを実行できる方法論の開発は未だ十分とは言えない.本稿では,クラスターデータと空間データの解析において,データのグループ化(異質な集団の発見)と各グループにおける統計モデルの推定(各集団特有の構造の発見)を同時に実行することが可能な方法論について解説する.

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