日本統計学会誌
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49 巻, 2 号
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会長就任講演
  • 川崎 茂
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 49 巻 2 号 p. 161-186
    発行日: 2020/03/30
    公開日: 2020/12/02
    ジャーナル フリー

    明治初期の日本では,統計学は,国や社会の状態を数量的に把握・分析する学問と考えられていたが,今日では,社会科学・自然科学にまたがる分野横断的な数理科学となっている.このような統計学の発展過程において,公的統計が統計学に占める位置は大きく変化してきた.本稿では,明治初期から昭和初期までの時期に注目して統計学の発展過程を振り返り,公的統計が統計学の発展に果たした役割と今後の展望について考察する.公的統計は,統計学の研究に必要な基本的な統計データを提供するとともに,統計作成手法自体が研究対象となり,それを通じて統計学の発展に寄与してきた.また,行政組織を中心とした統計人材の育成,学術的な組織化の面でも貢献してきた.公的統計のこのような役割は,ビッグデータや新技術が注目される今日においても基本的には変わっていない.公的統計は,今日の新たな環境の中においても,統計学の一つの分野として他の分野との密接な関係を保ちつつ統計学全体の発展に寄与することが必要である.

特集:金融データ分析
  • 三浦 翔, 井實 康幸, 竹川 正浩
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 49 巻 2 号 p. 187-216
    発行日: 2020/03/30
    公開日: 2020/12/02
    ジャーナル フリー

    金融機関における信用リスク管理業務では,法人債務者のデフォルトに対する予兆管理が行われている.この点,債務者が大企業を中心とした上場企業であれば,企業の信用状態をタイムリーに反映しやすい株価などをデフォルトの予兆管理指標として活用できるが,中堅中小企業を中心とした非上場企業には,信用状態を即時に反映する指標が存在しない.また,信用リスク管理業務では,財務情報を用いた信用リスク評価が一般的に行われているが,財務計数には,信頼性及び即時性の面で一定の制約がある.そこで,本稿では,中堅中小企業を中心とした非上場企業にも適用可能で,かつタイムリーなモニタリングを実現するためのデフォルト予測モデルを構築する.具体的には,金融機関の預金口座における入出金情報を用いて,機械学習モデルや統計モデルを用いたデフォルト予測モデルを構築し,モデル精度の検証を行い,そのうえで予兆管理実務への適用可能性について検討する.モデル精度検証の結果,入出金情報を用いた場合において,機械学習モデルの精度は十分に実用可能な水準であることが確認された.また,機械学習モデル対比ではやや精度が落ちるものの,解釈性に優れたロジットモデルについても,実務で十分に活用可能な精度を有することが確認された.

  • 上武 治紀, 吉田 博哉, 枇々木 規雄
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 49 巻 2 号 p. 217-240
    発行日: 2020/03/30
    公開日: 2020/12/02
    ジャーナル フリー

    一般に,個人のカードローン審査は,申込み時に得られる借入希望者の収入や家族状況,勤務状況などの属性情報を用いて行われ,デフォルト(貸し倒れ)に影響すると考えられる個人の行動特性が考慮されていない.そこで,本研究では,銀行口座の入出金データから個人の行動特性を分析し,個人のカードローンの審査を目的としたデフォルト評価モデルを構築することにより,その有効性を検証する.具体的には,約760万件の入出金データを用いて,手数料支払回数,預金の平均残高,ピーク残高比率など行動特性を表すと考えられる変数を生成し,デフォルトとの関連を分析した.さらに,これらの変数を用いてロジットモデルを構築し,AR値を用いてモデルの序列性能の精度を評価した.検証の結果,AR値が50%を超える水準となり,実用に耐えうるモデルであることが分かった.また,アウトオブサンプルテストやクロスバリデーションで結果の頑健性も確認された.

  • 重本 秀人, 森本 孝之
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 49 巻 2 号 p. 241-264
    発行日: 2020/03/30
    公開日: 2020/12/02
    ジャーナル フリー

    金融資産の対数収益率の共分散行列は,資産配分からリスク管理といった広い範囲で用いられる基本的な要素である.そこで本研究では,Brownlees et al. (2018)によって提案されたLasso型の正則化を行う高次元実現共分散推定法を用いて実証分析を行う.具体的には,まず2016年の日経平均におけるスパースな共分散逆行列を推定し,市場のネットワークを作成する.そして,ネットワークの観点から市場を分析,および各業界のネットワーク構造の比較を行う.その結果,日本の株式市場は一つの企業に依存しない,つまりスケールフリーなネットワークでないことが示された.さらにネットワーク構造は日経平均株価と対応して変動していることを確認した.

日本統計学会研究業績賞受賞者特別寄稿論文
  • 松田 安昌
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 49 巻 2 号 p. 265-280
    発行日: 2020/03/30
    公開日: 2020/12/02
    ジャーナル フリー

    本論文は,連続時間自己回帰移動平均(Continuous time Auto-Regressive Moving Average, CARMA)モデルのレビューを行う.まず,離散ARMA時系列モデルの自然な拡張としてCARMAモデルを定義する.次に,CARMAモデルの定常条件,共分散関数や密度関数,分布関数を導き,CARMA過程を離散サンプリングした過程の性質を調べる.最後に,2種の実データ(高頻度金融時系列データ,Brookhaven乱流データ)を使ってCARMAモデルの応用分析例を紹介する.本稿は2019年度統計関連学会連合大会におけるPeter Brockwell教授の講演スライドをもとに作成されている.

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